時系列は無名が風都にいる間に孤島で起こっていた事です。
《EPISODE1》不運なリーゼ
無名の部下であり飼い猿であるリーゼは仕事がある日以外は孤島にあるリーゼ専用の部屋で過ごしている。
リーゼ自体、知能レベルが高くガイアメモリによりそれが底上げされているため彼の部屋には知的なインテリアや趣味の物が置かれていた。
小型のソファの上でストローに入ったジュースと果物を摘まみながらリーゼはタブレットでゲームをしていた。
リーゼがやっているのは海外にサーバーがあるチェスで、それで数々の相手を打ち負かしていた。
(ふん、所詮は下等な人間だな。
この程度の読みにすらついてこれないとは.....)
今日だけで通算50人抜きをかましたリーゼは休憩のため皿にキレイに並べられた果物をフォークを使って綺麗に刺すと口に運んだ。
知的な文明人はその所作からもこの匂いを醸し出す。
ならば、知的な猿である自分も同じようにするべきだ。
そう考えていた。
(しかし、ここまで勝ち続けると流石に飽きてくるな...
そろそろゲームを変えるかな?)
そう思いながら対戦待ちの名前を見ていくと不思議なハンドルネームを使う者を見つけた。
("Mr.P,M"?....ふざけた名前だか戦績は悪くなさそうだ。
少しは楽しめるだろうな。)
そう考えてリーゼは彼と対戦した。
負けた.....それも圧倒的な敗北を味わった。
(なっ!何て強さだ!)
リーゼはその強さに驚きつつ彼に英語でチャットを送った。
"貴方は強いですねもしかしてプロの方ですか?"
知的な猿だからこそ素直に相手の事を褒めるそれこそが大人な対応なのだ。
しかし、帰って来た返答によってリーゼの顔が固まった。
"この程度の強さでプロと言うのですか?
まだ本気を1ミリも出してませんよ?"
その傲慢な言い方にリーゼはイラッとする。
だが、ここで怒り散らす事はしない....何故なら彼は知的な猿であるからだ。
(コイツには一度格の違いを教えてやるべきだな。)
そう思ったリーゼは再戦を申し込むと相手は快諾する。
二回目のリーゼは油断せず堅実に相手を負かす手を打っていった。
しかし、それでも敗北した...しかも前よりも酷い負け方でだ。
(なぜ、私が負ける!....こんな下等な人間にぃぃ!)
そう考えていると相手からチャットが来る。
"どうしました?最初より"弱かった"ですけど体調でも悪かったのですか?"
......危ない危ないこれが普通の人間ならばタブレットを地面に叩きつけていただろう。
だが私は知的な猿...そんな野蛮なことはしない。
"ヒビ"の入ったタブレットでリーゼは相手に返信する。
"二回勝った程度でそんな事を言うなんて....随分と精神的に幼いんでしょうねぇ貴方は"
その言葉に相手は直ぐに返信した。
"そう言う下らない文句は私に勝ってから言ってくれませんか?"
この言葉によりリーゼの心に完全に火が着いた。
(上等だ!下等な人間めぇぇ!
その腐ったプライドをボコボコにしてやるぅぅ!)
リーゼは何度も何度もチェスの戦いを挑んだ。
三戦目敗北....リーゼ、怒りにより机を叩く。
四戦目敗北....リーゼ、皿にある果物を乱雑に口に運び糖分を接種する。
五戦目敗北....リーゼ、座っているソファに爪を立てて怒りを和らげる。
六戦目敗北....リーゼ、度重なる敗北により感情が虚無になる。
七戦目敗北....リーゼ、トイレに籠り精神統一。
後に冷蔵庫から無名用のエナジードリンクを盗み飲んで覚醒する。
八戦目敗北....リーゼ、余りの勝てなさに号泣ソファの綿を出して顔の涙を拭いた。
そして、九戦目に入る前のリーゼはプライドをボコボコにされて戦う前から戦闘の意志が折れていた。
そんな彼を気遣ったのか相手からチャットが来る。
"大丈夫?休憩する?"
リーゼはその優しさに涙が出そうになった"こんなに気遣ってくれる優しい人物に感謝を伝えたくなった。"
読者の皆さんには補足しておくがもうリーゼは負けすぎて正常な判断が下せなくなっており煽ってきた相手に感謝を伝えようとするまで疲弊していた。
しかし、次に送られた文章でリーゼの手は止まる。
"まだまだ行けるよね?それとも手加減してあげようか?m9(^Д^)プギャー"
部屋に果物を入れていた皿が砕けてフォークがコンクリートに突き刺さる音がした。
そしてリーゼは冷静にタブレットで返信をした。
"上等だぁぁぁ!下等な人間がぁぁ!泣くまでボッコボコにしてやるぅぅ!"
ここからリーゼは負ければ再戦を繰り返す。
RPGゲームの様な戦法を取り始めた。
もう、恥も知的な行動も関係ないコイツだけは潰す!
その意思のみがリーゼの頭脳を動かし続けていた。
話は変わるが、皆さんは動物園で猿やゴリラにウンコを投げつけられたことはあるだろうか?
あれは、一説にはストレス発散や単純な暇潰しの意味合いがあるらしいのだが猿にはそう言う習性があった。
ここで問題だがリーゼは何故、猿なのに怒ってウンコを投げつけないのか?
その答えはリーゼにとって知的でない行動だとよく理解しているからだ。
では、最後に.....
"恥"や"知的"な行動を捨てたリーゼに過度なストレスを与えるとどうなるのだろうか?
その答えは"98戦目の敗北"により証明された。
壁一面に茶色い染みが付き、それでもリーゼは勝とうとタブレットを操作してチェスを続ける。
敗北はリーゼを確実に強くしていったが、相手はそれを凌駕するスピードでリーゼから勝利をもぎ取っていった。
そして、99戦目の敗北を受けてリーゼは真っ白に燃え尽きてしまった......
(勝てない.....全然勝てない...泣きたい。)
プライドと精神をゴリゴリに削られたリーゼは身体を両手で抱えながらズタボロになったベットに横になっていた。
もう諦めてしまおうか.....そうだきっとそれが良い。
そんな考えに負けそうになるリーゼ。
しかし、その考えを止めさせたのはリーゼ達の戦いを見ていたオーディエンス達だった。
リーゼのチャットに"負けるな!"頑張れ!"と多国の言語で送られてきた。
そうこの戦いはネット内のチェスファンを沸かせる者となっていたのだ。
彼等の言葉がリーゼに勇気と力を与えた。
震えている足に活を入れて地面をちゃんと踏みしめる。
汚れた手をベットのシーツで拭くとタブレットを持ち直しリーゼは構えた。
(もう一度...次は絶対に勝つ!)
そうして始まった戦いは過去最高に苛烈で複雑なものとなっていた。
お互いに駒を奪い合い残っているのはポーンが二体とキング、クイーンが一体ずつだった。
ここでリーゼは賭けに出る。
(もう手がない...ならばクイーンを捨てる!)
そしてポーン二体を盾にキングが相手の陣地に進軍を始めた。
当然、その意図を読んでいた相手も迎えうつようにキングを前に出した。
キング対キング.....その結末は
リーゼの敗北により幕を閉じた。
しかし、これまでのリーゼと違い今の彼には怒りは無かった。
全力で戦い....負けたのだ。
悔いが無いとは言えないがそれでも満足した。
すると、チャットで相手から連絡が来た。
"良い試合だった、また戦おう"
まるで別人かの様な対応にリーゼは驚きながらも心の中は歓喜で一杯だった。
相手とここまで通じ会えた自分が誇らしい。
そう考えていると屋敷のメイドが部屋の中に入ってきた.......そう
ズタボロになった家具や道具、割れた皿に地面に刺さったフォーク....そして何より一面に茶色い染みが散乱した部屋へと
後日、この事が無名にバレて部屋の掃除+二週間のタブレットとおやつの禁止をリーゼは言い渡されてしまった。
時を同じくして鳴海探偵事務所のラボでフィリップはパソコンから目を離してストレッチをしていた。
「随分と長くやってたわねフィリップ君!
そんなに楽しかったの?」
亜樹子の問いにフィリップが答える。
「あぁ、中々に楽しい戦いだったものだから昨日の夜からぶっ通しでやってしまったよ。
それにしても検索しただけではやはり宛にならないな。
本には"楽しい"と書いてあったが期待外れだった。」
そう言うとフィリップは亜樹子に顔を向けた。
「亜樹子ちゃん、君は知らないだろう?」
「"煽りプレイ"と言うものを......」
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