邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
トウキョウブンカカイカン、大ホール……
静天から始まったライブは歌あり踊りあり、バラエティコーナーあり、大いに盛り上がっていた。
「みんなーっ! 今日はのえるのために来てくれて、ありがとー!」
「ウオーーーーーーー!」
娯楽が途絶えたボルテクス界において唯一のアイドルであるぽぽろんの人気は留まるところを知らない。*1
2300人収容の大ホールにマネカタたちが収まり切らず、立ち見客までいるほどだった。
「でも、実はね……みんなに言わなくちゃいけないことがあるんだ」
スポットライトを浴びるぽぽろんの声のトーンが変わった。同時に、熱狂していたマネカタたちも変化を感じ、急速にざわめきが広がっていく。
「のえる、今日をもって……アイドルを卒業します!」
「そ、そんな……明日から何を楽しみに生きていけばいいんだ!?」
「推し活がない地獄なんて……単なる地獄じゃないか!?」
「のえるちゃ……ホワッ! ホワッ!?」
「俺はのえるちゃんの選択を尊重するぜ……」
会場のファンからは様々にリアクションが帰ってくる。
(好き勝手いってくれちゃって……最初から決まってたんだっつーの)
2500人のマネカタたちに、一斉に悲しみのムードが広がっていく。
「やめないで! のえるちゃん!」
「やめないで!」
「もう決まっちゃったことなの。だから、アイドルはおしまい。このライブは、卒業記念ライブとして一生の思い出にするね!」
あくまでアイドルスマイルのまま告げる。その表情の裏に隠れた悲壮な決意はいくばくか……なんてふうに勝手に解釈して、さらに悲しみをつのらせる。ファンとは恐ろしいものだ。
やがて観客席のあちこちから、ぽつぽつとエネルギーがにじみ出してきた。悲しみから生まれるエネルギー、マガツヒである。
(マントラ軍はいちいち拷問してマガツヒを搾り出してたみたいだけど、肝心なことが分かってないよね)
その光景を見て、ぽぽろんはほくそ笑んだ。*2
(マネカタをまず喜ばせてから、一気に奪えば簡単に手に入るのに☆)
マガツヒは観客席の頭上に漂い、うねりながら大きな塊に変わっていく。
搾り出されたエネルギーは、マネカタたちにとっては命そのものだ。マガツヒを失ったぶん、バタバタと倒れるものが現れ始めた。
「もういい……のえるちゃんがいないなら生きる意味なんて……」
「のえるちゃんの子に転生するわ……」
「は? のえるちゃんは結婚なんかしないんですけど?」
「アイドルがやめる理由なんかひとつしかないだろ。男ができたんだよプゲラ*3」
「誰が結婚なんかするか!」
思わず言い返さずにはいられないあたりがわずかばかりの人情である。
「まだわかんないの? あんたたちはぽぽろんちゃんがマガツヒを集めるために利用されてたの。ヨスガの魔丞・千晶様に取り入って、ふたたび天使のリーダーに返り咲くんだから!」
「やっぱりのえるちゃんは天使だったんだ!」
「わかってたぜ……!」
崩れかけていたマネカタたちが少し形を取り戻した。
「何元気になってんの! マガツヒを搾り取ったらもう用なしなんだから、さっさと崩れちゃってよ!」
「前から性格悪いと思ってたんだ」
「凶鳥のモー・ショボーの方がかわいい」
ファンの中に隠れていたアンチもなぜか元気になっている。
「やっぱり滅ぼすしかないよね!」
じゃきん! ぽぽろんがどこからともなく鉄バットを構えた。消滅しないマネカタは物理でわからせる(隠喩)つもりである。
「ちょーーーーっと待ったーーーーーですの!」
その時、大ホールの後ろにある扉が勢いよく開かれた!
下半身はヘビ(というかコブラ)、そして上半身は
「げっ……肉じゃが!」*4
「ぽぽろん、こんなことはやめてください!」
もうひとつの扉からも細っこいシルエットが現れた。
「なんだ、ぺこら様。けっきょく来ちゃったの? 邪魔だから置いていってあげようと思ったのに」
「あなたはこんなことをする子ではないはずです。ちょっと過激なところはありますが、優しい子だったはず……」
「知ったようなこと言わないで! ぺこら様こそ、わかってんの!? もうコトワリは啓かれつつあるんだよ。どれかにつかなきゃ、生き残れないの! 千晶様は天使の軍団を作ろうとしてる。だったら、ぽぽろんちゃんが生き残るにはこれしかないでしょ!」
「ぽぽろん、本当に……こんなに多くの人を犠牲にするつもりなんですね……」
マネカタたちの中には形を保っていられず、土塊に変わっていくものもいる。ぺこらは痛む胸を押さえてぽぽろんをにらみ返した。
「仲間だった相手との敵対……女神転生って感じですの」
邪神ちゃんはなぜか他人事である。
「ぺこら様こそ、悪魔と手を組んだわけ? それこそ堕落の証拠じゃない。ぽぽろんちゃんには、そんなやつよりずっと頼れるシールドがいるんだから!」
ぽぽろんがバットを振りかざして合図をする。直後、空中に魔方陣が描かれ、そこから3体の天使が現れた。
「プリンシパリティ! パワー! ヴァーチャー!*5 こいつらをつまみ出して!」
「うわっ! 本物の天使ですよ!」
「うろたえるなぺこら! お前も天使だろ!」
「い、今は天使の輪がないから力が……」
ぽぽろんに召喚された天使たちが力を放たんと手を振りかざす。
「こ、攻撃してきますよ!」
「ふっ……こんなこともあろうかと、手は打ってありますの」
天使たちが攻撃しようとした、まさにその時!
「ペトラアイ!」*6
WEAKPOINT
3体の天使が空中で石へと変わる*7。しかも……
「弱点ついたらもう一回ですの!」*8
「暴れまくり!」
猛烈な勢いで突入してきた悪魔が、天使たちを粉々に打ち砕いた!*9
「よくやったぞ、メデューサ! ミノス! イケブクロまで探しに戻った甲斐がありましたの!」
「邪神ちゃんが頼ってくれたから……それに、ヨスガの計画じゃ見過ごせないよね」
「マントラにいるのはよかったんだけど、今の天使たちのやり方には馴染めなかったんだよな。やっぱり思いっきり暴れられるほうがいいぜ!」
ペトラアイを放ったメデューサと、また初期のキャラ付けに戻りつつあるミノスが邪神ちゃんの横に並んだ。
「4対1なんて卑怯だと思わないの!」
「メガテンはそういうもんですの」
ステージ上のぽぽろんと、観客席通路にいる4人が対峙する。BGMもバトル曲になっていた。*10
DROP KICK ON MY DEVIL!
一方その頃ゆりねは……
「うまい! もう一杯ソーマおかわり!」
「ボルテクス界に戻れるはずじゃなかったの?」
「変なところに繋がってしまったみたいですわ」
ぴのとともに、謎の老人のためにソーマを汲みにいっていた。*11
(つづく)
ぽぽろんが好きなので敵役になってもらいました。歪んだ愛情……。