俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

22 / 61
第21話 はやる思い  ──変化と違い──

 男女差ってもんがある。

 これはまあセイブツガク的に仕方のないことで、体力や筋肉量や体格やら色んな差がある。仕方がない。

 

 仕方がないんだけど……。

 

 

 

「……なっげぇな」

 

「オレもう飽きたわー」

 

「えーそれな」

 

「今何キロよ」

 

「知らねー」

 

 

 

 マラソン距離女子の2倍はやり過ぎだと思う。

 

 

 11月も終わり。

 今日はマラソン大会で、皆指定セーターとか着出すこのクソ寒い時期に、俺たちは半袖半パンで郊外を走り回っていた。

 

 

 走るのは嫌いじゃない。

 足はまぁ速いほうだし、寒いのだってしばらく走ってれば気にならなくなる。談笑しながら走れるくらいには余裕もある。

 

 でも10kmもただ走ってるだけなのはフツーに暇だ。片岡の言うとおりマジで飽きてくる。この会話も3回目だ。

 

 

 

「頑張れー」

 

「ぶっ、ガンバー」

 

「てめぇずりぃぞ!」

 

「おめーも走れ!」

 

「あと4キロー」

 

 

 

 陸上部は普段走ってるからとかいう訳分からん理屈で運営に回ってるらしく、ベンチコートを着てぬっくぬくに暖まりながら手を振ってきた。

 全員で中指を立てたり親指を地に向けたりする。

 

 

 

「あと4キロってどんなもんよ?あと何分?」

 

「20分くらいじゃね」

 

「ったるー」

 

「風景も代わり映えねーしよー」

 

「それなー」

 

 

 

 ちょっとした山の中程にある東雲付属はマラソンコースも面倒くさい。

 正門から出て行って山を登り、頂上から下がって下山し周辺の町をぐるりと回って帰ってくる。

 

 ようやっと山を下りて町が見えたときには歓声が上がったが、ここいらの町並みなんて皆見飽きてるわけで、あっという間にテンションは下がっていった。

 

 

 

「なぁ話題ねぇの?」

 

「ねーよ尽きたわ」

 

「ええー」

 

「じゃあ……。なぁ、お前ら好きな子いる?ぶふっ」

 

「修学旅行かよ!」

 

「まだ昼だよばかやろー」

 

「夜に聞くもんだろうが」

 

「ベタすぎだわボケ」

 

「んだよいねーくせによー」

 

「……いや、実はオレ彼女できてさー」

 

「「「「はああぁぁぁ!?」」」」

 

 

 

 皆の非難の目を浴びつつでへへと笑うは深瀬。

 ボロクソに嫉妬の嵐を受けつつ塾の子でー、早成生でーとか散々自慢できるそのメンタルは強すぎる。

 

 まぁ『彼女』という俺ら高校生にはそれなりにセンシティブな話題が投下されたことで話は盛り上がり、当然のように流れは女に向かっていった。

 

 女子の前では憚られるあれやこれやがポンポン飛び交い、下品な笑い声が冬空に響く。

 いやー、青春だねぇ。

 

 

 

「えー一番スタイルいいんは畑中っしょ」

 

「あーそれマジ!体育祭んときマジヤバかったわ。いやもうほんとさ?腕が幸せって」

 

「おめーそれが目的だったろうが」

 

「ヤリモクがよー」

 

「はぁー?何もしてねぇし不可抗力だし」

 

「フカモクがよー」

 

「でも畑中ちょっとキツめじゃね?」

 

「あー分かるちょっとコエーよな」

 

「優しさも欲しいよな」

 

「スパイスみてぇに言ってんじゃねぇよ」

 

「じゃあクラスで優しい女子って誰よ」

 

「湯川!めっちゃ教科書見してくれる」

 

「お前忘れ物多過ぎんだよ」

 

「は?谷中さんはシャーペン貸してくれんぞ」

 

「んなもんいちいち女子から借りんなよ」

 

「だって『貸してあげるー』って」

 

「「「やさしーい」」」

 

「あー優しいなら楠木さんもじゃね?」

 

 

 

 那賀川がそう言って、テンポ良く進んでいた会話が途切れた。

 10人近い顔が一斉にこちらを向く。フツーに気味が悪い。

 

 

 

「んだよ何見てんだよ」

 

「いや楠木さんっつったらお前じゃん」

 

「いっつも仲良くしちゃってさー」

 

「別にいっつもではねーよ」

 

「嘘つけ!」

 

「えー優しい?つーか可愛い??」

 

「普段何しゃべってん?」

 

「あっ!?もしかして割と着痩せするタイプだったり!?」

 

「おめーそればっかりだな」

 

「だーもう知るかよ見りゃわかんだろうがよ!!」

 

 

 

 強いて言わなくてもねぇよ。

 

 

 

「大体俺に聞くんじゃなくて自分で聞けよ!結構答えてくれんだぞあれでも」

 

「マジで?」

 

「だってすげぇビビりじゃん」

 

「下手なことするといじめてるって思われそう」

 

「お前ら楠木さんの事なんだと思ってんだよ」

 

「……さぁ?」

 

「なんもわからん」

 

「お前とよく一緒にいるヤツ」

 

「いや酷いなー」

 

 

 

 お前は何カラカラ笑ってんだ那賀川。

 お前からも何か言ってやれよ多少は仲良くなってきてるだろ。

 

 

 仕方ない。楠木さんはめちゃめちゃフツーのいい子な女子だって事を俺が教えてやろう……と口を開きかけたときだった。

 

 

 待てよ。

 

 ここにいるのは那賀川と男子多数。

 仮に俺がこれから楠木さんの事を褒めるとしよう。

 

 するとどうだ。男子連中の楠木さんの誤解は解けるし、那賀川により楠木さんを売り込むことができる。

 

 しかし、それはつまり俺と楠木さんの仲を公開するようなもんで、下手に勘違いされるとのろけになる。

 『付き合ってんじゃーん』までとは行かなくとも、『こいつら仲良いなぁ』が加速する。

 

 那賀川は楠木さんと俺が仲良いことに配慮して楠木さんに気が向かなくなるかもしれない。

 それは非常に困る。

 

 

 なら逆に楠木さんの良いとこ?俺も知らねー!とか言うことにする。

 そうすると俺との仲云々はまあまあ緩和されるが、那賀川に売り込むことができなくなる。

 皆にも楠木さんはウジウジガールのままだ。

 

 

 いや、それはそれで良いかもな……。

 

 

 というのも、最近クラス女子の楠木さんへのアタリが様々で俺はもう本当面倒くさすぎて勘弁してくれってカンジだからだ。

 

 女って面倒くせーの。

 『赤坂と付き合ってる!?』とかなんとかキャーキャー言ってたくせに、楠木さん那賀川好きじゃね?という雰囲気が伝わった途端なーんかヤな視線が混じるようになった。

 

 その他『好きなのは間中説』『赤坂と付き合ってるけど那賀川好きになっちゃった説』『単に男子と話すの好き説』『赤坂フラれてて草』等々様々な説が一部の女子の間で飛び交っているらしい。

 と、谷中と田中から聞いた。

 

 俺に言わないで楠木さんに言えよ、って言ったら『あの子言い返せないんだもん』だ、そうだ。

 ああ面倒くさい。

 

 ちゃんと楠木さんに事実無根な物は否定するように言ったけど。

 

 

 いやまぁ分かるぜ?俺だって薄々感じてるぜ?楠木さんとは仲良いし距離も近めだって。

 そりゃカンチガイしちゃってのも分かる。

 

 でも、違う。マジで違う。

 何かちげぇんだよ楠木さんってそんなんじゃねぇんだよ。

 この関係性なんて言うんだよ俺が知りてぇよ。

 

 

 

「……べーつにフツーの子だぜー?」

 

 

 

 全てを加味し、俺は結局ぼんやりとぼかして言うことにした。

 皆「ええぇー」とかつまんなそうに不満を溢す。

 

 

 

「結構喋るし、ふざけたりもするし……ちょっと色々慣れてねーだけだって」

 

「それマジ?」

 

「ふざけたりすんだ」

 

「ああー、確かに結構言えば話してくれるよな」

 

「そうそう。以外とな」

 

 

 

 俺だけに話さしといて間中と那賀川はしたり顔だ。ふざけやがって。

 軽く呆れた視線を送ると、那賀川はすっと首をすくめて笑った。

 

 

 

「にしても、お前も世話好きだよなー。兄妹みてぇ」

 

「………」

 

 

 

 兄妹。

 

 

 

「…………それだ」

 

「え?」

 

「それだッ!!!!!」

 

 

 

 さっきと同じように、周囲の全員が俺の方を一斉に見る。そんなのお構いなしに俺の頭は謎が解けた爽快感で異様な高揚感に満たされていた。

 

 

 そう。俺は兄貴だ。

 弟・悟が生まれてから約12年間兄として過ごしてきた。

 

 弟は手の掛かるヤツだった。好き嫌いも多いし癇癪も小さい頃は酷かったし、めんどい弟だなあと思いつつなんだかんだで世話を焼いてきた。

 

 

 つまりは、ここで培われた俺の所謂『兄力』が箱入り娘な楠木さんにも遺憾なく発揮されていたというわけだ。

 すると皆に勘違いされまくるあの距離感も、その癖俺に芽生えないそーいう感情にも説明がつく。

 

 

 ああそうか、そうか!つまり楠木さんは俺にとって妹みたいなダチだったと言うわけだ。

 何という納得感。今までのモヤモヤ感に全部説明がついて、心の底から気分爽快。くすんでいた景色が輝いて見える。

 

 これに気が付いたのが那賀川の言葉ってのが微妙に納得行かないが。

 

 

 

「っくく、そっかそーいうことか!いやマジそれだわ!それ!」

 

「えっ何」

 

「急になんだよ」

 

「え、自覚なかった系?」

 

「あ、そーいう?」

 

「は?どういうこと?」

 

「だーはっはっはっはっは!」

 

 

 

 俺だけ異様にスッキリしたまま、一行はダラダラ町を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お疲れ様ー赤坂くん」

 

 

 

 息を整えて生徒玄関近くに歩いて行くと、谷中、田中と話していた楠木さんが走り寄ってきた。

 

 

 

「おう、どーよこの順位」

 

「え?わあ、すごい!」

 

 

 

 23、と書かれた紙を掲げると、楠木さんは素直に感嘆の声を上げた。150人くらいいてこれなら上々だろう。

 

 あれからまた駄弁りながら走ってたけど、ゴールが近づくにつれて団子が解体されていった。

 競争してんなら勝ちたくなっちゃうのが俺たち男子ってもんだ。

 

 最終的に皆全力疾走で坂を駆け上がり、整理の先生に正されるまでシノギを削り合っていた。さすがに疲れた。

 

 

 

「あはは………私こんなんだったよ」

 

 

 

 楠木さんの順位表は106。楠木さんにしては頑張ったんじゃないだろうか。

 

 

 

「いーんじゃねーの?」

 

「なんだか嫌味だなぁ」

 

「んなことねーし」

 

「えー?」

 

「おーい!!飲み物の差し入れだって!!」

 

 

 

 ふとグラウンド側から声が掛かる。委員長が声を張り上げて手を振っていた。近くには那賀川もいる。

 

 

 

「ほーら意中のカレんとこ行こうぜ」

 

「ひぇぁ!?」

 

 

 

 背中をバシバシ叩いて促すと、楠木さんはまた慌てる。

 

 

 

「もう……!」

 

「恥ずかしがんなよー」

 

「だって、赤坂くんがそういう言い方ばっかりするんだもん」

 

「応援してんだよ、バーカ」

 

 

 

 楠木さんの背を押す俺の口角は、自然と上を向いた。

 







皆さんは持久走好きでしたか?
自分は不得意でしたが走ってれば終わるんで嫌いじゃありませんでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。