邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
『アマラ経絡の支配者である俺から、逃げられると思ってんのかぁ!?』
新田勇の怒りの声が響く。
「なーにが支配者ですの! 外にいる悪魔に敵わないからこっちに閉じこもってんだろ!」
邪神ちゃんが指を一本だけ立てて言い返す*1。相手の姿が見えないから、とにかく虚空に向かって。
「花園さん、壁が!」
ぴのが叫ぶ。走る三人の眼前で、通路だった場所が壁に変わり、行く手を塞ぐ。
「仕方ないわね……」
ゆりねが愛用の日本刀*2を閃かせ、壁を斬りつけて崩壊させる。走るペースを落とさずに掘削する、ミスタードリラーもびっくりの早業だ。
『疲れて体が動かなくなるまでやるか?』
どこまでも変わり映えしない、無数に枝分かれした通路と小部屋の連続。アマラ経絡は一見するとそんな場所だ。
「ぴの! どっちが出口なんだ?」
「そんなこと聞かれても、知りませんわ!」
「使えねー!」
「わたくしは外に出るつもりなんてなかったんだから!」
勇が根城にしていた方向からは離れるように走っているが、どこから脱出できるのかを知る手がかりもない。五里霧中とはまさにこのことだ。*3
『聞こえるか? 俺だ、ヒジリだ』
その時、別の声が響いた。
「ヒゲロン毛ハット!」
『そうだが、口の利き方には気をつけてくれ。ネットワークを制御して、ターミナルから脱出できるように接続を組み替える』
目の前の通路が長く延びて、分かれ道が消えていく。無限とも思えた分岐路がまっすぐな道に変わった。
「ナイスですの! これで逃げられるぞ!」
『させるか!』
勇が叫ぶと、今度は道が狭まっていく。左右はマガツヒの奔流だ。
『気をつけろ、一歩でも踏み外せばマガツヒの流れに飲み込まれて永遠にアマラをさまようことになる』
「『気をつけろ』って言われる時は、だいたいどうしようもない時なのよね」
ゆりねがぼそりと呟きながらも、バランスを崩さぬようにまっすぐに走りつづける。
『行け、モウリョウ*4ども!』
勇の掛け声にあわせて、行く手から靄のような人魂が浮き上がり、体当たりをしかけてくる。
「危ないわね」
ゆりねがさっと身を低めて体当たりをかわす。
「うぎゃー!」
そして後ろにいる邪神ちゃんに直撃した。レベルの低い悪魔とぶつかってもバランスを崩すことはないが、痛いことは痛い。
「その調子ですわ!」
かばわれた、というより邪神ちゃんを盾にしたぴのが喝采の声を浴びせた。
「当たりたくて当たってんじゃねー! ゆりねが前にいるせいで前が見えねえんですの!」
「仕方ないでしょ、道が狭いんだから」
今度は足元を狙って低空飛行するモウリョウを、ゆりねが飛んでかわした。
「おぐっ」
邪神ちゃんの下腹部に直撃する。鍛え抜かれた腹筋も不意打ちでは意味をなさない。だが邪神ちゃんはひるまずにモウリョウを掴んでマガツヒの川の中に投げ入れた。
「刀で切ればいいだろうがよー!」
「こんな姿になっても人の魂でしょ。そんな恐ろしいことできないわよ」
「悪魔を殺すのは平気なんですの!?」*5
とにかく、3人はひたすらに走りつづけた。
『いいぞ。すぐ近くのターミナルに接続する。ボルテクス界に出現するぞ』
小部屋の中に飛び込んだ瞬間、体が浮き上がるような感覚。光に包まれたかと思うと、体ごと見慣れぬ場所に移動していた。
「アマラ経絡の外に出るのが久しぶりだから、体が……うえっ」
ぴのは真っ青になって吐き気を抑えている。役に立ちそうにはない。
「ここは……」
「なんだ、あれは……!」
邪神ちゃんが見上げるはるか情報に、巨大なピラミッドのようなものが浮かんでいた……しかも、上下逆に。大量のマガツヒがその中に蓄えられていることが一見して分かる。
『まさか、アマラ神殿……か?』
すぐそばに、別の姿が現出した。帽子をかぶり、ギラギラのシルバーバックルのベルトの少年。見とれるように、逆さまのピラミッドを見上げている。
「新田勇……?」
「てめー、よくも私たちを追いかけてくれやがって!」
「やめなさい、邪神ちゃん」
プスッ。(日本刀が邪神ちゃんの尻尾に刺さる音)
「の゙おっ!」
「……」
勇は胡乱げに邪神ちゃんたちを一瞥してから、ターミナルへ向けてあごをしゃくった。
「行けよ。もうお前達なんかどうでもよくなっちまった」
「むっきー! なんだよその言い様は! 人間ごときが悪魔に勝てると思ってんじゃねーぞ!」
「やめなさい」
ドスッ!(日本刀が邪神ちゃんのわき腹に刺さる音)
「ぐえーっ!」
「いいって言うんだからいいんでしょ。管理人さんも、行くわよ」
「花園さん、見捨てないで……」
よろよろと起き上がるぴのの手を取って、二人がターミナルへと飛び込んでいく。
「チッ……運がよかったな」
「お前なんかにはわかんねーよ。これで俺にも神が降ろせる……」
「こんなことになってまで人を頼りにするやつのことはわかりませんの」
そして邪神ちゃんもまた、ターミナルを通じてアマラ経絡へと戻っていった。
DROP KICK ON MY DEVIL!
それからしばらくして……
『よくやってくれた。その先がアサクサに繋がってるはずだ』
探索の末、一行は当初の目的であるアサクサターミナルへのアクセスポイントに辿り着いていた!
「まっ、これぐらい楽勝ですの」
「よく言うわ。血まみれになってたくせに」
「ゆりねが刺すからだろ!?」
「ハァハァ……もうわたくしはアマラ経絡の外では生きていけないのかも……」
ぴのは相変わらずふらふらである。ボルテクス界の空気がよほど肌に合わなかったらしい。
『小部屋の中に入ってくれ。あとは俺がアクセスして、アサクサに転送する』
「簡単まかせろバッチグーですの」
邪神ちゃんがマガツヒの集積地となっている小部屋の中に入る。すぐに白い光に包まれて、ターミナルを通じてボルテクス界のアサクサへと移動する。
「それじゃあ、私たちも……」
ゆりねがぴのの手を引いて、邪神ちゃんを追おうとしたとき……
「花園さん、わたくしと一緒にここに残って! でないと、わたくしは……」
ゆりねの足元にすがりついて、ぴのが叫ぶ。
「大丈夫よ。私や邪神ちゃんもいるし、そうそう悪魔に負けたりは……」
「でも、こんなことになったのは主の意向に違いありませんわ。きっと私たち全員を滅ぼすつもりなんですわ……」
「だからってここに残っても何もできないわよ」
「だったら私が落ち着くまで一緒にいてください!」
「やることがあるんだけど……」
コトワリの持ち主に会うことが今の目的だ。シジマもムスビもダメとなれば、あとはヨスガのコトワリを探さなければならない。
『だったら、俺と一緒にアマラ経絡のことを調べるのはどうだ。さっきの妙な場所について調べたいこともあるし、アマラ経絡の中で動けるパートナーがいれば心強い』
「それがいいわ。ただ隠れているだけより安全だろうし……外のことは私たちに任せて」
ヒジリの提案を受けてゆりねが小部屋の中に入ろうとしたとき……
「イヤッ! 一緒にいてくれないなら、いっそ!」
ドンッ!
ぴのがゆりねの体を突き飛ばす。勇の干渉によって狭まった足場はそのままだ。ゆりねの体はマガツヒの奔流の中に飲み込まれる。
「えっ……」
どうどうと流れる赤い光のなかでゆりねはもがくが、水の中のように泳ぐこともできない。あわれ、ひ弱な人間の体は押し流されて、アマラの深淵へと流されていく……
『なんてこった……』
ゆりねは深層へ、邪神ちゃんはアサクサへ……この旅が始まって初めて、二人の道が別たれたのだった。
(つづく)