俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第24話 おやすみ一時  ──よいどれきぶん──

 お正月というのはのんびりするべきだ。

 

 宿題が終わっていなくても、部屋をちょっと片付けろと言われても、せめて三が日までは暖房の効いた部屋でこたつと同化していたい。

 

 そうであるべきだ。

 

 

 

「なあぁ~いいだろ~?行こうぜー?」

 

「……一人で行ったら?」

 

 

 

 そう。こんな外を走り回る犬より元気な、親父に邪魔されて良い日ではない。

 

 

 

「冷てぇなあー、悟は?どうだ?行くだろ?」

 

「…………」

 

 

 

 ヘッドホンを外さず、弟・悟は首を横に振った。

 父さんは見るからにむすーっとする。

 

 

 

「何でだよぉいいだろ~?母さんにも行けって言われただろーが」

 

「だーかーら、俺たちはもう行ったんだっての!!」

 

 

 

 2週間程度の冬休み。

 宿題を順調に進め、片岡達に誘われてカラオケに行ったり、蓮也たちとゲーセン行ったり。

 

 クリスマスは弟と母さんとパーティー、それから家の大掃除、大晦日は芸人たちがケツをシバかれてるのを見ながらこたつで寝落ち。

 

 お正月は母さんの方の実家に行って親戚たちと宴会。

 お年玉も中々の額を貰い、最後に3人でお参り。

 そして神社で偶然出会った歩夢と駄弁って帰ってきた。

 

 本当に充実した冬休みを過ごしていた。ここまでは。

 

 

 1月2日、早朝渋滞に巻き込まれながら父さんを空港まで迎えに行った。

 もうこれだけで疲れるって言うのに今度は父さんの方の実家へ。

 

 酒を飲んでもないのに大騒ぎする父さんと、完全に出来上がった叔父さんとお祖父ちゃんで、俺と悟のHPは限界寸前だった。

 最後お祖母ちゃんに叱られてたけど。

 

 

 そんなこんなで、やーっとのんびり出来ると思ったのにこのざまだ。

 

 母さんは『絶対合格するぞ!正月特訓』とかで仕事だ。塾講師ってのは大変だな。

 

 そうして解き放たれた父さんは、朝母さんを仕事場に送ってから俺と悟にウザガラミ中。

 母さんに『初詣行ってないなら行ってきたら?』と言われ、一人で行くのがイヤなのかなんとしても俺たちを連れて行こうとしている、というわけだ。

 

 

 

「いーだろ何回行っても減るもんじゃねーし。逆にゴリヤクがあるってもんだ」

 

「ならなおさら一人で行けよゴリヤク独り占めでしょ」

 

「いやぁ~、父さん優しいからよ。お前たちにも分けてやろうと思って」

 

「なら持って帰ってきて。お土産ってことで」

 

「あー、オレ要らない。お土産ならアイスかなんかちょうだいよ」

 

「お前らなぁ、もっとこう父親との時間ってやつをなぁ、昔はあんまり取れなかったんだから」

 

「……はあーぁ」

 

 

 

 深くため息をついて、こたつから這い出た。見ていた動画も止める。

 

 こうなった父さんは超面倒くさい。昔から。そして俺はそれに付き合ってやるくらいにはやさしーのだ。

 

 

 

「わーったよ、行きゃいいんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は車に乗って早々に後悔していた。

 

 この寒い中、何が悲しくてこのウザい50近いおっさんと神社までドライブしなきゃならないのか。

 しかも運転が久々のせいで危なっかしい。

 

 全く分からない仕事の自慢話をラジオに、乗り心地の悪い車に揺られながら景色を眺めた。

 

 

 

「おっ、おお!おい見ろ!何かやってるぞ」

 

「あ?あー……」

 

 

 

 曲がりくねった山道を行くこと20分。

 気持ち悪さに顔を上げると、もう駐車場だった。

 

 鳥居の前には屋台がいくつか並んでいる。

 たこ焼き、鯛焼き、クレープ、焼きそば。まあまあ嬉しいラインナップだ。

 

 

 

「毎年やってるよ。……だいぶ数減ったけど」

 

「はあぁ……なるほどなぁ……。こんなのやってるとは」

 

 

 

 昔は道が埋まるくらいには出店していたのに寂れたもんだ。

 それでも周囲の人にとってはやっぱり嬉しいのか、屋台はそれなりに混んでいた。

 

 外に出て、息を吸う。肺が痛いくらい冷たい空気を胸一杯に吸い込むと、ようやく気持ち悪さが紛れた。

 

 

 

「何か買ってやろうか!悟にも」

 

「お参り行ってからでいいでしょ。邪魔」

 

 

 

 何を買おうかもう迷っている父さんを尻目に、先へ進む。それに俺はまだメシとか考えられるカンジじゃない。

 

 県内でも有名な神社なこともあって、中はかなり混んでいた。

 普段階段を椅子代わりにしている駅近くの神社とは大違いだ。

 

 

 長い参道を歩きながら人の話し声と周囲の自然を楽しむ。

 

 俺はこういう一人の時間も嫌いじゃない。

 自分を整理出来るというか、この時間があるから楽しく騒げるというか。久方ぶりの一人を俺は十分に楽しんだ。

 

 

 

「おい……待て……」

 

 

 

 手水場で手を洗っていると、息切れした父さんがようやくやってきた。どうやらあの参道でもう疲れたらしい。

 

 

 

「おせーよ」

 

「しょーがねぇだろ、こっちゃもう年なんだよ。あ、透。タオル貸してくれ」

 

「はぁ~?ったく……」

 

 

 

 口もゆすぎ終わり、俺は濡れた手でカバンを漁る。ジャケットのポケットを漁る。……もう一回カバンを漁る。

 

 

 

「……俺もない」

 

「はぁ~?お前……」

 

 

 

 父さんがニタァ~と笑って俺を馬鹿にしようと口を開いたとき、横から声が掛かった。

 

 

 

「あの……これ使います?」

 

「え?」

 

 

 

 聞きなれた声に振り向くと、白いダッフルコートを来た女子が見慣れた笑顔で立っていた。

 

 

 

「楠木さんじゃん!!ぐうぜーん」

 

「あはは、明けましておめでとう、赤坂くん」

 

「おう、あけおめ」

 

「お友達かい?明里」

 

 

 

 ふと上から声が掛かり、二人して顔を上げた。眼鏡で長身のおじさんがにっこり笑って顔を覗かせていた。

 

 

 

「あ、お父さん。うん。赤坂透くん」

 

「あ、あぁ~!!あの!いやー、娘がお世話になってます」

 

「あ……ドモ……」

 

 

 

 いや、『あの』って何。楠木さん何言ったの。普段何を話してるの。

 それが気になりすぎて、俺は楠木さんパパに腕をブンブン振られるままだった。

 

 

 

「あ?彼女か?」

 

 

 

 そして更に話をややこしくするこの男。

 父さんは手を自然乾燥に任せるポーズのまま出てきた。勘弁してくれ。

 

 

 

「ちっげーよ。……ほら、この前の。あの友達」

 

「あー、アレ!やあどうも、透の父ですー」

 

 

 

 そのお父さんの前で娘さんを『アレ』とか言うな。

 

 それでも楠木さんパパはにこやかに笑いながら、父さんが雑にズボンで拭った手と握手した。本当に申し訳ない。

 

 

 

「あら、赤坂くん!」

 

「あ、お母さん。車止められた?」

 

 

 

 あああ何でこういうときに限って楠木さん一家勢揃いなんだよおおお!!!

 

 幸せ家族の見本みたいな楠木さんたちを前に、俺はへニョヘニョのおっさんと並んで何ともみじめな気分で手を拭いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ははぁ、透がそんなことを!珍しいこともあるもんであっはは」

 

「明里、いつも赤坂くんのこと話してくれるんです。とっても面白くて頼りになる子だって」

 

「お陰で楽しい学校生活が送れているようで、私どもとしても本当にありがたくて」

 

「いやあそんなそんな!このバカがちゃんと友達やれてるようで安心しました。

 

ちょっと前にねぇ、『ちゃんと友達やれてるか心配だー』とか言ってたんで……」

 

 

 

 参拝の行列に並びながら、後ろの親世代の話を盗み聞き。

 周りの楽しそうな雰囲気と違って、俺達はあんまりの恥ずかしさにずっと黙っていた。

 

 『面白くて頼りになる』って、何だよ。そんな評価してくれてたの。そして父さん、俺の話をペラペラばらすな。

 

 

 

「やーっぱり落ちたのがデカかったんでしょうなぁ。全体的に自信無くしてたらしくて、友達としての自信も無かったらしくて。だっはは!まだまだ子供で!」

 

 

 

 ああ止めて。それ言わないで。言うな。口を閉じろ。そして死ね。楠木さんご夫妻の苦笑が更にしみる。マジでやめて。

 

 

 

「……赤坂くん」

 

「……うん、聞かなかったことにしようぜ。てかして」

 

「そうする」

 

 

 

 熱い顔をネックウォーマーやマフラーにうずめ、長話をする親たちを置いて先に進んだ。

 

 

 

「楠木さん何お願いすんの?」

 

「えー?うーん……」

 

 

 

 ようやく本堂が見えてきて、そう聞いてみた。楠木さんは難しい問題を目にしたときのように、グッと眉を寄せる。

 

 

 

「那賀川の告白が上手く行くように祈ったら?ってぇ!」

 

 

 

 バシッと背中に衝撃。何事もなかったように楠木さんはまた眉を寄せる。あーあー、からかいがいが無くなっちゃって。

 とはいえ、俺も何をお願いしようか。

 

 

 

「この先1年のお願いだもんなぁ」

 

「もうすぐ2年生だもんね……」

 

 

 

 あ。思わず楠木さんの方を見ると、目が合った。顔を見合わせる。

 

 

 

「……ま、これしかねーよな」

 

「だね」

 

 

 

 二礼、二拍手、一礼。そんな機械的な動きの後願ったのは、『Ⅱクラスで頑張れますように』。

 

 この先も見据えて、となればこれ以外に相応しいのはないだろう。後は上がれるように頑張るだけだ。

 

 

 

「お、いた。おい透!何お願いしたんだ!!」

 

「言うわけねぇだろバーッカ!」

 

 

 

 追いついてきた父さん達が列から声を掛けてくる。いい感じにまとまったところを邪魔しやがって。

 バカでかい声に周りの人が皆こっちを見てきて、俺は足早に立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……赤坂くん、お父さん苦手なの?」

「……まあ、得意じゃねぇかな…………」

 

 

 俺達は買って貰った甘酒を飲みながらまた親世代を待っていた。

 

 父さん達はお守りやらハマヤ?やらを選びながら楠木さんの両親やバイトの巫女さんと話している。

 一人で滅茶苦茶話してるみたいで滑稽。こっちが恥ずかしい。

 それに今気が付いたけど、寝癖ついてる。ダサい。

 

 

 

「あーあ、いーよなぁ、楠木さんとこのお父さんはしっかりしてて」

 

 

 

 遠くで笑ってる楠木さんパパを見る。

 

 背が高くてひょろっとしてて、休日なのに髪型もピシッとしてる。

 それに優しそうなハの字眉毛の笑顔が楠木さんそっくり。

 絵に描いたような『いい父親』。だらしない所なんかなさそうでうらやましい限りだ。

 

 

 

「……そんなことないよ」

 

「え?」

 

 

 

 予想より沈んだ声色に、楠木さんの顔を見やる。何だか切なそうな笑顔で、両親を見ていた。

 

 

 

「しっかりなんかしてなかった。私もちょっと前までお父さん苦手だったもん」

 

「は……?」

 

「今はそんなこと無いけどね」

 

 

 

 うふふ、といつもの笑顔に戻って甘酒を一口飲む。

 

 

 

「ていうか、赤坂くん甘酒全然減ってないね。あ、もしかして苦手?」

 

「え、あ、べっつに~?」

 

 

 

 誤魔化された。甘酒特有の匂いを我慢しながら飲み込みつつ、さっきの楠木さんの言葉を考える。

 

 

 

「おい!透!!おみくじ!おみくじ引くだろ!」

 

「ほら、呼んでるよ。行こ!」

 

「ああ、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺末吉、楠木さん小吉という微妙なおみくじ結果をひっさげ、俺達はのんびり参道を下っていった。

 

 

 

「赤坂くんはさ、冬休みどんな感じ?」

 

「んー?けっこー楽しんでんぜ?……昨日からめんどいのがいるけど」

 

「おい、誰がめんどいだ」

 

 

 

 聞かなかったことにして、足を速める。

 

 

 

「そーいう楠木さんは?」

 

「私?そうだね、谷中ちゃんたちと遊んだり、麗ちゃんたちに色々誘われたり、家族で色んな所行ったり……普通に楽しんでるよ」

 

「ふーん?いいカンジじゃん」

 

「でしょ?」

 

「あら、毎日寝坊だらけの事は言わないの?」

 

「ちょ、ちょっとお母さん!」

 

「いいじゃないか。お休みの日ぐらいゆっくり寝るのがいいよ」

 

「っはは!いーい生活してんねぇ楠木さん?」

 

「お前も今朝ぐだぐだしてただろうが」

 

「昨日疲れたせいだっての」

 

 

 

 楠木さんご両親とも普通に話せつつ、父さんも適当にあしらいつつ、俺達は神社を出た。楠木さんたちに手を振って別れる。

 

 

 

「また学校でね!」

 

「宿題終わらせろよな!」

 

「分かってるもん」

 

「はは、またな」

 

「うん!」

 

 

 

 楠木さんはご両親と楽しそうに話しながら車に向かっていく。俺の横を見れば、

 

 

 

「なんだおめぇ、いちゃいちゃしやがって」

 

これだ。

 

 俺はこれからこの父さんとランデブー。あー疲れる。デカいため息をついた俺に、また父さんのウザガラミが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んでよぉ~、お前あの子とどこまで進んでんだよ」

 

「だーからちげぇって言ってんだろ何回言やぁ分かるんだよ」

 

「はぁ~?お前と仲良くする女の子だぞ?気になるじゃねぇか」

 

「ちげぇって」

 

 

 

 ぐにぐに曲がる道と車に揺られながら、俺のイライラもゆらゆら上がる。こいつ、楠木さんの親に余計なこと言ってないだろうな。

 

 

 

「あの子はいいと思うぞ~。優しそうじゃないか」

 

「んー」

 

 

 

 気持ち悪いのと眠いのと、イライラを鎮めようとするので適当に相づちを打つ。

 

 

 

「ご両親にも褒められてたぞ。お礼を伝えといてください、だってさ」

 

「んー」

 

 

「あんときゃ自信なさそうだったけど、随分仲良くなってたじゃねぇか。俺のアドバイスの賜物だな!」

 

 

「……んー」

 

 

 

 眠い。いいラジオだなこの声。

 

 

 

「あの子なぁ、男の子の友達なんて初めてらしいぞ。好きなんかは知らんが仲良くしてやれよ」

 

「……ん」

 

「何だよ、んな眠ぃのか?体力ねぇなぁ!だっはっは!」

 

「…………」

 

「……透」

 

「…………」

 

「……お前は、友達と引き離してばっかりだったからなぁ。今度の友達は大事にしろよ」

 

「………あんときゃ、悪かったな。ほんとは引っ越したくなかったんだろ?」

 

 

「あの子と別れたくなかったよな。悪かった。なぁ。透」

 

 

 

「ごめんなぁ」

 

 

 

 

 ………ああ、ウッザ。

 

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