俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第9話です。


第9話 進展仰天   ──安いうどんは遊びの味──

 成績を上げるにはどうすれば良いか。

 

 毎日の予習復習。継続的な勉強。弱点の克服。

 まーったく代わり映えしないこの内容を先生、親、配布プリント、その他諸々は俺らに何度も何度も繰り返してくる。

 

 それだけ効果があるって事なのかもしれないけど、んな毎日毎日勉強漬けにすりゃあ成績が上がるのなんて当たり前で、第一つまんない。

 

 3年しかない高校生活のほとんどを勉強に捧げられるか?

 俺の答えはNO。当然だ。

 

 

 じゃあどうするべきか?答えは『両立』だ。

 

 

 自分で言っといてアレだが、正直この響きだけで嫌になる。

 高校受験の面接練習で何度も言ってきたやつだ。

 

 

 

『中学時代は部活動のサッカーと勉強を両立し……』

 

『入学したら部活も勉強も両立する文武両道を目指し……』

 

 

 

 要は『中途半端』の言い訳。でも今回はそれで終わらないようにしたい。

 

 

 そこで俺は、まず自分に合った勉強法を模索することを提案したい。

 

 軸は『高校生活を楽しむこと』。それを邪魔せず、ついでに勉強も楽しんじゃったりすればもう完璧じゃないだろうか。

 

 

 

「……ってカンジ?」

 

「おお~」

 

 

 

 たいした内容でもないのに、楠木さんが小さく拍手をする。

 ぱちぱち。クラスよりも数倍騒がしい喧噪に消えていく。

 

 

 場所は第3棟の学食。

 どうにかこうにか食券を買い、なんとか席を確保した俺たちは勉強の計画を立てていた。

 こう言うと超意識高い系。

 

 高校受験の時でさえ無計画だったこの俺が勉強スケジュールを立てるなんて。俺も変わったもんだ。

 

 

 

「赤坂くんが勉強の話してるとなんか不思議だね」

 

 

 

 楠木さんまでそんな事言うな。

 

 

 

「とにかくさ。次の期末、2週間前から色々試してみようぜ。だから……始めんのは1週間後か」

 

「それまでなにするの?」

 

「遊ぶ」

 

「えー」

 

 

 

 楠木さんの目がくっ、と疑うように細められた。でも口元はにやついてる。なんだかんだで楽しみなんだろう。

 

 

 

「やるときゃやって、後は遊ぶんが俺の目指すところなの。なにすっかなー」

 

 

 

 弟から借りた漫画を読んだり、撮り溜めたドラマを見たり、ゲーセン行ったり……。

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

 俺の声に、うどんを食べようとしていた楠木さんが顔を上げた。

 

 

 

「帰りゲーセン行こうぜ」

 

「……。げーせん?」

 

 

 

 一瞬嫌な予感がしたけど、楠木さんは「あー!」と思い当たったらしい。

 

 

 

「前に麗ちゃんたちと行ったことある!」

 

「そりゃあ良かった」

 

 

 

 この箱入りが。ひとまず安心して俺もようやくうどんに口を付けた。

 

 

 それにしても、学食って特に安いわけじゃないらしい。

 

 たまには行ってみようとか言って楠木さんと来てみればアホほど混んでるわ、定食は700円もするわ、日帰りとかで今日はラーメンが食べられないだとか。

 50円で全メニュー大盛りにできるのが唯一の救いで、結局一番安いうどん300円(もちろん俺は増量した)を頼むことになったのだった。

 

 まあ今日はゲーセンに行くことになったんだし、これで正解か。

 

 

 やや伸びたうどんを多めに掴んですする。

 ……うん。うどんだ。

 

 天かすとワカメととネギ。昔深夜のサービスエリアで食べたうどんと似ている。

 コシのない、ちぎれやすいうどんと薄めのだし汁。悪くない。

 

 この馬鹿みたいに安っぽいうどんにもそれなりの『良さ』がある。

 なんというか、自分の金出して食ってる感じがする。身の丈に合った感じだ。

 

 

 

「今度学食来るときはお母さんにお金貰ってこようかな」

 

 

 

 絡まったうどんを持ち上げたらちぎれていく様子を見ながら、楠木さんがぼそっと言った。

 

 

 

「俺金貰ってもうどん頼む自信があるわ」

 

「えっ、なんで」

 

 

 

 無言で親指と人差し指をくっつけて丸を作る。

 途端、呆れと意味不明が混じった微妙な視線が注がれた。

 

 

 

「ダメだよそんな騙すことしちゃ」

 

「学食用に貰ってんだから嘘は言ってねぇし?ちょーっとお釣りで遊ぶだけ」

 

「でも悪いよ……」

 

「いーじゃんべつに」

 

「うむぅ……」

 

 

 

 そんなに悩むことかよ。口元に笑みを浮かべたまま、俺たちはふにゃふにゃのうどんを食べきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏が近づきつつある6月。駅近くのゲーセンまで自転車を漕ぐだけで汗ばんで、湿気と一緒になって最高に気持ち悪かった。

 

 

 

「あっちぃ……」

 

「まだ6月だよ?」

 

「逆に何で熱くないワケ?」

 

 

 

 ネクタイをしっかり上まで締め、ブレザーの前すら開けてない楠木さんの恰好は見てるだけで暑苦しい。

 でも『ここ』は女子にとってはちょっと厚着位の方がいいか。

 

 

 

「寒!」

 

「えー、涼しいじゃん」

 

 

 

 自動ドアをくぐると爆発するような音と冷房が俺たちを襲った。

 俺の予想通り、効き過ぎってレベルで冷房がガンガンに効いてる。その証拠に店員のお姉さんが時々腕をさすっていた。

 

 

 ここはアホほど涼しいことで有名なゲーセンで、夏は涼むためだけに来ることもある。

 楠木さんは久々なのと物珍しげなのとで、あたりをきょろきょろ見渡していた。

 

 

 

「さーて、なにすっかね」

 

「私、全然分からないよ?」

 

「んなもん気になったやつ片端からやってきゃあいいんだよ。あ、財布と相談しろよ」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

 1階は大小様々なクレーンゲームが山ほど置いてある。

 お菓子に雑貨にぬいぐるみにフィギュアに、いちいちクレーンゲームで取るほどか?って思うような物まで入っている。

 

 俺は『取れそうだなー』ってものしかやりたくない。そもそも下手だし。

 それよか、信久が熱くなって両替機に駆け込むのを煽る方が楽しかった。

 

 

 

「赤坂くん……」

 

「あん?」

 

 

 

 信久のクレーンゲーム最高投入金額を思い返していた俺に声がかかる。

 

 振り返ると、楠木さんが一個の筐体を指さしていた。

 ……無駄に輝いた瞳で。

 

 

 中に入ってたのはダッフィーのパチモンみたいなテディベアだった。

 コックの恰好をしていて、誇らしげにフライパンやらフライ返しやらを持っている。

 

 

 

「……いや、やれば?」

 

「でも……」

 

 

 

 揺らぐようなフリをする楠木さん。これは心の中ではもう決まってるやつだ。

 

 

 

「いーじゃんやりなよ。一回手本見せてやるからさ?」

 

「うぇぇ……」

 

 

 

 前髪の下でいつもの困り眉毛が見える。俺が金を出したら楠木さんはもう引き下がれない。かかったな。

 

 

 

「久々だなークレーンゲーム。どいつ狙ってんの?」

 

「あれ……」

 

「おっけ。やったるか」

 

 

 楠木さんが指さしたのは一番近いところにある一体。

 フライパンを持ってて、毛並みのせいでちょっと目つきが悪い。可愛いか?これ。

 

 金を入れるとうるさいくらいのBGMが流れてくる。

 取り敢えず大まかにクレーンを移動。それから色んな方向から眺めて微調整。

 楠木さんはそれを興味深そうに眺めていた。

 

 

 

「よし、行け!」

 

 

 

 ボタンを力強く押すと、クレーンは頼りなくプラプラしながら降りていく。

 

 

 

「あっ、掴ん……」

 

 

 

 楠木さんの嬉しそうな声が一瞬にして沈んでいって、思わず噴き出した。

 

 一瞬クマの頭を鷲掴みにしたクレーンは、汚いものを触ったようにとっとと手放して定位置に戻っていった。

 

 

 

「こーいうもんだよ」

 

「うー、今度は私がやる……!」

 

「おうおうやれやれー、俺の仇を取れー」

 

 

 

 やる気が出てきたらしい楠木さんが財布を抱えて前に踏み出す。

 微動だにしてないクマは楠木さんを睨んでいる。一人と一匹の真剣勝負だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの楠木さんは凄かった。

 最初の1、2はわあわあ言ってたのに、段々のめり込んできて今や無言だ。

 

 後ろ姿が怖い。小銭を切らしてから1回両替機で1000円を崩し、それももう無くなろうとしていた。

 

 

 

「……楠木さん」

 

「もうちょっと」

 

「あ、ウン、ゴメン」

 

 

 

 安易に『やってみたら?』なんて言ったことをめちゃめちゃ後悔した。

 

 あんなにためらってた定食の値段は優に超えて、いいとこのランチ代に匹敵する金額がクレーンゲームに飲み込まれていた。

 

 あ、また落ちた。無言で100円追加する音が聞こえる。

 

 

 ……これで分かった。

 

 楠木さんはたぶんギャンブルとかやっちゃいけない人だ。確実に元を取り戻そうと余計にのめりこんでいくタイプだ。

 

 次ダメだったら引きはがそう。楠木さんのご両親に申し訳なくなってきた。

 

 と、その時。

 

 

 

「あ」

 

「おっ」

 

 

 

 輪になっている腕部分にクレーンが引っ掛かり、クマはあっけなく運ばれていった。

 ぽふっと軽い音を立てて取り出し口に落ちてくる。

 

 

 

「あっ、わっ、やっ、やっ、」

 

 

 

 テンパってるのか、クマはなかなか出てこない。

 ようやく楠木さんに抱きかかえながら出てきたクマは、今度は誇らしげな顔に見えた。

 

 確かにお前はこのゲーセンの誇りだよ。集金的に。

 

 

 

「やったよー!赤坂くん!!やった!」

 

「……うん、良かったね」

 

 

 

 確実に1500円以上溶かしてるのに、その笑顔は晴れやかだった。俺はそれを引きつった笑顔で迎える。

 

 信久がもっと沼ったところは見たことあるけど、額の問題じゃない。この子はダメだ。

 次は500円で引きはがそうと俺は固く決心した。

 

 いくら楠木さんがクマを抱えてルンルンで歩こうが、普段の数倍明るい調子で話しかけてこようが、ダメだ。

 この子はギャンブルでハイになっちゃうタイプだ。俺は友達が債務者になる入口で止めなければならない。

 

 

 楠木さんが他のクレーンゲームに目を付ける前に、俺はとっとと地下1階へ引っ張っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下1階は……なんか色々ある。レースゲームとか、音ゲーとか、なんかの対人ゲーとか。ここら辺はいつも同じような人が占領してて苦手だ。

 

 これまた、やるより後ろから遊んでいる信久を皆で煽るのが楽しい。

 

 

 

「ぬぅー!しまった!」

 

 

 

 ダメだ、幻聴まで……。

 

 声の方を見ると、見慣れた丸いフォルムが筐体の前で頭を抱えていた。

 

 

 

「……」

 

「おっ、おおおー!?透ー!」

 

 

 

 視線に気づいた信久はコンティニューを止めて、嬉しそうに顔を輝かせる。幻じゃなかったらしい。

 

 早成高の学ランに身を包み、更に横幅の増えた信久がのしのしと音ゲーコーナーから走り寄ってきた。

 

 

 

「いやー久しぶり!いや、ちょ、女子連れ、これは失礼を」

 

「うるせぇよ」

 

 

 

 相変わらずのニコニコ顔で、信久は言葉の合間合間に引き笑いしつつ話す。

 これはネット文章の『wwww」を表しているらしい。

 

 

 

「何してん?」

 

「そらもうオールパーフェクトよ」

 

 

 

 指さす方向には信久がよくやってる音ゲーの筐体。順番待ちしてたのか、もう他の人がプレイしていた。

 

 

 

「あ、茜ちゃんがよくやってるやつ……」

 

「おっ、噂どおり!こんにちは楠木さん」

 

「うん、こんにちは。えっと……堂本くん」

 

 

 

 声を掛けられて、俺の背に立ってた楠木さんが顔を出した。

 信久は変な奴だけど人当たりがいいから、ちょっとは話しやすいんだろう。

 

 

 

「やー、そんな透は何しに来たん?」

 

「ゲーセンきちゃ悪いかよ」

 

「違う違う、地下の方。お前らほとんどここのやらないじゃん」

 

「ああ、あれやりに来た」

 

 

 

 筐体たちを抜けると奥には体を使うゲームが置いてある。ダーツとか、バスケットゴールのやつとか。

 

 その中でもお目当てはエアーホッケーだ。シンプルかつ楽しい。100円でわりかし長く遊べる。

 学生には─—特に金を溶かしたての楠木さんには─—心強いゲームだ。

 

 

 

「おおー。オレもやるやる」

 

「いーねぇ。いいよね楠木さん?」

 

「うん」

 

「おっ、楠木さんそのぬいぐるみは…!やりますなぁ」

 

「あ、うん。取っちゃった」

 

 

 

 さすが目ざとい。

 店員さんから貰った袋に入れたクマが、クレーンゲーム産なことにすぐ気が付いたらしい。

 

 

 

「いくらで取れましたん?実はですねぇ、これは腕に引っ掛けると簡単に……」

 

「あ、やっぱり?最後はそうしてみたの……それまで1000円以上かかっちゃったけど」

 

「うぅーん……先にオレに会っていれば……!

ちょっと透クン!取ってあげなさいよ!今度は透に頼めばいいよ楠木さん。透はクレーンゲーム大、大得意だから」

 

「えぇ……?」

 

「上手いわけないだろ噓吹き込むな」

 

 

 

 そもそもアレに上手い下手とかあるのか。

 

 

 

「又はオレに言ってくれればいつでも技を伝授しちゃうよ!」

 

「えっ!」

 

「おい、よせ!これ以上楠木さんにクレーンゲームさせんな!」

 

「んな大げさな」

 

「いーや、マジでダメ。楠木さんにクレーンゲームはダメ」

 

「えー、何で?赤坂くんがやってみればって」

 

「そーだそーだ」

 

 

 

 押し合いへし合い、クレーンゲームで盛り上がりながらエアーホッケーに向かう。平日だからか人は全くいなかった。

 

 

 

「つーか楠木さんやったことある?」

 

「一回」

 

「そりゃ上々」

 

 

 

 最初は俺対楠木さん。円盤は楠木さんの方に落っこちた。

 

 

 

「手加減してやれよ透~」

 

「んー?」

 

 

 

 んなことしねぇよ。俺は相手が女子だろうと容赦しない。

 

 

 

「いーよー、楠木さーん」

 

「じゃあ、行くよー」

 

 

 

 ふわふわーっと滑っていく円盤に狙いを定め構える楠木さんを穏やかに眺めて、

 

 

 

ガコォン!

 

 

 

「やったぁ!」

 

「……うぇえ!?」

 

「おお~」

 

 

 

 録音の拍手と一緒に俺側の出口から円盤が滑り落ちてくる。目の前のカウントは確かに0-1になっていた。

 

 

 

「ちょ、見てなかった見てなかった!」

 

「見てないのが悪いんだよー」

 

「そうだぞ透ー」

 

「そりゃねぇだろー?」

 

 

 

 やらかした。俺は敵を侮りすぎたようだ。『えいっ!』とか言ってすーっと飛ばしてくるのを想像していた俺が悪かった。

 

 

 

「おら行くぞ!」

 

「うわっ」

 

 

 

 隙を狙った一撃はギリギリで防御される。

 

 

 

「ズルいよ!」

 

「そっちが先にやったんだろ!」

 

「見てないのが、悪いの!」

 

「はっ、そっちこそ!」

 

「やってんね~」

 

 

 

 すっかり蚊帳の外な信久がのんびりお茶を飲みながら言う。

 

 ガコン、拍手、ガコン、拍手。

 隙の狙い合いから始まった一試合は一進一退の攻防を繰り広げていた。楠木さんは結構息切れてるけど。

 

 

 

「なんだよ、随分やる気じゃんか!」

 

「だって、赤坂くんが言ったんだよ!遊ぶっ、て!」

 

「!」

 

 

 

 ガコン。

 

 スカったガードを通り抜けて、円盤がゴールに吸い込まれていった。ひときわ大きい拍手がなって、円盤は出てこなくなった。

 俺の負けだ。

 

 

 

「あー、クソー」

 

「やった!勝ったー!」

 

「うおお、やったね楠木さーん!」

 

 

 

 信久と控えめにハイタッチする楠木さん。おい、俺まだしたことねーんだけど。

 

 

 

「次はオレだ透~!」

 

「はぁー?いいぜやってやんよ!」

 

 

 

 見た目によらず素早い動きの信久と一戦。

 休憩して回復した楠木さんと疲れが見え始める信久の一試合。

 へロって来た楠木さんと完全回復した俺と一戦。

 以下繰り返し。

 

 その日帰りの電車ギリギリまで、俺たちはエアーホッケーを楽しんだ。

 

 

 しけった空気を割いて一人街頭をたどる。疲れた腕をぶらぶらさせながら、それなりの星空を眺める。口角が自然と上を向く。

 

 

 

『また行こうね、赤坂くん!』

 

 

 

 ネクタイを緩めて、まだ上気した頬をして、嬉しそうにクマ入りビニ袋を抱えながら、楠木さんはさっき駅で別れるときに言った。

 

 その様子が、一言が、何故か無性に嬉しかった。

 




表紙を作りました。ホームから覗いてみてください。
二人の学生証もTwitterにて掲載します。
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