フィリップは地球の本棚に若菜と共に転送されていた。
『さぁ、来人。
遂に私達が融合を果たしガイアインパクトを始める時が来たわ。』
「姉さん....どうしてそこまでガイアインパクトにこだわるんだい?」
『何を当たり前の事を....それこそがミュージアムひいては私の願...』
「違う....それは父さんの願いであって若菜姉さんの願いじゃない。
本当は自分でも分かっているんじゃない?」
『何を言って....』
「不自然に思考が誘導されてると思わない?
昔の姉さんは風都のラジオアイドルとして生きてミュージアムとの関係を出来るだけ絶っていた。」
『それは...まだ私が幼かったからよ。』
「その幼い頃の気持ちはもう今の姉さんには関係ないの?」
『ごちゃごちゃと....!?』
フィリップと話していた若菜の頭に過去の記憶が蘇る。
家族と離れたくて始めたアイドル活動。
最初は反抗の気持ちからだった。
でも、ラジオ番組の仕事やテレビにも出られるようになってこんな私でも大丈夫なんだと自信がついた。
そして、そこで私は"フィリップ君"と会って.....!?
『違う!.....彼の名は園咲 来人よ。
フィリップって名前じゃ...!?』
「不思議ね....貴方には何でも話したくなる。」
「何時でも話を聞きますよ若菜さん」
「次は携帯じゃなくて顔を会わせたいわ。」
『違う違う!.....こんな記憶は正しくない!』
「次は携帯ごしじゃなくて....直接貴方と」
『うるさいっ!私の心を乱すなっ!』
虚空に向かって若菜が叫ぶ。
無名が最後に若菜へと放った攻撃......
それは若菜がゴエティアに洗脳された一部の能力を無効化させていた。
(作戦通り、無名は姉さんの過去の記憶を蓋していた力を無効化した。
今ならきっと思い出せる筈だ。)
無名がこのガイアインパクトを防ぐために出した結論は若菜かゴエティアのどちらかを無力化する事だった。
「ゴエティアの計画は完璧です。
下手に邪魔をすれば地球が破壊される.....ならばどちらかを無力化して計画を阻止するしかない。」
「でも、姉さんはゴエティアの洗脳を受けている。
簡単には元に戻せない。」
「えぇ、ですからここからは賭けです。
彼等の作戦を撹乱する為、表向きではタワーの破壊や装置の停止を目指します。
その間に僕が若菜さんに会えた場合、どうにかして黒炎の能力を使い彼女にかけられた洗脳の一部を無力化する。
全部は無理でも一部ならデーモンメモリのマキシマムで無力化出来る筈ですから.....」
そうして、無名はその賭けに勝った。
無名の黒炎は封じられていた若菜の記憶を呼び起こした。
「思い出してくれ姉さん....いや若菜さん!
僕達が始めて会った日を!それから話したことを!
本当の貴女はガイアインパクトなんて望んでない!
ただ、自分らしく行きたかっただけだ!」
「うる...さい!!...わ...たし..はミュージ...アム...の....くっ!あぁ!」
「苦しいんだね?
それはゴエティアの洗脳に抗っている証拠だ。
本当はこんなことはしたくない。
そう感じているから苦しいんだ!」
フィリップは手を広げると地球の本棚の力を発動する。
「必ず救って見せる。」
そう言うとフィリップの周りに大量の本が現れる。
「僕と姉さんの融合はエクストリームの変身プロセスから着想を得た....つまりはWのシステムをある程度は転用している筈.....なら、Wと同じ様に僕の精神だけ姉さんの元へ送ることが出来れば.....あった!
やはり、いける....."メイカー"!」
フィリップが、そう呼ぶと本棚の空間に人型のエネルギーが現れる。
「僕はこれから姉さんを助けに行く。
それまで僕の身体を頼んだよ。」
「.....承知致しました。
来人様が戻られるまで貴方の肉体を守って見せます。」
「ありがとうメイカー。
力を貸してくれサイクロンメモリ。」
フィリップはそう言ってサイクロンメモリを取り出すと自分の精神を転送した。
残った身体が地面に倒れるがサイクロンメモリは空へ浮いている。
(さぁ、行くよ。)
サイクロンメモリは勢いをつけながら若菜へ向かうと彼女の身体の中へと取り込まれていった。
代わりにメイカーがフィリップの倒れた身体の前に立つ。
「防衛プロトコル起動。」
メイカーは自らの身体からエネルギーを分けると盾の形に変えて意識の無いフィリップの身体を守るのだった。
フィリップが目を覚ましたのは地球の本棚ではなく生前、住んでいたであろう園咲邸だった。
家具や支度をしている使用人も若々しい。
(ここは....姉さんの記憶?)
フィリップは使用人に触れようとするがまるで幽霊の様に触れた部分が透けてしまった。
そんな事をしていると人形を持った少女がフィリップを見つめる。
「お兄ちゃん誰?」
「君...僕が見えるのかい?」
フィリップの問いに頷く少女は良く見ると彼女の面影が残っていた。
「姉....君は園咲 若菜さんだね?」
「うん、そうだよ。」
「そっか、君はどうしてここに?」
「....お父様が産まれた弟に会わせたいって言ったの」
(弟....つまりこれは僕が産まれた時の記憶なのか?)
そんな事を考えていると急に空間が変化し部屋が変わる。
目の前には大きなベッドがありそこには小さな赤子を抱えて微笑んでいる若い頃の
「お父様!」
「若菜か?....さぁおいでこの子はお前の弟になる来人だよ。」
人形を抱えながら父の元へ向かう幼き日の若菜だったが突如、優しい朝日が入っていた部屋が暗くなる。
「これは....」
『どうやら、招かれざる客が来たようだな?』
その声に振り向くと
『ここは彼女の深層心理の奥深くにある空間だ。
普通なら入れない筈だが、どうやってここに来た?』
「お前から姉さんを解放する。
その為にここに来た。」
『成る程、質問に答える気は無いか....仕方がない。
"私の計画"の成功には君は邪魔だ。
ここで君には退場して貰おう。』
「僕を殺すつもりかい?
そんな事をすればガイアインパクトは成立しなくなる。
姉さんが宇宙の巫女となるには僕の精神と肉体、両方と融合しないと行けない。
でないと力のコントロールが出来なくなる。」
『良く調べたな。
そうだ、君の精神は制御プログラムで肉体はチップだ。
どちらが欠けても融合は成立しない。
だが、そんな事はもう"どうでも良い"のさ。』
「どうでも良い......ずっと気になっていた事がある。
メイカーが僕へ命令権を移行した時だ。
姉さんの遺伝子情報を調べた。
半分以上が姉さんでは無い別の遺伝子に置き変わっていた。
その遺伝子は一体なんなんだ?
一体、誰の遺伝子が姉さんの中に入っている?」
その問いを聞いたゴエティアは笑う。
『半分か.....思ったよりも"進んでいないな"。』
「!?やっぱり何か秘密があるんだね。
君はこのガイアインパクトを最初から成功させる気が無い。
君の目的は何だゴエティア?
一体何を!?」
そう言いかけた所でゴエティアは指を弾いた。
フィリップが咄嗟に回避すると彼の立っていた空間に黒炎が上がる。
その炎は部屋全体を覆い始める。
『計画よりも少し早いが....まぁ良いだろう。
君には彼女の精神の中で死んで貰う。』
「何だって!?」
『君の存在は面倒なんだ。
計画を完璧に成功させる為にもここで消えてくれ。
あぁ、安心したまえ。
奪っていた彼女の心はここに置いていく。
共に焼かれて仲良く死ぬと良い。
では、さようなら』
「待て!」
フィリップがゴエティアを追いかけようとするがそれを黒炎が遮り顔をあげるとそこにはもうゴエティアはいなかった。
代わりに彼がいた場所に大人になった若菜が倒れている。
「姉さん!.....くっ!炎が邪魔を」
(先ずは姉さんの元に辿り着かないと....そうだ。
ゴエティアが言っていたじゃないかここは姉さんの精神世界、ナイトメアの事件と同じだ。
上手く力を使えば.....)
フィリップは頭でロストドライバーをイメージすると目の前にイメージ通りのロストドライバーが現れた。
フィリップはサイクロンメモリを取り出してロストドライバーに装填し腰にドライバーをつけると展開し黒炎へと走っていった。
「変身」
緑色の風が吹き荒れながら走っていくとそれにより黒炎が巻き上がり若菜の元へと道が開いた。
フィリップが仮面ライダーサイクロンへと変身が完了する頃には若菜の元へ辿り着いていた。
「姉さん!起きて!姉さん!」
フィリップが若菜の身体を揺さぶると彼女はゆっくりと目を開ける。
「フィ....リップ君?」
「良かった...目を覚ましたんですね。」
「私はどうしてここに?....」
「それは....!?」
フィリップが説明に戸惑っていると黒炎により燃え広がった空間に亀裂が入る。
「もう、この空間は持たない。
どうにかして戻らないと....若菜さん、ここは貴女の心の世界です。
貴女が目を覚ませばこの世界から出られる筈です。」
「でも....それじゃあフィリップ君は?」
「僕は大丈夫です。
早く!」
若菜はフィリップの言葉に従い"目を覚ます"事に意識を向けると彼女の身体が透明になっていきこの空間から姿を消した。
「これで姉さんは本棚に戻った筈だ。
後は僕がこの空間から出れば....くぁ!」
フィリップもこの空間から出ようと意識を向けようとするがその瞬間、フィリップの足元に亀裂が進み地面が割れる。
フィリップは落ちない様に壁にしがみつく。
「マズイ!これじゃあ、戻る前に空間が消える。」
打開策を考える時間も無く空間の崩壊が進むとフィリップはその穴の中へと消えていくのだった。
目を覚ました若菜は周囲を見回すとそこには地面に倒れ付しているフィリップの姿があった。
「フィリップ君!起きて!」
若菜はフィリップを抱き寄せて起こそうとするが意識を取り戻すことはない。
「そんな.....まさか!?」
最悪な結末を想像した若菜だったがそれは"急に目を覚ましたフィリップ"によって否定される。
「!?....はぁはぁ...」
「フィリップ君!.....良かった。」
起きたフィリップを見て安堵する若菜を見て彼は笑った。
「元に戻ったんですね若菜さん。」
「えぇ、貴方のお陰で.....ありがとう。」
「いえ、貴女が無事なら良かった。」
そう言って立ち上がるフィリップに若菜が尋ねる。
「でも、どうやってあの炎の中から助かったの?」
「メイカーが僕の身代わりになってくれたんです。」
黒炎により崩れ去った地面により落下するフィリップを救ったのは身体にノイズが走りながらもフィリップの手を握るメイカーだった。
「メイカーどうやってここに?」
『私の....身...体を...使っ...て..ここへの道....を作....り...まし..た。』
「バカな!?そんな事をすれば君のデータは...」
『良いの...です...貴方....死なせる...訳...には....いきません』
メイカーがそういつも繋いだ手が形を変えて一本の細い道へと変わる。
『は....やく....もう...じ...かん..が...』
「....メイカー、すまない。
"ありがとう"。」
フィリップはメイカーが残した道を通ってその場から姿を消した。
フィリップが無事に転送された事を確認するとメイカーは身体を崩壊させながら考えた。
(ありがとう....か。
まさか、感謝されるなんて....)
メイカーは園咲家の道具として作られた。
故に役に立つことは当然であり義務だった。
だが、感謝を受けたメイカーの心には別のものが生まれていた。
(消えていく筈なのに....私の心は....満たされている。
何故だろう?)
メイカーが悩んでいると他愛もない過去の記憶を思い出した。
あれはまだ無名がミュージアムで働いていた時、
雇用しているNEVERが成果を挙げた報告を受けた無名は笑顔でメンバーに感謝を告げていた。
それに疑問に思いながらもメモリ製作に関係ないと聞くことをしなかった。
だが今なら分かる。
何故、感謝をしたのか。
(言葉とは心を写す鏡....伝えたかったのだ。
心を....言葉として....感謝を....)
人からすれば当たり前の行動。
だが、メイカーはそれを知らなかった。
しかし、フィリップのお陰で知ることか出来たのだ。
フィリップからの心が籠った感謝の言葉はメイカーの心を刺激した。
辺りを見ればもう崩壊は手遅れなレベルで進んでいた。
メイカーがその崩壊に巻き込まれて消えるのはもう間もなくだ。
(どうせ消えるのなら....告げてみよう。
私の心を.....)
メイカーは自分の記憶を思い返す。
(私を作ってくれた無名、蛮野....そして私を認めミュージアムに置いてくれた琉兵衛様、冴子様、若菜様....そして最後に私に感謝の意味を教えてくれた来人様)
私は利用されるために作られた道具だ。
だが、それに後悔や悲しみはない。
何故なら、メイカーは産まれ存在するだけで幸福だったからだ。
だからこそ、言ったのだ。
誰もいない世界だろうとその言葉だけは.....
『ア.....リガ.....トウ』
(私を作り出した全て.......)
その言葉を告げたメイカーは満足しながら崩壊する空間と共に消滅するのだった。
外伝 続編の投稿に関して
-
このまま続きで見たい
-
新規投稿で見やすくしたい