邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
ここは東京・神保町……と言いたいところなのだが、どこが神保町なのかは判然としない。
ここはボルテクス界。『東京受胎』によって生み出された魔界である。
「どうなってるのかしら、これは」
ツインテールに眼帯、ゴスロリ衣装の少女・花園ゆりねはあっけにとられたように上を見上げていた。
頭上に見えるはずの空は見えない。世界は東京受胎によって球体となり、その中央に『カグツチ』と呼ばれる発光体が浮かんでいる。
すなわち、まばゆい光の向こう側には、やはり東京の地があるのだ。
「ピンポン球の内側に何もかも閉じ込められているみたいだわ……」
「誰かがとんでもない儀式をして世界を文字通りひっくり返したんですの」
上半身は
「とんでもない儀式って、何をしたらこんなことになるのよ?」
「なっちまったもんは仕方ねーですの。ゆりねだって私を召喚したんだから、何が起きても不思議はないんですの」*2
「大学もボンディもなくなっちゃったわね」
カグツチを見つめる少女の顔には、一抹の
「ある日いきなり知り合いもいない世界になってしまうなんて、考えもしなかったわ」
「ようやく私の気持ちがわかりましたの?」
「そうね……」
邪神ちゃんはゆりねによって魔界から召喚され、人間界での生活を余儀なくされていたのだ。ゆりねが召喚に使った魔導書には帰還の呪文が記されていなかったのだ。
(も、もしかして……ゆりねは私を召喚したことに今さら罪悪感を覚えているのでは!?)
ここで邪神ちゃんのマウンティングセンサーが発動した。マウントができそうな時には見逃さない、悪魔としての本能である。
「そうさ。今まで私はお前によって人生を奪われてきた……」
「人生って、あんた悪魔じゃない」
「言葉のあやですの」
「でも、そうね。たしかに邪神ちゃんは私が呼んだせいで家族や知り合いに会えなくなったんだものね……」
砂塵まじりのつむじ風が、ゆりねの黒い髪をたなびかせた。
(ゆりね……)
ここで邪神ちゃんのごくわずかな良心が発動した。邪神ちゃんの良心が発動する確率はPF戦姫絶唱シンフォギア2の初当たり10ラウンドと同じ確率だと言われている。*3
「ま、まあ、私の場合はメデューサやミノス*4が会いに来てくれたし、ゆりねを殺せば帰れたんだから、今よりはマシでしたの」
「邪神ちゃん……」
フォローを入れた邪神ちゃんを、ゆりねが物珍しそうに見つめ返した。
「あんた、あのふたり以外に友達いないじゃない」
「うっせー!」
邪神邪神ちゃんがキレて暴れ出した!
▷なだめる
ほっとく
殺す
「まあいいじゃない、これからどうするか考えないと」
「くっ……!」
「ちょうどいいところに悪魔がいるわ。話を聞いてみましょう」
偶然にも地霊スダマ*5が一匹あらわれた。
「うわあ、ニンゲンだ!」
スダマが驚いて飛び跳ねる。
「人間がそんなに珍しい?」
「トーキョージュタイでニンゲンはみんな死んじゃったのに、どうしてお姉さんは生きてるの?」
「私も気になってたんですの。受胎のとき新宿衛生病院にいた人間しか生き残ってないはずですの」
「私にもわからないけど、魔よけのブレスレットが効いたんじゃない?」
「そんなもんで防げたら苦労してねーですの!」
「まあ、そのことはもういいじゃない」*6
「お姉さんは悪魔使いだね!」
「たしかに、邪神ちゃんを使役してるからそうともいえるわね」
「一方的に呼び出されてこき使われてるだけですの!」
邪神ちゃんが地団太を踏む。いや、足がないので踏んではいない。この場合どうやって描写すればいいんだろうね。
「ニヒロ機構の総司令と同じだね!」
「ニヒロ機構?」
「ソシキを作って威張ってるやつらだよ! 静寂な世界を作ろうとしてるんだって!」
「なんでも知ってるわね」
「ゲームを遊べばわかることをいちいち謎めかしてられませんの」*7
「そのニヒロ機構の総司令が、受胎を起こしたのかしら」
「そうらしいよ! ミロク経典っていうすごい本を使ったんだって!」
「ほんとになんでも知ってますの」
「キーワードは太字にしてくれてるし」
「ニヒロ機構の氷川総司令はガイア教団の幹部だったんだけど、今はギンザの南西にあるニヒロ機構本部でコトワリを啓くためのマガツヒを集めてるらしいよ!」
「多い多い! 情報量が多いですの!」
「とにかく、その人が何か知ってそうね」
スダマは一通り語って満足したらしい。くるくる回っている。
「……よく見ると、丸っこくてかわいいわね」
「ありがとう! お姉さんも眼帯がかっこいいね!」
「あら、わかってるわね」
ゆりねはまんざらでもない様子だ。
「おいゆりね、こいつは悪魔だぞ。どんな見た目でもろくでもないやつに決まってますの」
「あんたも悪魔じゃない」
「そうだ。説得力あるだろう」
邪神ちゃんが胸を張る*8。胸を張るようなことじゃないが。
「ねえ、ぼくをお姉さんの仲魔にしてよ!」
「仲魔?」
「つれてってほしいってことですの」
「そうねえ……一匹くらい増えても変わらないかしら」
「おい、私を『匹』で数えたな!」
「いいじゃない、半分はヘビなんだから」
「きーっ! ここが私の故郷の魔界だったら訴えてるところですの!」
「……」
スダマはその様子を見て*9、何か思うところがあるようにくるりと回った。
「やっぱり、仲魔はやめた。かわりにこれあげるね」
ゆりねは百円玉を手に入れた。
「マッカ*10じゃなくて百円玉とか」
邪神ちゃんはウケている。
「ありがとう。でもいいの?」
「うん! ついていったらその悪魔に延々絡まれて面倒そうだから!」
「おい、誰が面倒だって!? だいたいこの女は――」
邪神ちゃんがゆりねを指さした瞬間。
スパンッ!
一瞬でゆりねが抜き放ったマチェットが邪神ちゃんの人差し指を切り飛ばした。
「ギャーーーー!?」
「指さされるのが嫌いだって何度も言ったわよね?」
「格ゲーの世界大会級の反応速度で切り飛ばしやがった……!」
断面を押さえて邪神ちゃんがうめく。
「ちょうどいいわ。お返しにこれをあげるわね」
ぽとりと落ちた邪神ちゃんの指をゆりねがさしだした。
「い、いらない!」
スダマは逃げていった。心なしか青くなっていたという。*11
「人の目がないからゆりねの暴力からためらいがますますなくなってますの……!」
「どうせ次回までには指くらいくっ付いてるわよ」
マチェットをしまい込みながら、ゆりねは湾曲した地面が覆う東京を見上げた――もしくは、見下ろした。
「ここって、邪神ちゃんの故郷なの?」
「似たようなものだけど、厳密にはちょっと違いますの」
「じゃあ、帰還の呪文を見つければ邪神ちゃんを故郷に送り返せるわね」
「ゆ、ゆりね。お前、まだその設定を覚えてたのか……」
「当たり前でしょ。ミロク経典がそんなにすごいなら、きっと送還の呪文も載ってるわ。他にやることもないし、ニヒロ機構に行って読ませてもらいましょ」
「ゆりねーーーーっ!」
感極まった邪神ちゃんが抱きつこうとしたその時!
スパパッ!
超スピードの二連撃が邪神ちゃんの両腕を切り飛ばした。
「血がつくでしょ。着替えもないんだから」
「指だけで済んでたのにーーーーーっ!」
地面に邪神ちゃんの血がしみこんでいく。畳と違っていくら汚しても安心だ。
(つづく)