もう一人の悪魔   作:多趣味の男

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番外編の最後として今回はとあるNEVERの隊員に焦点を当てた物語を書きました。


番外編100.5話 孤島の憂鬱。

《EPISODE3》銃弾の行方

 

東の研究所の裏にある射撃訓練所で芦原は日課の訓練を行っていた。

 

ハンドガン、ライフル、マシンガンと置かれている銃を一つ一つ手に取りマガジンに弾を込めて的に向かって当てていく。

全てが人で言うところの頭と心臓付近に命中していた。

 

突如、背後から銃声が響いて芦原は銃を向ける。

そして相手が誰か分かると銃にセイフティをかけた。

「全く、質の悪い事は止めてくれないか黒岩。」

「まぁ、そう言うな....俺達にとっては"遊び"みたいなもんだろう?」

そう言って的に指を向けると芦原の当てていた場所と"同じ所"に弾が着弾した後があった。

 

「それにこれを持ってきた俺にお礼の一つでも言って欲しいんだがな。」

そう言うと黒岩は茶封筒を芦原に渡した。

銃を置いて芦原は封筒を受けると中身を取り出す。

そこには大量の写真が入っていた。

「いつもすまないな黒岩。」

「気にするなついでのようなもんだ。

"俺の娘"と"お前の娘"が"同じ学校に通っている"からな。

写真ぐらいなら何時でも渡してやるよ。」

芦原は生前、妻と娘がいた。

しかし、死んでNEVERになってから記憶が薄れていった事もあり接触することは無かった。

しかし、無名により改良された酵素により記憶の保持が出来るようになった今は娘の事が気にならない日は無い。

 

それを無名も理解していたのか俺との契約で娘と妻が安心して暮らせるだけの援助をしてくれると約束してくれた。

そして、黒岩の娘が無名のお陰で回復したことで学校に復学すると芦原の娘もそこに在学していたのだ。

以来、黒岩にイベント事に写真を撮って渡して貰うように頼んでいる。

報酬を渡そうとしたが"同じ父親にそんなもんは要らん"と黒岩は言って受け取ろうとしなかった。

 

中を開くと娘と同級生そして黒岩の娘が楽しそうに写っている写真が入っていた。

看板には文化祭の文字が書かれている。

「そうか....文化祭があったのか。」

「なぁ、1度で良いから会いに行ってやったらどうだ?」

 

黒岩の言葉を芦原は否定した。

「死人となっている俺がか?

そんな事をして生きている娘を混乱させたくない。」

「そうは言うが....お前の妻はお前が死んで以降、新しく夫を作る気も無いらしいぞ。

俺の妻が言っていた。」

 

「とっとと忘れて新しい人生を歩めば良いのに....」

「それが出来てないのはお前も一緒だろう?」

娘や妻に会いたいかと問われれば今すぐにでも会いに行きたい。

芦原はそう思ってはいるが同時に理解している。

 

"自分は所詮、死人だと....."

いくら、酵素で人間のように振る舞えても酵素が無くなれば死体に戻る化物、それがNEVERであり芦原自身である。

だからこそ、彼は生きている娘と妻に会わないと言う選択肢を選んできたのだ。

地図にも乗らない孤島から二人の幸せを願って....

 

芦原は写真に写る娘とそれを笑顔で見つめる妻を見るとその写真を常に持っているファイルへとしまった。

これは克己や無名にも見せたことの無い芦原が最も大切にしている物、中を開くと娘と妻の写真で全てが埋まっていた。

中学を卒業してから高校生になる今までの写真が納められている。

"運動会"、"授業参観"、"修学旅行".....愛する娘が笑顔でいてくれるだけで芦原は幸せだった。

 

ファイルに写真を全てしまい終わると黒岩に話しかける。

「黒岩、久し振りに遊ばないか?」

「良いな何を賭ける?」

「別に賭けなんてしない。単なる願掛けだよ。」

「願掛け?」

 

「彼処の的に弾が同じ場所で着弾し続けてマガジンを使い切れたら神様に気に入られている証拠だろ?

なら、願いくらい叶えてくれそうじゃないか?」

「随分とセンチメンタルな事を言うな。

お前にしては珍しい。」

 

「そう言う日もあるってことさ.....

こんな賭け腕の良いお前とでしか出来ないからな。

それでどうだ?受けてくれるか?」

「良いだろう....それで何を願うんだ。」

「"安全と幸せ"だ。お前は?」

「.....俺もさ。」

誰と言う言葉を言わなくても芦原と黒岩は分かっていた。

 

二人はハンドガンにマガジンを込めると一番遠い的へ一発ずつ交互に撃ち始めた。

撃たれる弾丸にどんな願いを込めたのかは本人にしか分からない。

だが、それは仕事場で込める感情とは違う優しいものだった。

そんな弾丸が的へと向かい飛ぶ。

一発一発、丁寧に放たれた弾丸が飛んでいく....

 

そして、マガジンが空になり全ての弾を撃ち尽くすと的に向かって歩き始める。

そして、的を見つめた二人は優しく笑う。

「少し飲むか黒岩。」

「良いな....旨い酒はここにあるのか?」

「プロフェッサーマリア秘蔵の酒の隠し場所を知っている。」

 

「悪い部下だな...殺されても知らんぞ?」

「どうせ死んでいる。

それにこんな日は飲んで祝うに限るだろう?」

 

「ははっ!言えているな。

じゃあ行こうか。」

そう言って黒岩と芦原はその場を後にした。

残ったのは綺麗に頭の位置に一個の弾痕だけ残った的だけだった。

 

 

 

そして、二人はこの日は夜が空けるまで飲みあかすのだった。

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