邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
一方その頃、ヨヨギ公園……
「ここはいったい、どこなのでしょうか……」
背中を丸めて歩いている悪魔……ではなく、天使がひとりいた。
「うう、主よ……ぺこらは人間界からも追放されてしまったのでしょうか?」
細い体つき、目の下には濃いクマ*1。不健康そのものに見えるが、これでも立派な天使である。
「ちょっとあなた、大丈夫?」
ふらふらと歩く様子を見かねたのか、一人の人間が駆け寄ってきた。きっちりセンターで分けられた黒髪。秘密を守る扉のように、襟が閉められている。
「あなたは……まさか人間ですか?」
東京の景色が一変してからというもの、ぺこらは人間の姿を見ていなかったのだ。とつぜんの出会いに驚くのも無理はない。
「ええ、私は
マネカタとは、ボルテクス界に暮らす「人間のようなもの」である。詳しい説明は長くなるので、ゲームで確かめてほしい。
「はい。ぺこらは天使なのです」
「天使? 東京がこうなってから私も何度か天使を見かたけど、翼を持って空を飛んでいたわよ」
「うっ……。それには事情がありまして」
痛いところを突かれた、という表情でぺこらが指をつつきあわせる。
「ぺこらは天使の力の源である、天使の輪をなくしてしまったのです」
「それって、なくせるようなものだったの?」
「ううっ! ……深い事情がありまして」
ますます縮こまるぺこら。それを見た千晶は、
(天使も色々なのね)
と思った。
「東京がこのようになる以前から探し回っているのですが、なかなか見つからず……」
「東京受胎が起こる前から? やっぱり、あの雑誌で読んだことは本当だったのね」
千晶はオカルトへの興味をもともと持っていた。その上、東京受胎を予告するような内容の雑誌を目にしたことで、『世界には超自然的な存在がいた』ことをより強く実感するようになっていた。
(もっとも、今となっては東京に悪魔が現れていても宇宙人が訪れていても、どうでもいいのだけれど……)
そうと知っていれば、かつての退屈な学生生活も違った彩りを見せていたかもしれない。繰り返す日常と、流行ばかりを追う人々に飽きていたところだ。
「あなたは私が知っている人間に雰囲気が似ていますね」
と言われて、千晶も驚いた。
「天使にも、人間の知り合いがいるの?」
「人間というか、魔女というか……その魔女も、変わったものを見ると喜んでいました。横暴なところもありましたが……」
「私が横暴だと言いたいの?」
千晶の冷たい瞳がぺこらを見据えた。
「い、いや、そういうわけでは!」
ぶんぶんと首を振るぺこら。すでにペースを握られている。
「まあいいわ。あなた、今は人間と変わらないように見えるけど。その天使の輪があればもっと強いのよね?」
「ええ。天使長として、たくさんの悪魔を狩っていましたから」
「そう……」
しばし考えてから、千晶は頷いた。
「私も一緒に探してあげる」
「なんと、ありがたい! 主がぺこらのために使わした救いの使者でしょうか?」
「天使の言うことではないわね」
肩をすくめて、千晶は周囲を見ました。ヨヨギ公園は、今や妖精の住まう妖精郷とも言える状態だ。
「悪魔は珍しいものが好きなようだから、知っているかもしれないわ。聞いてみましょう」
そういうわけで、ぺこらとつれたって妖精に話しかけることにした。
「へぇ~。その天使の輪ってどんな形なの?」
遊び回っている妖精も興味をひかれたらしい。
「丸い輪っかで、白というか黄色というか……そういう色をしていて、光っていて……」
ぺこらは手つきで説明しようとしているが、いまひとつ要領を得ない。
「うーん、みんなにも聞いてみましょう!」
「ありがたい!」
「なになに、どうしたの?」
「光る輪っかを探してるんだって」
「あー、知ってる。霧が濃いときに、カグツチの周りにできるやつでしょ」
「それを探すって変じゃない? でも霧といえば、昔の映画で……」
「あー、わかるー! ダラボンでしょ?*2」
「は? カーペンターでしょ*3」
小さな妖精達が何人も集まって話をはじめる。天使の輪のことを話していたはずが、話題はあっちに行ったりこっちに行ったり、ついにはケンカが始まってしまった。
「あわわわ……落ち着いてください」
空中を飛び回ってじゃれ合う妖精たちを見て、ぺこらは慌てるばかりだ。
(天使にしては、不器用ね……)
千晶はそんなぺこらを、冷めた目で見ていた。
(もし力が戻ったとしても、あまり頼りにならないかもしれない)
内心で考える。千晶がぺこらを助けてあげようと思ったのは、何も良心からではなかった。恩を売って、自分のために利用しようと考えてのことである。
「誰も、頭に乗るような大きさの白い輪を見ていないのね?」
とっとと話を切り上げてしまおうと声をかける。
「あ、それなら私見たかも!」
妖精のうちの一匹が手を上げた。
「なんと! どこにあったのですか?」
「公園の隅にあったよ。ニンゲンがいろいろとゴミ捨て場にしてたところ」
「天使の輪がゴミ捨て場に……」
さめざめと泣くぺこら。
(恩を売って損はないだろうし、確かめてみましょう)
打算的な内心を笑顔で覆い隠して、千晶はぺこらの肩を叩いた。元気づけるように。
「行ってみましょう」
「そうですね! これで天界に帰る……のは無理かもしれませんが、悪魔たちとも戦えます」
「案内してくれる?」
「いいよ、面白そう!」
こうして、妖精たちの案内でぺこらと千晶はゴミ捨て場に向かった。妖精たちはことあるごとにおしゃべりをしたり、寄り道をしたり、他の妖精に絡んだりするので、そのたびに千晶が先を急がせる。
「物怖じせずに悪魔と話ができるなんて、すごいですね」
「こうしなければここでは生きていけないだけよ」
すっかりぺこらは感銘を受けていた。*4
やがて、一行は数々の苦難*5を乗り越えて、屋外用のダストボックス*6に辿り着いた!
「この中に、ぺこらの天使の輪が……!」
「開けるわよ」
千晶が『⭕調べる』をして扉を開く。そこには、たしかに半透明の白い輪があった。
が……
「これは……どう見ても蛍光灯ね」
丸形蛍光灯だ。端子もしっかりある。
「そうですね……」
ぺこらは露骨にがっかりしていた。
「やはり、天使の輪はもう見つからないのでしょうか。主に見放されてしまったのでしょうか……」
胸の前で祈りの仕草をするぺこらを見て、千晶は心の中でため息をついた。
(こんな魔界に神がいるわけないでしょう)
だが、同時に、こうも思った。
(でも、天使はいる。しかも、こんなにチョロい天使がいるのなら、他の天使にもどうとでもつけ込むことができそう)
千晶の頭のなかで、急速にイメージができあがりつつあった……
(無秩序な悪魔たちと違って、天使ならきっと命令に従うはず。彼らが従いたくなるような大義名分と力があれば……私のために戦う軍勢ができるわ)
「それって、ニンゲンの道具?」
妖精のうちの一匹が、好奇心旺盛に蛍光灯を見つめている。
「そういうのを集めているマネカタが、銀座地下道にいるらしいよ!」
「これを見せたら、マッカを出してくれるかしら」
「うーん……たぶん?」
心の中では壮大な計画を立てながらも、おくびにも出さず千晶は蛍光灯を手荷物に加えた。*7
「ぺこら、短い間だけど楽しかったわ」
いい雰囲気で別れようとしている。実際は、もう付き合いきれないと思ったのだが。
「うう……ありがとうございます、橘千晶。ぺこらの助けになろうとしてくれたこと、きっと主は見ておられたことでしょう」
「そうね」
すさまじい温度差で結露ができそうだ。
「それじゃあ、私はこれで」
千晶は颯爽と歩き去っていった。
「ううー……天使の輪はどこに……」
ぺこらはまた、当てもなくうろつき始めるのだった。
(つづく)
しまった、今回ぜんぜんギャグじゃない!