俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第13話です。


第13話 邂逅開口閉口  ──ひとときの楽しみの味は──

「あ、赤坂くーん!終わったー?」

 

「おーう」

 

 

 

 夕焼けが差し込む廊下の奥。談話スペースでお母さんと待ってくれていた楠木さんが手を振っていた。俺と一緒に隣の母さんまで振り返す。

 

 

 

「かわいい子ね~やっぱりあんたに気があるんじゃない?」

 

「ないから」

 

「あら、あるのはあんたの方?」

 

「だからないって」

 

「んふふふふふ……まあ、そりゃ見てりゃ分かるわよ。良い友達じゃない」

 

「そう」

 

「ふっふふー」

 

 

 

 無駄に母さんの機嫌が良いのは、多分成績が上がったのを担任の先生に褒められたからだろう。

 

 

 

『授業態度も良く……』

 

『成績も非常に良い上がり方で……』

 

『残って勉強していて……友達とも協力を……』

 

『継続できればⅡクラスにも……』

 

 

 

 と、まあまあ。

 

 大抵三者面談ってのはは言うほど怖い思い出はないけど、ここまで褒められたのはなかなかない。

 所謂『バカをやる』やつらがいないのが大きい。昔はよくいたずら関係で注意されたモノだ。

 

 

 だけど、目標だった『Ⅱクラス昇格』に先生からお墨付きをもらえたのは大きい。

 楠木さんに聞くと同じようなことを言われたようで、俺たちはこっそりハイタッチをした。

 

 

 

「えぇ、えぇ、一緒に勉強していただいて……」

 

「『いただく』なんてそんな!ウチの子がここまで勉強してるなんて初めてで。

夏休みの宿題も、ねぇ?毎日やるなんて小学校以来で……」

 

「いえいえ、こちらも似たようなもので……。

 

それに、赤坂くんと関わるようになって明里もどんどん明るくなってて。放課後も色々楽しんでるようですし、なんとお礼を申し上げたら良いか……」

 

「まあまあそんな、こちらだってそりゃあもう!

 

高校がねぇ、志望校落ちちゃって、今まで仲良かった子たちと離ればなれになって、心配してたんですけども。変に気合い入れてたり。

 

こりゃもうホントに見た目通り不良になっちゃうかと思ってたんですけど、それがまあまあ……。

 

本当に、明里ちゃんが仲良くなってくれて良かったです」

 

「それはこちらも……」

 

 

 

 階段を牛の歩みで降りていくお母さん方に歩みを合わせ、俺たちは数段離れた所で話を盗み聞いていた。

 

 

 

「……なーんか色々褒められてんね」

 

「ねー、恥ずかしくなっちゃう……。赤坂くんのお母さん、話し方ちょっと似てるね」

 

「うえー?マジ?父さんは似てるって言われるけど……。そーいう楠木さんこそ似てんじゃん。話し方とか、なんか、振る舞いとか?」

 

「えっ、そう?」

 

 

 

 俺とは違って、楠木さんは素直に嬉しそうに顔を輝かせた。本当にご両親と仲が良いらしい。

 

 

 楠木さんのお母さんはまさに『しとやか』って感じの人で、活発な母さんとは系統が違う母親だった。

 だからといって無口ではなく、母さんとママさんトークを繰り広げている辺り社交性もある。

 

 なんとなく中学の頃や入学当初の楠木さんと同じ根暗な人だと思っていたから、これは結構意外だった。

 

 

 二人で黙って親同士の話に聞き耳を立てていると、今度は中学の部活トークに話が飛んでいった。

 サッカー部の部員が少なくて2年になればレギュラー確定だった話とかしている。

 

 

 

「この子ずっとやってたのに全然上手くなくてですねぇ。ねー、透!」

 

「知ってるよ!」

 

 

 

 俺で笑いを取るのは構わないけど会話に入れようとしないでくれ。ほら見ろ、隣の楠木さんのお母さん愛想笑いだ。

 

 

 

「サッカー、上手くなかったの?」

 

「いや楠木さんよりは上手いけど」

 

「それはそうでしょ」

 

「3年メンバーん中じゃ下から数えた方が速かったな。

 

俺ディフェンス……ディフェンス分かる?防御ね。

それのサイドバック……両端の守りね。要は敵のボール奪って味方に渡さなきゃじゃん?マジでダメでさ」

 

「んん……なるほど?」

 

「はは……、『役割も果たせないのか』ってね……」

 

 

 

 1年、2年ととにかく先輩たちにどやされたのを思い出してきた。

 

 遼太郎と蓮也に慰められながら帰ったのも今は昔。

 遼太郎は俺以上に下手で怒られてたけど。

 

 

 

「要はさ」

 

「?」

 

「俺は『サッカー部』じゃなくて『サッカー』したかっただけだった……ってカンジ?」

 

「……あぁ」

 

 

 

 楠木さんはなんとなく分かったような顔をして、曖昧にうなずいた。

 

 

 俺がずっとやってきた『サッカー』は、20分休みや昼休みに友達とぎゃあぎゃあ言いながらボールを追っかける事だ。

 

 金魚の糞みたいに皆でボールを追っかけ、入れてあげた低学年にボールを渡してやったり、脚をもつれさせて団子になって転んだり、都合良いときだけ『ハンド!ハンド!』と言ったり。

 

 俺は皆で遊びたかっただけだったんだと、入部して数週間で思い知った。

 

 

 俺たち3人の中で一番上手かった蓮也はどんどん成長する中、対して『情熱』とやらを持ってなかった俺と遼太郎はぐずぐず落ちぶれていった。

 

 そんなこんなであった、色んなゴタゴタももはや懐かしい。

 

 

 

「サッカーやりてぇなあ」

 

 

 

 今日蓮也は部活で来ないらしい。先輩の補佐とかで忙しいだとか。

 

 ちなみに同じサッカー部に入ってた遼太郎は6月前には辞めたらしい。それでこそ遼太郎だ。

 

 

 

「夏休みなんだし、誘ってみたら?」

 

「……それもいーかもね」

 

 

 

 今でもお祭りに誘ってくれる友達なんだし、それくらいノってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神月駅まで続く道はもう混み始めていた。

 一向に進まない前の楠木さんちの軽自動車を眺めながら、母さんとだらだら話をする。

 

 

 

「いやー、家庭訪問の時は友達少ないとかうんたら言われてたけど、安心したわ。勉強だけじゃなくてクラスでも上手くいってんのね」

 

「まあねー」

 

「『高校行ったら部活なんてやらない!』って引退直後に言ったもんだからどーなるかと思ったけど。まー上手くいってんだし、良かった良かった」

 

「んな事も言ってたね」

 

 

 

 爆速で地区予選敗退して、皆でやけくそに爆笑しながら帰った後、開口一番母さんにそう言った思い出がある。それももう1年前か。

 

 

 

「楠木さんといて楽しい?」

 

「楽しくなかったらいないし」

 

「それもそっか。にしても女の子の友達って久々ねー」

 

「んなことないし?いたでしょ、昌子とか亜佐美とか友里とか麗とか、」

 

「そりゃあ、色んな女の子の話はずっと聞いてたわよ?

 

でもほら、まさに『友達』っていうか、今の楠木さんみたいに色々一緒に出来るような子はいなかったじゃない」

 

「別に……」

 

「はあー、やっぱり雪子ちゃんが忘れられないの~?」

 

「……違うって」

 

「またまたー。何よその間はー?んー?」

 

「何でもねぇって!ほら青だよ」

 

「えっ、あらやだ」

 

 

 

 すっかり先に行ってしまった楠木さんちを慌てて追いかける母さんから目をそらして、窓の外の光景を眺めた。

 

 

 ──雪子ちゃん。ユキちゃん。早野雪子。

 

 小4の時の、女子の友達。

 一緒にいたのは半年にも満たなかったのに、今でもありありと思い出せる。

 

 引っ越ししたての頃話しかけてきたことも、かっちゃんと一緒にサッカーに誘ってくれたのも、教科書忘れたら見せてくれたのも、引っ越すときに着てた白いワンピース、も……。

 

 

 

「ッ!?」

 

「うおおぉぉ、何ぃ?」

 

 

 

 急に身体を起こした俺に、母さんが非難の声を上げる。

 

 俺はそんなの気にせず、さっき見かけた影を必死に探していた。

 道が混んでるとはいえ、車だから見かけた場所はあっという間に通り過ぎてしまう。

 それに歩道の方も混んでいて、その影はあっという間に人並みに飲み込まれていった。

 

 

 

「ちょっと、ちゃんと座りなさい!何?」

 

「……いや……。

 

……れ、蓮也みてぇなヤツがいてさ!練習サボってんじゃんって思ったけど、違ったわ!」

 

「……ふーん、そう」

 

 

 

 行儀良く座り直してニコニコすれば、母さんはいぶかしげに一瞥した後前に視線を戻した。

 

 何事もなかったように、帰りの時間を聞いてくる。9時の電車には乗る、と返しながら俺は跳ねる心音を押さえ込もうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、やーっと来た!透ー!!」

 

「うえーい」

 

「明里ーっ!」

 

「麗ちゃーん!」

 

 

 

 なんで女子ってすぐに抱きつくんだ?もみくちゃにされてる楠木さんとその疑問を放っておいて、手を振ってる3人の所に行った。

 

 

 

「何だよおせーじゃんよ!何?デート?」

 

「ちげえよ三者面談!親に送ってもらった」

 

「あー、だから制服なんだね」

 

「そーいうお前はずーいぶん気合い入ってんねー?あーゆむくん?」

 

「そーだそーだ」

 

「はぁっ?いや、別に、いつも通りだよ!」

 

「いやいやー、普段は帽子なんて被んないくせにそれはないっしょ!」

 

「久々に使うかって思っただけだって!」

 

「またまたー」

 

「二人して気合い入ってんのなー」

 

 

 

 横の女子たちを見ると、美香の気合いの入りようが俺にさえ分かった。

 

 麗は制服、茜はTシャツにジーパンとめちゃめちゃラフだ。

 それに反して美香はしっかり浴衣。

 髪型も色々してあるし、見た目重視で何にも入らなそうなカバンも持っている。

 

 一体二人がどこまで進んでるのかは知らないが、こりゃあカンゼンに脈アリだ。うらやましいねぇ。

 

 

 ひとしきり歩夢をからかった後、俺たちは花火が始まるまでお祭りを堪能することにした。

 

 

 お祭りと言えば、やっぱり食べ歩きだ。

 

 たこ焼きにかき氷にクレープに焼きそばにチョコバナナに、食べたいものは尽きない。

 ここでは原価も衛生も気にしてはいけない。『お祭りで屋台で買ったものを友達と食べ歩く』。

 それこそに価値がある。

 

 

 中学より増えたお小遣いにものを言わせて、気になったものをどんどん買っていく。

 全部食うわけじゃない。俺はやさしーので弟と母さんにも買っていってやる。

 

 

 

「あーいいなーから揚げ!一個ちょーだい」

 

「じゃあたこ焼きくれ」

 

「あ!私も!ベビーカステラあげるからさ!」

 

「おいから揚げ5個だけなんだぞ!」

 

「ヤバいヤバい、落ちる!透ー、持ってくれー」

 

「ばか、てめぇ買いすぎなんだよ」

 

「透だって山ほど買ってんじゃーん」

 

「俺ぁお前みてーに全部一人で食うわけじゃねーの!」

 

「あ、私も持つよ」

 

「うおー、ありがたい!ほらこういう所だぞ透くん、お前に足りないのは」

 

「持ってやってるだろうがよ」

 

「おい!射的!射的やろうぜ!」

 

「あたしもやるー」

 

「あっ、じゃあオレもやるよ!」

 

「おーおー、かっこいいとこ見せろよー」

 

「じゃあオレも……」

 

「おめーはまず食い切れ!」

 

「ええ~」

 

 

 

 食い物シェアし合って、遊んで、騒いで。

 お祭りならではのバカ騒ぎを俺たちは十分に堪能した。

 

 

 今度は輪投げをしに行った美香&歩夢。

 俺と楠木さんがクレープを買いにいっている間に、気が付くと皆それをからかいに行っていた。

 

 

 

「皆クレープ食べないのかな?」

 

「あいつらさっきベビーカステラ食ってたからそれじゃね?甘い粉もので被るから」

 

「ええ~、別物だよー。私はクレープの方が好きだなー」

 

「俺もー。何にする?楠木さん」

 

「私?そーだなー……」

 

 

 

 列に並びつつ、一緒にメニュー表を眺める。

 大分買ったけど財布にはまだ余裕があるし、今なら夢のトッピング全部乗せにも手が届く。

 

 やっぱりチョコとバナナ、いや後で普通にチョコバナナも食べたいしな……。

 

 ストロベリーソースかブルーベリーソースかで悩んでいる楠木さんと一緒に、表を熱心に眺めていた。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「トオルちゃん?」

 

 

 

 背後から掛かった声に、ぞっと身体が震え上がった。

 

 覚えのある──忘れていたかった──声におずおず振り返ると、そこには白いワンピースを着た、黒髪の少女が立っていた。

 

 

 

「あはっ、やっぱり!トオルちゃん!トオルちゃんじゃん!

 

久しぶり~っ!」

 

 

 

 やや横長の目を皿のように細めて、白い歯を見せて笑う、全く変わらない笑顔。

 

 

 

「……ユキちゃん」

 

 

 

 早野雪子。

 

 俺の初恋の子が、そこにいた。

 

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