邪神ちゃんドロップキックin真・女神転生Ⅲ   作:五十貝ボタン

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第9話 壁の穴を探してる客

「ゼェ……ハァ……」

 邪神ちゃんは息を切らしていた。

 ドロップキックの勢いそのまま、穴だらけのオベリスクの中を見事に地下2階まで落下し続けたのである。針の穴を100本以上連続で通し続けるような奇跡の落下コースを辿ったのだ!

 

「一瞬で戻れるのはクリア後だけにしてほしいですの」

 そしてまたオベリスクを下から上まで登り直したその根性、さすがは悪魔というべきだろう。

 そしていま、オベリスク最上階――ボルテクス界でもっともカグツチに近い場所へと辿り着いた。

 

 頭上からはカグツチの白い光がさしこんでいる。そして同時に、トウキョウ全土から集められた赤いマガツヒが流れこんでいる。

 静謐な神聖さと、身の毛もよだつような妖しさがともにある、この世のモノとは思えない場所だ。*1

 

「これが……創世の巫女」

 その光の前に、花園ゆりねが立ち尽くしている。*2

 

「ナイトメア・システム……話には聞いていたけど、こんな方法でマガツヒを集めていたなんて」

 メデューサはその光の中心を直視できずに目をそむけている。

 

「おいおい、私抜きで盛り上がるんじゃねーですの」

 なんとなく無視されているような気がして、邪神ちゃんはやや不機嫌だった。

「こ……これは!」

 でも驚くべきタイミングで驚く。まさに登場人物の鏡である。

 

 白光とマガツヒが集まるオベリスクの頂上。そこには、一人の女性が浮かんでいた。

 コートに細身のパンツ、ヒールの高い靴。まるで街中からそのままやってきたかのような服装だ。一見、どこにでもいそうな女性に見える。*3

 だが、驚くべきはその角度である。

 その女性は上下逆さまになって浮かんでいた。そして、すべてのマガツヒが彼女の足から入り込み、頭部を通って巨大なオベリスクへと流れこんでいるのである。その肉体と頭脳が、マガツヒ収拾のために酷使されているのは明らかだ。*4

 

「どういう仕組みになってるのかしら」

「ここからどかせばいいんじゃね?」

 軽率さにおいて並ぶものはいないと言われる邪神ちゃんが手を伸ばすと……

 

 キィン!

 

 ジャストガード*5みたいな音がして、イキリ悪魔の体が吹っ飛ばされた。

「ぐえーーーー!」

 ビターン! と壁に吹っ飛ばされた邪神ちゃんが壁にぶつかって崩れおちる。

 

「邪神ちゃん! よかった、ここは床があるから落ちなくて済んだね!」

「メデューサ、喜ぶことじゃありませんの……」

 ぐったりしている邪神ちゃんに駆け寄るメデューサ。介抱する姿は、心なしかうれしそうにも見える。

 

『勝手に触らないで……』

 どこからともなく、声が聞こえてきた。

「こ、こいつ、直接脳に!?」

『私の体はいま動かすことができない。でも、マガツヒの力で語りかけることはできるわ……』

「意外と便利なのね」

「気をつけろゆりね。セリフの最後が『……』になってる女はろくなこと言わないんですの」

『偏見ね……』

 とにもかくにも、コミュニケーションだけは取れるらしい。

 

「あなたが『創世の巫女』で間違いないのね?」

『そう……私は氷川の計画のため、こうしてマガツヒを集めるためのナイトメア・システムの核にされてしまった……自分の意思では止めることはできない……』

「ナイトメア・システムのせいで邪神ちゃんが吹っ飛ばされたんですか?」

 邪神ちゃんの止血をしながら、メデューサがおずおずと問いかける。

 

『いいえ……私には待っている人がいる……その人が来るまで、ここを動くわけにはいかないの……』

「自分の意思で拒否したんじゃねーか」

 邪神ちゃんがぼそっとつぶやく。おおっぴらにツッコむと、また何かされるんじゃないかと思ったからだ。

 

「私たち、ミロク経典って本を探してるの。あなたなら知ってるんじゃないかと思って」

 ゆりねがずばりと用事を切り出した。巫女は逆さまに浮かんだまま、微動だにしない。

『そう……あれは東京受胎の方法を記した書……今となっては無用の長物よ……』

「この世界……ボルテクス界の外に邪神ちゃんを送る方法を知りたいの」

『そう……なるほど……』

 巫女はしばらく黙り、そしてまた語り出した。

 

『ドリルを求めるもの……本当の……目的は、ドリルを手に入れることではなく……すなわち、壁に穴を開けること……だから、本当に必要なものは……ドリルではないわ……』

「ベタなたとえ話を含蓄ある感じで語ろうとしてないか?」*6

「邪神ちゃん、いいところなんだから邪魔しちゃ悪いよ」

 悪魔たちの茶々にもくじけずに、巫女は話を続ける。

 

『あなたたちに本当に必要なのは、ミロク経典ではないわ……』

「ミロク経典じゃない?」

『ボルテクス界は閉じた世界。外に出る方法はひとつだけ……混沌の終わり、すなわち創世……コトワリが啓かれたその時こそ、この世界から出る唯一の機会……』

「どういう意味ですの?」

 もったいぶった迂遠な表現に、すでに邪神ちゃんの頭はパンク寸前である。

 

「今の世界は卵みたいな状態で、そこから孵化するためには、どんな世界を創るかを決めるルールや理念みたいなものが必要……って聞いたことがあるよ」

 メデューサが付け加える。

「なるほど……」

 邪神ちゃんは分かっていないが分かったふりをした。

 

『次なる世界の形を決める(コトワリ)を、氷川は啓こうとしている。でも、氷川のコトワリはシジマ、ボルテクス界と同じく閉じた世界』

「それじゃあ、けっきょく世界から出る方法はないってこと?」

『別のコトワリが勝利すれば……この世界に穴を開けて、外に出られるかもしれない……』

「シジマの世界が創世されたら、邪神ちゃんもゆりねさんも外に出られなくてずっと一緒にいなきゃいけない世界になる……ってこと?」

『そうなるでしょうね……』

 メデューサの控えめな問いを、巫女はやんわりと肯定した。

 

「他のコトワリって、どうやって探せばいいの?」

『もう……疲れたわ……念話は気力を激しく消耗するから……』

 巫女の声(脳に直接話しかけている)は徐々にかすれ、遠ざかっていく……

「まだ大事なところを聞いてないですの! 無責任がウリのキャラかてめーは!」

 無理やり引き剥がそうと、邪神ちゃんが飛び掛かる!

 

 キィン!

 

「ぐえー!」

 ジャスガで吹っ飛ばされた邪神ちゃんは、再び壁に打ち付けられた。

「消耗して疲れていたはず……」

「よほどあんたに助けられたくないのね」

 ゆりねは噴き出すのを堪えるあまり、頬の辺りが引きつっていた。

 

「ふう……とにかく、他のコトワリとやらを探さないといけないみたいね」

 これ以上ここに留まっても無駄だと考えたのだろう。

「あ……それじゃあ、オベリスクの出口まで送ります」

「メデューサは一緒に来ないのか?」

 ぽかんとする邪神ちゃんに、メデューサは一瞬だけ思い悩む表情を浮かべてから頷いた。

 

「ほら、一応、ニヒロの幹部だし……責任があるから」

「そう」

 ゆりねはあっさりと応えた。*7

 

「で、でも、影ながら応援してるから! がんばってね、邪神ちゃん!」

「お、おう……」

 見送る気満々のメデューサに押されて、邪神ちゃんはしぶしぶリフトに乗りこんだ。

 

「でも、コトダマを探すってどうすればいいんですの?」

 リフトが下降している間は何もすることがない。ぼんやりと斜め上を見あげながら邪神ちゃんがつぶやいた。

「コトワリだよ、邪神ちゃん」

「誰か他の人がなにか考えてるんじゃない。ギンザに戻って調べてみましょ」

「RPGみたいですの」*8

 

(つづく)

*1
ボルテクス界は「この世」じゃないだろって? いいんだよ細かいことは!

*2
邪神ちゃんがようやく追いついたところのはずなのに、いま初めて見たようなリアクションをゆりねがしていることに気づいた君は鋭い! 漫画では読者の主観が繋がりやすいように、読者が体感していない時間はなかったことにできるのだ。漫画じゃないけど。

*3
受胎する前の世界ならね。

*4
「明らかだ」と書けば明らかだったことになる。これってトリビアになりませんか。

*5
アクションゲームでよくある、タイミングよくガードすると攻撃を無効化できるようなシステムのこと。

*6
「レビットのドリルの穴」で検索!

*7
メデューサが何を考えているか、本文のなかにあるヒントから予想してみよう!

*8
RPGです。

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