聖櫻Days~キミと過ごす、特別な日々〜   作:もちうさ

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当小説大幅アップデート第1弾です(・ω・)ノ


第1話『2人で交わした約束』

 

 

 

  聖櫻学園…

 そこは、幼稚園から大学までを一体運営する創立100年を越える指折りの名門校。

 

 中等部までは厳しいルールの下にあるが、聖櫻学園高等部は全生徒の個性を尊重し、服装や校則に縛られない自由な校風があるという異色の学校。

 故に様々な個性を持つ生徒たちが在籍しており、一人一人が個々の個性を尊重しあっている。

 そして生徒たちの代表たる生徒会が生徒たちの意見に耳を傾け、より良い学園生活を送れるよう常に新しい風を入れている。

 

 全所属生徒1000人、その男女比は3:7と女子生徒の比率が高いものの。

 少なからず在籍している男子生徒にだって、彼女らに負けない魅力と輝きを放つ生徒たちがいる。

 

 個性のるつぼを構成している生徒たちに生徒会とそれらを見守る教諭たちは皆、聖櫻の中でお祭り騒ぎのように学校生活を送っている。

 

 

 

 今日も朝日が昇り、聖櫻生が住まう家々を照らす。

 

 さぁ、今日も新たな1日の始まりだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 1日の始まりを告ぐ朝日が聖櫻町へ降り注ぐ。

 その陽光が一つの家、そしてとある部屋へ差し込んだ。

 

 パステルブルーのカーテン。オフホワイトの壁紙。

 

 明るい基調のフローリングには可愛らしいデザインの円卓テーブル。

 

 中にお気に入りのアロマキャンドルが並べられているメルヘンな収納扉。

 

 そして所狭しと並べられているクジラやイルカ、チンアナゴといった海洋生物のぬいぐるみたち。

 

 そして、これまたメルヘンなベッドでクジラの絵柄が可愛らしいブルーの掛け布団に包まりながら夢の中に入っている1人の男の子へ……

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!

 

 

 枕元の目覚まし時計がけたたましく鳴る。

 その音で布団に包まっていた男の子は薄目を開ける。 

 

 

「翔〜、早く起きなさ〜い」

 

 

 下の階からだろうか、彼の母親らしき声が聞こえてきた。

 

 それを聞いた男の子はあと5分……と言わんばかりにむっくりと起き上がり、カーテンを開けると──

 

 

「わぁ…綺麗な朝焼け…」

 

 

 聖櫻町を照らす朝日が部屋へ差し込み、外では清々しい風が町内を駆け抜けるのが見えた。

 そして外を見たついでにチラリと時計を見ると……

 

 

「あっ、そろそろ起きて支度しないと」

 

 

 いい加減起きて準備しなさいとばかりに目覚まし時計が時間で促したのでゆっくりと起き上がり、夢を見せてくれたベッドから身体を離した彼は先ず自室を出て顔を洗い、そして再び部屋へ戻ってパジャマから制服へ着替える。

 

 彼の名前は皆藤翔。聖櫻学園に通う2学年の男子生徒だ。 

 

 成績優秀で運動も得意という文武両道を貫く彼は普段のクラスでは余り目立たないが、学内では部活のこともあってか常に人気者で友達もそれなりにいる。

 

 先生からの人望も厚く、生徒からも信用されているという学園のアイドルのような愛され役。

 これだけ見れば、何処にでも居そうなごく普通の男の子だと思うが……

 

 彼はそのような男子とは一線を画している。

 

 先ずはその見た目や雰囲気、身体つきが限りなく女の子に近いのだ。

 おかげで幼い頃からかなりの高頻度、高確率で女の子だと勘違いされたり見間違われたりされてきた。

 だが、彼は別に迷惑とは思っていないどころか寧ろ嬉しく思っており、それが自分が自分である所以だとポジティブに捉えているという。

 

 そして今着替えた制服も上のYシャツとブレザーは女子のものであり、胸元には大きな可愛いリボンが付けられている。

 そして下のズボンは女子のスカートと同じブルーのタータンチェックだ。

 何故そのような格好になったのかはまた別のお話で。

 

 そんな彼が属しているのは新体操部。

 そう。今朝は秋の全国大会に向けた練習の一環で早起きしたのだ。

 

 

「……よし。さて、支度も済んだし朝ごはん食べに行こうかな」

 

 

 朝の支度を終えた皆藤は自室を出て1階のリビングダイニングへと向かい、父の拓巳と母の唯花に挨拶する。

 

 

「お父さん、お母さん。おはよう」

「ああ、翔。おはよう」

「おはよう、翔。お弁当できてるわよ。はい」

「あ、お母さん。ありがとう」

 

 

 リビングダイニングで朝食を食べていた彼の父と母に挨拶した皆藤は、朝のニュースを伝える50インチの薄型テレビを横目にダイニングの椅子へと座って朝食を食べる。

 

 

「翔。今日も朝練か。そろそろ秋の大会が近いんだな。予定が合ったら、今年も観に行くつもりだよ」

「えぇ、それに前回の大会には椎名さんのご両親ともご一緒させて頂いたわよね。あそこの娘さんとは本当に仲良くさせて頂いているから、私たちも嬉しいわ」

「えへへ……今年は新しいプログラムで臨むから楽しみにしていてね。それに心実ちゃんとは今年も表彰台の1番高いところへ上ろうねと約束してるし、いつもあの子とは一緒だから……今年もきっと……優勝できる気がするんだ」

 

 

 拓巳と唯花が迫りつつある大会と仲良くさせてもらっている女の子の話で盛り上がると、皆藤も僅かに頬を赤くしながら微笑んで答えた。

 

 今日もその女の子──皆藤と同じ文武両道で新体操部のエースである椎名心実と共に、一緒に全国大会のてっぺんを目指すために。

 

 

 

 

 

 

 

「翔、忘れ物はない?」

「うん、大丈夫。…それじゃあ、行ってきます」

 

 

 出勤する拓巳より一足お先に家を出た皆藤。

 唯花に送り出してもらい、一路聖櫻学園へと向かった。

 

 学園へと向かう道中は朝の心地いい清らかな風が皆藤へ優しく吹き、出勤する人々やクルマがひっきりなしでは無いが、それなりの頻度ですれ違う。

 もちろん、他校の生徒や同じ聖櫻の生徒とも。

 

 と、交差点の右側から聖櫻の制服の生徒が近づいてきた。

 別の部活なのだろうか。その生徒は皆藤の前へ出るとせっせと走り、あっという間にその背中を消していった。

 

 そうして歩いて15分。聖櫻学園の門を潜った皆藤は新体操部の練習が開かれている新体操場へと向かった。

 そして更衣室の扉を開き、ここでいいかなと適当に見つけたロッカーを開け、制服からレオタードへと着替える。

 

 鮮やかで深みのある、可愛らしいブルーとホワイトのレオタード。

 そのデザインは女子用のレオタードのように上下が繋がっており、背中が競泳水着のように空いている。

 並の男子新体操選手が着ているものとは明らかに違うレオタードは、最早女子用をも思わせるほど身体のラインにピッタリとくっつく。

 

 噂では前々回、いやそれよりもっと前の大会でそれをベースにした華やかなで可愛らしいキラキラのレオタードで大会に臨んだところ、それが可愛すぎると話題となり、今や少しずつ同じレオタードを着用し始めている選手もいるとかいないとか。

 

 

「…これでよし」

 

 

 そんな小さいブームの火付け役である皆藤はレオタードへと着替え、ロッカーの鏡でニッコリと自信に満ちた笑みを残し、練習場へと繋がる扉を開けた。

 

 

「皆さん、おはようございます」

「あら、皆藤くん。おはよう。椎名さんは既に柔軟始めてるわよ」

「先輩、おはようございます」

「おはようございます、先輩」

 

 

 練習場へ入り挨拶すると、顧問で世界史教師の深見と後輩たちが挨拶した。

 皆藤はストレッチの輪の中へ入り、身体を入念に伸ばしていく。

 その中にはいつものレオタード姿の椎名の姿もあった。

 

 ひとしきりストレッチを済ませた皆藤はCDレコーダーのスイッチを入れ、手具のクラブを両手にレコーダーからかかってきたクラシック音楽に合わせて演技を開始。

 

 クラブを巧みに操り、深見が考案したプログラムに合わせて次々と技を決めていく。

 

 皆藤の妖艶でかつ優雅な、直向きに情熱と情念を感じさせつつも惚れ惚れとする演技は男子新体操の範疇を超え、寧ろ女子の演技なのではと錯覚させる。

 そして、そんな彼の演技に釘付けになった休憩中だった生徒たちの視線が集まり出し、発表会の様用を呈してきた。

 

 そして、その中には……

 

 

「グフフ……2人とも、今日も朝練に励んでいるわねぇ〜。あの晴れやかな顔を流れる一滴の汗……身体のラインにピッタリくっつくレオタード……妖精のように鮮やかな演技がもぅたまらな〜い♡」

 

 

 外の植え込みに隠れながら、皆藤と椎名の演技のシャッターチャンスを伺っていたのはスト……いや、3年生で写真部の部長である望月エレナだ。

 

 彼女は植え込みに隠れながら2人の演技の1番の見せ所、必中のチャンスを伺っていた。

 そんなことはお構いなしに皆藤は隣で練習を行う椎名と共に次々とプログラムをこなしていく。

 

 そして、遂に大技の時間がやってきた。

 皆藤は両手のクラブを新体操場の屋根目掛けて投げた。

 そして、技を決めつつ投げられたクラブをキャッチでき………

 

 パシャッ!!

 

 その瞬間シャッター音が鳴った。

 

 その音にクラブをキャッチできた皆藤は驚き、不意に鳴った方へ視線を向ける。

 そして、音が鳴った植え込みから出てきた正体に皆藤は胸を撫で下ろした。

 

 

「今の技、最高だったわよ〜」

「あ……望月先輩、おはようございます。あの、今の音って……」

「私が鳴らしたシャッター音よ。2人の演技、しっかり撮らせてもらったわぁ♡」

「えっ? でも先輩一体何処に…あ、もしかしてあの植え込みに隠れて?」

「流石翔くん、ご明察〜♪だって練習を邪魔するわけにはいかないじゃない〜」

「そ、そうなんですね。…あは、あはは、あはははは……」

 

 

 思わず出た皆藤の苦笑いに望月はウフフと微笑む。

 彼女的にはこれは盗撮でもなければ悪気もなく、ただ純粋に部活に熱を入れる生徒たち(主に女の子たち)を撮りたいというのが望月のポリシーなのだ(もちろん別の目的もあるが)。

 

 もぅ、全くこの先輩は……と苦笑いする皆藤の元へ、また1人ゲストがやってきた。

 

 

「カンペキでしたネ〜♪今の見てましたヨ〜」

 

 

 パチパチと拍手しながらやって来たブロンズの美少女。

 もちろん、皆藤は3年生の制服に身を包み辿々しい日本語を話す彼女が誰なのかは知っている。

 

 

「あ……クロエさん。おはようございます。さっきの演技…見てくれていたんですね」

「ウィ、もちろんです。さきほどの翔サンの演技はホントにウットリしちゃいましたヨ。心実サンと貴方は聖櫻が誇る妖精さんですからネ〜」

 

 

 彼女の名はクロエ・ルメール。フランスから単身で日本へ留学している留学生だ。

 幼い頃故郷のパリの自宅で見た魔法少女のアニメをキッカケに日本に興味を持ち高校生になったタイミングで日本へ、そして聖櫻学園へやって来たのだ。

 

 皆藤の他に椎名とも仲が良く、よく椎名とクロエで昼最中の中庭にいるのは皆藤は何度も見ている。

 

 

「砂夜サンから聞きましたヨ。今年は新しいプログラムで臨むと」

「はい。そうなんです。実は以前から技のレベルを上げてはどうかと深見先生と相談していたんです。それで今年の大会のタイミングに合わせて今回のプログラムが実現したんです」

 

 

 皆藤はクロエに話しながら背後を振り向き、深見からのアドバイスを聞いている椎名の真面目な表情をチラッと見やる。

 

 

「心実ちゃんも僕と同じタイミングで新しいプログラムにしたそうなので、今年は新しいプログラムで男女揃って……優勝しようねって」

 

 

 皆藤は椎名の方を向くと、彼女も気づいたのか微笑みと共に手を振る。

 

 

「ホント2人は腹心の友よねぇ〜、2人で新しいプログラムに挑戦するなんて」

「ウィ♪心実サンと翔サンほど友情と言う言葉が似合う2人はいませんからネ」

 

 そしてそんな友情で結ばれている皆藤と椎名に望月とクロエは口々に感想を漏らす。

 

 

「あっ、キミは練習の途中だったわね。練習の邪魔になってるからそろそろ席を外そうかしら」

「そうですネ。それでは翔サン、心実サンと一緒に大会頑張ってくださいネ♪」

「はい。お二人とも、ありがとうございました」

 

 

 手を振ってその場を後にする望月とクロエに手を振った皆藤。

 そこへひとしきり練習を済ませた椎名がやって来た。

 

 

「…おはようございます、翔さん。私、まだ挨拶してなかったですよね。練習時間はそろそろ終わりですよ?」

「えっ? あっ…おはよう、心実ちゃん。僕が入った時真面目な顔で柔軟してたよね」

「…ふふふ、そういえば望月先輩とクロエさんと話されてましたよね? お二人とはどんなお話を?」

「お二人とも大会頑張ってって言ってたよ。今年はきみも僕も新しいプログラムで臨むんだし、聖櫻の期待を一手に担っているんだから、これからも気を引き締めて頑張りますって伝えたんだ」

「そうだったんですね。ええ、今年の大会は……2人で新しいプログラムに挑戦して、男女揃って優勝することが第1の目標ですから。それもきっと、あなたが居てくれればきっと……ふふっ、翔さん。2人で一緒に、あの表彰台の頂点目指して頑張りましょうね♪」

 

 

 椎名は皆藤へ微笑みながら、彼と共に優勝することへの固い意志を持つ。

 自分の隣にいる時は何処か素直な彼女に皆藤は微笑んでいた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 そうして朝練を終えた皆藤と椎名は2年生のクラスがある校舎の2階へ上がり、また後でと手を張りながらそれぞれのクラスへと入っていく。

 椎名は2-B、皆藤は2-Cだ。

 

 そしてC組へ入った皆藤を出迎えたのは──

 

 

「あっ、翔くん。おはよう」

「おはよう、翔くん」

 

 

 クラスメイトで仲良しの男子生徒、新名由依と櫻井潤だ。

 新名はクラスメイトである加賀美茉莉と同じテニス部、櫻井は部活には入っていないがソロアーティストとして活動しており、軽音楽部『にゅ〜ろん☆くりぃむそふと』の各メンバーと親交を持っている。

 

 

「あっ、由依くんに潤くん。おはよう」

 

 

 2人からの挨拶に皆藤は笑顔で挨拶する。

 

 皆藤と新名、そして櫻井は2-Cでは有名な仲良しトリオ。

 2-Bの椎名と相楽、佐伯や3年生の玉井と九重、浅見といった女子生徒のトリオは決して珍しくはないが、皆藤たちのトリオは男子生徒にしてはかなり珍しい部類に入る。

 

 そして新名と櫻井も皆藤と同じく2人も幼い頃から高頻度&高確率で女の子だと勘違いされたり見間違われてきた過去を待ち、今日も皆藤と同じ制服を着てることもあってか偶に女子生徒と間違われることがあるという。

 そんな異例の仲良しトリオのうち、新名が皆藤へ話しかける。

 

 

「翔くんも大会が近づいてきてるね。僕もテニスの全国大会が近づいてるから練習のペースを上げてきてるんだけど。新体操部はどんな感じ?」

「そうだね、えっと……新体操部も少しずつだけど練習のギアは上げてきてるよ。僕も心実ちゃんも今回の大会には新しいプログラムで臨むから尚更だけどね」

「やっぱみんなそうなるか……テニス部はまだお休みの日はあるけど、新体操部はずっと練習してるイメージがあるなぁ〜」

「あはは、うちだと遅くまで練習することも珍しくないからね。その代わり翌日はお休みになる時もあるけど…」

 

 

 皆藤は苦笑いしながら新体操部の事情を話す。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、秋の時期になるとどの部活も大会のために朝早くから夕方遅くまで練習に勤しんでいる。

  

 そして、そんな練習漬けの日々を送る生徒たちへ更に追い打ちをかけるのが──

 

 

「そこに加えてテストもあるでしょ? だから毎年この時期になると勉強と練習のバランスで悩んじゃうんだよ〜」

「由依くん、それ毎年言ってない?」

 

 

 秋の中間テストだ。

 運動は得意なのだが成績は芳しくない新名はこの時期が大の苦手。

 故に彼は毎年毎年同じことを言っては苦笑いしているのだ。

 そんな彼へ空かさず突っ込みを入れた櫻井に皆藤がこう提案する。

 

 

「まあまあ、今年も一緒に勉強会開こうよ。何なら明音ちゃんたちも声をかけてさ。」

「明音ちゃんたちも?」

「おっ、それいいね〜」

 

 

 皆藤の提案に新名と櫻井は賛同。近いうちに声をかけることで話が纏まった。

 

 と……

 

 キーンコーンカーンコーン!!

 

 まるで何処かの教会のベルの音のようなチャイムが鳴った。

 皆藤は周りを見回すと、さっきまで疎らだった筈の教室が賑やかになっていた。

 

 

「みんな〜席に着きなさ〜い!」

 

 

 教室に入ってきたのはピンク髪のショートカットの小柄な先生の姿が。  

 古文と現代文の教師にして弓道部顧問の橘響子だ。

 1時間目の授業は古文。

 

 皆藤は自分の席の机の上に古文の教科書とノート、筆箱を置いた。

 

 

「…さて、今日も1日」

 

 

 みんなでこの学園を回して行こう。

 今日はどんな出会いや出来事があるのかな?

 

 皆藤は尚も静まらない賑やかなクラスで小さく微笑んでいた。  

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン!!

 

 午前中の全ての授業が終わり、聖櫻学園はお昼を迎えた。

 

 

「今日はお昼どうしようかな…」

 

 

 新名は村上と一緒に中庭へ、櫻井もにゅーろんのメンバーと一緒に学食へ行ったため、今日は珍しく1人で食べようかと思っていた皆藤。

 

 そこへ……

 

 

 

「失礼します……あっ、翔さん」

「あれ、心実ちゃん。どうしたの?」

 

 

 昼下がりの2-Cへブレザー姿の椎名が皆藤の元を訪れた。

 見ると、お弁当の入った袋を抱えているのが見える。

 

 

「あの…私はこれからお昼ですけど、翔さんは?」

「僕? 僕もこれからだけど……どうしたの?」

「あの……私でよければ一緒にお昼にしませんか?」

 

 

 なんと、珍しく椎名が皆藤を誘ってきた。

 いつもなら皆藤が椎名を誘うものの、今日は彼女の方から誘ってくれたことに皆藤は小さく驚く。

 

 

「…誘ってくれるの? ありがとう。それじゃあ行こっか」

 

 

 そうして、皆藤は誘ってきた椎名と一緒に中庭は大きな木の下にあるベンチへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかった…今日は空いてるみたいですね」

「えへへ、座れてよかったね」

 

 

 2人は中庭の人気スポットである大きな木下にあるベンチに座り、パカっとお弁当を開ける。

 

 

「今日も晴れてよかった……誘ってくれてありがとうね」

「うふふ、こちらこそ。お昼はいつも貴方から誘ってくれますから、たまには私から誘うのもアリかなぁ…と思ったので、誘ってみた甲斐がありました」

 

 

 珍しく自身から皆藤を誘った椎名は箸を片手にうふふと笑みを溢した。

 皆藤は膝の上に置いたお弁当を食べながら彼女へ微笑み返す。

 

 

「やっぱり外で食べると美味しいなぁ……」

 

 

 皆藤は椎名に誘ってくれたこと、外でお弁当を食べる美味しさについつい箸が止まらなくなり……

 

 椎名が気づいた時には──

 

 

「ごちそうさま」

「あらあら、もう食べ終わったんですね」

「えへへ、ごめんね。本当は一緒にゆっくり食べたかったんだけど…今日のお弁当が思いの外美味しくて…」

 

 

 女の子の隣でついパクパク食べたことに恥ずかしさを覚えた皆藤は頬を微かに赤らめる。

 と、ふと自分の視線が椎名の膝の上に置かれてあるお弁当に行ってしまった。

 そして椎名もそれに気付いたのか、片手でお弁当箱を持ち上げて一言。

 

 

「……?これはあげませんよ?」

「えっ、いや、今のはたまたま視線が合っただけで……何もきみのお昼ごはんまで食べちゃおうなんて思ってないから〜」

「うふふ、冗談ですよ」

「もぅ心実ちゃんってば、からかわないでよ〜」

 

 

 椎名からの冗談に皆藤はつい慌てる素振りを見せて、頬を赤くする。

 

 

「流石にお弁当はあげられませんけど、メロンパンなら後で半分こにしませんか?」

「…いいの?わぁ、ありがとう…それじゃあ僕は心実ちゃんが食べ終わるまで……じ〜っ…」

「そ、そんなに見ないでください…緊張して食べられないです…」

「えへへ、さっきのお返しだよ♪」

「もぅ、翔さんてば…」

 

 

 先程の椎名からの仕返しをした皆藤は晴れやかに晴れ渡った空を見上げる。

 

 

「この前まで夏真っ盛りだったのに、もう秋なんだね…」

「本当ですね。今年の夏休みもあなたと一緒に色んなところへお出かけに行けてとても楽しかったですよね。それに夏の県大会もありましたし」

「そうだね。今年も2人揃って男女で優勝できたから、あの時の嬉しさは…なんとも言えない感じがあったなぁ…」

 

 

 今年の夏の県大会を制した2人は新学期が始まるや否や、新聞部の取材に応えたり、放送部のインタビューに連日のように出演したりと多忙な日々を送っていた。

 

 そして、今の2人の目標である秋の全国大会優勝に関しても、学園の全生徒の期待を一心に受け、連日練習に明け暮れている。

 

 

「それに今朝の朝練も、この前よりも演技が洗練されてきましたよね。あなたも私も今回の全国大会は新しいプログラムで臨みますから、皆さんの期待に添えられるような仕上がりにまで自分を上げていきたいので……」

「…そうだね。一つたりともミスは許されないし、僕も大会優勝目指して気を引き締めないと、せっかくの皆さんからの期待を裏切ることになっちゃうから…」

 

 

 新体操部顧問の深見と共に考えた、新しい演技のプログラム。

 それを覚えるのは並大抵の努力では叶う訳はなく、2人は朝早くから夕方遅くまで練習練習の日々を送っている。

 

 もしもそれが1人なら、ここでポキッと折れてしまうのだが──

 2人は決して努力の柱が折れることはなかった。

 

 何故なら、2人にはそれぞれ心強い原動力がいてくれているから。

 

 

「秋の大会の練習が始まった頃から、佐伯さんは私の身体を労ってくれたり色々と疲れが取れるアドバイスをくれたりするんですよ。相楽さんも私の練習に付き合ってくれたり遅くまで残ってくれますから、本当にお2人には感謝しています」

「僕も由依くんが身体のリラックス方法を教えてくれたり、潤くんが気分転換しようってカラオケに連れてくれたりするから、あの2人には感謝しっぱなしだなぁ…」

 

 

 椎名には相楽と佐伯。皆藤には新名と櫻井という心強い味方が2人を支えてくれている。 

 それは決して当たり前ではなく、それを自覚している2人は自身を支えてくれているクラスメイトに感謝の念を持っている。

 

 そして、2人を支え合っているのはクラスメイトだけではない。

 椎名は皆藤へ優しい眼差しを向けながら、こう感謝の言葉を伝える。

 

 

「それに新体操を頑張れているのはいつも側で練習をしている翔さん、あなたのお陰もあるんですよ。あなたがいつも私の大切なお友達として一緒にいてくれているのもありますけど、共に同じ部活で一緒に新体操を頑張れているから…あなたの演技を見ていると不思議と見守られている気がして、暖かい気持ちになるんです」

 

 

 椎名は頬を微かに赤らめながら、今朝の練習の様子を思い出す。

 まるで女子のレオタードのような可愛らしいレオタードに身を包み、男子新体操の概念を覆す優雅で妖艶な演技を見せた皆藤。 

 

 それを見ていた椎名は彼の演技が自身に対する応援の舞に見えて、心が心なしか暖かくなる感覚がしたと言う。

 

 

「いつもあなたの演技を見ていて思っていたんです。いつも楽しそうに踊るあなたを見ていたら、何だか見守られているなぁって気がして。私にとって翔さんの演技は私自身の努力の根源なんですよ」

「…え?心実ちゃん、僕の演技のこと、そんな風に思ってくれていたの?」

「…はい。ふふふ。本当に楽しそうに踊っているのが目に見えて分かりますよ。…それに。新体操には演技にかける情熱や情念が大切なことは私も分かっていますけど、それだけに囚われていない自由でのびのびとした翔さんの演技には、つい見惚れてしまうんです」

「そうなんだ……ふふ、僕の演技が心実ちゃんの努力の根源になってたなんて……」

 

 

 椎名からの言葉に皆藤は頬を赤くし、それを隠すように晴れ渡った秋の空を見上げる。

 いつも側で練習している彼女からの感謝の言葉に清々しく誇らしい気持ちにさせてくれると思っていたら……

 

 

「それに、あの男子用とは思えない可愛らしいレオタードで舞うあなたもとっても可愛くて。レオタードのラインが身体にピッタリ密着してるものですから、本当に女の子みたいですよね、うふふ♪」

「…え、本当に女の子みたい?え、えへへへ……」

 

 

 急に話題を変えてきた椎名に皆藤は苦笑い。

 僕の演技以外にあの"えちかわレオタード姿"も見てたなんて、全くこの子ったら……

 

 

「僕だって、あのレオタード姿で演技をする心実ちゃんが可愛くて、気づいたら見惚れて顔が赤くなってるんだよ?」

「…あら、あなたも?…そういえば、いつも練習していたら妙に視線を感じるなぁって思っていたら、あなただったんですね」

 

 

 皆藤も負けじと椎名のレオタード姿につい見惚れてしまうことを言うと、

 

「…あなたもやっぱり、男の子なんですね。ふふふ♪」

 

 とだけ返された。

 

 

「もぅ、心実ちゃんったら…」

「ふふ、すみません。あなたと一緒にいると、ついこうなっちゃって…素直になれるというか、本当の自分になれるというか……ごちそうさまでした。…あっ。いけない。そろそろ時間が……メロンパンを半分こにするお話でしたよね。少し待っててください…真ん中の辺りをこう千切って……はい。どうぞ」

「えへへ、ありがとう。いただきます」

 

 

 お弁当を食べ終えた椎名は持っていたメロンパンを半分に千切り、『今日のお昼に付き合ってもらったお返しです』と微妙に大きい方を皆藤へ渡し、午後の予鈴が鳴るまでのほんの少しのひとときを過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 翌日──

 

 

 この日は珍しく部活の練習はお休みのため、皆藤はいつも通り登校した。

 

 

「…おはよう〜」

「あ、翔くんおはよう」

「おはよう、翔くん」

「由依くん、潤くん。おはよう」

 

 

 いつも通りクラスメイトの新名と櫻井が皆藤を迎えた。

 と、新名が皆藤へあることを訊く。

 

 

「あ。押井さんから聞いたんだけど、翔くんって今日放送部のインタビューに出るんだよね?」

「放送部?うん、心実ちゃんと一緒に出演する予定だよ?」

 

 

 皆藤と椎名は今日、お昼の放送部のインタビューのゲストとして呼ばれていた。

 

 やはり聖櫻が誇る新体操部のエース、聖櫻の看板を背負って全国大会へ臨む2人を注目しないわけにはいかず、全国大会にかける熱い想いを聞きたい生徒は五万といるからだ。

 

 

「秋の全国大会まであと1ヶ月ちょっとだから、皆さんに大会にかける思いを伝えられたらなと思ってるよ。潤くんだって、今年も望月先輩と一緒に撮影に来てくれるし……」

「うん。僕も望月先輩と一緒に翔くんと心実ちゃんの演技を撮りに行く予定だよ。といっても、望月先輩には別の目的とかありそうだけど……」

「あはは…」

 

 

 去年の大会で望月に撮られてしまった写真を思い出して苦笑いする皆藤。

 身体のラインにピタッと密着するレオタードを着ていることもあってか、望月は半ば興奮しながら2人の身体のラインはもちろん胸元やお尻、そしてお腹や背中からお尻にかける妖艶なラインにレンズを向けていた。

 

 

「ま、まぁ望月先輩のことだから、撮られているのも悪気が無いのも分かっているんだけど、やっぱり恥ずかしいって心実ちゃんとも話してたんだ。まだ僕は慣れてるからどうってことないけど……それでも背中とかお尻ばっかり撮られていたのは気のせいかな…」

「心実ちゃんの場合だと胸元とお尻が多かったような…それでも2人の妖艶な演技はしっかりと撮ってくれてたから、オールオッケーってことでいいんじゃない?」

「ふふ、そうだね。それに潤くんや望月先輩が毎年応援に来てくれるのも嬉しいし。あ、もちろん家族も」

「去年の大会もご家族と一緒に記念写真撮ってもらえたよね。あれは撮ってる側も嬉しかったなぁ…」

 

 

 皆藤と櫻井の席の辺りで談笑していた3人。

 そこへ……

 

 

「3人とも、おはよう」

「みんな〜おっはよ〜」

 

 

 3人のクラスメイトである櫻井明音と押井知、放送部の名コンビが登校してきた。

 

 

「あ、明音ちゃん。押井さん。おはよう。今日のインタビュー、よろしくね」

「ふふ、こちらこそ。今日はよろしくね。2人からの大会にかける熱い想い、期待してるからね」

「2人のやる気スイッチ、ポチッと押しちゃうから覚悟してるんだよ〜?」

「あはは、もぅ知ちゃんったら〜」

 

 

 キーンコーンカーンコーン!!

 

 今日も聖櫻の校舎内からその外まで予鈴が鳴り響き、皆藤は黒板の方を見ると

 

 

「あ、予鈴だ。1時間目は…数学だね」

「知ちゃん、今日も頑張ろっか」

「うえぇぇ〜私頑張れな〜い…数学苦手だもん〜…誰か〜私のやる気スイッチ押して〜」

「僕も……あの先生、小テスト多いんだよねぇ…」

「由依くんも?明音ちゃん〜、数学が苦手な私たちの為にもやる気スイッチ押してくれない〜?ポチって!」

「あはは。知ちゃんてば、流石に私1人で2人分のやる気スイッチは入れられないよ〜」

 

 

 そうして談笑した皆藤たちは席につき、教科書とノートを机の上に置いた。

 

 その後、数学教師から数式の答えを求められた押井と新名が皆藤のアシストを受けていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン!!

 

 

 今日も聖櫻はお昼を迎えた。

 

 各生徒はお弁当を持ち寄って食べたり、外の中庭で食べたり、学食で食べたりと皆思い思いの時間を過ごす。

 

 そして、そこに華を添えるのが……

 

 

「グッドアフタヌーン! 今日も放送部の櫻井明音が聖櫻のお昼を盛り上げていくよ〜! 今日はお昼のインタビューのゲストを呼んでおります。秋の全国大会に臨む新体操のエース、皆藤くんと椎名さんです。今日はこの2人に大会にかける熱き思いを聞いていくから、最後までよろしくね〜」

 

 

 そう。放送部のお昼のインタビューだ。

 

 皆藤と椎名はヘッドホンを付けて櫻井が座っているデスクの向かい側に座っている。

 

 

「えへへ、2人とも今日はゲスト出演ありがとうね。まだ大会まで1ヶ月ちょっとなんだけど、少しでも2人の想いを聖櫻のみんなに届けたくて声をかけたんだけど…」

「ううん、いいんだよ。僕だって、少しでも皆さんに大会にかけている想いを1人でもいいから伝えたいなって思っていたところだったから…」

「はい。私も翔さんと同じく、今自分が皆さんに伝えられることを伝えたいなと思っていたところ、いいタイミングでお声がけ頂けたので櫻井さんには感謝してるんですよ」

「2人ともありがとう。それなら外にいるギャラリーの為にも、このインタビューを聴いているみんなの為にも。バシバシと訊いていっちゃおうかな〜♪…それじゃあ最初の質問だけど……」

 

 

 そうして始まった櫻井のインタビュー。

 それを教室で聴いていた新名と櫻井は…

 

 

「いやぁ始まったね〜」

「2人とも緊張してる感じではないね。よかったぁ〜」

「そういえば、テニス部はいつインタビューされるのかな?」

「そのうち受けるんじゃない?明音ちゃんからは何も聞いてないけど…って、あれ、加賀美さん?」

「…ん、茉莉ちゃん?どうしたの?」

 

 

 2-Cの教室で皆藤と椎名のインタビューを聴いていた新名と櫻井の元へ加賀美が何やらニコニコした表情を見せながら新名へ声をかけに来た。

 

 

「あ、由依くん。今いいかな?」

「え、いいけど…なんでそんなにニコニコしてるの?」

「それは秘密。櫻井さん、申し訳ないけど由依くんを借りていきますね。」

「うん。2人とも行ってらっしゃい」

 

 

 新名は加賀美に連れられる形で教室を後にする。

 1人になった櫻井はインタビューを聴きつつ、最近録ったデモ音源を確認するためにポケットからiPhone 17 Pro Maxを取り出そうとした矢先──

 

 

「失礼します…あ、潤くん」

「ん、陽歌ちゃん?どうしたの?」

 

 

 櫻井の元を訪れたのは櫻井と仲の良い2-Aの風町陽歌だ。

 いつもなら笑顔を見せている彼女ではあるが、今日は何故か神妙な面持ちで櫻井のクラスへと入ってきた。

 

 

「えっとね、実はきみにお願いしたいことがあって来たんだけどいいかな?」

「お願い?」

「うん。実はね、いつも練習で使ってる部室が今度、工事が入ることになってしばらく使えなくなっちゃうの。他の部屋をあたったんだけど空きが無くて…潤くんのお家って、確かバンドの練習部屋もあったよね?きみさえ良かったら使わせてもらえないかなぁと思って」

「…あ、それ前に言ってたね。使えなくなるって。うん、もちろんいいよ。実は事前に父にそれを伝えたら、バンド部屋なら使っていいよってオッケーもらったから。もちはいつでもウェルカムだよ」

「いいの?わぁ…潤くん、ありがとう…よ〜し、それなら早速にゅーろんのみんなに伝えてくるね〜」

 

 

 櫻井の自宅のバンド部屋を使っていいという朗報を聞いた風町は晴れやかな笑顔を見せ、にゅーろんのメンバーへ伝えてくるねと2-Cを後にする。

 

 

「陽歌ちゃんったら…よほど練習が出来るのが嬉しいんだなぁ…」

 

 

 櫻井は教室の端っこから廊下を除く。

 そこでは、ばったりと会った黒川へ潤くんの自宅で練習ができるよと嬉しそうに伝える風町の後ろ姿が。

 櫻井はそんな彼女の後ろ姿を見ながら、小さく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー放課後ー

 

 

 

 新体操部の練習がお休みだった皆藤は、椎名のクラスメイトである相楽の大道芸の練習に付き合ったのち、椎名と一緒に帰ろうと彼女のクラス、2-Bを訪れた。

 

 

「心実ちゃんはいるかな?…失礼します…」

 

 

 クラスを覗くと、そこに椎名の姿はなかった。

 あれ、おかしいなぁとクラス中を見回すも、やはり彼女の姿はなかった。

 

 

「あれ、誰かと思ったらきみか。誰か探しているのかい?」

「黒川さん」

 

 

 そんな皆藤へ黒川が声をかけた。

 彼女は椎名と同じクラスメイト。何か知ってるかも知れないと皆藤は黒川へ椎名の居場所を訊いた。

 

 

「椎名さんか……悪い。見てないね。…あ、でも私がさっき教室に戻った時にはもういなかったよ」

「そうなんだ。心実ちゃん何処に行ったんだろう…」

「潤から聞いたけど。椎名さんとはいつも一緒なんじゃないのかい?」

「そうなんだけど、実は今日のお昼のインタビューから姿を見てなくて……」

「そいつは珍しいね。…あ、悪い。陽歌たち待たせてるんだった。そろそろ行くわ。んじゃ、また明日」

「うん。また明日」

 

 

 背中にベースの入ったケースを背負いながら皆藤へ手を振り、廊下を歩いていく黒川を皆藤は見送る。

 

 それからとは言うものの、皆藤は教室という教室。部室という部室を回っては椎名を知らないかと訊いて回った。

 だが、誰も彼女は来ていない、もしくは知らないと言った。

 つまるところ、収穫ゼロだ。

 

 

「こんなに校舎を回ってるのに心実ちゃんがいないなんて…」

 

 

 小走りで廊下を行く皆藤。

 ハァハァと息を切らしながら彼女を探している間にも、最後の下校を知らせるチャイムの時間が近づいていく。

 

 何とかタイムリミットまでに彼女を見つけたい。

 なぜなら……あの子にどうしても渡したいものがあるから。

 

 皆藤は制服のズボンのポケットに入れていたそれを見て、その一心で椎名を探していく。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

 誰もいない新体操場では──

 

 

「…ここでタイミングを見計らって──キャッチ!…よし!」

 

 

 CDラジカセから流れるクラシック音楽。

 その音色に合わせて棍棒を投げてキャッチしたレオタード姿の女の子──

 

 そう。その正体は正しく皆藤が探していた椎名だった。

 何故彼女がそこにいるのかと言うと、皆藤や顧問の深見には内緒で放課後の誰もいないがらんどうの新体操場で技を磨き上げていたのだ。

 

「…何とか様に出来ました。今回は深見先生と一緒に考案したプログラムだから、少しのミスも許されません。それに…あの人とも……」

 

 椎名は練習を終え、キャッチした棍棒を手に夕暮れへとなりつつある空を見つめる。

 

「翔さんは…もう帰ったのかな…私のわがままが許されるのなら、今の…私の精一杯の演技を見てほしい、です…」

 

 椎名は棍棒をギュッと握りしめ、皆藤に今の自分の晴れ姿を見てほしいと願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「椎名さんですか?えっと…見ていませんね…」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 

 

 その頃、皆藤は図書館で図書委員で3年生の村上に椎名が来ていなかったかと尋ねていた。

 

 椎名は大会が近づくとダイエットや栄養面の本をパラパラと読んでいるのを何度か見たことがあると自分のクラスメイトで椎名とも仲の良い見吉から聞いていたからだ。

 

 だが、此処でも収穫なし。

 少しずつタイムリミットが近づきつつある中でこれは確実だと思っていたのだが……

 

 

「分かりました。ありがとうございます。…では、失礼します」

 

 

 図書館を出た皆藤は、はぁ〜と溜息を吐きながら外を歩く。

 そして、椎名に渡したいという例の品物をポケットから取り出して見つめる。

 あの子との約束と友情の証。森園神社で授かった必勝守がその正体だ。

 

 まぁ、あの子とは明日も会えるんだからその時に渡してもいいんだけど…

 と思いつつも、やっぱり心と身体は正直なもの。

 やっぱり今日渡したい!と再び皆藤は椎名を探すべく踵を返した刹那──

 

 

「あれ…?エミちゃんと鞠香ちゃん?まだ練習してたの?」

 

 

 先に見えたのは、大道芸の練習をしてた相楽と付き合っていた佐伯。

 いつも心実ちゃんと一緒にいる2人なら何か知ってる筈!

 皆藤は最後の望みを託し、2人の元へと駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心実ちゃん?見てないよ?わたしは鞠香ちゃんに付き合ってもらってずっと練習してたし……鞠香ちゃんは?」

「私も見てないかな…てっきり一緒に帰ったとばかり思ってたから、きみが来てびっくりしちゃった」

「そっか…見てないんだ…」

 

 

 此処でも収穫無しだった。

 既に夕焼け空が更に赤くなり、校舎の時計も最終の下校時間を知らせる17時まであと5分までに迫っていた。

 

 やっぱり……明日渡そうかな。

 皆藤は半ば諦めた表情で夕焼け空を見上げる。

 と、その刹那──

 

 

「あ、翔くん。新体操場は見た?」

「…え?新体操場?」

 

 

 突如、佐伯から尋ねられたことに皆藤は目を丸くする。

 そういえば、新体操場はまだ見ていない。

 

 だが、今日は部活はお休みだった筈…

 でも鞠香ちゃんの言葉が本当なのなら、あの子は今もそこで練習を…

 うん、間違いない!!

 

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわっ!ビックリしたぁ〜」

 

 

 突如大声をあげた皆藤はギョッとする相楽と佐伯を尻目に新体操場へと走って行った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 皆藤は佐伯たちからのヒントを頼りに、ハァハァと息を切らしながらもあっという間に新体操場へと着いた。

 見ると、扉が1枚だけ開放されている。

 

 間違いない。ここに心実ちゃんは……

 

 

「…っつ!?」

「あっ…あなたは…」

 

 

 思わず椎名と鉢合わせた皆藤。

 ここに探していた彼女がいた。いや、いてくれた。

 

 

「よかったぁ〜ここにいたんだね。」

「はい。放課後からずっと此処で練習をしてました。鍵は職員室で借りて、練習を終えたので今から着替えて返しに行こうと思っていたところだったんですよ」

「そうだったんだね… って、あれ?このレオタードは……」

 

 

 皆藤は椎名が纏っていたレオタードに目が入った。

 いつもの彼女のレオタードとは明らかに色もデザインも、そして華やかさも違う。新海の如き濃いブルーをベースに右肩から左の腰のあたりまでスパンコールなどの装飾がキラキラと輝き、そこから上は一段薄いブルーになっている。首元にも装飾が輝き、椎名の笑顔に負けない輝きを放っていた。

 

 

「…あ、この格好は…実はこのレオタード、今回の大会で着用するものなんです。それで、技の練習をするとともにイメージトレーニングをしようと深見先生やあなたには秘密で1人で練習してたんです。…あっ…もしかして。私のこと、ずっと探してくれていたんですか?」

「えっ、う、うん…」

「す、すみません。ずっと私を探していたなんて思ってなくて…ずっと練習とイメトレに耽っていましたから…」

「いいんだよ。心実ちゃんが此処で練習とイメトレをしてたのが分かったから。それに。きみに渡したいものも渡せるし」

「…私に渡したいもの?」

 

 

 皆藤は呆気に取られる椎名の前でズボンのポケットを弄り──

 

 

「…はい。お揃いの必勝守。2人で一緒に優勝しますようにって願いを込めて森園神社で授かってきたんだ。はい、どうぞ」

「まあ、御守りを…!それもお揃いなんて…うふふ…」

 

 

 皆藤の掌に乗ったブルーの必勝守。

 それを受け取った椎名はわぁと朗らかで眩しい笑顔を見せる。

 それも色を揃えたことに対しても嬉しさで胸が一杯になっていた。

 

 

「ありがとうございます、翔さん。この御守りを渡すために私を探してくれて…本当に嬉しいです。ありがとうございます…」

「今日中に渡せてよかったよ…おかげであちこち探し回ったんだからね?」

「うふふ。そこまでして探してくれたんですね。あなたって本当に優しくて素敵なんですね。この御守りがあれば……きっと、きっと2人で大会を優勝できます!」

「ありがとう。僕も…きみとお揃いの御守りがあったら…今回の全国大会、優勝間違い無しだね!」

「…はい!!私……こうやって…こうやって見守られているんですね。それが本当に嬉しくて…」

 

 

 椎名は大会用の華やかなレオタードを纏ったまま、思わず感極まる。

 そして、優しさと嬉しさで胸が熱くなった椎名は──

 

 

「…翔さん!!」

「うわっ!…び、びっくりしたぁ〜」

「うふふっ♪すみません。嬉しくて、つい……」

 

 

 レオタードのまま、制服姿の皆藤をギュッと抱きしめた。

 珍しく椎名から急に抱きしめられたことに皆藤は思わず頬を赤くする。

 

 

「私…幸せです…いつも、いつも…本当にありがとうございますっ…♪」

「こちらこそ、いつもありがとう。全国大会、お互い支え合いながら頑張ろうね。」

「はい!一緒に頑張りましょう!」

 

 

 キーンコーンカーンコーン!!

 

 皆藤と椎名がお揃いの御守りを片手に互いの健闘を誓い合う中、下校の最終時間を知らせるチャイムの音が聖櫻を包み込む。

 

 そんな中でも2人の表情は快晴のように晴れやかだった。

 いつも友達から支えられている2人がいつも側で見守り合いつつ、最高の友情で結ばれた友達でお互いの演技を見守る最高の仲間だから。

 

 だからこそ、この御守りに願いを込めて……

 2人揃って優勝できますようにと、念を込めて…

 

『2人で一つだよ。一緒に頑張ろう、心実ちゃん♪』

 

 皆藤は椎名に聞こえないようにそう言い、目の前にいる椎名へ向けて満面の笑顔を見せていた。

 






ご無沙汰してます、最近Geminiにハマって架空兵器を大量生産中の筆者、もちうさです。
当小説大幅アップデート第1弾をご拝読いただきありがとうございます。
以前と比べてお話構成やらストーリーの進み方やらがガラリと変わったとは思いますが、如何でしたでしょうか?

あと後書きが遅れてすみません…Geminiにハマったからと言うのもありますが、実はここ最近忙しくて書く暇はおろか、その気力さえありませんでした…orz

なにぶん当小説と並行して投稿している別小説『日本VS日本』の加筆修正や推敲に時間をかけているので、ただでさえ不定期投稿の当小説は更に投稿が遅れるという……
出来たら10月中には3話まで行きたいなぁ〜

そして、いま現在執筆中の第2話は村上文緒ちゃんと2人目のオリキャラである新名由依くんの中心としたお話になりますので、お楽しみに〜

それでは(・ω・)ノ


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