邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
アマラ経絡……
ボルテクス界に張り巡らされた、マガツヒの通り道。そこでは物理法則が常に頼りになるとは限らない。
「おい、さっきから同じ所をグルグル回ってるような気がしますの!」
「ちゃんと進んでますわ。どこも同じような景色だからそう見えるだけ」
「ゆりね、△ボタンで地図を開け!」
「そんな機能ついてるわけないでしょ。地図アプリも効かないんだから」*1
「くっふー……頼りになるのはこいつだけか……」
「こいつとは失礼な。わたくしは花園さんをお連れしてるんですわ」
邪神ちゃんがにらみつけると、つられたようにぴのが言い返す。
アマラ経絡に不穏な気配がさざめいた。
『ケンカはやめろ。なにかの間違いでマガツヒの奔流に飲み込まれたら、同じ場所には二度と帰ってこられないぞ』
どこからか響くのは、ヒジリの声だ。邪神ちゃんたちをアマラ経絡に送り込んだ張本人である。今も、ターミナルを通じて様子を見ているらしい。
「そうよ。私たち、ムスビの指導者に会わないといけないんだから。たしか……」
「新田勇様ですわ」
ぴのがぽつりと言って、落ち着かなさそうにまわりを見回した。
「突如ネットワークのなかに現れたと思ったら、すぐにシステムを掌握してしまった恐ろしい方。わたくしが作り上げていた安全のための集いも今は勇様のもの……」
ぴのの顔がさっと青くなった。*2
「安全のための集いって?」
「悪魔がはびこるボルテクス界から身を守るために、思念体や精霊を呼び集めてわたくしを守らせることにしたんですわ。ただでさえアマラ経絡の中なら普通の悪魔は入って来ないし、いざとなったら迷路のようなアマラの中に逃げればわたくしだけは安全ですもの」
『なるほど。アマラ経絡に外道や幽鬼が集まってたのはそういうわけか』
「ここに隠れていないと、他の悪魔にいじめられるだけ。無理やり入り込んで暴れる悪魔さえいなければ、平和な場所なんですわ」
『そりゃ、悪いことをしたな。人修羅がさんざん暴れたから……』
「まったく、大迷惑ですわ! おかげで幽鬼たちが凶暴になって、集めたマガツヒを奪い合って……」
そんな話を、邪神ちゃんはぽかんと口を半開きにして聞いていた。
「あいつら、なんの話をしてるんだ?」
「分からないけど、後半になると敵のレベルが上がることの説明をしてるんじゃない?」
「RPGみたいですの」
「RPGだからね」
一行はいくつもの小部屋と小道を通って、マガツヒが滞留する部屋へとやってきた。
「そして、そんな乱れたアマラ経絡に現れたのが勇様。行き場をなくした怨霊たちをまとめ上げて、ほとんどを手下にしてしまったのですわ」
「どこでも同じですの」
「敵が集団になってしまったら、対抗するためにはやっぱり集まる必要があるものね」
マントラ、ニヒロ……そして第三の勢力としてムスビが生まれたのだろう。
『コトワリを啓くには、大量のマガツヒが必要なんだ。勇のやつはアマラ経絡のマガツヒが流れ着く場所を探してるんだろう』
と、ヒジリの声が言う。
「わたくしはここで安全に暮らせるだけで十分なのですけど、勇様はこれ以上の安全を求めているのですわ」
「他の悪魔が襲ってこないんなら、ここで隠れていたっていいじゃない?」
「誰かがコトワリを啓いてしまったら、ここも跡形もなく消えてしまう……そうなる前に、勇様はムスビのコトワリを啓こうとしているのですわ」
「テマキってコトワリができたらどうなるんですの?」
「ムスビは個人主義のコトワリですわ*3。それぞれの魂がひとつの世界を持ち、お互いに干渉しない……強いものも弱いものも、自分だけを追及することができる世界」
「でもそれじゃ、他の人と何かを共有したり、考えを伝えることもできないじゃない」
「それでも暴力や支配にさらされるよりはマシというのが、勇様の考えですわ」
「管理人さんはそのコトワリに賛成してるの?」*4
「……このまま悪魔が延々殺し合う世界でいるよりはいいと思ってますわ。でも……」
とつぜん、ぴのはぼろっと大粒の涙をこぼした。
「主に狙われることがなくなっても、誰にも褒められたり、使いっ走りさせたりできない世界なんてイヤですわ! まだリエール様に成り代わって三界*5を支配する計画の途中ですのに!」
錯乱してうずくまるぴの。また動けなくなってしまった。
「こいつそんなこと考えてたのか」
「ちょっと、落ち着いて」
なんとかゆりねがなだめようとするが、ぴのはイヤイヤと首を振るばかりだ。
『なるほどな。本音を聞かせてもらったよ』
……そこに、聞き覚えのない声が響いた。
「ヒジリ……じゃないですの」
『引きこもりの雑霊たちに好かれてるから見過ごしてやってたが、けっきょく俺に協力する気はないってことか』
マガツヒの流れが変化して、先ほどまで扉があった場所がつるりとした壁に変化している。
「おいヒジリ、閉じ込められてますの! なんとかしろー!」
『……ダメだ……接続が……不調……こちらからは……なんとも……』
「つかえねー!」*6
「あなたが勇?」
『そうだ。天使もどきが人間と悪魔を連れこんで何をするつもりなのか監視してたけど、けっきょくムスビに賛同するつもりがなかったとはな。がっかりだよ』
「あ……あなたよりも花園さんの方が頼りになりますわ! 花園さんは私を主からも守ってくれる人なのですわ!」
『天使の輪がないと力が使えないんだろ? 強がらないほうがいいぜ』
毅然と言い返すぴのだが、天使の力は失われている。能力的には、人間と変わりがない。
『悪いが、俺はアマラの行き着く先を探してるんでね。お前達に構ってるヒマは無い。そこで3人仲良く暮らしてくれ』
勇にとって、アマラ経絡の構造は好きに変えられるらしい。すでに四方すべてが壁に変えられている。どこにも出口がない状態だ。
「きー! 偉そうにするな! こんなやつに頼ろうとしたのが間違いでしたの!」
地団駄を踏んで*7悔しがる邪神ちゃん。
「でも、言い換えれば花園さんとここで一緒にいれば安全ですわ……」
はっとして泣き止むぴの。ゆりねの効き目は錠剤以上だ。
「そんなこと言ってられないわ。気が変わったらどうされるか分からないもの」
ゆりねがやれやれ……と言わんばかりに、日本刀を取りだした。*8
「ヒジリさんとの約束通り、アサクサに行くわよ」
シュパパパパッ! 閃光のように刀身が閃く。ゆりねの前の壁がバラッと崩れて、向こう側の通路が現れた。
「十三代石川五ェ門かお前は」
思わず冷静に突っ込む邪神ちゃん。
「またつまらぬ物を斬ってしまったわ」
案外乗り気らしいゆりね。
「す、すごい……やはり花園さんこそがわたくしを守ってくれるのですわ!」
ぱっと表情を輝かせるぴの。
3人は再び、アマラ経絡へと飛び出していった!
(つづく)