俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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遅れまして23話です。


第23話 あやふや境界線  ──寒いからこそ欲しくなる──

 がりがり、ざりざりとシャーペンを走らせる音が教室に響く。時折紙を裏返す音、椅子をずらす音、息を深く吐く音が聞こえてくる。

 

 

 テスト中にしか聞けないこの雑音が俺は結構好きだ。

 特に、もう書き終わって回収を待つだけのこの時間に聞くとき。

 

 最高だ。

 皆よりも一歩早くテストを終わらせたという優越感と開放感が、この音と共に身体にしみるようだった。

 

 

 

 2回見直した解答用紙を眺める。教科は家庭科。もちろん得意科目だ。

 90は越えた自信があるし、やることがない。優越感に浸るのも飽きた。

 

 つまりは、今俺は非常に暇していた。

 

 

 今日で2学期期末テストもお終い。

 後は模試をやって、通知表を貰えば冬休み。1年長かったなぁとペンを回しながらぼんやりする。

 

 去年の今頃と言えば、母さんや先生に突っつかれながらイヤイヤ試験勉強をしてた頃だろう。

 なんとなーく勉強してきた俺もさすがに焦ってきて、だけど何から手を付ければ良いか分かんないままで、学校のワークを周回していた記憶がある。

 

 まさか1年後、期末テストの為に2週間前からしっかり勉強する男になってるとは夢にも思わないだろう。

 

 

 今回のテストはどうだろう。大体はできたと思ってるけど、コミュ英が心配だ。

 最後授業でやらなかった読み解きが出題されて、それがまあ難しかった。皆できてないことを願おう。

 

 後は副教科。

 今回は音楽がやばいかもしれない。その日は数学に世界史が重なった修羅の日だったからすっ飛ばしたけど、完全にやらかした。

 

 楽譜を見てその調を書け、ってやつが法則を完全に忘れ、全く分からなかった。

 後で教科書を見返しても分からなかったし、昔ピアノをやってた楠木さんが教えてくれたけどそれでも分からなかった。

 

 

 楽器が弾けるってなんか良いよなぁ。それだけでカッコよく聞こえる。

 この前音楽の授業が始まる前、番場が「ネコ踏んじゃった」弾いてたけどそれさえなんかカッコよく見えた。

 

 そんな俺は、ギターなら多少弾ける。否、鳴らせる。

 昔父さんに教えてもらったからドレミくらいは鳴らせる。それだけだ。

 コードも習ったけど忘れた。いつか弾けるようになりたいと思いつつ、俺は七音を上り下りしていた。

 

 

 今度の冬休みやろうかな、と思いつつ、宿題と遊びとゲームに消えるんだろうなとも思う。

 それに冬休み明けテストだってある。Ⅱクラス昇進の為にはここは譲れない。

 

 

 前々回の悪夢、夏休み明けテストが281人中187位。

 どうにかと踏ん張った前回2学期中間テストが281人中129位。先生に褒められた1学期期末の134位をなんとか追い越した。

 

 マジで、夏休み明けテストの悪夢がどう響いてくるか分からない。

 俺が休み明けテストが下手な可能性だってある。

 だからこそ、冬休みだけは負けられない。100位以上だ。それを目指す。

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 

 そう心の中で宣言した時、丁度よくチャイムが鳴った。先生が解答用紙を集め始める。

 

 

 

「っっあああぁ!終わったあああ!」

 

「冬休みだあああ」

 

「えー遊びいこー?」

 

「行く!どこ行くどこ行く?」

 

「なーなんか食いいこーぜ」

 

「あ、わりー部活だわ」

 

「は?マジ?」

 

 

 

 皆が口々に叫ぶ中、俺は深く息を吐きながら背もたれに寄り掛かった。

 

 

 

「あー終わった」

 

「え?どうだった赤坂くん!」

 

 

 

 俺のその言葉に反応して前の相田が勢いよく振り返る。テスト中は出席番号順だから久々にこいつが前に座っている。

 

 

 

「やー、僕は結構できたと思うんだけどさ!ちょっと世界史が自信ないかな!?君はどう?」

 

「……さぁ?」

 

 

 

 深くは語らずニヤッと笑ってやると、相田はピクっと笑顔をひきつらせた。分かりやすいやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後相変わらず「オレやばいやばい」と言いに来た片岡を含めテストの出来を話していると、目の端にあるものが見えた。

 

 

 

「……でさ、こことかどうだった?」

 

「え、えと。ここは……」

 

 

 

 え。

 えマジ?

 

 クラスの後ろ側、楠木さんの席にもう一人。

 那賀川だ。

 多分位置的に那賀川から話しかけた。

 

 いやまあ楠木さんの席の近くにはいつも話してる男女諸氏がいるわけで、そのおまけ感が否めないけど。でも。

 

 

 何が良いって楠木さんが前と比べてちゃんと話せてるところだ。

 邪魔&緩衝材の間中がいないのに、たまに微笑んだりしながら家庭科のテストについて話している。

 

 

 

「……お前何笑ってんだ?」

 

 

 相田に弄ばれていた片岡にそう言われる。口元が思わずにやけていたらしい。

 

 

 

「なんでもねーし」

 

「はー?嘘つけどーせ楠木さんだろ」

 

「そーだそーだ」

 

「……だってめっちゃフツーに話せてんだぜ?カンドーでしょ」

 

「うわぁ」

 

 

 

 正直に白状すると相田は呆れた顔で目を細めた。しかし片岡はしたり顔で頷き、問題用紙をぐしゃぐしゃにカバンに入れながら言った。

 

 

 

「やー、まー分かるぜ。あの声のちっせー子があれだろ?お前のおかげだなぁ赤坂」

 

「だろー?」

 

「……え、赤坂くんは何、楠木さんの保護者か何か?」

 

「……さあ?」

 

「そんな感じじゃない?」

 

「……わからない……」

 

 

 

 相田がさらに顔を歪めた所で、先生が戻ってきた。

 

 慌てて身体を前に向ける中、去っていく那賀川が手を振るのが見えた。

 誰なのかは……言わなくてもいいだろう。

 

 

 

「えーまあテストが終わったわけだけど、今度は模試があるからね。そろそろ志望校を決めて2年生に備えて……」

 

 

 

 耳の痛い話は半分に、終わったら楠木さんをどうからかおうか考える。

 

 

 なんだか知らんが、図書館で話したーとかいう時から、那賀川はもっと楠木さんに話すようになった。

 

 俺がトイレから戻ってくると間中たち含めて話してることもしばしば。「同じクラスの子」から、ちゃんと「楠木明里」という個人で見始めた気がする。

 そのことと、谷中と田中がサイドを固めたおかげもあって、三山を中心にしたキショイ謎の視線は薄れた気がする。

 

 

 俺はというと、二人の仲が進展するたびに感じてたモヤモヤが俺の兄的性質によるものだったと判明したことで、非常に素直な気持ちで二人を応援できている。

 

 つまるところ、『お前に娘はやらん!』みたいな気持ちだったわけだ。

 ……まあそれはそれで、何とも気持ち悪い感情だったけど。相手はクラスメイトで友達だぞ。

 

 でも心の整理がついて、その気持ち悪さも受け入れて、俺は初めの頃と同じフラットな気分で楠木さんの恋路を応援している。

 

 

 ……あえて言うなら、ちょっと羨ましい。

 

 自分の気持ちに素直になって、初恋を楽しんで、ちょっといい感じになったりしてて。

 俺もこんな風にできていたら、今頃どうなっていたんだろう。

 

 振り切ったはずのポニーテールが、脳裏にちらついて。俺は気だるく頭を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テストが終われば後は早いもので、12月はあっという間に過ぎていった。

 

 模試は相変わらず分からないし、判定用の志望校も分からない。

 それが終わったと思えば、テストが次々に返された。

 

 平均点は軒並み50~60点台。ただ数Aだけ以上に低くて38点。でもそれだけ。

 先生方から見た平凡なテスト結果は、俺にも平凡な結果をもたらした。

 

 平均点プラス10~20点。マイナスへ向かうことはなくなった点数だけど、もう俺はこれじゃ満足できない。

 

 

 合計してみると大体前回の中間と同じだった。

 無論ダメだと思った音楽と、意外や意外、読解が失敗した現代文が響いてた。

 

 現代文ほど間違って納得がいかない教科もない。

 一応「得意」を自負してるものとしては余計に。どうにもむかついたまま、赤ペンで正解を書き直した。

 

 

 

「……あの、ごめんね」

 

 

 

 弁当を開く前に、楠木さんはふとそう言ってきた。

 

 いわく、合計点が前回に比べて下がったらしい。しかも結構大幅に。

 

 楠木さんの前回の順位は131位。かなり順位を上げ、俺は危うく負けるところだった。

 だから今回はもっと危ないかも……とか思ってたら、やらかしちゃったらしい。

 

 

 反省したらもう気にせず、冬休み明けテストを頑張ることにしていたけど、多分謝ったのはそっちじゃない。

 

 楠木さんは険しい顔でテスト用紙と那賀川を見て、唇を噛んでいた。

 

 

 

『Ⅱクラスを目指そう』

 

 

 

 そう言ったのは楠木さんだった。それを自分の色恋沙汰で崩しかけたのを怒ってるんだろう。

 

 

 対する俺は……別にいいのに、と思っていた。

 夏休み明けテストで俺がしくったとき『結果的に上がれればいい』って言ったのも楠木さんだし。

 ちょーっと失敗しちゃっただけだし。

 

 ……て思ってたんだけど。

 

 

「あ……那賀川くん、それ、今日の宿題?」

 

「おー、はよ。楠木さん。そうそう。やるの忘れちゃってさー。はは、見せてくれる?」

 

「そ、それはダメだよ。ちゃんと、自分でやらなきゃ。そんなに難しくないし」

 

「マッジメー。ま、だよね」

 

「うん。頑張って」

 

「おう」

 

 

 

 今度は楠木さん更に積極的になった。何って、那賀川の方に。

 

 自分から話を振って、頑張って近くに行くようになった。

 相変わらず照れ気味で、若干どもってるけど。

 俺の補助なんか要らないぐらいには会話を楽しんでいるようだった。

 

 理由を聞いたら「ヒミツ」、だそうだ。谷中や田中も分からないらしい。

 

 

 その効果はと言うと、多少は効いてるかなってカンジ。

 那賀川は相変わらずの爽やかスマイルで接してる。

 でもたまに、楠木さんをジッと見ていた。

 

 その見方が妙だった。表情の読み取れないスンッ、とした顔で数秒楠木さんを眺めて、なんでもなかったように間中たちと話し出す。

 

 

 

「お前さぁ、最近楠木さんの事よく見てねぇ?」

「えぇ~?」

 

 

 

 体育の休憩中、二人だけになったから聞いてみた。那賀川は困ったように眉を寄せて笑う。

 

 

 

「マジ?」

 

「マジマジ。え、何。何で?」

 

「分かんないよ自覚ねーし。そんな見てる?」

 

「見てんだろ。ちょっとだけボケーッと」

 

「ええ~?あったぁ?そんなこと。……ま、大したことじゃないんじゃね?覚えてねーくらいにさ」

 

「……ふーん。ま、そうか」

 

 

 

 明らかに誤魔化された。以降一回も目を合わせずに、クラスの試合を見ながら……。

 違う。

 死ぬほど遠い目をして、まあつまり死んだ目をして、口調だけはいつものままで返された。

 

 いやこえーよ。何。これの方が気になるわ。

 普段明るい良い奴がこういう顔するとマジで怖い。

 

 

 なんだこれ?

 なんか進んでるのは良いんだけど、いまいち双方の意図が分かんない。

 

 これ以外は二人とも全く今まで通りで、俺はずっと疑問符が浮かんだままだった。

 

 暖房の効いた部屋の空気がそのまま俺にまとわりつくように、なんだかなあ、というカンジ。

 大声でYES!と言えないビミョーな気分のまま2学期は終わりに近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、返すぞー。はい相田ー」

 

「は、はい!」

 

「赤坂ー」

 

「はい」

 

 

 

 まあその内話してくれるだろ、とか思ってたら2学期最終日。

 

 このクソ寒ぃ中わざわざ体育館に集まって終業式に出て、後はお楽しみの通知表だけだ。

 

 

 心臓をバクバク言わせながら先生から通知表を受け取る。今回は先生は何にも言ってくれなかった。

 更に跳ねる心音を聞きながら、通知表を開く。目を滑らせる。

 

 

 

「……」

 

 

 

 これは……。

 

 

 

「……んん?」

 

 

 

 なんてリアクションすればいい!?

 

 

 音楽が下から数えた方がいいのは良い。分かりきってる。現代文がよろしくない。これもいい。

 

 問題は数学たち。

 数Ⅰは平均+10点の63点。Aのヤバい平均点をしっかり超えたはずの50点はなぜか順位281人中162位……。

 

 もう一度平均点を見返して気が付いた。

 あの平均点、Ⅱクラスが入ってなかったんだ。アホみたいに低かった平均点は47点というよく見る点数に代わっていた。だから評定も3のまま。

 

 その癖古典が頑張ったのか国語総合は4。

 順位は上がったのに評定が上がってなかったり、逆に周りと比べてマシだからか評定は上がっていたり。

 

 全体的に大手を振って喜べない結果がちまちまと並んでいた。

 

 

 

「ま、まあいいか……?」

 

 

 

 通知表を閉じたり開いたり、首を傾げたりしなかったりしながらそう結論付けた。

 期末テスト全体順位はⅡ、Ⅲクラス合わせた281人中120位。評定平均は3.8。

 微妙ながら確かに上昇してるし、ならまあいいか、と思った。

 

 少なくとも母さんに文句を言われるものではないだろう。

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 ため息をつきながら通知表を閉じると、丁度楠木さんが呼ばれていくのが見えた。

 先生から何かを言われて、肩を落として、開いて更に落とす。

 

 楠木さんは誰とも話さず、しょんぼりして席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなにショック?」

 

 

 

 放課後。開放感の喧騒に負けないよう、いつだか自分に掛けられた言葉をそのまま投げ返すと、楠木さんはまた肩を落とした。

 

 

 

「覚悟はしてたけど……やっぱり数字で出ると、ね?」

 

 

 

 ファイルに通知表をさっさと挟んでカバンに押し込みながら、楠木さんはまたため息。

 

 

 

「お、何楠木さん。成績悪かった?」

 

 

 

 気にすんなよ、と言いかけたところで、バスケ部指定カバンを抱えた那賀川が声を掛けてきた。

 

 

 

「あ、あっはは……。うん、ちょっとダメだったや」

 

「んでけっこー落ち込んでてさー」

 

「うわマッジメー。オレなんて英語二つともギリ赤点回避だぜ?」

 

 

 

 へぇ珍しい。那賀川はそんなにバカなイメージ無かったんだけど。

 

 

 

「それは……平気なの?」

 

「んーまぁ何とかなるでしょ!他は良かったし」

 

「んだよ自慢かー?結構上位だったカンジ?」

 

「はは……ま、お前には負けるよ」

 

「ん~確かに悪くはなかったなぁ?お前に勝ってるくらいには?」

 

「ほーら」

 

「あんまりそういうこと言わないの」

 

 

 

 ちょっと自慢したら楠木さんにたしなめられた。いいじゃん。あの微妙な評価に箔を付けて安心したいんだよ。

 

 俺の意地悪な自慢を那賀川は笑って流し、カバンを背負い直した。

 

 

 

「んじゃ、オレ部活行くわ。じゃあな」

 

「おう」

 

「あ、が、頑張ってね!部活!」

 

「うん。またな」

 

 

 

 わぁ~、と楠木さんはぽやぽや手を振って那賀川を見送った。

 

 俺達に背を向けた那賀川は次々にバスケ部や他の女子達に囲まれていく。明るかった顔が切なげに曇る。

 しかし、その目は何かを決意したようにはっきりと那賀川の背を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅわさっっぶ!!!!」

 

「ひぃ~」

 

 

 

 カラオケ店がどこも満員だったこともあり、早々駅から撤収した俺達は、電車を出た途端襲いかかった寒さに震え上がった。

 

 頭が朦朧とするくらいあったかい電車と、頼りない日光を吹き飛ばすような寒さの外の落差に死にそうだ。

 

 

 

「マジで言ってんのかよこれ」

 

「寒いねぇ」

 

 

 

 ネックウォーマーを口元まで上げ、背を曲げて歩き出す。

 

 目指すはちょっと先のコンビニ。楠木さんが好きなキャラクターがコラボしてるらしく、その饅頭が食べたいらしい。

 駅前の店は当然のように売り切れていた。

 

 

 

「そんなに食いてぇ?そのナンタラまん」

 

「うん。だって、食べたこと一回もないんだもん。あれ見たことある?可愛いんだよー!」

 

「いやねーよ」

 

「だよねー……。うー、次もなかったらどうしよう!」

 

 

 

 いうほど可愛いか?あのクマ。

 楠木さんの筆箱によく入ってるあいつらの事は、俺にはよく分からない。顔が単純すぎてちょっと怖いまである。目に光も入ってないし。

 

 そんなもんのためにこの寒い中一緒に歩いてやる俺は、なんてやさしーヤツなんだろうか。

 

 

 

「ガーキ」

 

「うるさーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、買えて良かった!」

 

「あー、うん。ヨカッタネ」

 

 

 

 コンビニに寄って戻り、場所はいつもの神社近くの公園。

 

 ブランコに腰掛けてさっき買ってもらったばかりの肉まんを頬張っていた。

 そして横の楠木さんも同じように……クマの顔面をもう半分食べきっていた。

 

 

 いや、マジか。

 そんな躊躇なく食べれる?それ。

 さっきめちゃくちゃ「かわいい~」とか言ってたよね?

 

 店員さんから大切そうに受け取り、ブランコに腰掛け嬉しそうに眺め回し、パシャっと一枚写真を撮って……バクっと。

 

 

 いや、悪いわけじゃない。楠木さんはニコニコしながら食べ進めている。

 おいしく食べられてクマも本望だろう。

 ただ何というか、人は見かけによらないというか。うん。良いんだけどね。

 

 

 俺はああいう顔がついてるのはどうにも食べられない。

 母さんの話に寄れば、俺は昔お土産の「ひよ子」に全く手を付けようとせず、バクバク食べてる父さんをすごい目で見てたらしい。

 

 

 

「赤坂くんって、変なところで何か、純粋だよね」

 

「はぁ~?んなことねーし」

 

「だって、可愛くて食べられないって、ふふ」

 

「ちーがーいーますー、食うの見てくるのが嫌なだけですー」

 

「え、じゃあお魚は?」

 

「ありゃ死んでるじゃん」

 

「なにその線引き……」

 

 

 

 ひゅーひゅー寒い風が吹く中、二人でふかふかホカホカの肉まんを食べる。

 やっぱり何かいいよな、こう言うの。何であったかいものはクソ寒いとこで食べるほどおいしく感じるんだろうか。

 

 

 

「……あのね、赤坂くん」

 

 

 

 冬を満喫していると、楠木さんがこちらを見て、声を掛けてきた。

 

 もう8ヶ月の付き合いなので、何か大事な事を言おうとしているのは分かった。

 一旦肉まんを紙で包み直してこちらも向き合う。

 

 

 

「はいはい、何?」

 

「えーっと、今までヒミツって、ごまかしてきたやつ」

 

「うん。で?どーいうお考えな訳か聞かしてくれんの?」

 

「そう。2学期も終わるし」

 

「キリいいもんな」

 

 

 

 ふふ、とちょっと笑って、楠木さんは空を仰いだ。言葉を探して、しばらく黙る。

 

 

 

「……私、決めたことがあって」

 

「はいはい?」

 

「あー……。えーっとね?」

 

「うん」

 

 

 

 寒さだけじゃない頬の赤さを隠すようにマフラーに顔を埋めて、楠木さんは言った。

 

 

 

「……バレンタインに、告白しようと思うの」

 

「…………。へえ。そりゃー、……急だな」

 

「結構先の話だけどね?」

 

「そうじゃねぇよ」

 

 

 

 楠木さんは照れたように顔を背け、ぽつりぽつりと話し始める。

 

 

 

「今まで色々やってきて、赤坂くんにも色々協力して貰って。私としても、結構仲が良くなったなーっていうか。ちょっとだけど、ちゃんと進んでるなって思ってたの。

 

那賀川くんと話せるようになってきたし、そのお陰で他のクラスの人とも話したり出来たし。

 

……でも、それだけじゃないかなって」

 

 

 

 チェーンに寄りかかる音が妙に大きく聞こえる。静まりかえった公園に声が留まる。

 

 

 

「那賀川くんにとって私はまだ、ただのクラスメイトで、だけど私はそれだけで舞い上がっちゃって……。

 

このままだと、きっとずっとそのまま。どっちつかずのままで終わっちゃうと思うの。

 

そのせいで、この前のテストも散々だったしね?」

 

 

 

 182位。

 さっき見せて貰った。どれかが足を引っ張ったんじゃなくて、全体的に下落気味。

 

 

 

「別にそれは……」

 

「次頑張れば良い、でしょ?うん。そのつもり。だけど、このままだったら、絶対にまた失敗しちゃう。

 

Ⅲクラス昇格はあと2回のテストで決まっちゃう。那賀川くんとの関係がいつまでもうやむやのままなら、多分……こっちもうやむやのまま。

 

……あはは。意外じゃない?私、こんなに恋愛に夢中になっちゃうタイプだったなんて。気になって集中出来なかったの」

 

 

 

 楠木さんは自嘲ではなく、本当に面白そうに笑った。俺も一緒に笑う。

 

 

 

「まー、そんなカンジじゃなかったもんな。興味はアリアリだったけど」

「ふふ、ね?でしょ?」

 

 

 

 楠木さんは俺と目を合わせて微笑んだ。その目は真剣に、まっすぐ俺を見る。

 

 

 

「私、赤坂くんとの約束も守りたい。二人で青春しようって、協力しようって言ったもん。その第一歩のⅡクラス昇格、私は諦めたくない。

 

だからこっちも……那賀川くんとの方も、目標と期限を決めてやるのが良いかなって。

 

……どう?」

 

「……なるほどね?」

 

 

 

 最近の何か決めたような顔とか、那賀川にグイグイ行く様子の理由が分かった。

 Ⅱクラスにも、那賀川にも1年の内にケリを付けるつもりらしい。

 

 

 

「いーんじゃねえの?楠木さんがそう決めたんならさ。そーした方が良いって思ったんだろ?」

 

「うん」

 

「じゃ、それで決定。勉強頑張りつつ、バレンタイン目指して那賀川へのアプローチを更にしていくと。うん、いんじゃね?」

 

「……これからも協力してくれる?」

 

「ったりめーだろバーカ。最初に言ったろーが」

 

 

 

 いちいち聞くなよな、って。マフラーに埋まった顔が嬉しそうにほころぶ。

 俺が掌を向けると、楠木さんもそっと手を出して笑う。ハイタッチ。

 パンと明るい音が響いた。

 

 

 

「そう来なきゃ」

 

「ふふ。だよね」

 

 

 

 決意を吐き出した彼女は何だか久々に晴れやかな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つーかさ、何でそれ決めてすぐ教えてくんなかったわけ?」

 

「え?」

 

 肉まんを食べ終わり、童心に返ってブランコを立ち漕ぎしながら聞いた。

 

 今後の方針を決めただけなんだから別に引っ張る必要なかっただろうに。単に言いにくかっただけかもだけど。

 

 

 

「あー……」

 

 

 

 楠木さんがすーっと目を逸らす。

 

 

 

「ぇっ、何」

 

 

 

 大体何か碌でもない事が理由の時だ。主に俺の。

 楠木さんはクマを食べきり、口を開いた。

 

 

 

「いやー……ほら、赤坂くん、ちょっと寂しかったのかなーって」

 

「………………は?」

 

 

 

 何?

 

 

 

「や、だって、私だんだん那賀川くんと話すようになって、二人でお話するときも那賀川くんの事が増えたじゃない?

 

それでたまにむすっとしてて、またそうなったらアレだし言いにくかったというか……」

 

「……………………」

 

「……え?たまにそんな感じだった……よね?

 

いや、最近は違ったよ?でも一月前とかそんなカンジ……で」

 

「はあぁ~?ちっげえわ!んなことねーし!!」

 

 

 

 勢いよくブランコから飛び降りる。その勢いのまま叫ぶ。急に指さされて叫ばれた楠木さんはきょとんとしていた。

 

 

 

「ぜぇっ、てぇ、ちげーから!全然そんなことなかったし!フツーに他のヤツとも仲良くしてたわ!

 

お前が全然上手く話せてないから見てただけだっつの!」

 

「…………図星?」

 

「ちげえっつってんだろ!」

 

 

 

 無い。ナイナイ。あれは那賀川が気に入らなかっただけで、そんだけで。ちょっと心配してただけで。断じて違う。

 

 そんな別の意味で気色悪い感情も持ってたなんて、断じて違う。ガチで。絶対に。

 

 

 

「……本当?」

 

 

 

 にやあ~、といつかどっかで見た笑顔を浮かべて楠木さんは立ち上がる。

 

 

 

「マジだってぜってぇそんなことないし」

 

「えー?」

 

「何だよ」

 

「別にー?うふふ……ふふふ」

 

「ッチ、言ってろ!」

 

「はーい、好きに言ってまーす。……っふふ」

 

 

 

 寒かったのが急に暑くなってきた。

 

 襟をギリギリまで寄せて顔を隠す。後ろでくすくす笑う声に中指を立ててやった。

 

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