邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
「うぁあああん、花園さん……ひっく……会いたかったですわー!」
ゆりねの足元にすがりついて泣きわめいているひとりの天使。
ピンクの縦ロールに白い服。その天使の名は……
「ぴの! こんな所で何してるんですの?」
元天界からの刺客にして、元・ゆりね達が住んでいたアパートの管理人、天使のぴのである。
なぜかむやみに元が多いが、東京が滅んだ今となっては元・なんとかばかりなのだから仕方ない。
「うぇえええ~~……」
「ほら、管理人さん。しっかりして」
子どものように泣いているぴのにゆりねがハンカチを差し出す。ぴのはこくこくと頷きながら溢れる涙を拭っていく。
「花園ざぁん……うぇえっ! ひっく……」
「話になりませんの。煌天かっつーの」*2
「ほら、これを飲んで」
ゆりねがさしだしたのはイワクラの水*3だ。
ぱしっ! ゴクゴク……
ひったくるように水を取ったぴのが、中身を一気に飲み干した。
「落ち着いてきましたわ……」
「だいぶ参ってたみたいですの」
人を困らせるのが大好きな邪神ちゃんがちょっとでも心配そうにしているのだから相当である。
「うう、実はわたくし、東京が丸くなってどうしていいか分からなくなって……」
元から精神薄弱の気があった彼女だが、以前から頼りにしていたゆりねの顔を見ると感情が決壊してしまったようだ。
「まーそうだろうな」
ヘラヘラしている邪神ちゃん。こっちはメンタルだけは強いようだ。
「ついに主が私たちを抹殺するために攻撃を開始したのかと思って、ストレスでお薬も飲みきってしまって……!」*4
「不安なのは分かるわ」
「花園さん……優しい……やはりわたくしを守ってくれるのは花園さんだけですわ」
ぷるぷる震える手でゆりねにしがみついている。すごい握力だ。*5
「外に出るのも恐ろしくて、ターミナルのある部屋で震えてたら気づくとこのアマラ
「待て! ……お前、今なんて言ったんですの?」
はたと話を止めて、邪神ちゃんがシリアスな表情を浮かべている。
「え? ですから、アマラ
「アマラ
「いや、アマラ
どこからか、声がした。先ほど、邪神ちゃんとゆりねをネットワークの中に送り込んだ男、ヒジリだ。
「そ、そんな……今までずっと
崩れおちる邪神ちゃん。*6
「どっちでもいいけど、そっちからこっちの様子が分かってるの?
ゆりねは当たりを見回してみる。経絡の名の通り、どこまでも続くような通路という印象の場所だ。血管のような天井と床を、無数の赤い光が流れている。
「ああ。ターミナルを通じて見せてもらっている。その人は知り合いか?」
「誰だか知りませんけど、花園さんは渡しませんわ!」
ひっしとゆりねに抱きついたまま、ぴのが叫ぶ。元気になったようだ。*7
「邪魔をしようって言うんじゃない。アサクサへの道のりを探しているんだ」
「アマラ経絡を通ってアサクサに入るつもり?」
「そうよ。頼まれてるの」
ぴのは大粒の涙を目の端に浮かべながら、ゆりねをじっと見た。
「い、いけませんわ」
「なんでですの。お前、ここにずっといたんだろ? 道順くらい分かるんじゃないか?」
「たしかに、アサクサまでのルートぐらいは分かります」
「だったらちょっとくらい教えてくれてもいいだろ?」
ぴのの回りをグルグル回りながらウザ絡みする邪神ちゃん。しかし、ぴのは断固として首を振る。
「あんた、さてはムスビの仲間だな?」
ヒジリの声。
「そ、そうですわ。ムスビのコトワリが成就した時には、誰にも危害を加えられない安全な世界にいられる……そのためならわたくしはどんな危険なことでもすると誓ったのですわ!」
「無茶苦茶ですの」
邪神ちゃんがヒくほどの錯乱ぶりである。
「今やアマラ経絡は
「その勇ってのが、ムスビのリーダーなんですの?」
ぴのはぷるぷると左右に震えながら、こくこくと上下に頷いた。*8
「ちょうどよかったわ。私たち、コトワリを啓く人を探していたの」
「お、恐ろしい方ですわよ。いくら花園さんでも、何をされるか……」
ぴのは青ざめながら胸を押さえている。動悸がぶり返してきたようだ。
「なーに、この邪神邪神ちゃん様がついてるんだ。この世は力! 強さにものを言わせて話を聞かせてやればいいんですの」
大口はドロップキックを命中させてから叩いてほしいものだが、邪神ちゃんなりにぴのを安心させようとしているのかもしれない。
「でも……もしかしたら花園さんなら……どっちにしろ、勝った方につけばわたくしだけは安全なのでは……」
ブツブツとつぶやくぴの。邪神ちゃんの言葉は耳に入っていないようだ。
「わかりましたわ!」
すっくと立ち上がったぴのが、道の先を指さす。
「まずは勇様のところへ。でも気をつけてください。いま、あの方はアマラ経絡を掌握しています。もし機嫌を損ねるようなことがあったら……」
「あったら?」
「アマラの迷宮の中を、永遠にさまようことになりますわ」
(つづく)