あの時、私が獅子神ちゃんを助けたいなんて言わなければ.....
あの時、俺がちゃんと戦えていれば.....
あの時、アタシがもっと早く着いていれば.....
あの時、僕が依頼なんかしなければ......
やり直せない後悔の中、それぞれの思いを吐き出す事は出来ずただ、時間だけが過ぎていった。
風城高校の一件が解決した後、通路を作れた警察は学校に突入し紫米島と野々村を逮捕して数日後、無名やNEVERの面々は喪服を来ていた。
眼前には目を瞑っている黒岩幸太郎がいた。
まるで眠っているような姿を見て本当は死んで無いんじゃないかと思いたくなるがその願いは叶わない。
喪主となっていたのは妻の黒岩
涙を流す楓を茜がそっと抱き締めている。
僕はそれを見ることが怖くなり1人外に出てしまった。
(僕が依頼したせいで.....)
獅子神の命を捨てれば黒岩を助けられたかもしれない。
何時もだったらナンセンスだと吐き捨てる考えが頭を巡る。
そんな時、葬儀所から離れた所で喧騒を立てている集団がいた。
興奮している堂本をレイカと克己が抑えており京水は地面に倒れている。
その顔は殴られたのだろう赤くなっていた。
殴ったのは堂本だろう怒りが治まらないのか京水に怒鳴る。
「もう一度、言ってみろ京水!」
「何度でも言ってやるわよ!
"黒岩ちゃんが死んだのはアタシのせい"なのに今更、どんな面で会えば良いのよ!」
その声を聞いてレイカと克己が言う。
「京水!少し落ち着いて!」
「堂本...お前もだ。
葬儀の場で何をしているんだ!」
「
自分が黒岩を殺しちまったって言ってな。
ふざけるな!このまま何もせずにいるつもりなのか!」
「じゃあ、アタシ達に一体何が出来んのよ!
泣いている黒岩の娘に私の我が儘でお父さんを死なせてしまいましたって言えば良いの?」
「おまえっ!」
堂本がもう一度、拳を振るうがそれは間に入った無名が受けてしまう。
力のこもった堂本のパンチで無名は吹き飛んだ。
「無名!....お前っ!」
「....外が騒がしかったので来てみれば一体何をしているんですか貴方達は?
彼の葬儀に喧騒を持ち込んで.....」
「それは.....」
「話は聞こえていたんで大丈夫ですよ。
京水さん、貴方が獅子神を生かす様に願ったから黒岩が死んだと思っているんですね?」
「.....えぇ、そうよ。
獅子神ちゃんを生かすなんて行動をしなければ黒岩ちゃんが死ぬこともなかった.....全部私のせいよ。」
苦しい胸中を吐露した京水に無名が言った。
「"そうでしょうね"。
黒岩が死んだ一端には貴方の言葉もあるでしょう。」
「「「!?」」」
京水の意見を肯定した無名を皆が驚く。
「だが、それは"貴方1人の罪"じゃない。
レイカさんはきっと、もっと早く着けば助けられたと思っているでしょう。
堂本さんは傷を受け過ぎずもっと動けたら.....
克己さんは自分がエターナルに変身できたら....
芦原さんに関しては自分を助けなければと思っているかもしれない。
そして、僕はもっと強ければあの場所に僕が来ることが出来ていたら....そして、別の作戦を提案できていたら黒岩さんは死ななかったかも知れない。
分かりますか京水さん?
皆、"罪の意識"を持っているんです。
もっと何か出来たんじゃないかとね.....それを貴方に奪う権利はない。
断言します。
黒岩さんが死んだのは僕達、全員の責任です。
だからこそ、向き合わないと行けないんです。
逃げちゃダメなんです。
どんなに苦しくて恐ろしくても向き合わないと行けないんです。」
無名の言葉を受けて京水は目に涙を浮かべる。
「分かってるわ....分かってるけど怖いのよ。
死ぬことなんて一度、経験している筈なのに....大切な仲間が死ぬことがこんなに恐ろしいなんて...黒岩ちゃんの家族にどうやって会えば良いのか....分からないのよ。」
「京水....」
「その為に僕達がいるんです。
一緒に行きましょう。
それと芦原さん、葬儀が終わったら時間を作ってくれるそうです。」
「分かった。」
「時間?....何なの?」
京水が尋ねると芦原が答えた。
「家族と....会おうと思う。」
葬儀が終わると私と楓は母さん達に呼び止められた。
この後、誰かと会うらしく時間を取って欲しいと言うのだ。
葬儀が終わったばかりで楓を休ませたかったが楓のお母さんにも頼まれたのでその場所へ向かった。
水音町にある小さな喫茶"Angebot"と書かれた看板のお店に入ると車椅子に乗った女性が応対してくれた。
「話は無名から聞いているわ。
私はこの店の店長をしてるマリアよ。
今日は貸し切りだからゆっくりしてちょうだい。」
そう言われ、席に案内される。
「飲み物は何にする?」
そう言ってマリアはメニューを渡す。
コーヒーを頼み待っているとそこに無名と死んだ筈の父さんが現れた。
「パパ?」
茜は驚きながらそう尋ねる。
「そうだ茜.....大きくなったな。」
茜は席を立ち上がると父親に抱きついた。
「やっぱり、学校で私を助けてくれたのはパパだったのね!
ママから死んだって言われてたから!」
茜の言葉に芦原は顔を歪める。
「それに関しては僕が説明します。」
そう言って無名が話し始めた。
無名の話を聞き終わった茜の表情は先程と違い暗くなる。
そして、妻である花はショックから顔が白くなっていた。
「つまり....夫は一度死んで....甦ったってことなんですか?」
「正確には違います。
薬によって死んだ身体を無理矢理、動かしているに過ぎません。
勿論、記憶もちゃんと残ってはいますが...死体であることには変わりがありません。」
そう言われ茜は父親に抱き付いた時の事を思い出した。
(全身が氷みたいに冷たかった.....無名さんの言っている通り、パパは死んでるんだ。)
しかし、それ以上に茜を困惑させたのは黒岩の死に父親が関わっていると言う話だった。
「.....嘘だよねパパ?嘘だって言ってよ!」
泣きそうな顔で叫ぶ茜に父は冷静に告げる。
「本当だ....幸太郎さんは俺を助けようとして死んだ。」
「でもどうして?幸太郎さんは普通の人でしょ?
何でそんな目に....」
茜がそう言うと楓が答えを告げた。
「お父さんがガイアメモリを使っていたから...ですか?」
「それはどういうこと楓?」
楓は自分の過去を茜に話した。
そして、無名がガイアメモリを流通させていた組織の1人だったことも.....
「そんな.....」
「今は組織を離反しました。
そんな時でも僕に着いてきてくれた部下の1人が幸太郎さんだったんです。」
「じゃあ....私達が学校で襲われたのも?」
「はい....その関係だと思います。」
その言葉を聞いた茜は無名に向けて飛び掛かった。
それに気付いた父親が茜を抑える。
「茜!落ち着け!」
「落ち着けるわけ無い!
アンタが私達の学校をメチャクチャにしたんだ!
沢山の人が怪我をした!
楓だって死にかけた....それにお父さんも失った...全部...全部アンタのせいだ!」
憎しみの目を向ける茜に無名は告げる。
「貴方の感情は理解できます。
ですが、その前に言わなければいけないことがあるんです。
それまで待っていてください。
梓さん...楓さん...僕の技術を使えば幸太郎さんを賢さんと同じく蘇生させることが出来ます。
ただしそれは死体を無理矢理、動かす行為です。
体温が無く生きてる様に錯覚した幸太郎さんでも甦らせたいですか?」
そう言われ悩む梓に対して楓は即答した。
「要りません!
父さんは私の心に生き続けています。
もう....休ませて上げたいんです。」
梓と楓は幸太郎が行ってきた事を知っている。
自分達を治す為にどんな取引をしたのかも....一番辛かったのは父さんの筈だ。
私達の為に悪事に手を染めた。
だからこそ、死んだ今はもう休ませて上げたい。
楓はそう思っていた。
その言葉を聞いた梓も無名を見て言った。
「娘の言う通りです。
夫はもう....十二分に苦しみました。
これ以上、苦しませる事は出来ません。」
「....そうですか。
分かりました。
正直、そう言って頂けて嬉しいです。
僕達の考えが間違っていると良く理解できますから....
幸太郎さんから貴方達に残す筈だった財産は僕が預かっています。
葬儀が終わればお渡しします。
ここは貸し切っていますので...ゆっくりしていってください。
最後にですが....貴方のお父さんに僕は何度も命を助けられました。
ありがとうございました。
そして、助けられなくて本当に申し訳ありません。」
無名はそう言って楓達に頭を下げる。
そして、顔を上げると茜を見つめた。
「
そう言われた芦原は手を離す。
そして、起き上がった茜に無名は言った。
「貴女とは別の場所で話があります着いてきてください。
僕と二人だけです....芦原さんはここで待っていてください。」
そう言うと茜を連れて喫茶店を出ていくのだった。
無名が茜を連れてきたのは古くなった廃工場だ。
「ここなら、誰も来ません。
監視カメラも無い....ここの事は僕以外知らない場所です。」
「ここに連れてきて何の用なんですか?」
そう尋ねる茜に無名はグローブを投げ渡す。
「軍隊で使われる実戦用のグローブです。
それを着けてください。
貴女は僕に復讐する権利がある。
死ぬことは出来ませんが、貴女の怒りが治まるまで殴られる事は出来る。」
その言葉を聞いた茜はグローブを着けると無名を見据えて構える。
「手加減はしません。
殺す気でやります。」
そう言って殺意を向けられると無名は優しく笑った。
「どうぞご自由に.....」
喫茶店で賢と花は顔を会わせた。
死んでNEVERになったが全く連絡をしてこなかったからこそ何を話して良いのか分からない。
「.....茜は大きくなったな。」
そう言うと花は動揺しながら言った。
「えぇ、立派に育ったわ。
ちょっとヤンチャ過ぎると思うけど....」
「そこはお前に似たのかな?」
「違うわよ。
正義感は貴方譲りよ。」
暫くの沈黙の後、花が言った。
「何で私達に会いに来なかったの?
死んだって聞いて私がどんな気持ちで生きてきたか分かる?」
「....すまない。
だが、俺は死人だ。
無名が言ったようにもう普通には生きていけない存在になったんだ。」
「それでも!.....会いたかった。
例え死んだんだとしても会ってちゃんと話したかった。
こんなことになる前に.....」
「そうだな.....本当にそうだ。
茜が無名を憎んだ目で見た時、心底そう思ったよ。」
「無名さんって....どんな人なの?」
「俺達の事を人として心配してくれる物好きだ。
俺が記憶を持てたのも無名がやってくれた研究のお陰だった。」
「そうなのね.....正直、まだ私には何が何だか分からないわ。
ガイアメモリの話だって私からすれば遠い世界の事だもの.....」
「そう言えば
「幸太郎さんが私達、家族を含めて旅行を手配してくれたの....だから帰って来て始めて事件の事を知って....もしかして、それも?」
「恐らく無名が手を回したんだろうな。」
「そうなのね。
私達、知らない内に守られてたのね。」
「あぁ.....お前の事は幸太郎から聞いていた。
再婚してないことも......何故だ?」
「.....言わなくても分かるでしょう?」
「俺はそこまで思われる程の男じゃなかったぞ。」
「いいえ、事件の事を茜から聞いた時は疑ってたけど今なら納得できるわ。
貴方が茜を守ってくれたのね。」
「死んでも....俺の娘だと言うことには変わりがないからな。
こんなところで死んで欲しくなかっただけだ。」
「変わらないわね。
不器用で口下手な所は.....」
「....あぁ。
死んでもダメだったらしい。」
生前から不器用な人だった。
でも誰よりも優しくて正義感に溢れた人だった。
だからこそ、今でも私は
(だから、私は再婚しないことを後悔なんてしてないのよ。)
そんな事を言ったら照れてしまうだろうから花は敢えて話さなかった。
暫くすると賢の携帯に連絡が来た。
「克己、どうした?....分かった花を連れて行く。
場所は?....分かったすまないなありがとう。」
そう言って電話を切ると賢は立ち上がった。
「どうしたの?」
「茜が無名をボコしたらしくてな。
迎えに行かないといけない。
花、一緒に来てくれ。」
「分かったわ。」
そう言うと二人は喫茶店を後にするのだった。
喫茶店から出た梓と楓は外を歩いていた。
「ねぇ、楓何時から知ってたのお父さんの事.....」
「....私達が捕まった時から意識はあったの。
それで
「そうなのね......ごめんなさい気付いて上げられなくて」
「ううん、でも私嬉しかったんだ。
私達が元気になってお父さん、とっても笑うようになった。
悪いことをしてるのは知ってたけど.....それでも私の自慢のお父さんだったんだ。
だから死んだって聞いた時、どうして良いか分からなかった。
茜が心配してくれたけど....無名さんが真実を話してくれた後は辛そうにしてて....それも嫌で....」
そう言って暗くなる娘を母親は優しく抱き締める。
「全部吐き出しなさい。
貴女は何も悪くないんだから....」
「私....お父さんに生きてて欲しかった!
悪人だったとしても生きてて欲しかった!
何で....何で死んじゃったの!
お父さんに....会いたいよ.....」
今まで我が儘らしいことを言わなかった娘が始めて出した心の内を聞いた私は....ただ抱き締めるしか出来なかった。
(こんな時.....貴方ならどうしてた?幸太郎。)
答えの無い疑問を心の中で尋ねつつ時間だけが過ぎていった。
Another side
スーツに着替えた灯夜の姿を見た天十郎は頷く。
「良いだろう。
これなら面目も立つ。」
そう言うと原稿の束を灯夜に投げ渡した。
「今日の会見で使うセリフだ覚えろ。
それ以外の事は何もするな。
オーダーはそれだけだ。
時間は二時間ある....私は準備がある。」
そう言うと天十郎はまるで興味がなくなったように部屋から出ていった。
灯夜は昔と変わらない自分への扱いに笑う。
(家族も所詮、自分を飾る道具でしかない。
だから母さんが死んでも興味を示さず、周りにだけは良い顔をし続けていた。
外では妻が死に男で一つで息子を育てる優しい政治家。
だが、本性は自分が良ければそれで良い人格破綻者だ。
俺はあの男の支配から解放されたくて外に出た。
そしてセブンスを作っていつか、アイツに復讐しようと思っていたのにこのザマか.....)
「ふっ....!?...ゴホッゲホッ!」
灯夜は口をハンカチで抑える。
咳が止みハンカチを見ると血でベットリと濡れていた。
(もう、身体も限界が近いか.....結局俺はあの男の駒として人生を終えるんだな。
だが、せめて獅子神の安全だけは....)
自分を色眼鏡無く認めてくれた彼だけは助けたい。
灯夜を動かす感情はもうそれしかなかった。
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