彼女が私の前から去った時の顔が......
怒りや憎しみではなく寂しさを纏った表情。
まるでもう会えないと言われたかのようなその顔を見て私は彼女の手を掴みたかった。
だが、私の手を彼女は掴むこと無く蜃気楼のように消えてしまった。
私はテラーメモリを見つめる。
これが私を変えた。
私に力と権力を与え、変わりに私の感情を喰らった。
だが、いくら私の感情をメモリが喰らっても家族への愛は残っていた。
だが、それが逆に私の恐怖を加速させた。
家族を失いたくない。
ずっと家族のままでいたい。
私たち家族が地球に認められる存在でありたい。
そして、何時しかその感情は私にとっての愛情へと置き換わっていった。
この時期から文音は私を恐れ来人と共に逃亡を図った。
それを止めたら文音は私を憎み始めた。
だが、それでも良かった。
どんな感情であれ文音は私を想っている。
そう思えたから.......
だけど、あの日だけは違った。
私に対して文音が見つめた目は今までと違い優しく私を哀れんでいた。
そしてそのまま彼女は姿を消した。
テラーの力を使っても彼女の気配を見つけることが出来なかった。
何処に行ってしまったのだ?
彼女に会いたい....その思いだけが日に日に強くなっていった。
「根回しに使ったZAIAに警察の手が入りました。
対ガイアメモリ部隊の法案を棄却されるのも時間の問題でしょう。」
天十郎が通信で園咲邸にある画面からそう言った。
画面には他にも若菜が映っておりそれを聞いても笑う。
「問題ないわ。
ガイアインパクトが完了すればそんな事を誰も気にしなくなる。
何故なら全人類が超越者へと進化するのだから....」
「えぇ、ですが神聖な儀式を邪魔されては困ります。」
「では、貴方から兵を出しなさい。
それで解決でしょう?」
「私と灯夜はサブタワーの守護と言う任務があります。
三本のサブタワーを守るには私のメモリと灯夜のチェスメモリが必要不可欠です。
そちらの方で兵は揃えられませんか若菜様?」
「.....チッ!分かったわ。
兵はこちらで揃える。
その代わりちゃんとサブタワーは守り抜きなさい。
失敗したらどうなるかはお分かりでしょう?」
「えぇ、勿論。
肝に銘じておきますとも....では早速、その任をこなすとします。では若菜様、琉兵衛様、失礼させていただきます。」
天十郎が通信を切ると若菜は分かりやすく舌打ちをした。
「チッ!...全く使えない男だこと
まぁ良いわ。
ガイアインパクトが完了すれば"始末する存在"ですもの....今はほおっておきましょう。
お父様?
先ほどから黙ってどうされたのですか?」
若菜に尋ねられた琉兵衛は反応を見せる。
「あぁ、少し考え事をしていてね。」
「何かガイアインパクトに不安な材料があるのかしら?
もしそうなら、私が解決致しますが.....」
「いいや、ガイアインパクトに関しては全く心配していない。
優秀な後継者である若菜、君が先導しているからね。」
「あら、嬉しい。
その信頼に答える為にも必ず成功させて見せますわ。」
若菜もそう言い終えると通信を切った。
現在、雨ヶ崎一家はサブタワー、若菜は第二タワーの内部でガイアインパクトが始まるのを待っている。
直ぐに開始しないのは条件が揃うのを待っているからだ。
ガイアインパクトを行うには無名とフィリップの両名が第二タワーにいる状態で装置を起動し地球に大穴を開けないといけない。
万が一、どちらかが逃亡しても若菜の力で連れ戻せるが融合が完了するまでは余り力を使いたくない。
それに無名の存在もある。
これまでミュージアムに貢献しそして最近はミュージアムの妨害を行うこの男。
ゴエティアは彼をあくまで器としてでしか評価しなかったが、琉兵衛は違った。
(ミュージアムのガイアメモリ研究を飛躍的に進歩させ文音が残したメモリやドライバーの開発を見事、終わらせた。
地球の本棚を使わないでこれだけの功績を上げた者を誰が無能だと言えようか。)
優秀などと言う陳腐な言葉で表すには惜しい程の天才、それが無名だった。
だからこそ、琉兵衛は余計に考えてしまう。
(無名ならどんなガイアインパクトを考えたのだろうか?)
私はガイアインパクトの為に悪に手を染め全て利用してきた。
そうでなければ叶えられない野望だったからだ。
だが、無名なら?
自分よりも優秀なあの男なら一体どんなガイアインパクトを起こせたのだろうか?
琉兵衛は誰もいなくなった園咲邸を眺める。
これから起こる事に使用人を巻き込ませないためにミュージアムの関係者以外は全員解雇した。
誰もいない部屋を眺める。
(冴子は加頭君が連れて行った。
ミックは井坂との戦いで生死不明。
そして、文音は......)
琉兵衛は立ち上がると家族で食事を取っていた場所へと足を運んだ。
「ここで、良く色んな物を食べたなぁ。」
冴子は我が儘な若菜にイライラして文音はそんな二人を見て微笑んでいる。
そこに来人が二人の仲を取り持とうとミックを抱えてしどろもどろする様は何時でも思い出せる。
それを見ながら充実した気持ちでご飯を食べる。
普通の家族の当たり前な食卓。
だが、目を開けるとその夢は砕け散る。
光の点らない部屋には琉兵衛一人しかいない。
琉兵衛の心が何か欠けた様に感じる。
今まであった筈なのに....心の隙間が埋まらない。
何故だ?
もうすぐ、長年の計画が実る筈なのにどうしてこんな気持ちになるのだ?
「違う!」
誰もいない食卓の机を思いっきり叩く。
「これは家族のためだ!
私はその為にこれまで生きてきた。
この行為は愛だ間違いでは....」
(本当にそう言えるのか?)
そんな声が聞こえその方向に目を向けるとそこには泥だらけの格好で私を見つめている"過去の自分"がいた。
過去の自分は私に見せつけるように
(こんな物を家族として思わないといけない程、自分を見失っていた君が愛を語れるのかね?)
「黙れ。」
(家族を愛した結果がこれか?
文音を失い冴子も消えてミックもいなくなり来人に至っては敵となっている。)
「黙れと言っている。
お前は私の心が作り出した幻覚だ。
私一人.....ここにいる私こそが本物でありその考えこそが真実だ。」
(その本物である君は来人を道具として扱い愛と言う言葉に隠して犯罪を犯してきたわけか。
随分と立派な愛だね私よ。)
「黙れぇぇ!」
「Terror」
琉兵衛は怒りのままテラーメモリを使いドーパントになると自分の幻影がいた場所をテラーフィールドで包み込む。
黒き恐怖のエネルギーが幻影を包むが幻影は笑っている。
(あっはっは、無駄だよ。
現実に私は存在しない。
君も分かっているだろう?
私はテラーメモリが見せる君の恐怖を象った幻影に過ぎない。
そして、それを見せているのは他でも無い"私自身"だ。)
「私が恐怖を覚えているとでも言うのか?」
(だからこそ、私が現れたのだ。
あの時と"同じ"だ。
私が始めてテラーメモリを手に入れた時と......)
「!?」
琉兵衛は自分の幻影にそう言われ始めてテラーメモリを手にした時を思い出す。
私は恐怖を知り、恐怖その物を喰らい従えた筈だった。
だが、不完全だったみたいだ。
「ならもう一度、屈服させるだけだ。」
幻影はそれを聞いて笑う。
(あっはっは、やはり何も分かっていない。
お前はメモリを手に入れた時から何も変わっていない。)
「どういう意味だ?」
(答えが知りたいなら会いに行け。
"誰に会えば良いか"は分かるだろう?)
そう告げると幻影はテラーフィールドのエネルギーに溶けて消えた。
残ったのはテラーフィールドにより粉々になった食卓だけだった。
計画の説明を終えメンバーはそれぞれの行動を開始した。
NEVERの面々や克己、マリア達は作戦の打ち合わせを別室で始め、翔太郎は荷物を取りに一度、風都の事務所へと戻り残ったフィリップと無名は作戦に必要な道具を作っていた。
「「..........」」
お互い黙ったまま作業を続けている。
口火を切ったのはフィリップだった。
「なぁ、無名。
聞きたいことがある。」
「何ですか?」
「君の知る"元の歴史"では僕達はどうなってたんだ?」
ゴエティアと接触したことでフィリップは歴史をリセットし繰り返している事実を知った。
余計な混乱を招くからと翔太郎達がいる場所ではリセットの詳しい話をしていなかった。
少しの沈黙の後、無名は話し始める。
「先ず、原作では僕や獅子神、サラのような幹部はいません。
同一人物はいたのかもしれませんが、少なくともゴールドメモリを使うことは無かった筈です。
そして、克己やマリアさんやNEVERの人達は風都タワーが占拠されたあの事件で全員亡くなります。」
「そう....なのか。」
「えぇ、まだ改良前の酵素を使い続けたせいで記憶を無くし本当のテロリストになっていましたから。」
薄々予感はしていたが無名から真実を聞かされフィリップは愕然とする。
今目の前にいた克己は自分の事をまるで弟のように慕い
仮面ライダーとして戦っている。
それがそんな末路を辿っていた事に驚きを隠せないでいた。
「そして、霧彦さんも死んでいてその復讐の為に雪絵さんは単身で冴子さんに復讐しようとして利用され仮面ライダーに倒されます。」
「.....それをしたのは冴子姉さんなのか?」
「.....えぇ、そしてその時に使っていたメモリの後遺症で雪絵さんは兄弟の記憶を無くすんです。」
「......他には?」
「もう止めませんか?
歩まなかった過去の結末を知ったところで今回もそうなるとは限らない。
もうゴエティアと僕のせいで未来は僕の知っていたものでは無くなっています。」
「そうだとしても僕は知りたいんだ。」
その焦った様な言い草に無名は疑問を持った。
「何故、そこまでして知りたいんですか?」
「それは.....僕が何も知らない...."知らされてない"からだ。」
そう言ってフィリップは作業を止めると無名の目を見つめた。
その目は罪人が罰を受ける前の様に憔悴している。
「....フィリップ、貴方は何を知ったんですか?
何を知って真実を知りたがっているのですか?」
「.....若菜姉さんが大道 克己のベルトとドライバーを破壊した。」
「えぇ、それは真実です。」
「それだけじゃないんだろう?
超越者の力を使う姉さんと対峙して分かった。
あの強さは一介のメモリユーザーの域を遥かに越えている。
何のリスクもなく助かったとは思えないんだ。」
「仮にそうだとしてそれを聞いてどうするんです?」
「...さっき裏で聞いたんだ。
盗み聞きするつもりはなかったんだが....大道 克己の許嫁であるミーナさんが"妊娠"してるらしい。」
「!?」
ミーナの妊娠は無名にとっても初耳だった。
「ここでそれを話せば作戦に支障が出るからとミーナがマリアに口止めしていた。」
「成る程、だからこそ知りたい訳ですね?
貴女の家族である若菜さんが克己さんに何をしたのかを.....」
「もう、取り返しが付かないのは分かっている。
でもだからと言って黙って見過ごす訳にはいかない。
そうしたくないんだ。」
そこで無名は理解した。
フィリップは覚悟を決めたいんだ。
自分の罪を聞くことで......
それが分かった無名も手を止めるとコーヒーポットに手を伸ばす。
「では、休憩がてら話しましょう。
ですが、覚悟してください。
貴方の想像を越える罪がある筈ですから.....」
そして、無名はフィリップに克己が若菜からの攻撃でもう永く生きられないこと、そして、本人が仮面ライダーとして死にたい事実を告げた。
それをフィリップは黙って聞いている。
感情的にならず、冷静に聞き入れようとしているが握り混んだ指の爪が皮膚に食い込み血を流している。
全て話し終わるとフィリップは深呼吸をする。
「ありがとう無名。
そうか.....姉さんはそんな罪を重ねていたのか。」
「一応、言っておきますがこの事を克己さんが貴方に伝えていないのは心配をかけたくないからです。
この罪を背負わせたくないと彼は思っているんです。」
「でも、背負わないと....無名の立てた作戦をやれば間違いなく大道克己は死ぬことになる。
産まれてくる子供に会うことすら出来ずに.....」
「それはメモリを使わなくても変わらないでしょう。
どの道、死んでしまう。
酷いようですがそれを分かった上で克己さんは戦う選択をしたんです。
最後の最後まで仮面ライダーとしているために.....」
「大道 克己が変身しないで作戦を成功させることは?」
「無理なことは貴方も分かっているでしょう?
彼が変身することが作戦において必要なんです。」
「なら、計画を修正して.....」
「そんな時間は無いでしょうし、克己さんが納得しないでしょう。
"態々、準備した作戦をやる前に捨てるのか!"と言って怒るでしょうね。」
「.....この事、NEVERの人達は?」
「"全員知ってます。"
それに、クオークスの人やミーナさんも.......」
「彼等は彼等なりに折り合いを付けてこの作戦に同意したんです。
だから僕もこの作戦に命を懸けます。」
「無名....」
「それに犠牲がどうとか言ったら僕はミュージアムの幹部として何人も犠牲にさせてきました。
黒岩さんもその一人です。」
「だから、決めたんです。
もう、"僕も逃げるのを止める".....犠牲を産み出し続けたゴエティアと決着をつける。
それが、"僕の罪の数え方"です。」
「罪の数え方....」
「"鳴海 荘吉"も.....そうしてきた。
僕も仮面ライダーを名乗る身ですから.....さぁ、休憩は終わりです。
作業を再開しましょう。
悩むのはその後です。」
「.....あぁ、そうだね。」
フィリップと無名は作業に戻る。
どんな結末を迎えても自分の罪の決着をつける。
その覚悟を抱えながら......
「えーっと、確かここに....!
あったあった。
ったくフィリップももっと分かりやすい所に置いとけよな。」
翔太郎はフィリップのラボから1つのアタッシュケースを取り出すと中を開けて入っている物を懐へ閉まった。
コイツが"必要"になる。
そんな直感からフィリップに場所を聞き出した物を手に取る。
本当ならこれは使わない方が良いんだろう。
嫉妬深い相棒が嫌いそうな物だ。
でも、俺ももう後悔したくない。
準備が足りなくて誰かを失うのはもう懲り懲りだ。
そうしてラボを出て事務所に戻ると壁にかけられた帽子に目が向いた。
"つばが欠けた白い帽子"....おやっさんがここぞって仕事の時に持っていく大事な帽子であり死んだおやっさんが託してくれた形見でもある。
(おやっさん、俺.....アンタみたいなハードボイルドにはなれてねぇわ。)
そんなことを考えていると事務所の扉が開く音が聞こえる。
「悪いが暫く探偵は休業してるんだ依頼ならまた今度してくれねぇか?」
顔を見ずに翔太郎がそう告げると入ってきた男が話す。
「そうか....だがこれは依頼ではない。
私の目的は君だよ左 翔太郎。」
その聞き馴染みのある声に驚いた翔太郎は顔を向ける。
そこには敵の頭目でありフィリップの父親である"園咲 琉兵衛"が立っていた。
「アンタは!?」
「ふむ来るのは始めてだが中々、良い場所だね。
師匠のセンスが良かったのかね?」
こちらの驚きを意に介さぬ様に告げる。
「何の用だ?」
警戒しながら翔太郎が告げる。
「おや、聞こえなかったかね?
私の用は君だよ。
何....ちょっとしたお茶のお誘いだ。
来てくれるかね?」
その問いに翔太郎は壁に掛けてあったおやっさんの白い帽子を取ると頭に被る。
「あぁ、良いぜ。
俺もアンタに会いたいと思っていたんだ。」
そう言うと二人は事務所を後にするのだった。
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