邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
ここはトウキョウ、イケブクロ……
ニヒロ機構本部を目指すゆりねと邪神ちゃんは、情報収集のため悪魔が集まる街にやってきた。
「思ったより賑やかじゃない」
あたりからは喧噪が聞こえてくる。しょっちゅう悲鳴や破裂音、爆発によく似た音が聞こえてくるが、ゆりねにとっては日常茶飯事だ。*1
「悪魔ばっかりの光景なんてここ十年も見てないからなんだか懐かしい気分ですの」
「何言ってるのよ、邪神ちゃんが人間界に来てからまだ一年も経ってないでしょ」
「えっ?」
「えっ?」
「い、いや、でも邪神ちゃんドロップキック連載十周年のお祝いをして……」
「十年も経ってたら、私が大学を卒業してるじゃないの」
「十周年記念の展示会も……」*2
「悪魔は長生きだから、時間の感覚がおかしくなっちゃうのね」
ゆりねがため息をついた。
「正月を祝ったのも一回や二回じゃねーですの……」
混乱している邪神ちゃんをよそに、ゆりねは行き交う悪魔たちに話しかけた。
「こんにちは。少し聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ、生きてる人間とは珍しいな!」
のしのしと往来を歩いていた妖鬼オニ*3が足を止めた。
「大きい悪魔ね」
「おうよ! 強い悪魔は大きくなるもんなんだよ」
「らしいけど」
「大きさにこだわってるうちは強くなれませんの」
「なんだとぉ……」
オニがギラッと
「やれやれ。強さの違いも見抜けないとは、これだから下級悪魔は困りますの」
「邪神ちゃん、あんた今日はずいぶん強気じゃない」
「こいつは妖鬼、私は邪神。種族の格が違いますの。メガテンでは常識ですの」
「邪神……だと!?」
「ノリがいいわね」
オニが驚きと畏怖の目を邪神ちゃんに向けた。
「邪神といえば魔神や魔王に並ぶ最強クラスの種族。こんな街中を歩いてる悪魔なんぞとは比べものにならない超強力な悪魔なんですの」
「まーたすぐそうやって権威を笠に着る……だいたい、あんた名前に邪神ってついてるだけでしょ」
「ちっちっち。ステータス画面にも『邪神邪神ちゃん』と書かれてますの」
邪神ちゃんが指を振る。ゆりねの目がピクッと険しさを増した。
「また指を落とされたいの?」
「今のは指さしてるんじゃないだろ!?」
「おい、オレを無視するな」
「ごめんなさい。ちょっとしつけがなってなくて」
「強い悪魔ほどわがままになるものだからな」
オニは邪神ちゃんの肩書きにおそれをなしたらしい。少しだけ態度が縮こまっている。
「やーいやーい、妖鬼なんてしょせんAUTO戦闘要員か鬼神の合体材料にしか使えませんの」
悪魔同士の煽りなので、現実の種族などを差別するような描写には当たりません。ご了承下さい。*4
「ぐぬぬ……くそっ、しかし邪神相手に逆らっても返り討ちになるのがオチだぜ……」
悪魔は自分より強いものには逆らえないのだ! 強いものには従い、弱いものは虐げる。それが一般的な悪魔である。
「やれやれ、悪魔は醜いものですの」
「それ、ブーメランじゃない?」
「ブーメランは投げた人にぶつかってくる道具じゃありませんの」
遊ぶ時には周囲の安全を確かめよう!*5
「それで、なんだって?」
「実は私たち、行きたいところがあるのよ」
「人間と邪神がこのボルテクス界でどこに用があるんだ?」
「ニヒロ機構ってところに」
「なに? ニヒロだとぉ!?」
オニが大声を上げて、持ち歩いている金棒を振り上げた。
「ここはニヒロと対立しているマントラ軍のお膝元だ。ニヒロの味方と聞いちゃ黙っちゃいられねえぜ!」
「さ、さっきと気迫が違いますの! 邪神が怖くないのか!?」
「悪魔には戦うしかねえ時があるんだよ!」
「くっ……メガテン特有の強すぎイデオロギーですの」
「ウオオオオオオ!」
妖鬼オニが1体あらわれた!
☆☆
「面倒くさいわね……」
「ゆりね、よく聞くんですの。頭上に出てるアイコンは私たちのプレスターンですの」*6
「プレスターン? いきなり場面転換したのかと思ったわ」
「アイコンは行動できる回数ですの。2人だからアイコンも2つ」
「私も戦うの?」
「あったり前ですの! 何度私が殺されてきたと思ってんだ!」
「仕方ないわね……」
「攻撃がクリティカルするか敵の弱点を突けばアイコンが点滅してもう一度行動できますの。というわけで、クリティカルしてやりますの!」
バク転からのジャンプ。邪神ちゃんの必殺技発動ルーティーンである!
「必殺! 邪神ちゃんドロップキーーーーーック!」
頭上からの急襲! 大ダメージがオニを襲う!
スカッ!
オニが攻撃を回避した。
「てめーなに回避してんだ!」
「元から滅多に当たらないじゃない」
「まずいぞゆりね! アイコンを見るんですの!」
☆☆*7
「なくなってるわ」
「攻撃を避けられるとアイコンが2つ消えてしまうんですの。なくなったら相手のターンになってしまいますの」
◆
「そういうわけだ。オラッ!」
オニの暴れまくり!*8
オニが振り回した金棒が邪神ちゃんに命中した!
CRITICAL
「ぐえっ!」
金棒が邪神ちゃんの白いお腹にめり込み、数メートルほど吹っ飛ばした。ビターン! と地面に叩きつけられた邪神ちゃんは血の塊を吐き出してから起き上がった。
「この私の弱点が内臓の集中した腹部だと見抜いたというのか……」
「あんた全身弱点みたいなものでしょ」
「そ、それより、アイコンが……」
◆
「点滅してるわ」
「クリティカルしたから、あいつがもう一回動くぞ!」
「オラァッ!」
オニの暴れまくり!
CRITICAL
「ぐえーーーーっ!」
邪神ちゃんが二度吹っ飛んだ。
「なんで私ばっかりに攻撃が集中するんだよ! おかしいだろ!」
「ランダムに標的を決める技じゃ仕方ないんじゃない」
「二度クリティカルを食らってもまだ死んでねえとは、さすが邪神だぜ……」
「邪神ちゃんがしぶといのは強いのとはまた違うような気がするわ」
◆
☆☆
「こっちのターンになったみたいね」
「今度こそ私の必殺ドロップキックを決めてやりますの」
「いえ、私がやるわ」
ゆりねがちゃき、とどこからともなく取りだしたスパイクロッド*9を構える。*10
「はー? この下位悪魔に邪神の恐ろしさを思い知らせてやるんだよ!」
「あんた、さっき攻撃を外してるでしょ。『次に回す』しなさいよ」
「イヤだイヤだ! このSSの読者に私のドロップキックがぜんぜん当たらない技だと思われてしまいますの!」
「事実じゃないの」
「絶対にターンは譲りませんの!」
「そう、わかったわ」
「ゆりねにしては聞き分けがいいですの。それじゃあ食らえ必殺……」
ドガッ!
「がぺっ!」
その時である。ゆりねのスパイクロッドが邪神ちゃんの頭上に振り下ろされた。砕かれた頭蓋骨から真っ赤な血が噴き上がり、邪神ちゃんのリボンと髪を染めた。
「言うことを聞かないなら体でわからせるしかないわね」
「メガテンに味方を攻撃するコマンドはありませんの……」
どさぁっ。邪神ちゃんが地面に倒れ伏した。
流れ出す血で、「flower garden」というダイイングメッセージを残して……。*11
「お、オレの暴れまくりがクリティカルしても死ななかったあの邪神を一撃で……!?」
オニが青ざめた顔で叫んだ。*12
「と、とても敵わん! 許してくれー!」
金棒を放り捨てて、オニは逃げ出した。
「ああ……ニヒロ機構のことを聞こうと思ったのに」
逃げ出していったオニを見送って、ゆりねはスパイクロッドをしまった。*13
「邪神ちゃんも死んじゃったし、また次回にするしかないわね……」*14
その時だ。
ズシン、ズシン、と地響きがするほどの巨体が通りからやってきた。
「ニヒロ機構のことを聞いて回っている人間というのは貴様か」
巨体の悪魔がゆりねを見下ろした。迫力の余り、体から陽炎が発されて、まるで空間が揺らいでいるかのようだ。
「……そうよ」
さすがのゆりねもマジの顔になる。それほど、悪魔が身にまとう空気が恐ろしかったのだ。
「マントラ軍の領地でニヒロの味方をのさばらせるわけにはいかん」
「誤解よ。私たちはニヒロ機構の味方じゃない……」
「口ではなんとでも言える。自分の身の潔白を証明したいなら……」
悪魔の瞳が、いかづちのように激しく輝いた。
「この雷神トールの名において、決闘裁判を執り行う!」
(つづく)