邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
アサクサ・ナカミセ通り……
「みんなーっ、今日も集まってくれて、ありがとーっ!」
龍王ノズチ……あらため、龍神ゲンブ*1の背中で、天使が叫ぶ。
「のえるちゃーーん!」
「ウオーーー!」
「ボルテクス界でいちばんかわいいよー!」
マネカタたちがコールを上げ、オタ芸を打つ。中には地霊などの悪魔も混じっていた。
(すごい人気ですね、ぽぽろんは……)
その人だかりを押さえるシールドの仕事をしながら、ぺこらは内心でつぶやく。
ちなみに、「のえる」はぽぽろんが人間界でアイドルとして活動していた時の芸名だ。今でもそのまま使っている。「もしアイドル時代のファンが生き残ってたら気まずいし……」ということらしい。
アサクサは、マネカタたちの街になっていた。
かつて、マネカタたちはカブキチョウに作られた捕囚所に捕らえられていた。彼らを拘束していたマントラ軍の目的はマガツヒ*2を搾り取ることだ。だがマントラ軍はニヒロのナイトメア・システムによって壊滅。カブキチョウに残っていた軍勢も、ふらっとやってきた一匹の悪魔によって倒された。
そして、マネカタたちは生まれ故郷であるアサクサに集い、自分たちの手で街を、そしてコトワリを作ろうとしていた。*3
そんなわけで彼らは人間がいなくなった街を復興させようとしているところだが、煌天*4が近づくと、悪魔もマネカタもどこか浮ついた雰囲気になってくる。
そこで、作業の手を止めて思いっきり騒げるようにと、煌天の日にはぽぽろんのライブが定番となっていた。
マネカタたちを率いるリーダーも、どうせ煌天ではまともに作業にならないのだからと見逃してくれているようだ。
「今日はこれが最後の曲だから、思いっきり楽しんでいってね!」
「のえるちゃ! ホワッ! ホワーーーーーッ!」
興奮したマネカタが手足を振り乱して叫ぶ。飛び出そうとするマネカタがぶつかってくるのを、ぺこらは身を挺してかばい、食い止めていた。
(これでも、以前に比べれば……)
エレベーターで下まで降りては荷物を階段で運ぶ謎の苦役に従事していた頃を思う。食べることにさえ困っていた頃に比べれば、ボルテクス界では食事の必要がないのだから苦しむことはないのだが……
(でも、人間がいなくなってしまったのは寂しいですね……)
そんな感傷に浸っている間に、ぽぽろんのステージは終演を迎えていた。観客のボルテージも最高潮だ。
「今日は、お知らせがあるよ! なんとぽぽろんちゃんのワンマンライブが決まったの! ブンカカイカンで、カグツチが一周するまでずーっと騒ぎ続ける、最高のイベント!」
びしっ! とぽぽろんの指が彼方を指さす。おそらく、そっちにブンカカイカンがあるのだろう。ぺこらはトウキョウの地理に疎かった。
「ワンマンライブですと!?」
「これは東京受胎以来のビッグイベントですぞ!」
(なんと、ワンマンライブ……)
ぺこらも知らされていなかったことだ。もちろん、いつも何も知らされてなどいないのだけど。
「友達をみーんな誘って、一緒に騒ぎにきてね!」
アイドルらしい輝くばかりのスマイルで、ぽぽろんが告げる。
この大ニュースに、アサクサが騒然となったのは言うまでもない。
DROP KICK ON MY DEVIL!
「はぁ、はぁ……今日も死ぬかと思いました……」
ステージを終えて……
ぺこらは地面に伏してぐったりしていた。
「まったく、だらしないんだから」
一方、ぽぽろんは晴れ晴れとした表情だ。マネカタたちの歓声を受けて、より元気になったのかもしれない。
「仕方ないではないですか。ひとりで食い止めるのは無理がありますよ」
マネカタたちは非力とはいえ、時には何人もがもつれ合ってステージに殺到しようとするのだ。体を張って止めていれば、消耗もする。
「もう一歩も動けません……」
「まったく……ほら、無給じゃなんだし、たまには施してあげる」
ため息をつきながら、ぽぽろんがぺこらの顔の前に何かを置いた。マッスルドリンコ*5だ。
「ありがたい……!」
両手でドリンコをしっかりと掴み、ぐっと飲み干した。
「ぐっ……!」
体力は回復したが、言葉が出ない。CLOSE*6だ!
「あはははっ! ぺこら様ってバッドステータスが似合う!」
楽しそうに笑うぽぽろん。ぺこらは(先に礼を言っておいてよかった)と思っていた。
「そういえば、ブンカカイカンのライブのことだけど……」
ぺこらがもがいている間に、ぽぽろんは髪を整えて顔をそらしながらつぶやくように言う。
「もっと強い悪魔を雇って警備させるから。ぺこら様は来ないで。せっかくのぽぽろんちゃんの晴れ舞台が、ドジなぺこら様のせいで台無しになったら困るから」
「!?」
「そういうことだから、もうついてこないで」
声が出ないぺこらをその場に残して、ぽぽろんは背を向けて歩き去っていく。
(どういうことですか……!?)
もがいている間に、何もない場所で転んでしまう。ぽぽろんは振り返りもせずにかけだしていった。
DROP KICK ON MY DEVIL!
(ようやくこの世界でもできることが見つかったと思ったのに……)
ぺこらは打ちひしがれて、裏通りをがっくりと肩を落としながら歩いていた。
マネカタたちは煌天のライブで元気づけられたらしく、すでに復興のための仕事に戻っているようだ。
(手伝うべきでしょうか。しかしぺこらにできることなんて……)
ちなみにCLOSEは直っていない。声は出ないままだ。
その時、ふと通りの先をボロ布をまとったカボチャのような悪魔が通っていった。
(……ん? あれは、たしかぽぽろんのマネージャーを名乗っていた……)
ジャックランタンだ。思いがけず、その後を追ってみると……
「ヒーホー! 計画は順調だホ!」
「ちょっと、大きい声出さないでよ。誰かに聞かれてたらどうすんの」
ぽぽろんの声だ。思わず聞き耳を立ててみると……
「ブンカカイカンのライブで集めたマネカタたちから一斉にマガツヒを搾り取る手はずは万端だホ」
「言ったでしょ? いちいち拷問なんて時間がかかるやり方をしないでも、ぽぽろんちゃんなら簡単にたくさんのマネカタを集められるって」
「まったくだホ! しかも、ブンカカイカンにマネカタたちを呼び寄せればアサクサの守りは手薄になる。その隙にチアキ様が攻め込むこともできる……まさに
「たくさんのマガツヒがあれば、もう一度天使の力を手に入れることができる……」
ぽぽろんの声には悲壮さがにじみ出していた。
「そう、ぽぽろんちゃんは天使なんだから。世界を正しく導かなきゃ。ヨスガのコトワリの通りに……!」
(……!)
ぺこらは思わず口を押さえた。
難しい話の内容ははっきりとは分からない。だが、マネカタたちからマガツヒを奪えば、そのマネカタは形を失ってしまう。それがわかっていて、やるつもりに違いない。
(ぽぽろん……なんということを!)
思わず駆けだしていた。声をあげられないことが、今は幸運だった。
(誰か、誰かにこのことを伝えなければ……!)
のんきに世間話をかわすマネカタたち。その平穏も、終わってしまうのだ。かつてはぺこらの部下だったぽぽろんの手によって。
(でも、誰に……? ぺこらが頼れる相手なんて、どこにも……)
そして、走り疲れて足を止めたとき……
「ったくゆりねのやつ、勝手にいなくなりやがって……」
がちゃ、と無造作に開いた扉から、見慣れた姿が現れた。
(つづく)