邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
カグツチの光を浴びて、ぽぽろんの髪と四枚の翼が煌めく。天使の輪にたたえられた大量のマガツヒが、威光となって体から溢れ出している。
「ぽぽろん、もうやめてください!」
ぺこらの手にはデビルハンター時代から愛用しているムチが握られている。だが、大天使となったぽぽろんの前ではあまりにか弱い。
「抵抗をやめるのはぺこら様たちのほうだよ。この世界はいずれ新しく生まれ変わるのはもう決まっちゃってるの。だったら、誰かと一緒に創世を目指すしかないじゃない」
「やけにスケールの広いことばっかり言って」
「知らない漫画の最後の方の展開だけ読んだ時みたいになってるね」
二階席から降りるメデューサをミノスが受け止めて並び立つ。
「すごい力が溢れてくる! 見なよ、翼からはマハザンダイン!*1」
ぽぽろんが振りかざした
「これじゃ近づけない!」
ミノスのパワーをもってしても、両足で踏ん張って吹き飛ばされないようにするのが限界だ。
「指先からは破魔の雷光*2!」
ピカッ!
「あぶない!」
ぺこらが前に飛び出して、ぽぽろんが放つ雷光を受ける。服が焼け焦げ、ぼうっと体から煙があがる。
「ぺこらちゃん!」
「て、天使として破魔には強いので……」
そう言いながらも、一撃で満身創痍だ。半減ダメージでもこの威力。もし悪魔たちに直撃すれば……。
「加護を失って、どんな能力が残ってるっていうの? まさか丈夫なだけなんて言うんじゃないよね」
「あ、あとは……」
ぽぽろんを見上げる。かつては彼女のほうこそ、ぺこらにかしずいていたはずなのに。
「あとは勇気だけです!」
「ぺこら様、みっともなくておもしろーい! じゃあ勇気でどうにかしてごらんよ!」*3
「大天使って、なにか弱点はないのかよ?」
「天使の輪です! あれを奪えば、また力を失うはず……」
「アハッ! ぺこら様ったら、人間生活が長すぎて忘れちゃった? 油断してなきゃ、天使の輪は弱点でもなんでもないの」
悠然と構えるぽぽろんは、頭上の輝きを指さした。
「たしかに天使の輪が奪われたら力は失われる。でも、人間や悪魔に天使の輪っかを狙うことなんてできないの。なんでか分かる?」
「なんでって……」
メデューサの瞳の魔力も、今は通じないようだ。にらみつけて魔力をこめても、動きを鈍らせるのがせいぜいである。*4
「今のぺこらの力でどれだけ通じるか……ええい!」
勇気ひとつを共に、ぺこらが突撃しながらムチをふるう。
パシッ!
が、ぽぽろんの細い手があっさりとムチを掴んだ。
「弱すぎ」
ぐいっ、とぽぽろんがムチを引っ張ると、ぺこらは体ごと引っ張りあげられた。
「ああーっ」
長く尾を引く悲鳴をあげて、ぺこらはステージの上に引っ張り上げられ、ごろごろと転がって壁に激突した。
「天使の方が上にいるから、頭の上になんて攻撃できないの。わかった?」
ステージの中空に浮かぶぽぽろんが嘲るように見下ろしながら笑った。*5
「あたしが飛びついて引きずり下ろせば……」
「力比べは、さっきやったと思うけど?」
ミノスの体を投げ飛ばす力を発揮したのは事実だ。
「なんとかして隙を突かないと」
「隙なんてあるわけないでしょ。この状況で不意打ちできるもんならやってみなよ」
「その言葉、忘れるんじゃねーですの!」
突如、声が響いた!
「肉じゃが!? さっき爆散させたはず!」
「私は話が変わると復活するんだよ! 第3話に書いてあっただろ!」
「知らないよ!」
「邪神ちゃん!」
ぱっとメデューサの顔が輝く。はるか頭上の5階席から、カグツチの光の前に影がのびた。
「ここで主題歌をかけますの!」*6
逆光の中から、尾を伸ばしたシルエットが飛び出した!
「さっきは天使が上とか言ってたなあ! 5階席まで飛ばしてくれたおかげで、今は私の方が上ですの!」
空中でぐるっと回転して勢いを付け、尾を伸ばしたその体勢は……
「邪神ちゃんドロップキーーーーーック!!!」
スカッ!
「不意を突いたはずなのに、なぜ!?」
「あんなにべらべらしゃべってて不意打ちはないでしょ」
あっさりドロップキックをかわしたぽぽろんは、心底軽蔑した目を向けていた。
「くそーっ! このままでは床に激突しちまうー!」
その様子を見ながら、ミノスがぼそりとつぶやいた。
「キックで落ちてるはずなのにしゃべりすぎじゃないか?」
「漫画ってそういうものだから……」*7
一方、邪神ちゃんが落下しつつあるステージの上では……
「ううっ、一瞬気絶していたようです……」
転がっていたぺこらは、はたと目を覚ました。その顔の横にきらりと光るものがあった。
「これは、百円玉? どうしてこんなところに……」*8
「もったいない……」
と、ぺこらがかがみ込んだその背中に向けて、まさに邪神ちゃんが落下していく!
「ナイスだぺこら! 行くぞ、合体攻撃!」
「えっ? うぅーっ!?」
ぺこらが曲げた背中を踏み台にして、邪神ちゃんが再度上空へと舞い上がった。
「かわしたんだからもうターンは終わりでしょ!?」
「まだ私の攻撃は終わってねえですの! さらなる改良を加えた邪神ちゃん第二の必殺技をくらえ! 対空式ロイヤルコペンハーゲン!」*9
「っ……!」
アゴを狙った上昇攻撃に、ぽぽろんは思わず身を反らした。スウェーバックの結果、頭上の天使の輪は一瞬だけ遅れ……
「もらったーっ!」
邪神ちゃんが突き上げた拳が、はっしと天使の輪を掴んだ!
「しまっ……!」
「くるくるしゅたっ」
効果音を口で言って、邪神ちゃんは着地。その手には、輝く輪が握られている。
「こ、この私が悪魔なんかに……」
力を失い、ぽぽろんの翼がさらさらと崩れていく。空中に留まることができず、ぽぽろんは落ちていった。
「ぐえーっ!」
邪神ちゃんに思い切り蹴飛ばされてノビていたぺこらの上に。
「すごい! さすが邪神ちゃん!」
目を輝かせるメデューサに、自信満々の邪神ちゃんが胸を張る。
「そう。私はすごい。そのうえ強いのだ」
「やれやれ。はやくマガツヒを返してやんねーと、ほんとにマネカタたち死んじまうぞ」
観客席はめちゃくちゃだが、まだ形を保っているマネカタもいる。もともと土なのだから、マガツヒさえ戻せば形を取り戻すものもいるかもしれない。
「……いや……」
ニヤリ、と悪魔が笑った。
「これはもう私のもんだ! 考えてみれば私こそ世界の外から呼び出された神! だったらこのマガツヒで、私のためのコトワリ『イキリ』を啓いてやりますの!」
「何言ってんだ。コトワリは人間にしか啓けねえんだぞ」
「だったらあとでゆりねを見つけて、力で従わせてやる!」
奪った天使の輪を2つに割って、邪神ちゃんは噛み砕いた!*10
「やめて邪神ちゃん、そんなことしたら……」
「安心しろメデューサ、私に忠誠を誓うなら次の世界でも生かしてやりますの!」
「邪神ちゃん! 力におぼれて自分を見失っちまったのか!?」*11
変なときにだけ思い切りがいい邪神ちゃんを止めることができず、今度はふたりの悪魔と対峙する……
「はーっはっはっは! 今度こそ、邪神スーパー邪神ちゃんとして覚醒する! ボタン連打なしで確定ですの!」*12
ゴオオオッ!
邪神ちゃんの体が光を放ち、邪悪なオーラが全身から放たれる!
その時……
「やめなさい」
ズバッ!
邪神ちゃんの胴体がばっさり切り裂かれた。
「ぎゃああああああ!?」
邪神/ちゃんの『邪神』部分がさけびをあげる。『ちゃん』部分がビチビチとうねる。『/』部分からは大量のマガツヒが噴出し、飛び散ってマネカタたちに吸収されていく。
「ゆりねさん!?」
「私が異次元に行ってた間にずいぶん大騒ぎしてたみたいね」
ゴスロリ衣装に眼帯。花園ゆりねである。
「わ、私の遠大な計画が……」
『ちゃん』からこぼれ出すマガツヒを無念そうに見つめる『邪神』。やれやれとゆりねが首を振った。
「計画なんてほど複雑なこと考えてなかったでしょ」
いっぽう、ゆりねと共にあらわれていたぴのも驚きの声をあげた。
「ぺこら様! ぽぽろん! どうしてふたりとも気絶して……」
さすがに元同僚のことは放っておけないらしい。様子をうかがうためステージに走って行く。
「みんなにも迷惑かけたわね」
「いいえ、邪神ちゃんはむしろ止めてくれたほうで……」
「さっきまではな」
同じ悪魔からも呆れられる破天荒ぶりだ。*13
「くっふー! 私のコトワリが遠ざかって行く!」
「どうせ無理よ、私たちがコトワリを啓くなんて」
「でもゆりね! せっかくのクロスなのに、他にどうやってオチをつけるんですの」
ゆりねは邪神ちゃんを上下分割した刀をしまい*14、邪神ちゃんを見返した。
「簡単よ。SSなんてね、最後に『(おわり)』って出たら終わるんだから」
「それじゃあ、コトワリの争奪戦は!? アサクサを襲撃した伏線は?」
「ゲームの内容はゲームで見てもらうのが一番でしょ」
「そんなーーーー」
ボルテクス界の行く末は、君自身の手で確かめてくれ!*15
(おわり)
ここまでお読みいただいて、ありがとうございます。
読んでいただけるのが一番の喜びですが、もし感想や評価をいただけたら、さらに嬉しく思います。
終わらせたついでにいろいろ書きたいことがあったのですが、さすがにここで書き連ねると長くなるので、活動報告に書かせていただきます。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=287872&uid=177741
興味ある方だけ読んでください。