邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ 作:五十貝ボタン
オベリスク――
受胎したトウキョウは真球の内側の世界だ。そのトウキョウ全土で、最も高い建物こそオベリスクだ。地上60階を誇るマントラ軍の本営よりも高くそびえ立っている。それはつまり、ボルテクス界の中心……カグツチに最も近づけるという意味でもある。
要するに、メチャクチャに高い。
「はぁ、はぁ……くっそー、どれだけ高いんですの……」
邪神ちゃんははやくも汗だくである。
ここはオベリスク103階。複雑に上下する構造の塔内を、ひたすら登り続けている。
「も、もうちょっとで頂上だから……」
隣で一緒に階段を登っているメデューサがフォローしようとしても……
「さっきも同じこと言ってただろ! ずーっと登り続けてるんだぞ!」
魔界で何千年も付き合いがある親友相手には容赦がなくなるタイプの悪魔はわめくばかりだ。
「私の下半身はヘビなんだぞ! 階段を登るのがどれだけ大変かお前にわかるのか!?」
「そ、そう言われても……」
蛇身を器用にくねらせてひたすら階段を登り続けることがどれだけの負担になるか、読者には分かるまい。*1
「だいたい画面の右上には『○○F』とか表示されてるけど*2、階段ばっかりのくせに階数数えてるの建築基準法的にあってるんですの!?」*3
「そんなことに文句言われても……」
ここぞとばかりにストレスのはけ口をもとめて叫ぶ邪神ちゃんに、メデューサは困惑の表情を浮かべるばかりだ。
「ほ、ほら、人間のゆりねさんもがんばって登ってるんだから、邪神ちゃんも頑張ろうよ……ね?」
一行はオベリスクの頂上にいるという『創世の巫女』を目指していた。だが……
「そういえば、ゆりねはどこなんですの?」
邪神ちゃんがぽかんと口を開けて周りを見渡した。どう見ても動きにくいゴスロリ服の少女、花園ゆりねの姿がいつの間にか消えている。
「あ、あれ? さっきまで一緒だったのに……」
「もしかして、落ちたのか?」
オベリスクは地上1階から104階まで穴だらけだ。落下防止ネットはおろか手すりもない。建築基準法的には完全にアウトである。一歩足を踏み外せば、どこまで落ちるか分かったものではない。
「どどどどどうしよう邪神ちゃん!?」
「ゆりねのヤツ、しぶといと思ってたけどこんなつまらない死に方をするとはな……お前と過ごした日々、悪くなかったですの……」
「死んでないわよ」
にゅ、っと床からゆりねの顔が生えてきた。
「ぎゃあー!?」
「邪神ちゃん、あぶない!」
飛び上がって驚く邪神ちゃんが落ちそうになり、メデューサが必死に掴んで食い止める。
「ぷっ。あんたが落ちかけてるじゃない」
そのまま、ゆりねが上へスライドしていく。よく見れば、正方形の足場に乗ってエレベーターのように上昇しているようだ。
「あーっ、そんな便利なものがあったら階段いらねーじゃねーか! ズルですの!」
「これを使って登る塔なんじゃないかしら」
「ちくしょー、3Dダンジョンだからって上下動するギミックばっかり仕込みやがって! クソダンジョン許せねぇ~ですの!」*4
「とにかく、そろそろ頂上みたいね」
上の階から下を覗きつつ、ゆりねが言う。オベリスクはカグツチに向かってまっすぐ伸びている。上に登れば登るほど、カグツチの光が強くなっていくのだ。
「邪神ちゃん。もうちょっとだから頑張ろう」
「もう一歩も歩きたくねぇですの!」
「遠足にきた低学年の生徒と先生みたいね」
ひっくり返ってふてくされる邪神ちゃん。困るメデューサ。笑うゆりね。
邪神ちゃんはカグツチが一周するまで文句を言い続けていた。
DROP KICK ON MY DEVIL!
オベリスク128階……
「オーホッホッホ……これ以上は進めませんわよ!」
とつじょ、声が響き渡った。
「何やつですの!?」
ノリだけはいい邪神ちゃんが叫ぶと、衝撃とともに悪魔の姿が現れる。長い糸を両手に捧げた、妖しい雰囲気を身にまとった女性悪魔だ。
「わたくしは鬼女ラケシス*5。このオベリスクはわたしたちモイライ三姉妹が守っているのですわよ」
「モイライ三姉妹っていえば、運命を操る悪魔……!」
「メデューサ、解説役までしてくれなくていいのよ」
「オーホッホ、その通り! 私たち三姉妹がいる以上、この塔を突破はできませんことよ」
「おい! 私と口調がちょっとカブってますの!」
「そんなにカブってないから大丈夫よ」
反応に困ったときはとりあえず攻撃的になる邪神ちゃんをなだめながら、ゆりねはラケシスに向き合った。
「でも、まずいわ。運命を決めることができるんだったら、この塔を登れない運命にされたらどうしようもないじゃない」
「その通り! あなたたちを永遠に塔の中でさまよわせることくらい、私たち三姉妹が揃えば造作もなくてよ」
「どうしよう邪神ちゃん!」
「騒ぐんじゃないメデューサ! それなら三姉妹が揃う前にヤっちまえばいいだけだ!」
さっきまでの疲労はどこへやら、邪神ちゃんは高く高く飛び上がった!
「邪神ちゃん、待……」
「食らえ長女か次女か三女! 邪神ちゃんドロップキーーーーック!」
スカッ!
「あっ」
案の定攻撃をかわされた。そして、キックによる落下エネルギーは空中では止めることができず……
「足場がないからキックはしないほうがいいよって言おうと思ったのに……」
涙ぐむメデューサの忠告もむなしく、邪神ちゃんは104階の床から飛び出していた。
「ああああああああああああああ……」
邪神ちゃんの叫びが下へと遠ざかる。あまりに遠すぎて落下音が聞こえなかったことを幸いと思うべきだろうか。
「なんと短絡的な悪魔。まだ運命を測ってもいないのに……」
「ということは、運命を測る力も絶対というわけじゃないのね」
邪神ちゃんが身をもって証明してくれた。ありがとう邪神ちゃん。邪神ちゃんフォーエバー。
「お、落ち着いてる場合じゃないですよ!」
「邪神ちゃんなら、次回には復活してるでしょ。それより……」
ゆりねがラケシスに向き直った。
「くっ……三人揃えばこんなものではなくてよ。さあ、来なさい!」
ラケシスが手に持った糸を辿る……が、いくら引っ張っても何も出て来ない。
「クロト姉さん?」
『まだ髪型がキマってない』
どこからか声が響いた。
「そんなややこしい髪にしてるからでしょう!」
ラケシスがツッコむ。彼女自身も人に言えた髪型はしていないが。
「アトロポス?」
『まだ着替えてないのよ。この服、ぴたぴたして部屋着に向かないのよね』
「衣装なんだから面倒がらずに着てなさいって言ったでしょう!」
どうも三姉妹には三姉妹なりの苦労があるらしい。
『仕方ないじゃないの。本当は私たちの出番はもっと後なんだから」
『そうだ。まだ人修羅はカブキチョウのあたりにいるんだぞ』
彼女らには運命が見えるのだから、ゲームの進行状況も分かっているのかもしれない。
「もぉ~~~~っ!」
ラケシスが地団駄を踏む。そして……
「まあいいわ。巫女を守るのが私たちの役目。だけど、あなたたちは巫女をどうすることもできない」
急に落ち着いた様子でつぶやくと、ふっと風のように消え去った。
「あ、逃げた」
「み、認めてくれたんですよ、きっと……」
いちおう同じシジマに属する悪魔として、メデューサがフォローを入れた。
「運命を操る女神まで配置して守っている創世の巫女……いったいどんな人なのかしら」
ゆりねがぽつりとつぶやく。最上階へのリフトはすぐそこだ。
「わ、忘れられてますの……」
モザイクだらけになった邪神ちゃんが、塔のどこかでつぶやいたという。
(つづく)