「はぁ...はぁ...はぁ」
茜は息を上げながら無名を見つめていた。
殴り始めてから数十分、無名は一切反撃せず茜の攻撃を受け続けていた。
茜のグローブは無名の血でベッタリと汚れている。
「もう....終わり.....ですか?...」
息も絶え絶えと言う姿だが無名は茜にそう尋ねる。
「.....くっ!まだよ!」
茜は握りこんだ拳を無名の腹部で叩き込んだ。
「うぐっ!」
「まだまだぁ!」
そのまま茜は振りかぶった拳を無名の顔面に当てた。
その威力は高く無名の身体は吹き飛ばされる。
しかし、気絶すること無く無名はフラフラになりながらも立ち上がった。
「う....ま...だ...です。」
「どうして....どうして反撃してこないの!何で!」
「僕は....貴方の家族を奪った組織にいました。
そして....その組織のせいで親友である楓のお父さんは死んだ......貴方は混乱しているんでしょう?
誰を恨めば良いのか?自分の父親がいるのに喜べない。
親友の父を自分の父親を救うために犠牲にした....楓さんとどう会えば良いのか分からない....違いますか?...」
「........」
「復讐は....奪われた人間が持てる....一つの権利です。
父親を奪ってしまった僕がそれを貴女から奪うことなんて.....出来ない。
例え、死んでもこの復讐は行われるべきだ。
だから....貴女の気が済むまで殴られます。
例え....それで死んだとしても.....」
「分かんない.....全然、分かんないわよアンタの言ってることがっ!.....何でそんな目が出来るの?
私はアンタを....殺すつもりで.....」
「続けるかは....貴女が決めることです。」
茜は無名の言っていることが分からなかった。
自分は彼を殺すつもりで殴り続けているのに....何でそんな優しい顔が出来るのか分からなかった。
茜は自分の拳を見つめる.....無名の血で真っ赤に染まっているその拳を見て何故か悲しくなった。
(こんな手で....私は楓に触れられるかな?.....)
そして、決心するとグローブを脱ぎ捨てた。
「もう....良いよ。
こんな事しても虚しいだけだ。
アナタを殴り殺したって楓のお父さんは帰ってこないしアタシのパパは生き返らない。
....でも、ありがとう。
私の事を思って殴られてくれたんだよね?...」
「....何の....事ですか?」
「惚けなくて良いよ。
アンタが強いのは分かってた。
本気のアンタならアタシを簡単に倒せたでしょ?...」
「....買いかぶり過ぎですよ....」
「殴って....ごめんなさい。
パパの事はちゃんと話をしてみる。
家族として......」
「....ありがとう....ございます。」
そう言うと無名は地面に倒れた。
「....はは...やっぱり痛いですね。
空手王者の拳は.....」
「そりゃ、鍛えてるからね。
....救急車呼ぼうか?」
「いえ....大丈夫です。
それに....お迎えも来たみたいですし....」
そう言うと工場に芦原夫妻と克己が現れた。
「茜!」
「....パパ。」
茜を見つけた夫妻は彼女を抱き締めた。
「良かった.....大丈夫だったか?」
「うん....ごめんね。」
「謝るのは俺の方だ。
すまない.....」
そうして抱き合っていると茜が無名に向けて言った。
「私....パパとママとゆっくり話してみる。」
「えぇ、それが良い。
じっくり話してください。
これまで話せなかった分を......」
そう言うと三人は工場から去っていくのだった。
そして、それを見越したように翔太郎とフィリップが現れる。
「やっぱりいましたか。」
「気付いてたのか?...」
「リーゼですね?
全く、心配症ですねぇ本当に....」
フィリップ達がここに来れたのは何時もと違う顔が気になったリーゼが無名を追跡し状況を文音を通じて翔太郎達に送っていたのだ。
「君は....本当に死ぬつもりだったのかい?...」
「それだけの....罪はありますからね....でもそれより、彼女が間違った復讐を遂げるのを止めたかった。」
「間違った復讐?」
「茜さんは強い.....ドーパントだろうと自分の正義の為なら立ち向かっていく程に.....
それでもしミュージアムに戦いにいったら彼女は死んでしまう。
これ以上、犠牲を出したくなかった。
その為にも今、ここでその怒りを発散させて冷静にさせる必要があったんです。」
「その為にお前がサンドバッグになった訳か.......はぁ、バカかお前は?」
翔太郎は呆れながらも無名に手を差し出す。
無名もそれを掴むと立ち上がれた。
「ありがとうございます。」
「なぁ、この後時間あるか?」
「どうしてですか?」
「お前も溜め込んでいるもんあんだろ?
殴られる事は出来ねぇが話は聞けるぞ。」
(本当に人の心を良く読みますね彼は.....)
無名は軽く笑うと翔太郎に言った。
「じゃあ、話に乗って貰いましょうか。
......そう言えば克己さんは何処に?」
「あぁ、克己ならフィリップが連れて言った。
相棒なりに心配してんだろう。」
「貴方のお節介が相棒にも移ったみたいですね。」
「ふっ....かもな。
取り敢えず、家の事務所で治療すっぞ。」
そう言うと二人は翔太郎の事務所へと向かうのだった。
無名と克己が翔太郎とフィリップと話している頃、テレビでは緊急記者会見として風都庁の会見室が、映し出されていた。
暫くすると天十郎が画面に現れる。
「風都市長の雨ヶ崎 天十郎です。
今回、皆様をお集めしたのは風都に蔓延しているこの道具に関して説明するためです。」
そう言うと天十郎はガイアメモリを記者に見せた。
「ご存じの通り、風都は人間を怪物に変えるこのガイアメモリにより多大な被害を被ってきました。
そして、今回起きた風城高校でのドーパントの襲撃事件を重く見た我々は一つの決断しました。
風都に存在するガイアメモリ犯罪を撲滅する為、
"対ガイアメモリ部隊"の設立を宣言します。
急な報告に混乱する方もいらっしゃるでしょう。
勝ち目の無い無謀な行為と仰られるかもしれない。
しかし、その無謀な行為を陰ながら続けている存在がいます。
皆様も噂では聞いたことがあるでしょう?
"仮面ライダーの噂"を.......
結論から言えばその話は真実です。
彼等はドーパントと同じ様にガイアメモリを使い、人知れず犯罪者から皆様を守っていた。
ですが、彼等は政府に認可されていない非公認の存在です。
いくら、正義の為とは言え正体を明かさない存在はガイアメモリを使う犯罪者と変わりません。
ですので、我々が彼等と同じくガイアメモリを使い正義を行う存在を作り上げる。
その為の準備をずっと行ってきました。
そして、その考えに賛同してくださったのが園咲博物館館長でありガイアメモリ研究を陰ながら支援してくださった。
"園咲 琉兵衛"殿です。
対ガイアメモリ部隊は彼の尽力により作れたと言っても過言ではありません。
そして、彼の娘である園咲 若菜さんを中心としてガイアメモリ犯罪を撲滅する組織...."ミュージアム"の設立を宣言します。
私がここに約束致しましょう!
この風都からガイアメモリ犯罪を撲滅させると.....
詳しい説明は私の息子である灯夜が務めます。」
そう言って天十郎が手を向けるとスーツ姿の灯夜が壇上に現れた。
「対ガイアメモリ部隊 隊長を就任致しました。
雨ヶ崎 灯夜です。
画面を見てくださる皆様は突然の話に不安に思っているでしょう。
ですが、ご安心ください。
我々は長年の研究により安全にガイアメモリの力を使う技術を開発致しました。」
そう言うと灯夜は懐からメモリを取り出し起動すると身体に挿してドーパントへ変身する。
「この様に、メモリを使っても暴走すること無く安全に使用出来ます。
我々が部隊を率いてガイアメモリ犯罪を行う者達を検挙していきます。
この行為は日本政府により認可された行動であります。」
それを証明するように背後にスクリーンが現れると書類の映像が流れる。
確かにそこにはガイアメモリを使用した特設部隊を、限定的に認める書面が首相のハンコと共に映し出されていた。
そして、その映像が写し終わると天十郎がまた壇上で話し始める。
「市民の皆様は不安に思っているでしょうがご安心ください。
長く行われていたガイアメモリ犯罪に怯える生活が終わりを向かえるのです。
ドーパントに屈しやられていただけの警察に頼ることはありません。
仮面ライダーと言う不透明な存在に頼ることもない。
これからは対ガイアメモリ部隊....そしてミュージアムが風都市民の安全をお約束致します!!
それを約束する意味として風都第二タワーに対ガイアメモリ部隊の駐屯地を設けます。
風都市民の皆様!!
我々はガイアメモリ犯罪に屈しない!
誰よりも強く発展した街としてこの風都を存続させることを雨ヶ崎 天十郎はこの場を持って宣言させていただきます!」
1時間に及ぶ、天ヶ崎のスピーチを受けた風都は騒然となった。
そして、これを受けて驚いたのは風都署で働く警察もだった。
「どういうことなんですかこれは!!」
署長室の電話越しで氷川が怒号を発した。
それを受けた相手は渋い顔をする。
「今回は相手が一枚上手だったんだ。
対ガイアメモリ部隊の設立を政府に打診したのは"アメリカ政府"だ。」
「!?どうしてアメリカ政府がガイアメモリの事を?」
「私も不思議に思っていた。
だから"一条君"に調査を依頼していたんだ。」
「一条さんにですか?」
警視総監は彼に調査を依頼していたのだ。
「相変わらず一条君は、仕事が速い。
お陰で黒幕が誰か分かった。
対ガイアメモリ部隊の設立の支援を申し出たのはアメリカの軍事産業のトップだったよ。
"リオン=アークランド"....聞いたことがあるだろう?」
「えぇ、確か世界各国で軍事産業に手を出している
他にも色んな技術の研究をしているとか.....」
「あぁ、そんな企業を中心として複数の大企業が連盟でアメリカ政府に打診したんだ。」
「そんな......」
「驚くのはこれだけじゃない。
連中はガイアメモリがテロ行為に使われる危険性を唱えて警察の直接的、強化も提案してきた。
その案を見たが....その中に"G4プロジェクト"が入っていた。」
「!?それはあり得なません!
だってあれは小沢さんが完全に消した筈です....」
"G4プロジェクト"....かつて氷川がアンノウンと戦っていた時、使用していた"G3システム"の設計者である
それを自衛隊員であった
AIが、人間をパーツとして扱い過剰な負荷を本人の意識関係なく与え続け最終的に装着者は死んでしまう。
氷川はそれを着けた装着者と戦い、その非業な最後を知っていた。
だからこそ、自然と拳を握る力が強くなる。
「一体どんなトリックを使ったのかは分からないが彼等の手にG4システムがあるのは明白だ。
今、小沢君にも事実究明を急がせている。」
「.....我々はどうすれば良いんですか?
また、あのシステムが人を殺すのを黙って見ているなんて....僕には出来ません!」
「私が何としてもその提案は阻止する。
だが、今は時間が欲しい。
それに私の権力では強化案を止めるだけで精一杯だった。
すまない.....対ガイアメモリ部隊に関しては私の力では止められない。」
「....分かりました。
でも、私達は警察官です。
風都市民を守るのは我々です。」
「あぁ、分かっている。
暫く迷惑をかけるが風都を頼む。」
そう言われ電話を切った氷川は席に着き溜め息をつく。
「これからどうなっていくんだ....この風都は....」
氷川はこの感覚に見に覚えがあった。
逆らえない流れに巻き込まれていく感覚。
"あかつき号事件"や
何か大きな事件が起こる前触れ、そう感じてしまった。
「僕は....只の人間だ。
G3も無い僕じゃ、大したことは出来ない。
....それでも僕は警察官だ。
そうあり続けたい。」
氷川は決心をつけると署長室を後にする。
これからの行動を話す為に.....
Another side
無名は翔太郎の事務所につくとゆっくりと話し始めた。
「僕は....きっと欲張りなんです。
自分の救いたい者は誰も失いたくない。
その為に行動してきました。」
「そうだな.....お前のお陰で霧彦も死ななかった。
話を聞いた時は驚いたぜ。」
「今回もそうです。
僕は京水さんの話を聞いて獅子神も助けようと思った。
京水さんが言わなければそう思わなかったでしょう。
でも、助けたい....いや助けられると自惚れてたんです。
これまでと同じ様に仲間を使えば.....」
「だが、今回は違った。」
「えぇ、非情に思えるかもしれませんが....全体で見れば今回は最小限の犠牲で済んだ方なんです。
人質の学生の命を救いそして獅子神の幹部を捕縛した。
1人の"犠牲"では考えられない程のリターンでした。」
「本当にそうは思ってないだろう無名?
だから、お前は茜ちゃんに殴られたんだ。
本当は一番自分を罰したかったんじゃないか?」
「.........」
「
いくら、アンタでも全て望み通りなんて出来ないんだよ。
人間、失った事を嘆くより救えたことを喜んどくべきだ。
お前は俺よりも沢山の人を救える筈だ。
ここで、腐るのも良いが...それは死んだ黒岩が望んでいるのか?
殴られてお前も少しは頭が冷えたろ?
ゆっくり考えてみろ。」
「.....ハーフボイルドな貴方にしてはクールな言い方ですね。」
「うるせぇ....コーヒーでも飲むか?」
「美味しいものなら是非.....」
「言ったな?....絶対、旨いって言わせてやるからな。」
翔太郎の作ったコーヒーは苦くお世辞にも美味しいとは言えなかったがその苦味が今の無名にとっては心地よかった。
失った者は戻せない。
再生酵素で肉体は蘇ってもそれは本人だとは言えない。
死人を無理矢理動かしているだけ....だからこそ彼女らは断ったんだ。
それを知ったからこそ己の提案を恥じた。
彼の尊厳を辱しめようとしたのが他でもない自分だと分かったからだ。
(僕も所詮は卑しい人間の1人...と言うことですね。)
コーヒーに写った自分を嘲笑しつつゆったりと時間が流れていった。
ラジオから天十郎の記者会見を聞くまでは......
フィリップと克己は風麺の屋台に足を運んでいた。
店主は買い物があるらしく屋台から出ていたので二人は気兼ね無く話し始める。
「ここは?」
「翔太郎が男と二人で大事な話をするならここが良いって昔言ってたのを思い出してね。
ここならゆっくり話せると思ったんだ。」
「そうか....」
「聞かせてくれないか?君の悩んでいることについて....」
「俺はNEVERのリーダーとして彼等を指揮してきた。
どんな戦場でも迷わず的確に指示できる自信があった。
そして、仮面ライダーになって傭兵で化物の俺らでも人を救えるヒーローになれてる気がしていた。
だが違った。
黒岩が殺られた時....俺は何も出来なかった。
悲痛な声で叫んでいる京水や芦原に何もしてやれなかったんだ。」
「そんな事はない。
君がいるから仲間が救われている面もある筈だ。」
「まともに戦えないのにか!
獅子神の足止めの為に戦ったが俺は足手まといだった。
挙げ句の果てに無名に守られて....それで終わったんだぞ!
そんな俺が一体誰を救ったって言うんだ!」
克己は怒りで屋台の机を叩いた。
怒りを吐き出した克己にフィリップは優しく告げた。
「ゴエティアに翔太郎を奪われた時.....僕も同じ様に思ったよ。
相棒1人助けられず怯えてしまった自分が情けなかった。
けど、僕は恵まれていた。
助けてくれる仲間がいたんだ。
1人では失敗を嘆き絶望するしかないが仲間がいれば立ち直れる。
もし君が立ち上がれないなら僕が支える。
だから.......その......」
"立ち直ってくれ(と言わない辺りにフィリップの優しさを感じた克己は少し冷静になった。
「ふー.....そのお節介は翔太郎から伝染したのか?
全く似合ってないぞ。」
「うっ!.....言わないでくれよ。
自分でもそう思ってるんだ。」
「だが感謝する。
そうだな.....もう一度、しっかり仲間と話してみるさ。
それに、俺はやられっぱなしは主義じゃないのを忘れていたよ。」
「そうか.....」
そんな話をしているとフィリップのケータイに着信が入る。
「もしもし、翔太郎かい?」
「お前、テレビを見たか?」
「いや、今、風麺の屋台にいるから.....」
「なら今すぐテレビを見ろ!
照井から連絡があった.....風都が大変なことになっている。」
焦っている翔太郎の声を受けフィリップは急いでケータイの機能を使いテレビを確認するのだった。
外伝 続編の投稿に関して
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