邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ   作:五十貝ボタン

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第5話 ダラボンとカーペンター

 一方その頃、ヨヨギ公園……

 

「ここはいったい、どこなのでしょうか……」

 背中を丸めて歩いている悪魔……ではなく、天使がひとりいた。

「うう、主よ……ぺこらは人間界からも追放されてしまったのでしょうか?」

 細い体つき、目の下には濃いクマ*1。不健康そのものに見えるが、これでも立派な天使である。

 

「ちょっとあなた、大丈夫?」

 ふらふらと歩く様子を見かねたのか、一人の人間が駆け寄ってきた。きっちりセンターで分けられた黒髪。秘密を守る扉のように、襟が閉められている。

「あなたは……まさか人間ですか?」

 東京の景色が一変してからというもの、ぺこらは人間の姿を見ていなかったのだ。とつぜんの出会いに驚くのも無理はない。

 

「ええ、私は(たちばな)千晶(ちあき)。あなたは、人間……とは、少し違うような。でも、マネカタでもないわね?」

 マネカタとは、ボルテクス界に暮らす「人間のようなもの」である。詳しい説明は長くなるので、ゲームで確かめてほしい。

 

「はい。ぺこらは天使なのです」

「天使? 東京がこうなってから私も何度か天使を見かたけど、翼を持って空を飛んでいたわよ」

「うっ……。それには事情がありまして」

 痛いところを突かれた、という表情でぺこらが指をつつきあわせる。

 

「ぺこらは天使の力の源である、天使の輪をなくしてしまったのです」

「それって、なくせるようなものだったの?」

「ううっ! ……深い事情がありまして」

 ますます縮こまるぺこら。それを見た千晶は、

(天使も色々なのね)

 と思った。

 

「東京がこのようになる以前から探し回っているのですが、なかなか見つからず……」

「東京受胎が起こる前から? やっぱり、あの雑誌で読んだことは本当だったのね」

 千晶はオカルトへの興味をもともと持っていた。その上、東京受胎を予告するような内容の雑誌を目にしたことで、『世界には超自然的な存在がいた』ことをより強く実感するようになっていた。

 

(もっとも、今となっては東京に悪魔が現れていても宇宙人が訪れていても、どうでもいいのだけれど……)

 そうと知っていれば、かつての退屈な学生生活も違った彩りを見せていたかもしれない。繰り返す日常と、流行ばかりを追う人々に飽きていたところだ。

 

「あなたは私が知っている人間に雰囲気が似ていますね」

 と言われて、千晶も驚いた。

「天使にも、人間の知り合いがいるの?」

「人間というか、魔女というか……その魔女も、変わったものを見ると喜んでいました。横暴なところもありましたが……」

「私が横暴だと言いたいの?」

 千晶の冷たい瞳がぺこらを見据えた。

 

「い、いや、そういうわけでは!」

 ぶんぶんと首を振るぺこら。すでにペースを握られている。

 

「まあいいわ。あなた、今は人間と変わらないように見えるけど。その天使の輪があればもっと強いのよね?」

「ええ。天使長として、たくさんの悪魔を狩っていましたから」

「そう……」

 しばし考えてから、千晶は頷いた。

 

「私も一緒に探してあげる」

「なんと、ありがたい! 主がぺこらのために使わした救いの使者でしょうか?」

「天使の言うことではないわね」

 肩をすくめて、千晶は周囲を見ました。ヨヨギ公園は、今や妖精の住まう妖精郷とも言える状態だ。

 

「悪魔は珍しいものが好きなようだから、知っているかもしれないわ。聞いてみましょう」

 そういうわけで、ぺこらとつれたって妖精に話しかけることにした。

 

「へぇ~。その天使の輪ってどんな形なの?」

 遊び回っている妖精も興味をひかれたらしい。

「丸い輪っかで、白というか黄色というか……そういう色をしていて、光っていて……」

 ぺこらは手つきで説明しようとしているが、いまひとつ要領を得ない。

「うーん、みんなにも聞いてみましょう!」

「ありがたい!」

 

「なになに、どうしたの?」

「光る輪っかを探してるんだって」

「あー、知ってる。霧が濃いときに、カグツチの周りにできるやつでしょ」

「それを探すって変じゃない? でも霧といえば、昔の映画で……」

「あー、わかるー! ダラボンでしょ?*2

「は? カーペンターでしょ*3

 小さな妖精達が何人も集まって話をはじめる。天使の輪のことを話していたはずが、話題はあっちに行ったりこっちに行ったり、ついにはケンカが始まってしまった。

 

「あわわわ……落ち着いてください」

 空中を飛び回ってじゃれ合う妖精たちを見て、ぺこらは慌てるばかりだ。

(天使にしては、不器用ね……)

 千晶はそんなぺこらを、冷めた目で見ていた。

 

(もし力が戻ったとしても、あまり頼りにならないかもしれない)

 内心で考える。千晶がぺこらを助けてあげようと思ったのは、何も良心からではなかった。恩を売って、自分のために利用しようと考えてのことである。

「誰も、頭に乗るような大きさの白い輪を見ていないのね?」

 とっとと話を切り上げてしまおうと声をかける。

 

「あ、それなら私見たかも!」

 妖精のうちの一匹が手を上げた。

「なんと! どこにあったのですか?」

「公園の隅にあったよ。ニンゲンがいろいろとゴミ捨て場にしてたところ」

「天使の輪がゴミ捨て場に……」

 さめざめと泣くぺこら。

 

(恩を売って損はないだろうし、確かめてみましょう)

 打算的な内心を笑顔で覆い隠して、千晶はぺこらの肩を叩いた。元気づけるように。

「行ってみましょう」

「そうですね! これで天界に帰る……のは無理かもしれませんが、悪魔たちとも戦えます」

「案内してくれる?」

「いいよ、面白そう!」

 

 こうして、妖精たちの案内でぺこらと千晶はゴミ捨て場に向かった。妖精たちはことあるごとにおしゃべりをしたり、寄り道をしたり、他の妖精に絡んだりするので、そのたびに千晶が先を急がせる。

「物怖じせずに悪魔と話ができるなんて、すごいですね」

「こうしなければここでは生きていけないだけよ」

 すっかりぺこらは感銘を受けていた。*4

 

 やがて、一行は数々の苦難*5を乗り越えて、屋外用のダストボックス*6に辿り着いた!

 

「この中に、ぺこらの天使の輪が……!」

「開けるわよ」

 千晶が『⭕調べる』をして扉を開く。そこには、たしかに半透明の白い輪があった。

 が……

 

「これは……どう見ても蛍光灯ね」

 丸形蛍光灯だ。端子もしっかりある。

「そうですね……」

 ぺこらは露骨にがっかりしていた。

「やはり、天使の輪はもう見つからないのでしょうか。主に見放されてしまったのでしょうか……」

 

 胸の前で祈りの仕草をするぺこらを見て、千晶は心の中でため息をついた。

(こんな魔界に神がいるわけないでしょう)

 だが、同時に、こうも思った。

(でも、天使はいる。しかも、こんなにチョロい天使がいるのなら、他の天使にもどうとでもつけ込むことができそう)

 千晶の頭のなかで、急速にイメージができあがりつつあった……

(無秩序な悪魔たちと違って、天使ならきっと命令に従うはず。彼らが従いたくなるような大義名分と力があれば……私のために戦う軍勢ができるわ)

 

「それって、ニンゲンの道具?」

 妖精のうちの一匹が、好奇心旺盛に蛍光灯を見つめている。

「そういうのを集めているマネカタが、銀座地下道にいるらしいよ!」

「これを見せたら、マッカを出してくれるかしら」

「うーん……たぶん?」

 心の中では壮大な計画を立てながらも、おくびにも出さず千晶は蛍光灯を手荷物に加えた。*7

 

「ぺこら、短い間だけど楽しかったわ」

 いい雰囲気で別れようとしている。実際は、もう付き合いきれないと思ったのだが。

「うう……ありがとうございます、橘千晶。ぺこらの助けになろうとしてくれたこと、きっと主は見ておられたことでしょう」

「そうね」

 すさまじい温度差で結露ができそうだ。

 

「それじゃあ、私はこれで」

 千晶は颯爽と歩き去っていった。

「ううー……天使の輪はどこに……」

 ぺこらはまた、当てもなくうろつき始めるのだった。

 

(つづく)

*1
熊ちゃんではない。

*2
それは『ミスト』

*3
それは『ザ・フォッグ』

*4
チョロい。

*5
妖精が昼寝したがるなど。

*6
アメリカ映画で二階から飛び降りた時などに着地点によくあるやつ。

*7
割らないように気をつけて!




しまった、今回ぜんぜんギャグじゃない!
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