邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
どこからともなく重厚なパイプオルガンの音が流れ、冷気なんだか湯気なんだかわからないスモークが足元を漂っている。
東京受胎――
古き世界を終末に導き、新たな世界の因子を封じ込められた東京*1には「邪教の館」と呼ばれるうさんくさい施設がいくつもできていた。
そこでは日夜、悪魔と悪魔を合体させてより強い悪魔にするという、神をも恐れぬ儀式が行われていた。
「む……? 予期せぬ悪魔が生まれたようだな」*2
うさんくさい邪教の館のうさんくさい主がうさんくさく言った。
スモークがはれると、そこには……
「邪神邪神ちゃんですの。今後ともよろしく!」
下半身はヘビ(というかコブラ)、そして上半身は
ちなみに上半身には何も着ていない。アクセサリーは髪のリボンだけ(おしゃれだ)。下半身にも何も着ていないが、それを気にする人はいまい。
その姿はまさに悪魔!
「……」
悪魔合体を行った当人がリアクションしづらそうに立ち尽くしていた。
こっちは上半身に何も着ていない少年である。体に黒いラインが走り、首の裏からは邪魔そうな突起が生えている。*3
着ているものはハーフパンツだけ。
こちらも見るからに悪魔なのだ!
「ほう……お前、やるな」
下半身がヘビの悪魔こと邪神ちゃんが、ニヤリと笑った。*4
「――?」
ハーフパンツの悪魔こと人修羅(と呼ぼう)が、いぶかしげに見つめ返した。金子一馬デザインの悪魔にしては珍妙だと思ったのかもしれない。
「服を着ないのは強者のあかし。つまり全裸がいちばん強い。その証拠にわたくしは全裸ですの。お前は
「……」
全裸の悪魔が上裸の悪魔に対してマウントを取っていた。
「あーっ、こいつ、ハズレ引いたと思ってやがりますの!」
邪神ちゃんは地団駄踏んで暴れ始めた。脚がないから正確には地団駄を踏むと言うより下半身をうねらせている。
「この私のプリチーな姿を見て油断するのは仕方ない。だが悪魔にとっては力こそが全て! 自分より弱い召喚主の仲魔*6にはなりませんの!」
邪神ちゃんは蛇腹を器用に折りたたんで勢いをつけ、空中へ飛び上がった!
「二次創作でもこれがなきゃはじまりませんの! 食らえ邪神ちゃんドロップキーーーーーック!」
集中線を背負いながら、空中から斜めに軌道を変えて頭上から尻尾の蹴りをお見舞いする、邪神ちゃんの必殺技だ!
果たして尻尾を使ってもキックなのか、本当に必殺技と言えるのか。数々の疑問を地上へ置き去りにして、邪神ちゃんは舞う!
召喚されていきなり敵対に走る傍若無人*7。これには人修羅も身構えた。
その時!
「こらーっ! 邪神ちゃん! あんたまた人を襲ってるわね!」
邪教の館に誰かが飛び込んできた。左目に眼帯、巻き毛のツインテール、描くのが面倒そうなフリルだらけのゴスロリに身を包んでいるにもかかわらず、邪神ちゃんの滞空中に一気に駆け込んでくる。
「ゲッ! ゆりね!」
邪神ちゃんが露骨に怯えた表情を見せた。
「ちょうどよくそこで拾った無銘の刀があってよかったわ」
ちゃきっ、とゆりねが日本刀を構えた。ゴスロリに日本刀。退廃の美である。
「ねぇーだろ真Ⅲには! 武器は!」
邪神ちゃんは空中で取ったドロップキックの構えをどうにか変えられないかと苦心した。だが、一度放った必殺技は途中で解除しようとすると大きな反動が技をかける側に与えられる。*8
結果、邪神ちゃんは尻尾の先からまっすぐに日本刀の刃へと突っ込んでいった!
「み゛ゃーーーーーーっ!」
真っ二つになった邪神ちゃんが床に転がる。邪神ちゃん(左)は助けを求めるように空中に手を伸ばし、邪神ちゃん(右)は諦めたように胸に手を乗せていた。
「……」
とつぜん襲われたかと思ったら助けられた人修羅が、気まずそうにその姿を見下ろしている。
「ごめんなさいね、うちの悪魔が迷惑をおかけしました」
ゆりねは日本刀を拭ってちゃきっと鞘に収め、深々と頭を下げた。
「……」
起きた事故は仕方ない。人修羅は肩をすくめてから邪教の館を出ていった。合体素材になる悪魔を探しに行ったのである。
残されたのは、ゆりねと邪教の館の主、そして邪神ちゃん(左・右)だけであった。
「ちょうどよかった、これとこれを合体させてください」
邪神ちゃん(左・右)を合体素材として放り込み、「はい」を選ぶ。儀式は(今度は)何事も無く執り行われ、悪魔合体が完了した。
「邪神邪神ちゃんですの。今後ともよろしく! ってゆりね! なんでここにお前がいるんですの!」
「なぜもなにも、あんたは私が召喚した悪魔でしょ。何を勝手に召喚されてるのよ」
そう! 邪神ちゃんはこの女子大生・花園ゆりねが人間界に召喚した悪魔である。魔界に帰るためには召喚者であるゆりねを殺さなければならないため、邪神ちゃんは四六時中ゆりねの命を狙っている。*9
「くっふー! 合体事故に紛れ込めばどさくさでゆりねとの契約から逃れられると思ったのに!」
「相変わらず悪知恵だけははたらくわね……」
「てゆーかここはボルテクス界! 東京受胎で人間が滅んだはずなのになんでゆりねがいるんだよ!」*10
「知りたい?」
「当たり前だろ!」
少女、花園ゆりねはニヒルな笑みを浮かべた。
「説明は長くなるから次回ね」
「イヤだーっ! せっかくの魔界でゆりねと一緒なんてイヤですのー!」
邪神ちゃんの叫びが魔界と化した東京にこだまするのだった。
(つづく)