邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
重い音を立てて、背後で格子が閉められた。
「マントラ軍のお膝元イケブクロにおいてニヒロの名を口にしたことは重罪である」
巨体の悪魔、鬼神トール*1が目を光らせながら述べる。
「ニヒロへの行き方を尋ねただけで、ニヒロの味方をしたわけじゃないじゃない」
「そうだそうだ! 殺された上に裁判にかけられるなんて無茶もいいところですの!」
邪神ちゃんを殺したのはゆりねなのだが、もう邪神ちゃん本人が忘れているようだ。*2
「静粛に。本来ならばその罪は万死に値するが……」
「邪神ちゃんなら一万回くらい死んでるんじゃないかしら」
「一万回生きた悪魔と言ってほしいですの」
静粛にする気が無さそうな女子を無視して、トールが続ける。
「マントラ軍においては力こそ正義。よって、決闘に勝利すればその罪を問わないものとする」*3
「うーわ、出たよカオスの理屈。なんでも暴力で解決しようなんて最低ですの」
「邪神ちゃん、あんた暗に別のモノを批難してない?」
悪魔は口笛を吹いて目をそらした。
「それで、あなたが戦うの?」
「いいや、ふさわしいものがいる。存分に戦うがいい!」
バチッ! と電光が閃いた。まぶしさに目を閉じた一瞬のうちにトールは消え去り、代わりに別の悪魔が現れる。
「目がー!」
閃光で目をやられた邪神ちゃんがのたうちまわる。
「あれは……!」
まぶしさで眩んだ目が慣れてくると、ぼんやりと見えていた悪魔の姿が鮮明になっていく……
「モォォォォォォォォッ!」
悪魔が両腕を振り上げて叫ぶ。びりびりと地面をふるわせるような大喝だ。
大きなツノを頭に生やした女悪魔。反らした胸が大きく弾んだ。
「ミノスじゃない」
そう、邪神ちゃんの幼なじみ、ミノタウロス族のミノスだ!
「なーんだ、ビビって損しましたの。おいミノス、事情がわかってるなら私たちに勝ちを譲りますの」
見知った顔の登場に、邪神ちゃんが肩を叩こうとするが……
「気やすく触るんじゃねぇ!」
ブン、と邪神ちゃんの手が振り払われる。いきおい、邪神ちゃんは回転しながら鉄格子に頭を打ち付ける。ガコン、といい音が鳴った。*4
「ミノス、どうしたの? けんかっ早いのは設定だけで、邪神ちゃんに暴力をふるうなんてことはなかったはず……」
「知ったこっちゃないね。今のあたしは悪魔の血がうずいて仕方ないんだ!」
「はっ……! わかったぞ! これは初期ミノスだ!」
復活した邪神ちゃんが叫ぶ。
「初期ミノス?」
「最初に出てきた頃のキャラが定まってなかったミノスですの!」*5
「このSS自体の時間軸がテキトーなのに、そんなこと言われたって分かんないわよ」
「きっと東京受胎の影響で属性が極端に調整されてしまったんですの!」
這い回りながら、邪神ちゃんはゆりねの隣に戻った。*6
「ゆりねちゃん。あのとき預けた勝負を着けてやるぜ!」
「来ますの!」
ミノスの突撃!*7
「くっ……!」
ゆりねはひらりとかわした。
「やるじゃねーか。それでこそだぜ」
ミノスは気合い*8を入れた!
「おい、回避されたのにスキルを使うんじゃねーですの! プレスターンはどうした!」
「強い悪魔は複数回行動するもんだぜ!」
「前回のチュートリアルは何だったのよ……にしても」
愛用のマチェット*9を構えたはいいものの、ゆりねは手が出せない。
「どうするのよ、ミノス相手に戦うわけにはいかないわよ」
「親友同士が引き裂かれて戦うことになる……メガテンっぽいですの」
「ちょっと、本気でやるつもり?」
「戦わないと前に進めないなら、やるしかないんですの。必殺……」
「邪神ちゃん!」
ゆりねが止めようとしても間に合わない。悪魔は即断即決なのだ!
「さらば友よ、邪神ちゃんドロップキーーーーーック!」
頭頂を狙って繰り出される邪神ちゃんの尻尾キック。しかし、ミノスは小脇に抱えて受け、遠心力でぶん回してから放り投げた。
ガコン!
「ぎゃーっ! 頭が割れるように痛い!」
鉄格子に再び激突した邪神ちゃんが血を噴き出しながらもがく。
「割れてるんじゃないかしら。どうせ失敗するから止めようと思ったのに……」
「邪神ちゃん、見損なったぜ。おめーがこんなに弱くなってたなんてな」
「ちくしょー、私にマウントを取るんじゃねーですの!」
「邪神ちゃんが攻撃したのにかえってダメージを受けてるなんて」
「あいつ、物理反射か!? ずりーですの、そんな悪魔がいたらレギュラー入り確定ですの!」*10
「うっしっし。こっちのターンだな!」
地面を蹴って予備動作で力を溜めて、ミノスが決闘場を走り回る!
「暴れまくり!」*11
ガガガガガッ!
「ぐわっ! ぐげっ! うぎゃっ! ごぺっ! がはっ!」
直撃を受けた邪神ちゃんが縦横無尽に弾き飛ばされ、鉄格子のみならず床や天井にも打ち付けられる。
「なんて恐ろしい攻撃……!」
「ゆりねちゃんには運良く当たらなかったみたいだけど、次は決めてやるぜ!」
ミノスが再び気合いを入れる。物理攻撃を繰り返す、単調だが恐ろしい戦法だ。*12
「おかしいだろ前回から! なんでゆりねを狙わねえんだよ!」
自分の血だまりから起き上がり、満身創痍の邪神ちゃんが叫ぶ。
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。攻撃が効かないんじゃ戦いようがないじゃない」
「こうなったら、ミノスの記憶を呼び覚まして元のミノスに戻すしかありませんの」
「邪神ちゃん、何か策があるの?」
「何の策もなくこんなこと言わないですの」*13
邪神ちゃんは鼻の下を擦ってから、さっと両手を広げた。
「嗅覚や味覚は記憶と結びつきやすいと聞きますの。さあ、私の香りに包まれて全てを思い出すのだ……」
聖女のような笑みをたたえて、邪神ちゃんがミノスを抱きしめた。
「邪神ちゃん……」
金色の髪からふわりと広がる香りを嗅いだミノスがはっと目を見開き……
「邪魔」
再びぶん投げた。
「ちくしょー! 友情が引き裂かれるー!」
滂沱と涙を流す邪神ちゃん。でも原作でもこんな扱いだった気がしないでもない。
「今日こそは正々堂々と勝負だぜ!」
闘牛のように鼻息を荒くするミノス。ターンを回してしまえば、次こそ勝負を決してしまうに違いない……!
(でも、ミノスの記憶を呼び起こすっていう邪神ちゃんのアイデアは悪くないわ……)
ゆりねは考えていた。物理攻撃を反射するミノスを倒すことはできない。
(ミノスの記憶を呼び覚ますようなものがあればいいんだけど。一緒に行った場所や、一緒に食べたもの……)
一緒に食べたすき焼き*14のことが思い起こされる。ミノスは生肉を豪快に食べていた。*15今となっては、平和な記憶だ。
「ミノスが食べたもの……」
「ちくしょー! ミノス! この薄情者! 七千年の友情はどうしたんだー!」
バタバタと蛇身を暴れさせる邪神ちゃんが叫んでいる。
「……あったわ」
きらん、とゆりねのマチェットが光った。
DROP KICK ON MY DEVIL!*16
「いやー、参ったぜ! すっかりマントラ頭になっちまってたな!」
生肉を食べるときについた血を拭いながら、ミノスが頭を掻いた。
「わりーけど、友達とは戦えねえわ。あたしの負けだ!」
「綺麗さっぱり忘れてやがったくせに……」
スライスされてなくなった下半身を押さえながら、邪神ちゃんがうめく。
「いいだろう。ミノスが認めるのであれば、罪を問うことはできん」
鬼神トールの声が響き、鉄格子が開いていく。
「やけに物わかりがいいわね」
「マントラ軍の悪魔は仲間と認めたら優しいんだよ」
さっきまで決闘で滾っていた血はどこへやら、けろりとした様子のミノス。マントラ軍全体が、こんな感じらしい。
「ミノスは……」
「あたしも悪魔だ。ここに残ってやんなきゃいけないことがある」
「……そう。元気でね」
「覚えてろよ! 二倍ダメージの恨みは忘れませんの!」
騒ぐ邪神ちゃんを引きずって、ゆりねが決闘場を後にしていく。
「……変わってねーのは、あの二人だけかもな」
その後ろ姿を眺めながら、ミノスが肩をすくめた。
(つづく)