邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
「う……」
目を覚ますと、一面が赤黒い空間にいた。壁も床も、一定のパターンが繰り返す模様で埋め尽くされている。そのパターンは立体的だが変わり映えがなく、どこか不安を催すような気がした。
「花園さん! ああ、よかった……」
「管理人さん……?」
自分を上から覗き込むぴのの姿を見て、花園ゆりねは自分が仰向けに倒れていることに気づいた。
「ここは……」
「分かりません。アマラ経絡の流れに身を任せていたら、いつの間にかこんな所に」
「マガツヒの流れがどこかに辿り着いたのかしら。雰囲気が妙だわ」
ゆりねはゆっくりと身を起こして、服の裾を払った。さいわい、どこも破れたりほつれたりはしていない。眼帯までいつもの通りだ。*1
「邪神ちゃんとはぐれちゃったみたいね」
「ごめんなさい、花園さんが行ってしまうと思うと、どうしても不安で……ああーん、花園さんに嫌われたら生きていけませんわー!!」
ゆりねが目を覚ましたことで緊張の糸が切れたのだろう。ぴのが子供のようにしゃがみ込んで泣き始める。
「今さら気にしてないわ。管理人さんはムスビに残るのかと思ったけど」
「だって、あんな自己中集団がわたくしを守ってくれるとは……やはり頼れるのは花園さんしかいませんわ!」
ひしっとゆりねの下半身にしがみつき、てこでも動かない気構えを見せる。
「それじゃ動けないわ。邪神ちゃんを探さないと……」
「邪神ちゃんさんがいなくても、わたくしがいます!」
「このSSのタイトル、『邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ』なのよ。ただでさえメガテンのキャラがあんまり出て来ないのに、邪神ちゃんまでいなくなったらなんの二次創作だかよく分かんなくなっちゃう」*2
「そういう話ではなく」
「まあいいわ。最後にちょっとだけ『その頃の邪神ちゃんは……』ってやれば、ノルマは達成できるでしょ」
「そんなテキトーな……」
「原作だってやってることだし」
その時である!*3
「おやおや……また何者かが迷い込みましたか」
ふと、その空間に別の声が響いた。
「誰ですの!? 花園さんは命にかえてもわたくしが守ります!」*4
ぴのがさっと臨戦態勢を取る。といっても、天使の力を失った今、ファイティングポーズから繰り出せるのはアッパーカットがせいぜいだ。*5
「名乗るほどのものではございません」
そこに立っていたのは、全身を黒い喪服に包んだ淑女だ。
「私はこの空間の主に仕えているもの。主は今お休み中です」
「あなたの声、どこかで……」
ゆりねは身を起こしながら淑女の姿を見つめた。だが、どうにもはっきりとしない。見たことがあるはずなのに、うまく思い出せない。デジャ・ヴ*6と言うヤツだろうか。
「私のことはどうでもよいでしょう」
淑女はすげなく言って、ゆりねに目を向けた。
「あなたは人間。本来なら、東京受胎で滅び、ボルテクス界にいるはずのない存在です」
「いきなり言ってくれるわね。でも、気がついたらあそこにいたのよ」
「妙なことです。ミロク経典にも、そのような事象は預言されていなかった……」
「ミロク経典を知っているの? その力で、邪神ちゃんを魔界に送り還そうと思っていたんだけど」
「無理でしょう」
きっぱりと告げて、淑女は首を振った。
「あなた方はいわば、チェス盤の上にとつぜん置かれたねんどろいどのようなもの」
「喩えがよく分からないんだけど」
「この世界のルールに反した存在です。おおかた、マナーの悪い誰かが『混ぜたら面白いぞ』と思って勝手にやったこと」*7
「私たちが世界にとって邪魔なら、早く出ていきたいんだけど」
「大量のマガツヒがあれば、あるいはあなたたちも戻れるかもしれません」
「邪神ちゃんたち悪魔だけじゃなくて、私も?」
「どうやら、あなたたちがいた東京は、このボルテクス界の元になった東京とは別の世界のようです」
「なるほど。どうもおかしな気がしてたのよ。2003年ぐらいの雰囲気だったから」
「自らの力で世界から脱するなら、コトワリと同じこと。コトワリを啓くには三つのものが必要」
淑女はぽつりと伝えた。
「ひとつはコトワリを啓く強い意志を持ったもの。ひとつは門を開くためのマガツヒ。最後に、異界より来てコトワリを授ける神」
「異界の神……?」
「その時が来れば分かること」
そして、淑女は疲れたように息を大きく吐き出した。
「我が主はあなた方がこれ以上ゲームに介入することを喜ばしく思っていません。お仲間を連れて、早くお帰りになりなさい」
「介入しているつもりもないんだけど」
「いいえ。すでに事態は進行しつつあります。あなたがたが連れてきた天使と悪魔が、ブンカカイカンで決戦へと挑もうとしています」
「天使と悪魔が?」
ゆりねは思わず、すぐ隣にいる天使を見た。
「ぺこら様が……そんなはずないですわね。ということは、ぽぽろんが何かしているのですわね。昔から思い込みが激しい子だから……」
「それ、あなたが言う?」
ツッコミは聞こえていないらしく、ぴのはやきもきしている。具体的な行動を起こすまでに時間がかかるタイプの天使である。
「ひとまず、元の場所……ボルテクス界に戻りたいんだけど」
「迷いに迷ってここに辿り着くとは、運がいいのか悪いのか……ターミナルを使って戻れるはずです。また事故でアマラの流れに落ちなければ……」
「脅さないでよ」
「お急ぎなさい」
淑女はそれだけ言って、どこともしれぬ闇の中へと消えていった。
「まったく世話が焼けますわね……」
「管理人さん、手が震えてるわよ」
不安で仕方ないらしいぴのの手を引きながら、謎の淑女が示したほうにゆりねは向かう。*8
「邪神ちゃんがむやみに問題を大きくしていないといいけど……」
いかにも漫画らしい前フリを添えて、アマラ深界を後にした。
DROP KICK ON MY DEVIL!
一方その頃邪神ちゃんは……
「本当に飛び降りるんですかぁ!?」
「人修羅にできて私にできねえことはねえはずですの! 人生の選択はいつも『はい』ですの!」
「エレベーターを使えばいいじゃないですか!」
「途中で乗り換えがあってめんどくせーんだよ!」
60階建てのビルから飛び降りようとしていた!*9
(つづく)