俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第16話です。


第16話 ベタ踏みホップ・ステップ・ハイジャンプ  ──初恋はやっぱり甘酸っぱく──

「はあぁ~……」

 

 

 

 木の机ってのは冷たい。いつこうして頬をくっつけても一定の冷たさで出迎えてくれる。

 木の家具ってのはなんか『温かみの象徴』みたいな存在のくせに、今まで一番付き合いの長いこいつはいつ触ってもひんやりでいてくれる。

 

 そう、例えどんなにショックなことがあろうと。

 

 

 

「マジねえわ~……」

 

「そんなにショック?」

 

「ったりめーだろこれがショックじゃねぇなら何だってんだよぉ~……」

 

「まあまあ」

 

 

 

 楠木さんはくすくす笑って、優雅にご飯を口に運んだ。俺の憎らしい視線もなんのそのだ。

 

 

 

「はあーあ……」

 

 

 

 俺のため息で机が曇る。気持ちとは裏腹に、その曇りはすーっと消えていく。

 

 

 

「……クソがよー」

 

 

 

 夏休みが終わったと憂鬱になる暇もなく夏休み明けテスト。

 それが終わったと思えば各教科から宿題提出を求められ、出したら出したで『夏休みなんてありませんでした』とばかりにいつも通りの授業が始まった。

 

 それにようやく慣れてきたと思えば、夏休み明けテストと7月の模試結果が返却。

 

 

 これが、これが本当に本当に最悪だった。まあまあかな、とか思っていたらこれまでにないレベルで最悪な結果が返ってきた。

 

 模試はいい。まだ最初の模試だしまだ行きたい大学だって決まってないんだから。

 

 

 問題は夏休み明けテストの方だ。俺らの戦略、一番の目標達成に欠かせないのに、大幅に順位を下げてしまった。

 やはり腐っても進学校東雲付属。夏休みの皆の上昇量は並じゃなかったか。

 

 

 夏休み明けテストは国語、英語、数学の三教科だけだけど、どれも前回の期末試験を下回る結果が出た。

 

 全クラス合同テストとは言っても、下から数えた方が圧倒的に早いのにはさすがの俺もショックだった。

 もう思い出したくもないけど、三教科合計順位がⅡ、Ⅲクラス合同の281人中187位。まさかのワースト100位入り。

 

 こんな順位を取ったのは3年最後の期末テスト以来だ。

 その時は三年間で初めて五教科合計が300点を割り、順位も今までにない最低順位だったけど、まあ高校も決まったしどうでもいいやと軽く考えられた。

 

 けど、今回はそうも行かない。

 

 

 あーもう、クソ親父め。

 帰って来るなり俺を物理的にも精神的にももみくちゃにし、俺主役の誕生日パーティーを完全に食い、酔った勢いでウザガラミの極み。

 

 おまけにいびきがうるさくて寝れやしない。

 

 一人ぐっすり寝れた父さんは寝不足気味の俺と弟を連れてボウリング場だのショッピングモールだのに引き釣り回し、どっちが子供なのか分からないぐらい騒いでいた。

 

 お陰でまーったく勉強が出来なかった。弟は絡まれていつも通りゲームが出来なかったし、母さんは息子二人にウザがられてひねくれる父さんのお世話に追われることになった。

 

 

 と、このように普段の赤坂家をしっちゃかめっちゃかにしてった父さんは、俺のテストが終わるとようやく帰って行った。

 

 だからテストの結果が悪かったのは全部父さんのせいだ。俺は父さんを絶対に許さない。

 

 

 

「だあぁぁ……」

 

「もう、いつまで引きずってるの」

 

「だってよおぉー……あー、クソ。えー……、なんかごめん」

 

「あ、謝ることないよ!?そりゃ大変だけど、結果的にⅡクラスに上がれれば良いんだから!!」

 

「んー」

 

「ね?」

 

「はあぁ~……」

 

 

 

 また机が曇って、ゆっくり消えていく。それを見れば、まあさすがに俺も機嫌を直さざるをえない。

 

 

 

「まー、しゃーねぇか。メシ食お」

 

「そうそう!ご飯食べれば機嫌良くなるよ!」

 

「んだなー」

 

 

 

 そう、今日はオムライスだ。

 冷凍ミックスベジタブルとソーセージ、ケチャップとご飯をさっと混ぜてレンジでチン。

 適当に盛ってこれまた適当に焼いた卵を乗っければ完成。

 後は冷凍おかずやブロッコリーを添えれば完璧な弁当のできあがりだ。

 

 ご飯の残りはそのまま俺と弟の朝ごはんとして食べられるし、洗い物節約にもなる。さすが俺だ。

 

 

 気を取り直して別に用意していたケチャップを上に掛けていると、横から女子がぞろぞろ寄ってきた。

 

 

 

「楠木さーん!」

 

「赤坂くーん!」

 

 

 

 俺も呼ばれるようになったとは、全くこいつらの成長を感じるね。

 

 

 

「付き合ってる!?」

 

「ない」

 

「ないよっ!」

 

 

 

 この前より必死に否定する楠木さん。

 こういうのは必死になればなる程面倒くさくなるんだから、やめてくれ。

 

 

 

「ええー、またまた~」

 

「だって夏祭りでも見たし!」

 

「さっきも楽しそうに話してたじゃんね!」

 

「それに一緒にアイス食べてるの見たから、あたしら」

 

「ねーもー絶対デートじゃーん」

 

「いやフツーに違ーけど……」

 

「そうだよただの誕生日祝いだから!違うよ!赤坂くんなんか全然好きじゃないから!」

 

「えっ」

 

 

 

 ちょっ。

 

 

 

「えぇ~違うの~?」

 

「今度こそは付き合ってると思ったのに~」

 

「ほんっとに違うよ!好きじゃないから」

 

「あはは、ほんとかなー」

 

「付き合ったら教えてねー」

 

「いつでも相談乗るからねー、楠木さーん」

 

「……あれどう思う?」

 

「五分五分?」

 

「さすがに赤坂可哀想じゃね?……ぷふ」

 

「くくく……」

 

 

 

 ああ全くだ。さすがに傷つくぞ楠木さん。

 

 俺の心はつゆ知らず、楠木さんは髪を整えつつ、ちらちら隣を盗み見ていた。

 視線の先には……そう、那賀川健人。

 

 

 学期が変わったのを境に席替えをし、俺はクラスの真ん中、楠木さんは窓際の後ろになった。

 今まで通り昼食は俺の席で食べてるけど、丁度後ろには那賀川の席がある。

 

 那賀川は人気者なのでクラスの男子集団がごろごろ集まって今日も大騒ぎしている。

 俺としてはたまに話振ってくれて面白いしありがたい。

 

 が、楠木さんは那賀川が気になって気になって仕方がないらしい。

 

 

 楠木さんのこれは……もう口に出す必要もないな。

 なんかもう、見ている俺の方が恥ずかしくなってくる。

 

 

 まず見た目。伸ばした髪はそのまま前に流して、前髪も伸ばしっぱなし。

 どう見ても邪魔そう、というか何度もうっとうしそうに払ってるのに、ずっとこの髪型のまま。

 とっとと中学の時みたいに縛れば良いのに。

 

 制服にもシワ一つなく、背筋は定規でも入ってるんじゃないかってほどピシッとしてる。(これはどっちかと言えば緊張のせいか)

 

 

 でも俺的に何より気になるのは弁当だ。

 

 なんだその品数は。ピクニックにでも行くのか。

 そのハート型に切った卵焼きと輪切りパプリカに入れた目玉焼きはなんだ。楠木さんのお弁当は4ヶ月見てきたけどそんなの初めて見たぞ。

 

 あとそのピック。いや動物系の可愛いピックが好きなのは知ってたけど明らかに使用頻度が増えた。

 肉巻を留めるパンダがつぶらな瞳で今か今かと食べられるのを待っている。

 残念ながらお前の制作者は他の事で頭がいっぱいだよ。

 

 

 なんというか、前までは弁当屋の弁当って感じだったけど、今はお母さんが可愛い娘の遠足に張り切って作ったお弁当って感じだ。

 または初デートで彼氏に初めて作ったお弁当。

 

 俺も彼女が出来たらこんな弁当作ってもらいてーよ。

 

 

 と、いう感じで楠木さんは新学期始まってから(席替えしてから)ずっとこんな感じだ。

 そして俺はそれを眺めつつにやにやして過ごしている。

 

 

 あの女子たちはバカなのか。これをどう見てれば楠木さんが俺のこと好きだと思うんだ。

 どーうみても後ろの男子集団に好きな人が出来たのは明白だろうが。

 

 まー俺はその相手まで知ってるんですけどねー。

 

 

 なんてにやにやしながらオムライスを口に運ぶ。

 うん、美味い。簡単オムライスでも人の恋愛模様を見ていれば10倍美味くなる。

 

 

 ふーん、那賀川、那賀川ねぇ?

 

 絡まれてるのを助けて貰って恋に落ちるとか、なんというベタ。しかも相手はクラスでそれなりに人気のイケメン。

 それに対して、楠木さんはクラスでもおとなしめで目立たない子。

 

 へーえ?ふーん?まるで恋愛映画みてぇだなぁ楠木さん?

 

 

 

「ぶっ……くく……」

 

「……?」

 

「ぐふ、ぶ……んぐっゴホッガホッ」

 

「え……何……?」

 

「いや……何でもねぇ…ぶ、…ダメだぁはっはっはっはっはっは」

 

「え……?え?」

 

「いや何でも……ふ……ぶっは、あははははは」

 

「ええぇ~……?」

 

 

 

 一人笑い転げる俺を楠木さんは心配と恐怖が合わさった表情で見てくる。さっきからかいに来た女子たちも引いてる。

 

 

 

「えー赤坂何笑ってんの~?」

 

「楠木さん何言ったーん?」

 

 

 

 男子連中からはからかいの声が掛かる。

 楠木さんは一斉に男子の目が注がれたのと、那賀川までこっちを向いたのを見てガッチガッチに固まっていた。

 それを見て俺は更に笑いが止まらない。

 

 だがまあさすがにかわいそうなので、ヒイヒイ言いながら男子集団に応えた。

 

 

 

「な、なんでもねぇ、何でもねぇよ!俺がツボっただけ!」

 

「どんだけツボってんだよ」

 

「草」

 

「おいおい赤坂ー、楠木さん困ってんじゃーん」

 

「ねー楠木さーん」

 

「あ……えあ……」

 

 

 

 まずいまずい、なんも改善しなかった。楠木さんがキャパオーバーだ。と、そこで声が割って入る……!

 

 

 

「こら、そろそろ止せよ。な?ごめんな楠木さん!このとおり!」

 

 

 

 那賀川だあぁぁー!

 

 さらっと皆を止め、ゴメン!と手を合わせて拝む那賀川の笑顔!これは男の俺でも好感度が上がる!

 

 さあそれを受けて楠木さんは……!?

 

 

 

「……キュぇ…………」

 

 

 

 快心の一撃!!クリティカルヒット!楠木さんダウン!

 顔を真っ赤っかにして固まった!

 持っていたパンダのピックが落ちる!パンダもこの光景が見れたなら落ちるのも本望だろう!

 

 

 ……なんて心の内は全く顔に出さず、俺はただニヤニヤ息を整えて楠木さんを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 俺と楠木さんはコンビニで飲み物を買い、この前と同じ神社にいた。

 

 

 冷たい石階段に腰掛けて、乾いた喉を潤す。

 俺は安い缶コーラだけど、楠木さんはコンビニ限定特別オレンジソーダ。

 夏休み明けテストで順位が負けたから、今度は俺が奢ったというワケ。

 

 

 

「わ、これすご……え?すごいオレンジだ!」

 

「味わって飲めよなー高かったんだから」

 

「えへへ、はーい」

 

 

 

 俺がショックから立ち直ってきたことで、楠木さんはようやく夏休み明けテストの結果を喜べているようだった。

 

 この前281人中152位だったのが、今回は150位。

 順位で言うと小さくても、俺があれまで下がったテストで少しでも順位を上げたのは純粋にすごい。

 

 俺はフツーに悔しい。財布も痛い。

 だけど、結果の紙を木漏れ日に透かして嬉しそうにソーダを飲む楠木さんを見ていると、まあ250円も致し方なしってカンジ。

 

 次は俺が奢らせるけど。

 

 

 9月といえどまだ夏。セミも太陽も毎日楽しそうだ。首筋につける缶の冷たさが気持ちいい。

 

 そんな環境で楠木さんはまだ長くなった髪を下ろしたままだ。肩を少し越すくらいに伸びた黒髪を後ろで二つに分け、両肩から前に流していた。

 汗ばんだうなじが襟から覗く。そりゃ暑いだろうな。

 

 

 

「楠木さんも頑張るねぇ?」

 

「え?うん、まあ、頑張ってるけど……それは赤坂くんもじゃない?

 

結果は振るわなかったけど、宿題は完璧に出し切れてたし小テストも乗り切れてたし」

 

「そりゃまあそうだけどさ?や、勉強もだけど、随分頑張っちゃってるなーって……ねぇ?」

 

「……?」

 

 

 

 楠木さんはソーダを一口飲んで、首を傾げる。またまた、しらばっくれちゃって。

 

 

 

「いやー、俺ぁまさか楠木さんがここまで変わるとは思ってなかったぜ?やっぱレンアイってのぁ人を変えるねぇ?」

 

 

 

 楠木さんはソーダのキャップを閉めた。一段上に座る俺を、不思議そうな顔で見ている。

 

 

 

「れんあい?」

 

「……え?」

 

 

 

 気の抜けた返答に、俺の脳裏を一つの考えがよぎる。

 

 いや、まさか、こんな分かりやすくてそんなことあるわけないだろ。

 暑さとは違う変な汗が俺の頬を流れる。

 

 

 

「いや……だから……楠木さん随分那賀川のこと意識するよーになった、なーっ、て……?」

 

「…………え?」

 

「……え?だから………好きなんじゃねぇの………?那賀川んことが……」

 

 

 

 楠木さんはしばらくポカンとしていた。ソーダを膝の上に置いて、俺をぼけーっと見つめていた。

 

 それが少しずつ、顔が赤くなり始め、口がわなわなと震え始める。

 

 あーこりゃあの考え当たってたわ、と思った瞬間、神社に楠木さんの絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……!わ……!?わ……、な……?は……!!!!」

 

 

 

 一通り叫んだ後、楠木さんは立ち上がって俺に何か言ってきている。全く分からないけど。

 頭を抱え、俺や自分を指さしたり、頭を振ったりしている。

 

 

 

「落ち着けよ」

 

「えっ、なっ、なっ、な、なんで!?」

 

 

 

 どの『なんで』だよ。

 

 

 

「俺が聞きてえよ」

 

「なんで!?」

 

「いや、あんな分かりやすくてバレないと思った?つーかちゃんと自覚してる?楠木さん那賀川のこと好……」

 

「やああぁぁぁ!!!いわ、言わないで!」

 

 

 

 ああ人ってあんなに顔赤くなるんだ、と俺は人ごとのように思った。

 

 ついこの前まで美香と歩夢をからかい、あげく焚き付け、恋愛クソ映画をボロクソに叩いたとは思えないほどの耐性のなさ。

 まさか自分が当事者に回るとは思っても見なかったのか。

 

 二周くらい回ってこの状況が面白くなってきた。

 

 

 

「へーえ?楠木さんあんなベタベタな惚れ方するんだー、ふーん?えー?つーか『好き』っての初めて知った?高校生にして?へぇ~??」

 

「あ……うう……」

 

「え?じゃあ無自覚?髪型気にし始めたのも弁当めっちゃ気合い入ってんのも?ええ~?おもしれーことすんじゃ~んやば~」

 

「……うううぅぅぅぅ~」

 

 

 

 脳ミソ茹だるんじゃないかと思うほど顔を赤くした楠木さんは、今度は顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。

 スカート履いて階段でしゃがむのは二重の意味で危ないぞ。

 

 まあ、いい加減俺もバツが悪くなって黙った。

 

 缶を横に置いてしばらく様子を窺っていると、楠木さんはようやく顔を上げた。

 

 

 

「……どうすればいいと思う?」

 

「は?」

 

「私ほんとに那賀川くんのこと好きだったら、どうすればいいと思う?」

 

 

 

 木陰でも分かる赤い頬と潤んだ瞳で言われたら、茶化す気が起きない。

 

 

 

「そりゃあ……。

 

……まあとりあえず落ち着けよ。ソーダ買ってやったんだからそれ一回飲め」

 

「……うん」

 

 

 

 楠木さんは立ち上がってボトルを取ると、今度は俺の隣に座った。フレッシュなオレンジの香りがふわっと立ち上る。

 

 飲むのを見届けて、俺は務めて真面目に楠木さんに聞いた。

 

 

 

「楠木さんはどうなん?好きだと思う?」

 

「……どう、だろう?この前助けてもらって、嬉しかったし……か、カッコよかった?

 

それから、なんか那賀川くんの事が思い浮かんで……こっち見てるかもって思うと嬉しいし、なんか話したいけど何話せばいいか分かんないし……。

 

……ううん。見てるだけで嬉しい。楽しそうだと、私も嬉しくなる」

 

「……ふ」

 

「ちょっと!今笑った!」

 

「ごめんごめん悪かった。違うから、続けて」

 

 

 

 これはこれは重傷なこった。完全にベタ惚れだよ。

 

 

 

「もう。……だから、もしかしたら……す……すき?なのかも……」

 

「へぇ?初恋じゃんおめでとう」

 

「すぐ決めないで!違うかもしれないじゃない……」

 

 

 

 ここまできて違ったらお前と那賀川は生き別れの兄妹だよ。

 

 

 

「じゃ、マジで好きだったらどうするつもり?せっかくの初恋だぜ?」

 

「ど、どうするもなにも……どうしよう?だって、つ……つ…、つ、付き合うなんて絶対無理だし」

 

「いや分かんねぇよ?もしかしたら那賀川も好きかもしんねーぜー?」

 

「……絶対ない。私じゃ無理だよ」

 

「えー」

 

 

 

 そればっかりは、聞き捨てならない。

 

 

 高校で明るくなろうと髪をバッサリ切った楠木さんが、一緒にⅡクラスに上がろうと勉強を頑張って結果も出してる楠木さんが、恋愛ごときに『無理』な訳ない。

 

 このままだらだら髪を伸ばして、昔の楠木さんに戻るつもりなのか。

 

 俺がダチになったのは、前髪つんつるてんの楠木さんだ。

 失敗した前髪でも高校に来て、俺に声を掛けてくれた楠木さんだ。

 自信がなくても一歩を踏み出した楠木さんじゃないか。

 

 

 

「楠木さんはそんなんで諦めるヤツじゃねーだろ」

 

「……え?」

 

「やってみりゃいいじゃん。無自覚でも気を引こうと色々頑張ってたんだし?どーせ恋したんなら告白して、あわよくば付き合いてぇだろ?」

 

「それは……」

 

「初恋だぜ?いやまあ楠木さんの好きにすりゃあ良いと思うけど……。適当にあしらったら、絶対後悔すると思う」

 

「……」

 

「これマジね」

 

 

 

 一瞬目がかち合って、気恥ずかしくなって逸らした。

 でも多分、その一瞬で言いたいことは粗方伝わったと思いたい。

 

 楠木さんには、恋愛で後悔して欲しくない。

 

 

 

「……そっか」

 

 

 

 楠木さんが立ち上がる。後ろから涼しい風が吹き込んで、俺たちの背を押す。

 

 

 

「じゃあ……、協力してくれる?私の初恋、どう扱うか」

 

 

 

 振り向いた楠木さんは、俺の目を見る。今度こそは、俺も目を逸らさない。

 

 

 

「はっ……いちいち聞くなよな」

 

 

 

 缶とペットボトルをぶつけて、一気に飲み干す。友達の初恋と、その踏み出した一歩に祝杯を交わした。

 








甘いだけの初恋をした人はいるんでしょうか。





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