「昨日はどんな感じ?」
「音楽を聞きながらやってみた」
「えー、歌詞に集中しちゃわねぇ?」
「あ、そっちじゃなくて、楽器の。クラシックの方」
「あー、いいね。結果はどうよ」
「悪くはないんだけど……。ついつい拍子とか楽器の構成とかが気になり始めちゃって」
「うわー、職業病」
「だから、流すならピアノ単体の方がいいかも」
「あーね。じゃあ今日やってみっかな」
「赤坂くんは音楽詳しくないから大丈夫だよ」
「はぁ?」
時間はいつもの昼休み。昨日の成果をお互いぼけーっと眺めながら弁当を食べていた。
予定通り、テスト2週間前になって俺たちはテスト勉強を始めた。今は時間ややり方やらを色々試しながら勉強法を模索中だ。
「そういう赤坂くんは?」
「40分勉強して20分休憩を2時間やった」
「どう?」
「最初の1時間はいい……んだけどさ?次は『まだ何分しか経ってない』って気分になる。とにかく時計が気になる」
「つまんない授業みたいだね」
「現文みたいだな」
一問解いては時計。丸を付けては時計。
もう時計が正確に稼働してるか確認するバイトでもしてるんじゃないかと思った。
結局風呂に呼ばれたのを良いことに途中でやめた。多分俺には時間で区切るのは向いてないんだろう。
「んんー、中々しっくりこないねー」
「『向いてないこと』が分かってきたって考えようぜ」
「それもそっか」
「今日は楠木さん何やる?」
「うーん、理科系かな?ワークのページも決まったし」
「じゃあ俺は数学にすっかね」
上手くいってる実感はあんまりない。でも、気分は落ち込んでない。
今まで何となくやってた勉強を試し試しやるこの手探り感が、思いの外楽しい。
俺が勉強を楽しむ歩夢みたいな異常者になるなんて人は変わるもんだ。
上手くいかなきゃ次やればいい。チャレンジ精神で行こう。
「……さすがに疲れてきたな」
「そうだねー……」
電車の椅子にどっかり座って外の景色を眺める。
夜7時になろうとしてるのにまだ薄暗いあたり、日が伸びたなーって感じだ。
テスト1週間前。前回同様クラスが解放され、今度はちゃんと6時まで残って勉強してきた。
やる事明白で『気になること』がなければ、うるさくても案外集中できるもんだ。
むしろBGM代わりにちょうどいい。会話内容が復習になったりもする。
それに成績いい奴らが黒板で授業モドキをしてたり、クイズ出し合ってたり、見ても混ざっても面白い。でも疲れるものは疲れる。
「なーんか楽しいこと考えようぜ……ほら、夏休みとか。高校生初の夏休みだぜ?なにがあるよ」
「宿題」
「楽しいことっつったろ」
「私ね、中学の時提出間に合わなかったことあるんだ……」
「まーた意外な」
「何にも終わってなくて、徹夜でワークに、作文に、あとポスターも。結局ワークの丸付け終わんなくて……。途中で諦めて出したら、先生に呼び出された」
「楽しい要素どこだよ」
力ない笑いで肩が揺れる。『楠木さん実は不真面目エピソード』コレクションがまた増えた。
今まで聞いて一番意外だったのはワークの答え写しをやるタイプだったことだ。
先生に疑われないようにちゃんと途中式を書いたり、間違え方を工夫したり。
小学校の頃友達に教えてもらったらしい。
それもう普通に解いた方が早いんじゃないか……なんて、全く同じことをやってた俺が言えることじゃないけど。
「楽しい夏休み……お祭りとか?」
「あー、いいな。皆誘って行こうぜ」
「また太田くんと美香ちゃんのラブコメが見れるね」
「あいつらどんくらい進んだろーな?」
「気になるねー」
電車の適度な揺れと頭悪い会話が固まった身体に効く。
「テスト終わったら何しようか」
「カラオケ行こうぜ」
「沢山歌おうね」
「いいねぇ」
期末が終わればすぐに夏休みだ。夏休み。いい響きだ。あともうひと頑張り。
音楽を聞きながらやるのは悪くなかった。とにかく『音楽が流れたらやる』。最初はだるくても段々続いてくる。
時間で区切らず、進捗具合で区切るといい。大体10ページずつくらい。飽きてきたら多すぎ。速く終わるに越したことはない。
休憩は15分がぴったりだ。お茶を飲んだりお菓子を食べたり、弟や母さんと話して戻ると大体そんな感じ。
そして、絶対にベッドに行かないこと。一回失敗した。
それから、案外どんな教科も反復練習でどうにかなる。一回解いて、ダメだったら解きなおして、もう一回全部解く。
ノートが埋まっていくのは面白い。
勉強って一番の敵は『飽き』だ。
飽きたら曲・教科を変えるか、風呂に入るか、寝る。
ガムとか飴を食べるのも悪くない。母さんから貰って何となく食べてたけど、これが結構集中できる。
「楠木さんガム何が好き?」
「んー、無難にミント?普通のが好きだよ」
「マジ?オレンジとかブドウとかの甘いのが好きだと思ってたわ」
「それも嫌いじゃないけど……フルーツ系なら飴でいいじゃない」
「飴はミルク系のがいいじゃん」
「えぇー、そうー?」
テスト前金曜日。
気分転換を兼ねて神月駅のテナントのスーパーでお菓子売り場に来ていた。
同じ様にテスト勉強用お菓子を買いに来た学生やら、夕飯の買い出しやらで結構込み合っていた。
「あ、これ美味しいんだよ。シュワシュワして」
「これもいいぜ」
楠木さんが指さしたのは三ツ矢サイダーの飴。他の袋飴に比べて安いのが嬉しいところだ。
俺はチェルシー。ピンク色のが一番好きだ。
「ねぇ、半分こしない?」
「いいぜ。あ、待ってガムも買うわ」
「うわっ、凄いスースーするやつだ」
「それがいいんだろー?」
二人で飴とガムを買い、電車に乗った。
早速飴を口の中で転がしながら帰路に着く。この優しいけど濃厚な甘さが良いんだ。
「飴が沢山あると何だか幸せな気持ちになるねぇ」
半々に分け合った袋飴を持ったまま隣の楠木さんが呟く。
「ガーキ」
「なんで、嬉しくならない?」
「俺そこまで子供じゃないし?」
「そっちのが子供ですー」
怒ったふりをする楠木さんの、飴で膨らんだ頬がむくれてるみたいで面白い。
吹き出した俺と、肩を叩く楠木さんが黄昏を透かして窓に映っていた。
そうして、週明けの月曜日。
今日の教科は数A、世界史B、家庭科。黒板に時間と一緒に書いてあるのを見るといよいよテストだなって感じがする。
「テスト配るぞー。しまえー。しまえって、配るから」
名残惜しく教科書をリュックに突っ込んで、前から解答用紙を受け取る。
後ろへ回すと、ちょうど奥の楠木さんと目が合った。不安と自信7:3くらいの顔。俺も似た顔をしてることだろう。
チャイムが鳴った。
「はい、始めー」
8月から始めて、ついに10話目です。
今まで読んでいただき、ありがとうございます。
これからも誠心誠意、投稿を続けていきます。