その後、辺りはすっかり夕焼けに染っていて下校時間まであと少しとなっていた。今は近くのコンビニの前のベンチに3人で座っている。
「歩夢、それ何味?」
「限定のラクレットチーズ蜂蜜味だよ。食べる?」
「食べる!」
「柚月くんもいる?」
「いや、俺はいいよ」
「そっか、じゃあ半分こだね」
歩夢ちゃんは侑姉とコンビニで買ったパンを半分こして食べた。俺にもいるかと問いかけてくれたがそれだと2人の食べる分が減っちゃうから俺は遠慮しておいた。
「美味しいね!」
「うんっ!」
2人は美味しそうにパンを食べていた。俺はその光景を微笑ましそうに見つめていた。
……それにしても、まさかスクールアイドル同好会が廃部になったなんてな
廃部になった理由を知りたかったけど……聞いてもさすがに答えてくれないよね、あの感じだと相当深刻な理由っぽいし何より生徒会長としてそう易々と同好会の事情を他の生徒に話す訳にもいかないだろうしね。
そんなことを考えてると……
「残念だったね……」
「えっ……?」
「せつ菜さんの事だよ、まさか辞めちゃってた上に廃部になるなんてね」
歩夢ちゃんがスクールアイドル同好会のことについて話を切り出した。
「うん……ちょっとショックだったかな。せっかく会えると思ってたのに」
侑姉は声のトーンを落としながらそう言った。
「で、でも学校にはいるはずだし会おうと思えば……!」
「それはいいよ、辞める理由があったんだろうし」
侑姉はスクールアイドルのことを諦めたようだ。さっきまであんなに必死に探したのに……ほんとにいいのかな?
「やっぱり難しいのかな? 夢を追いかけるのって」
「夢……? どうしたのいきなり」
「ちょっと思ったんだよね……アイドルってみんな一生懸命夢を追いかけてるし、そんな人を応援できたら。私も何かやりたいことが見つかるかも……そんな気がしたんだ」
「……」
侑姉の言葉に、俺も歩夢ちゃんもただ無言になるしかなかった。
侑姉にとって、スクールアイドルは初めて夢中になれるものであったんだろう、昨日ライブを見た人たちの中で誰よりも興奮していたに違いない。
「……なんてねっ! お台場寄って帰ろっか」
侑姉は立ち上がり俺と歩夢ちゃんに満面の笑みを向けそう言った。しかしその笑顔からはどこか悲しそうにしているような気がした。きっと心の中では諦めきれてないんだろう。無理もない、せっかく見つけた夢中になれるものを見つけたのに……優木さんには会えないどころかスクールアイドルを辞めてるという事実、そして同好会が廃部になったという事実を知らされたんだから……悲しいに決まってる。きっと侑姉が笑顔なのも俺たちが心配しないようにしてくれてるんだ。
……侑姉が悲しい思いをしてるとこなんて見てられない。いつだって、どんな時だって侑姉……そして歩夢ちゃん、この2人が悲しい思いしてるなんてあってはいけない。そうならないように俺が何とかしなきゃいけないんだ……。そのためなら俺は……
「柚月?」
「柚月くん?」
「……えっ? あ……ご、ごめんボーっとしてたよ」
そんなことを考えていたら、俺を見て心配したのか2人が呼びかけてくれた。
「苦しそうな顔してたけど……大丈夫? 具合でも悪いの?」
先程まで険しい顔をしていたせいか歩夢ちゃんに要らぬ心配をかけてしまったようだ。それだけじゃなく侑姉も不安そうな顔で俺を見つめている。
「あはは、大丈夫だって。ちょっと考えごとしてただけだからさ」
「そうなの? ならいいんだけど……」
「歩夢ちゃんは心配性だなぁ。俺の事なんてどうでもいいのに。それより侑姉、お台場行くんでしょ?」
「え? う、うん」
「だったら付き合うよ。ほら、早いとこ行こうよ」
俺はお台場に寄るという話題に話を戻し、俺たちはお台場へと向かった。
そして目的の場所に到着。昨日は律と一緒に遊んでて2人とは帰れなかったから今日は付き合ってあげないとね。今は雑貨屋で色々物色してるとこだよ。
「そういえば昨日2人はここで何をしてたの?」
俺は侑姉に2人が何してたのか気になったので問いかけてみた。
「んー……昨日も色々見て回ったんだけど結局何も買わなかったし……特にこれといって今と変わらないかな」
「なんだ、そうだったんだね」
「うん、良さそうな物はいくつかあったけどいまいちトキメキが足りなかったからさ……あ、そうだ」
そんな話をしていると、侑姉が突如何かを思い出したような反応をした。
「柚月に聞きたい事があったんだ、ねぇ歩夢……って歩夢は?」
「歩夢ちゃん? 歩夢ちゃんならさっきそこに……」
「ほんとだ、歩夢ー!」
俺が指さす方向にはショーケースを眺めている歩夢ちゃんがいた。侑姉は歩夢ちゃんの元へと駆け足で向かって行ったので俺もついて行く。歩夢ちゃんが眺めていたショーケースにはピンク色のワンピースが飾られていた。しかし何故だか歩夢ちゃんが浮かない顔をしている。
「ゆ、侑ちゃん?! 柚月くんも……!」
「ん? あ、これって昨日の……! やっぱり歩夢も気になるんじゃん! 絶対似合うってば!」
「ち、違うの! ほんとに気になっただけで……! 着てみたいとかそういうのじゃ……」
「えー? 絶対似合うのに〜」
「えーっと……話が見えないんだけど……2人ともどうしたのさ?」
昨日俺がいない間ここで2人の何かしらのやり取りがあったんだろう。
「えっとね、実は昨日このワンピースを見つけて歩夢に似合いそうって思ったんだ! 柚月もそう思うでしょ?」
俺が疑問に思っていると侑姉が答えてくれた。なるほど、さっき言ってた聞きたい事っていうのはこの事かな。
「も、もう……侑ちゃんってばぁ……」
侑姉が俺に質問すると歩夢ちゃんは恥ずかしそうな反応をした。……なんだか昨日の2人のやり取りが簡単に想像できるなぁ、恐らく侑姉が歩夢ちゃんは何着ても可愛いとか言ったんだろう。
……けど、実際に侑姉の言ってることは正しいと思う。
「俺もこの服は歩夢ちゃんに似合うと思うよ」
「おぉ! だよねだよね!」
「ゆ、柚月くんまで……」
俺がそう言うと侑姉は俺の意見に賛同し、歩夢ちゃんは恥ずかしそうにしつつも少し驚いて俺の方を見ている。
「歩夢ちゃんだってその服を可愛いって思うでしょ?」
「確かに可愛いよ……? けどもう高校生だしピンクの服なんて子供っぽいし……」
……と、歩夢ちゃんは少し不安そうに言った。
「うーん……気持ちは分からなくもないけどさ、そんなの大した問題じゃないんじゃない?」
「え?」
俺がそう言うと歩夢ちゃんは疑問に思ったような顔をした。
「子供っぽいって誰かに言われたわけじゃないんでしょ? それに誰かに言われたとしてもそんなの関係ないよ、歩夢ちゃんがどうしたいのか……それが1番大事なことだよ」
「私が……どう思うか……」
誰に何を言われようが関係ない、自分がやってみたいと思ったらそれでいいんだ。それは服に限らずどんなことだって同じだ。……まぁ歩夢ちゃんは可愛いと思うだけで着たいとは言ってないんだけど……
けど俺はあの服を着た歩夢ちゃんは見てみたいかな、歩夢ちゃんはピンクで可愛い服が似合うに決まってるからね。恥ずかしいから本人には言えないけど
「フッ……息を吐くようにかっこいいことを言えるなんて……さすが俺だなっ!」
「あーあ、いい事言ったのにそれのせいで台無しだよ」
「なんでさ! 別にいいじゃん!」
自分のセリフに酔いしれてると侑姉にツッコまれた、悲しい。
「……ふふっ」
「ん? どうしたの?」
そんな俺たちのやり取りを見ていた歩夢ちゃんが笑いを零したのでどうしたのか疑問に思った俺は歩夢ちゃんに問いかけてみた。
「なんでもないよ。ありがとね柚月くん、励ましてくれて」
「そんなの気にしないでよ、大したことはしてないし」
歩夢ちゃんは微笑みながら俺にお礼を言った。不覚にも歩夢ちゃんの笑顔にドキッとしたのは内緒だよ? 先程まで浮かない顔だったが今は顔つきが変わり、穏やかな表情へと変わっている。
「それじゃそろそろ帰ろっか!」
「うん、そうだね……あっ!」
「どうしたの?」
「ノート新しいの買わなきゃいけないんだった……忘れてた」
侑姉が帰ろうと話を切り出した時、俺は買い忘れがあることを思い出した。
「ごめんね、すぐ買ってくるよ。2人は先にバス停に行ってていいよ」
「うん分かった。バス停で待ってるね」
俺は2人にそう言い残し、文房具が売ってあるコーナーへと駆け足で向かった。
そして柚月が去った後……
「よかったね、柚月に褒めてもらえて」
「う、うん……」
「柚月だって絶対歩夢の事可愛いって思ってるよ」
「そ、そうなのかな……」
「そうに決まってるよ! あれ? 歩夢ってば嬉しそうじゃん」
「へ? も、もう……からかわないで!」
「あははっ! じゃあバス停行っちゃおっか」
「そうだね……あっ!」
「歩夢? どうしたの?」
「私も買わなきゃいけないもの思い出しちゃった……。行ってくるね! 侑ちゃんは先にバス停に行ってて!」
「あ、歩夢! ……行っちゃった」
2人のこんなやり取りを彼は知る由もなかった。
そしてその後無事ノートを買い終わって、2人が待ってるバス停に向かうと侑姉が待ってくれていた。しかし歩夢ちゃんの姿が見えないのでどうしたのかと思って侑姉に話を聞いてみるとどうやら歩夢ちゃんも買い忘れがあったらしくちょうどそんな話をしている時に歩夢ちゃんがやってきた。……文房具コーナーで歩夢ちゃんの姿は見かけなかった気がするけど……また別の物かな。……と、そんなことを考えていたらちょうどバスがやってきたので3人でバスに乗車した。
そしてバスに乗車し、侑姉と歩夢ちゃんは2人席に、俺はその後ろの席に1人で座っている。窓からの景色を眺めたりしながら目的地に到着するのを待っていると……
「ねぇ柚月くん」
「歩夢ちゃん? どうしたの?」
名前を呼ばれたので振り向いて見ると歩夢ちゃんが座席から顔を覗かせ俺の方に視線を向けていた。
「柚月くんって私達が悩んでたり落ち込んでる時……いつもさっきみたいに励ましてくれるなって思って……」
「なんだ、そんなことか。当然のことをしたまでだし別に……」
「当然のこと、なんかじゃないよ」
すると、歩夢ちゃんの隣に座っていた侑姉も話に入ってきた。
「私たちにとっては、柚月がそうやって励ましたりしてくれる事がすっごく嬉しいんだから」
「そ、そうなんだ……」
座席から顔を覗かせながら、優しい笑顔を向けている侑姉と歩夢ちゃん。それを見た俺は気恥しさを感じてしまう。
「ま……なんにせよ俺は強くてカッコよくて頼りにされるような男になるんだし……それくらい造作もないさ!!」
「ちょっと! バスの中なんだし大人しくして!」
「うっ……す、すみません」
俺は恥ずかしさを誤魔化すために、立ち上がり決めゼリフを言いながらカッコイイポーズをとった……のだが侑姉に注意され他の乗客の人たちも俺が立ち上がり決めゼリフを言った事で驚き俺の方に注目する始末。余計恥ずかしいことになったじゃん、自業自得だけど。そして俺は乗客の人たちに一言謝罪をしてすぐさま座席に座り直した。
「あー……恥ずかしかった」
「でも今の柚月くんも可愛かったよ?」
「うんうん、だよね!」
「そう……? ……って、可愛いって言わないでってば!」
そんな俺を見てた歩夢ちゃんと侑姉から、恒例の可愛い弄りをされた。……いや恒例のって何さ、恒例化して欲しくないよこんなの。
「ふふっ、ごめんごめん」
「全く……」
俺の反応を見て満足したのか座席から顔を覗かせるのを辞めた。このままじゃだめだな、もっとかっこよさの研究をしなきゃ。
……ま、それにしても……
「励ましてくれることが嬉しい……か」
俺は前に座ってる2人に聞こえないような声でボソッとそんなことを呟いた。
2人にそう言われた時は、恥ずかしさもあったけど2人に必要とされているみたいで嬉しい気持ちもあった。
でも、それだけじゃ足りない。2人に必要とされているのならもっと、頑張らなきゃ……もっと……もっと……だって……
俺は……2人の笑顔を守る……そう決めたんだから…
そしてその後、バスから降りて他愛ない話をしていたら、気づけばマンションの前まで来ていた。
「あ、そういえば明日の数学さ……」
侑姉が明日の事について訪ねようとした時、歩夢ちゃんが立ち止まった。
「あれ、歩夢ちゃんどうかした?」
俺は歩夢ちゃんに声をかけたが返事はない、体調でも悪いのかと心配になったのだが……
「3人で……3人で始めてみようよ!」
「「えっ……?」」
「私も見てたんだ。スクールアイドルの動画……せつ菜さんだけじゃなくて色んな人の動画を見たの。みんなすごいなって……自分の気持ちを真っ直ぐ伝えてて、私もあんな風に出来たらなんて素敵だろうって……」
歩夢ちゃんの唐突な宣言と熱弁に俺と侑姉は驚きを隠せず目を見張ってしまう。
「ごめんね、最初に言えなくて。本当は私もせつ菜さんに会ってみたかった……けど、会っちゃったら自分の気持ちが止まらなくなりそうで怖かったの……。それでも動き始めたなら、辞めちゃいけない……我慢しちゃいけないんだって気づいたの……!」
歩夢ちゃんがここまで熱く語ってるのは初めて見るな……
「私、好きなの! ピンクとか、可愛い服だって今でも大好きだし……着てみたいって思う!!」
今目の前にいる歩夢ちゃんは、先程まで子供っぽいなどと恥ずかしがっていた時とは違い、スクールアイドルをやってみたい……そんな強いオーラを感じた。
「自分に素直になりたい……私も、キラキラ輝くスクールアイドルになりたい!! ……だから、見てて欲しいの!」
そう言って歩夢ちゃんは鞄を置き、階段を勢いよく駆け上がり、踊り場に立ち止まり、俺たちの方を向いた。すると歩夢ちゃんは、目を瞑り深呼吸をして……
「〜〜〜♪」
優しい声で歌い始め、小さくリズムを取っている。
見よう見まねで始めたのだろう、動きが固くお世辞にも上手とはいえないダンスだった。
しかし、俺には目の前で踊っている歩夢ちゃんは昨日見たどのスクールアイドルよりも輝いて見える。歩夢ちゃんの歌からは夢に向かって一歩踏み出し、その夢のために突き進んでいく……そんな意思を感じとることができた。
そして歌い終わり、歩夢ちゃんは階段をゆっくり降りて俺たちの元に戻ってきた。
「今はまだ勇気も自信も全然だから……これが精一杯」
「歩夢……」
そう言いながら歩夢ちゃんは鞄を持ち上げ、中から2つのパスケースを取り出した。ピンク、緑とそれぞれ別の色のパスケースだった。歩夢ちゃんは侑姉の前に立ち、緑色のパスケースの緑色を侑姉に差し出し、侑姉はそれを受け取った。
「そして……柚月くんにはこれ……」
侑姉に緑色のパスケースを渡した後歩夢ちゃんは次に俺の方を向き、カバンからベージュ色のパスケースを取り出して俺に差し出した。
「俺の分まで……」
「うん……私、2人にも一緒に夢を見て欲しいの!」
俺は歩夢ちゃんからパスケースを受け取り、それを数秒ほど眺めた後、歩夢ちゃんの方へ視線を向けた。すると心做しか歩夢ちゃんの瞳が涙で滲んでいる気がした。
そして少しの間だけ、静寂が続き……
「もちろん! 私はいつだって歩夢の隣にいるし……歩夢の夢を応援するよ!」
緑色のパスケースを受け取った侑姉は歩夢ちゃんに笑顔を向けそう言った。
「侑ちゃん……!」
侑姉の発言に歩夢ちゃんは涙を浮かばせながらも笑みをこぼす。
「ふふっ、それで柚月は?」
侑姉は俺の方を向き微笑みながら俺に問いかけてきた。
……歩夢ちゃんがあそこまで熱くなるなんてな……。侑姉もそうだけど2人があんなに熱くなるのは初めて見た気がする
歩夢ちゃんがスクールアイドルを目指して侑姉がそれを応援する……。そして、俺も侑姉と一緒に歩夢ちゃんの事を応援……それをすることで力になれるなら……俺は…
「……そんなの聞かなくてもわかるでしょ? 侑姉に先越されちゃったけどね……俺だって歩夢ちゃんの隣にいたい……歩夢ちゃんの夢を応援したい! 一緒に……3人で頑張ろうよ!!」
先に侑姉に言われたとはいえ、俺だって歩夢ちゃんを思う気持ち、応援したいって気持ちは侑姉に負けてない。そんな俺の気持ちを歩夢ちゃんに伝えた。
「うんっ……! 2人とも、ありがとう……!!」
歩夢ちゃんは満面の笑みで俺に頷いてくれた。
歩夢ちゃんが夢に向かって1歩踏み出し、侑姉はそれを応援する。
なら、俺も一緒に応援しない訳にはいかない。だって2人は俺にとって大切な人だから。
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