ワンモア・レッド   作:Jacques Derrida

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アニメを見た衝動に駆られて描きました。駄文ですがだうぞみまもってくなんせぇ


#00 Alpha

 

 

「────アァァマァァァゾォォォンッッ!」

 

井ノ上たきなの記憶の奥底にある、幼い頃の──施設に入る前の、ある夜の出来事。

 

家族の死体が散乱する、地獄絵図のような光景。ただ迫ってくる「何か」に怯えていたたきなを守るように何処から現れたその男は、腰に不思議なベルトを巻き付けていたのを覚えている。

 

そし、血まみれの男の叫びと共に、たきなのその小さな体は壁に強く打ち付けられ、後頭部をぶつけてしまい。

 

頭をぶつけた衝撃で遠ざかる意識の中で、彼女が最後に見たのは「赤い怪物」の背姿だった。

 

 

─────────────

 

 

おぞましく、懐かしい記憶を思い出していたのは今の状況がその時と似ているからかな、とたきなは不意に蘇った情景に少しだけ浸る。

 

──銃撃の音をバックにして。

 

「世界一平和な国」日本の治安を秘密裏に維持する公的暗殺機関・DA(direct attack)。日本各地の孤児を集め教育を施し、専門のエージェント・リコリスとして育成・運用するこの機関に所属しているたきなは、今まさに任務の最中であった。

 

およそ千丁の銃取引の現場の制圧。

 

それがたきならリコリスに与えられた任務であり、そして任務は今失敗の瀬戸際と言うべき状況に置かれている。数名が負傷、1人が人質。弾薬が底を尽きるのも時間の問題で、いくらこちらが能力的に上回っているとは言え拳銃とライフルでは火力も桁違いだ。

 

(なにか、打開策はない…?)

 

7.56mm弾の弾幕を突破できるだけの大火力。少なくともリコリス側の銃器には、対抗しうるだけのモノはない。ならば、相手の銃器はどうか。

 

辺りを見回すと、一丁の汎用機関銃(SS-77)が。

 

これしかないとたきなは横に飛ぶ。すぐさまSS-77を手に抱え、弾丸をセットする。そして、引き金を引いた。

 

「おい、やめろたきな!」

「たきな!?」

 

同じ部隊のリコリスが、人質を巻き込みかねないたきなの行為を止めようとするが既に時遅し。鉄の暴風雨が、窓ガラス1枚挟んだ向こう側に血の池を作り出す。

 

 

「……うそ」

 

機銃掃射が終わった時、たきなが漏らしたのは驚嘆とも恐怖とも取れる一言だった。

 

全身に穴を開けながらも、1人のテロリストが立っていたのであった。

 

「うわぁぁぁがァァ!!」

 

テロリストはそのまま横たわる人質を担ぎ、なんと壁を蹴って破壊しそのまま6階の高さから飛び降りる。呆然としていたリコリスの面々だったが、部隊長である春川フキはすぐに意識を次に向けた。

 

「おいたきな!早く追え!私は負傷者の手当をする!」

「は、はい!」

 

フキの声で我に返ったたきなは、すぐに階段を駆け下りてビルの外へと駆けてゆく。幸いにもテロリストは足をやられていたのか、大きく移動していなかったために、たきなはすぐに彼らの姿を見つけられた。

 

「そこのテロリスト!人質を離しなさい!」

 

拳銃を構えながら、たきなはテロリストの男へと近付いていく。男は人質を離す様子を見せず、ただじっとたきなの方を見つめて来ていた。

 

(射程圏内に入ったら…即刻撃つ!)

 

そして、射程圏内に入ったその瞬間。たきなが引き金を引こうとしたタイミングで、テロリストは人質をたきなへと投げつける。

 

「わっ・・・」

 

拳銃を捨て、人質になっていたリコリスを抱き抱えるたきな。彼女が人質を抱いたと同時に、テロリストの男──と言うよりは、怪物と言うべき容貌に変化していたが──は、たきなへと飛びかかって来ていた。

 

そのおぞましい姿は、かつてたきなの家族を皆殺しにした「彼」とそっくりで、一瞬反応が遅れる。

 

「ひぁっ」

 

そしてその腕は、たきなの首を──

 

ププーッ

 

切り裂くことなく、クラクションの音(・・・・・・・・)に遮られて直前で静止した。

 

「みーつけた」

 

ヘヘッと気の抜けた笑い方をする男が、少し離れたところで車のクラクションを鳴らしていた。テロリストの男は、首を傾げ──すぐに体をクラクションの男の方へと向けた。

 

「そんなに怖がんなくても、1発でイかせてやるからさ」

 

男の手には、赤と銀が煌めくベルト。カロリーメイトのようにペーストされた肉らしきものを食べながら、男は1歩1歩近づいてくる。

 

「そこの嬢、ちゃん。倒れてる子連れて逃げな」

「な、何言ってるんですか!?」

「いいから、早く。殺しちゃうよ?」

 

さっきと同じように、ヘラッとしているが、その言葉に込められた殺意の濃度は、リコリスの発するソレとは比肩できないほどに濃い。本能的な危険信号すら発せられるほどのオーラを持った彼の言葉に、たきなは黙って頷いた。

 

「そんじゃ、料理を始めますかね」

 

ベルトを腰に巻き付け、ドライバー部分に手をかける。たきなたちが数十m程度離れたタイミングで、男は静かに、その名を呼んだ。

 

「──アマゾン」

 

直後、衝撃と熱波が辺りを襲う。ビルの窓ガラスは音を立てて割れ、たきなと彼女に抱えられていたリコリス──蛇ノ目エリカ──も数メートル宙に浮いた。

 

「かはっ……なにが、起きたの?」

 

地面に叩きつられたものの、なんとか意識を保っていたたきなは壁にもたれかかりながら対峙する2匹の「怪物(アマゾン)」へと目を向ける。

 

クラクションの男は体表の大半は赤いが、胸や腹部の部分は銀色。目は緑色で、まるで虫の複眼のような模様を描いている姿へと変わり。対するテロリストの男は、強固な外骨格に覆われた、「アリ」のような姿へと変身していた。

 

『あらら、怖気付いちゃった?』

 

銀色の装甲部分に着いた傷跡をなぞりながら、クラクションの男は「アリ」を挑発する。「アリ」は単純なのか気が短いのか、怒るような仕草を見せてクラクションの男へと突撃する。

 

『おらよっ』

 

が、当然見切られていて。

 

「アリ」の突進を横に避けると同時に鋭いボディブローが彼の体に突き刺さり、バキリと嫌な音が鳴る。

 

「うそ、機銃掃射に耐える硬さはあるはず…!」

 

機銃掃射を受けてもなんとか歩けるだけの硬さを持つ「アリ」の外骨格を、パンチ1発で砕いたという事実が、たきなには信じられなかった。

 

『まずいな、集まってきたか。これで終わりにすっか』

 

クラクションの男の両腕の、ノコギリの刃のようになっている部分が「アリ」の右腕を根元から切り裂き、血飛沫が上がる。更に間髪入れずクラクションの男の抉るような蹴りが「アリ」の右足を吹き飛ばした。

 

半身を破壊されたことで意識が飛んだのか、「アリ」の体がその場に崩れ落ち──ドロドロに、ヘドロのように溶けてなくなった。

 

男が再びベルトに手をかけると、今度はひんやりとした突風がたきなの周りを吹き抜ける。突風が吹き終わったとき、男の姿はもとに戻っていた。

 

「お仕事終わりっ……あ、まだいたんだ」

 

背筋を伸ばしてリラックスした様子の男は、たきなに近寄ってそう笑いかける。

 

「あっ…あなたは、何なんですか!?」

 

拳銃を拾い上げ、たきなは男に突きつけながら叫ぶ。男はまたニヘラっと笑って銃口を空に向けると、彼女の耳元で囁く。

 

「──アマゾン。人の姿をした、人喰いの怪物だ」

 

それじゃあね、と男はコートを翻して自身の軽トラに乗って何処かへ行ってしまった。

 

 

 

 

──結局、この銃取引を抑えるという作戦はリコリスの負傷者合計7名、テロ組織の死亡者は十数名を出した。テロ組織側では1名の足取りが不明だったが、井ノ上たきなの証言と遺品の発見によりほどなくして死亡と処理された。

 

人質を危険に晒し、さらには首謀者を殺害し情報を聞き出すことを不可能としてしまった井ノ上たきなには異動辞令がくだり、彼女は「支部」へと異動することになった。

 

 

そしてこれが、井ノ上たきなと鷹山ジンの初めての邂逅だった。

 

 





・アマゾン…

人のような姿をした、人喰いの怪物。たきなが知っているのは、それだけ。
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