俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第30話 箱詰めファニー  ──サクッと友情に乾杯!──

「おい、これ……いつまで、混ぜるんだ……?」

 

「ごめん分かんねぇ」

 

「クソォ、今日のお前は……頼りにならねぇな……」

 

「ねぇまだぁ?早くしてよー」

 

「別にゆっくりで良いよぉ」

 

「……若狭、変わるよ」

 

「うん、頼んだ」

 

 

 

 若狭からボールを受け取って、バターと砂糖を混ぜる。

 多分、混ぜ方が悪い。

 適当にぐるぐるするんじゃ無くて、ゴムベラでバターを潰すような感じで混ぜれば……ああほら、上手くいった。

 

 隣で「おお」と若狭、それから谷中が手元を覗き込む。

 三山は隣の班のイツメンたちとサボりに行ってしまった。

 

 

 今日は先週から続く調理実習の二回目。

 ミネストローネを作った前回と違って今回はクッキーを作る事になってる。

 

 なんで教科書に載ってるスコーンじゃなくてクッキー?と思ったが、家庭科の先生曰く、

 

 

 

『せっかくだし皆バレンタインのお返し作っちゃえば?渡す子が手作り苦手じゃないなら』

 

 

 

という事らしい。これ以上なく納得した。

 

 というわけで、女子たちのばらまきを受け取ったり、友チョコのお返しをしてなかったりだとかで困っていた生徒たちは、こぞって今日クッキーを作ることになったのだった。

 

 

 

「分かんねぇとか言ってた癖に、やっぱさすがだなお前」

 

「別に見りゃわかんじゃん」

 

「いやわからんて」

 

「そうそう、やっぱり出来る人に任せちゃった方が早いよねー」

 

 

 

 調理実習の班は厳正なるくじ引きによって決められた。

 俺と、若狭と、谷中と、三山。

 

 揃いも揃って下手かやる気が無い。先週なんて結局ほとんど俺が作った気がする。当然美味く出来た。

 

 

 

「てゆうかさ、これレンジで柔らかくしちゃダメなの?」

 

「あー、たぶ」

 

「先生ヤバい!!バター溶けた!」

 

「……新しいのを取りに来なさい」

 

「…………ああなるからでしょ」

 

「納得~」

 

 

 

 湯川がボールを持って駆けていった。その方向には、電子レンジの前で班員に詰められてる片岡がバカ笑い。やっぱりお前かよ。

 

 

 

「あのバカ」

 

「片岡くんらしーねぇ」

 

「ところで、なんでバター溶かしきっちゃうとダメなん?」

 

「ごめんそれは知らねぇ」

 

 

 

 俺はお菓子なんて作れないから分からん。

 

 弟とたまに食うホットケーキは毎回綺麗に焼けないし、『レンジで簡単!マグカッププリン!』を作ったらとても食えたもんじゃない謎の食い物が完成した。

 「す」が入りまくりで微妙に甘さが足りず変に牛乳臭いそれを、弟とどうにか胃に流し込んだのももう4年前。

 

 俺にはお菓子作りは向いてないと思い知った。

 

 

 だからって、こんな調理実習ごときで失敗するなんて恥過ぎる。

 一応自他共に料理上手だと思われてるんだから、ここで黒こげor生焼けクッキーなんて作れるもんか。

 

 

 ……とはおくびにも出さず、俺は谷中が計ってくれた薄力粉をそっとボウルに入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これが出来たんだね」

 

「別に失敗はしてないだろ」

 

 

 

 昼休み。楠木さんとポリ袋に無造作に入ったクッキーを眺める。

 

 三山が持ってきたチョコレートを適当に砕いて入れたチョコチップクッキーは、丸く型抜いたのにへにょーっとやや広がって出来上がった。

 その上さっき試食したやつなんて、チョコが全く入ってない。

 味自体はごくごく普通だったけど。

 

 

 

「多分、温度が低かったんじゃないかな。余熱は?」

 

「チョコ砕くのに手間取ってしてない」

 

「じゃあそれが原因だね」

 

 

 

 そう言って微笑む楠木さんが口に運んだクッキーは、バレンタインに貰ったのと同じくらい良く出来ていた。

 ナッツやドライフルーツがたっぷり入ってる。

 

 

 

「……交換しよっか?」

 

 

 

 じとっとそれを見ていた俺の視線に気が付いたのか、楠木さんはちょっと自慢げに笑う。

 

 そう、さっき作ったクッキーは袋のまま丸々楠木さんにあげた。

 というか、お返しという名目で押しつけた。

 食べないし。

 

 

 

「それじゃお返しにならねぇじゃん」

 

「いいよ。私が勝手にあげただけだもん。で、これも勝手にあげるの」

 

 

 

 楠木さんはティッシュの上にクッキーを二枚載せてよこす。

 まぁ、くれるってんなら貰おうかな。そうやって伸ばした手に影が落ちた。

 

 

 

「じゃ、オレとも交換してくれる?」

 

「那賀川くん!えー、くれるの?」

 

 

 

 ちゃんと小さな袋に入れ直したクッキーを持って、見慣れた黒髪が立っていた。

 

 いつもなら三山含めた女子たちが一斉にこっちを見そうなものだけど、奴らは揃って、今那賀川が持っているものと全く同じ袋を持っていた。

 ちゃんと全員にお返しを渡してるらしい。

 

 

 

「そ。この前はありがとうね」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 

 

 色々とな。

 

 心の中でそう突っ込んだけど、楠木さんは嬉しそうにクッキーを受け取った。

 

 見たことないクッキーだ。

 真ん中をくりぬいてて、その間に窓みたいに飴。向かいが赤く透けてキレイだった。

 

 

 

「え、すごい!ステンドグラスクッキーだ!」

 

 

 

 どうやらそんな名前らしい。

 

 

 

「同じ班の子が頑張ってくれただけだよ。オレは手伝っただけ」

 

「でも、ありがとね。ふふ、じゃあこれと交換」

 

「やった。お、美味そう……っはは!なんて顔してんだよ」

 

 

 

 急にそう言われて、ついでに俺の方を向いた楠木さんが吹き出した。

 

 

「はぁ~?別に~?」

 

「くく、はいはい!じゃ!」

 

「うん、じゃあね」

 

 

 

 那賀川は肩を揺らしながら去って行った。楠木さんまで面白そうに口元を押さえている。

 

 

 

「何だよ」

 

「……べ、別に~?」

 

「……」

 

 

 

 その笑みを堪えきれない顔を見て、俺は一枚減ったティッシュの上のクッキーを楠木さんの方に押し返した。

 

 

 

「いらねぇ」

 

「っふふふ、そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3月という微妙に浮き足立つ季節のせいか、終業式までの3週間はあっという間に過ぎていった。

 

 3年生が卒業して3分の1減った校舎は普段と何にも変わらず、1年生のフロアはいつだって騒がしかった。

 

 この4階からの眺めも、この教室ともそろそろお別れかと考えると、「寂しい」では大袈裟すぎるちょっとした感情が胸の5分の1を埋めた。

 

 高まっていく2年生への期待と徐々に積み上がっていく春休みの宿題を傍観している内に、各教科最後の授業も、ロッカーの私物持ち帰りも、教室の大掃除も、終わっていった。

 

 

 

「ほら席に着けー。通知表配るぞー」

 

 

 

 クラス中に絶叫が響きながら、ガタガタと席に着く音が混じる。

 いまいち静かになりきらないまま、諸連絡が伝えられる。

 

 春休みは節度を持って楽しむように、宿題も忘れずに、身体に気をつけて。

 それから、新学期は最初に2-8に集まってからクラスを伝えるらしい。これは大事だ。覚えておこう。

 

 

 

「よーし大事なことは伝え終わったし、最後に通知表だな!じゃあ、相田から!」

 

「は?はい!」

 

 

 

 いつも禄に話聞いてなかったけど、スパスパ話題を終わりにしていくところはこの先生の良いところだったと思う。

 心の中で感謝を述べつつ、相田に続いて立ち上がった。

 

 

 

「赤坂!今回良かったなぁ。この調子で2年も頑張れよ!お疲れ!」

 

「はい」

 

 

 

 この前も言ってたけど、そんなに良かったのか?期待半分で席について、通知表を広げた。

 

 

 

「……うわ」

 

 

 

 ピラッと開いてすぐ目の前。3学期期末テストの合計順位が飛び込んできた。

 全281人中78位。この前が120位だから、一気に伸びた。

 

 クラス順位なんて41人中3位。多分上二人は岡崎・神田さんのあの二人だろう。

 

 

 つまり、この1年でクラストップにほぼ並んだ訳だ。

 これはかなり結構、すごいことなんじゃないか?

 

 あとはざっくり各教科の順位や評定を見ると、まぁ大方自分の予想通りだった。

 締めて評定平均3.9。二学期から0.1の上昇。

 

 うんうん、悪くない。悪くないどころか、すごい。

 

 

 

「えー、お前めっちゃすげぇじゃん!」

 

「ちょ、おい!」

 

 

 

 横から急に通知表をかすめ取られた。

 片岡が高い高いをするように俺の通知表を眺める。

 

 罪滅ぼしのように手渡された片岡のを見ると、赤文字が二つ。数Aと化学基礎が赤点だ。

 

 

 

「うわぁすげぇ!こんな成績初めて見た!」

 

「そりゃこっちのセリフだ!んだこれひっでぇ!うわ。ひっでぇなおい!」

 

 

 

 その他だって目も当てられない。1-8デッドラインのあだ名は伊達じゃない。本当にほぼ全ての教科が最下位だ。

 

 

 

「ギリギリ進級じゃねぇかよお前!」

 

「でも進級だぜ?勝ちよ勝ち」

 

「おい、再試を忘れてないかー?」

 

 

 

 楠木さんに通知表を返しながら先生が叫ぶ。

 どっとクラス中が笑う中、通知表を広げた楠木さんは照れくさそうに俺に笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさ、赤坂くんは春休み何するの?」

 

「えー?色々?」

 

 

 

 若狭のあんまり上手くない歌声に遮られつつ、向かいの楠木さんに半ば叫ぶように応えた。

 

 

 放課後、クラス会という事で来られる人だけカラオケに行くことになった。

 

 俺たちみたいに元から部活に入ってない奴ら、谷中・田中・若狭など今日は部活休みの奴ら、そして部活をサボってきたバカなど、クラスの3分の1程が駅前のカラオケに押し込められていた。

 

 

 

「今度は全員集まれるクラス会やるとか言ってるし、深瀬達にボウリング誘われてるし。あーあと片岡の再試をおちょくりに行くだろ?

 

それから中学の方で元サッカー部集合!あ、あと楠木さんにも来てるっしょ?元3-2クラス会って」

 

「あー、忘れてた……」

 

「それから信久に皆で映画行こうって言われてる。……って、結構予定入ってんな」

 

 

 

 さっき楠木さんに奢って貰ったパピコを絞りきりながら、今月のお小遣いの残金と貯金を巡らせる。

 ギリギリ足りると良いんだけど。

 

 若干眉を寄せた俺に微笑みながら、楠木さんは回ってきたタブレットで曲を探す。

 

 

 

「忙しそうだね」

 

「まぁ?」

 

 

 

 これに加えて宿題もあるし、あと春のお彼岸でおばあちゃん家行くとか母さん言ってるし、スバラシク充実した春休みになりそうだった。

 

 

 

「ふふ、もしかして、赤坂くんって人気者?」

 

「バカにしてんのか。……そういう楠木さんは?」

 

 

 

 そう聞くと、楠木さんはタブレットを渡しつつ思い出すように天井を仰いだ。

 

 

 

「赤坂くんと変わんないよ。クラス会に行って、お友達と遊んでー、って。」

 

「へー。じゃ、次会うのはどっちかのクラス会か」

 

「うん、そうなるね」

 

 

 

 適当に曲を入れて片岡に渡すと、丁度若狭が79点という微妙に触れにくい点数をたたき出した。

 谷中と片岡が励ましも込めて大声で笑い飛ばし、若狭は微妙な顔で眼鏡を直した。

 

 それを一緒に笑いつつ、岡崎は湯川や番場と一緒にしけたポテトを食べ切り、自腹で追加を頼もうとしていた。

 

 田中はため息をついて、タブレットを持ちつつ皆他に頼みたいのがあるか声を張り上げた。

 曲や声がごちゃごちゃと一緒になって、俺の耳を打つ。

 

 

 『あの時』あんなにガラガラだった部屋が、今は人でいっぱいだった。

 

 

 

「……ふふふ」

 

 

 

 それをカルピス飲みながら眺めていると、同じようにしていた楠木さんが肩を揺らす。

 

 

 

「何考えてるか当ててあげようか?」

 

「やってみろよ。俺も当ててやるから」

 

 

 

 ──目が合う。

 

 喧噪の中、プラスチックのコップがぶつかり合う音は何より綺麗に聞こえた。

 







これで1年生編終了です。ここまで読んで下さりありがとうございました。
次回からの2年生編にご期待下さい。
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