「へえ〜、お前らそんなことやんの?チョー楽しそうじゃん」
「だろ〜?」
「文化祭に見るものが増えたなー」
「しかもあの朝風と一緒とか!サイコーじゃん?」
「てか、楠木さんが歌うんだ。意外だな」
「けっこーやる気に満ちてんぜ。ぜってぇ聞けよ」
「言われなくても行くって」
「オレも!オレも行く!マジ盛り上げる!」
「オメーが来たらうるせえだけだろうがよ」
「タンバリンでも振ってろ」
「は?タンバリン舐めんじゃねえぞ」
片岡、若狭、深瀬、那賀川、間中……と、なんだか懐かしいメンツで集まっていた。
湊はいない。アイツは今体育館の百合を、ついでに楠木さんを全力で応援中だ。
「お前らは出ねえの?文化祭」
「野球部は親善試合あるからなぁ」
「サッカー部もー」
「うーわメンド」
「バスケは?」
「無いな。クラスの催しくらい?」
「お前のクラス何やりそう?」
「出店だったかな?ご飯出したいって女子が。……オレは客呼び係だってさ」
「それ絶対顔じゃん」
「……まあ?」
「うーわ!むかつく!」
「深瀬と片岡のクラスは?」
「ウチは迷路!ちょいホラーの」
「へえ、楽しそ。行くわ」
「5組は赤坂?」
「なんかボウリングとか輪投げとかだって」
「無難だな」
「だろー?」
正直準備がめっちゃ楽そうだから嬉しい。
食べ物系とか絶対めんどくさいし。なんか俺任せにされそうだったし。
飾り付けとかは一部の奴らが気合はいってるし、任せっきりにしちゃっても良さそうだった。
「マジ2年ってイベントだらけで飽きねーよな」
「模試も増えたけどな」
「言うなよそれ」
「再来週、中間の後だっけ?」
「うわ中間もあんじゃん……」
「やめろやめろ、現実に引き戻すな」
「そうだよ、せっかく球技大会なんだからよ」
「球技大会ねえ」
俺達は目線をグラウンドへ戻した。
超勉強!なⅠクラスの2-2対、基本運動部のⅣクラス2-13というあまりにもひどい対戦カードの試合が行われている。
「ありゃ無いわ」
「それな」
点数ボードには1-10とかいう見ているだけで泣けてくる数字が書かれてる。
勉強の量でクラス分けしてるような学校で対戦カードをくじ引きで決めるな。
5月の半ば、ゴールデンウィークも終わり中間テストが迫る中、俺達2年生は学校のありとあらゆる場所を占領し、球技大会に興じていた。
午前は第1第2グラウンド両方使って男子サッカー。体育館で女子ドッジボール。
午後は体育館で男子バスケットボール。女子はグラウンドでバレーボール。
そして室内練習場全部使って卓球。これは1日通しで男女混合。
なんとなーく点数競ってなんとなーく勝ったり負けたりして、なんとなーく解散する。
ゆるゆるなイベントだった。これで授業が全部潰れるんだから、嬉しいことこの上ない。
「いくらコートも時間も半分っつったって限度があるだろ」
「しょうがないって、ほら、ポジショニング終わってるし」
「懐かしいタイプのサッカーやってるよな」
2組はボールがあるところにワッと集まって、色んなとこの守備が疎かになってる。
かといってパスを受けられるよう敵陣に誰かがいるかと言われればそうでも無く、多分唯一の経験者なんだろう7番が金魚の糞を引き連れて頑張っていた。
「でもあれぐらいが一番楽しくね?」
「分かるう〜、練習の合間にやる遊びってあんな感じだよな」
「やったやった」
「どこの部活も似たようなもんだよな」
実際、劇負けしてる2組も何だかんだで楽しそうだった。
1-11とゾロ目で試合は終わり、バラバラと解散していった。
「っしゃあ!やろうぜ赤坂!」
「やるぞー!」
「えー湊居ねえんだけど」
次は俺達5組と、片岡たち9組の試合だ。
他の5組の奴らは集まってきてるけど、湊が見当たらない。
あいつから『透くんと一緒がいい〜』とか言って引っ付いてきたくせに。
「ごめん!遅れた!!」
もう全員ビブスを着終わった頃、湊が息を切らしてやってきた。
俺の近くに那賀川がいるのを見て、あからさまに嫌そうな顔をする。
「おっせぇぞ!何やってたんだよ」
「そんなに朝風さんの応援してたのかい」
同じクラスの井ノ上がのんびり問いかける。
湊は手渡されたビブスに無理くり頭を押し込みながらワタワタ話す。
「ああうんまあそれもあったけどさ!明里ちゃんだよ明里ちゃん!」
「顔面ボールでも受けた?」
「えっ、なんで分かったの」
腕の部分に頭を通そうともがいているバケモンがくわっとこっちを向く。
「本人が言ってた」
行きの電車で、
『私、今回も絶対そうなっちゃうと思うんだ……』
なんてもはや半笑いで言ってたのを思い出す。
いくらあの頃お互いのことをほぼ知らなかったとはいえ、中3バレーボール大会で見事な顔面サーブを見せた楠木さんの姿はさすがに覚えていた。
「まあ俺もやるとは思ってたし」
「あ、そう?まあちょっと鼻血出てたけど『やっぱりかぁ〜』って元気そうだったよ」
ほら見ろ。
「それ、本当に大丈夫だったのか?」
しれっと流した俺に代わって顔を突っ込んだのは那賀川。
ようやく頭の部分から頭を出した湊は、ご対面したそのツラに心底嫌味な笑みを返した。
「うーん、別に那賀川くんに心配されても、明里ちゃん困るだけじゃないかなあ」
「っはは。お前に『顔面キャッチで鼻血出た』って言いふらされてるほうがよっぽどだと思うぞ」
うわ、見事なパンチライン。
湊は忌々しげに那賀川を睨んで終わった。返されたのは爽やかそのものの笑み。
カンペキ。那賀川の勝ちだ。
心の中で那賀川に拍手を送り、湊の15番を押す。
「ほらバカやってねえで行くぞ。皆てめえ待ってんだよ」
「……分かったよ」
「頑張れよー」
「うるせえ!那賀川くんはサボりですか〜〜??」
「ああ、オレは午後のために温存だってさ。……エースなんでな」
「〜〜〜っっっっ……!!!!ねえ透くん!やっぱあいつムカツク!」
「勝てねえのに喧嘩売るのが悪いんだろ」
「はぁ?全てにおいて勝ってますけどぉ?」
「さっきはぜってぇ負けてた」
なんでこいつらこんな仲悪いんだよ。
……いや、違うな。なんで湊はこんなに那賀川に突っかかるんだ。
理由が何だろうがめんどくさい。とっとと並べバカ。
もはや何言ってるか分からない「お願いします」を言って一礼。
9組は当然サッカー部の深瀬、5組は同じくサッカー部の坂本でキックオフだ。
俺は中学と変わらずディフェンス。左のサイドバッグだ。
一昨年には遼太郎がいた右のサイドバックには湊がへらへら。
後ろを向くと、体格が良いというだけでキーパーに回された井ノ上が不安そうな顔をしてた。
そんな緊張すんなよ、とひらひら手を振ってやった。
「はいじゃあ、開始ー!」
審判&得点係の8組が配置につき、那賀川がホイッスルを鳴らした。
先にボールを取ったのは深瀬。
さすが現役。見事なドリブルで坂本たちフォワードを交わし、パスを回しながら自軍のウィングと一緒に上がってくる。
……と、いい感じに「サッカー」してたのはそこまで。
ミッドフィルダーの位置にいた片岡が急に飛び出してきたのを皮切りに、全員の知能が5年くらい下がった。
「うおおオレのボールだあ!」
「はぁ?とっくにずっとこっちのボールだわバカ!」
「取ったあ!」
「取られてんじゃん!」
「おめえの、せいだよ!」
深瀬が文句言いつつ、坂本から取られたボールを取り返す。やるぅ。
とはいえ頭小学生になった全員がワサっと集まってきてるので、もはやパスワークもクソもない。ただでさえコートが狭いのに。
……やべっ、こっち来る。
「どけー赤坂ー!」
「どいたらサッカーにならねーだろうが!」
いかに元下手くそ弱小チームの一員だったとしても、さすがに片岡には負けない。
先輩にバカにされ続けてきた俺のテキトーフェイントでボールを奪う。
すると、なんかめっちゃ集まってきてる人ごみの向こう側、坂本がゴール近くに走っていた。
いや待って俺そこに届かせられるほど上手くねーって!
しょーがねーけど腹くくって皆を交わし、一旦近くの松本を経由して一か八か、坂本にロングパス!
「っとぉ!!」
「マジか!」
深瀬にトラップで止められた。ってそのままシュート!?
「うわーっ」
井ノ上が情けなく端に逃げる。
それに突っ込もうとした瞬間、湊がバッと走ってきた。
シュートを受け止め、大きく振りかぶってまた坂本にロングパス!
湊はその勢いでバランスを崩し、なぜか前にこける。
「ナイッス湊ォ!!」
坂本はそのパスに素早く対応し、華麗にシュートを決めて見せた。
狭苦しいコートがオーディエンスの黄色い声に包まれる。ん?黄色い声?
「あっはははは!なに転んでんのバカ!」
「み、湊くん大丈夫ー?」
自分たちの試合が終わり、手の空いたクラスの女子たちもやってきたらしい。
声の方を見れば、鼻血は止まったらしい楠木さんの横、百合が腹抱えて笑ってる。
「全ッ然平気ー!」
起き上がった湊はにこやかに手を振る。
だからあんな必死にやってたのか。ちょっとでもすげぇと思った自分がバカみたいだ。
「ね、透くんどうしよう。転ぶと思ってなかった。擦りむいたとこ結構イテーんだけど」
「そこは演出じゃねぇのかよ」
賑やかしが増えたことで全体的にコートにやる気が増してきた。特に深瀬。
深瀬って女子人気はそこそこあるんだよな。モテはしないけど。
嬉しいのか悲しいのか、とにかく女子の声援を得た深瀬は俄然やる気に満ち溢れている。
対して俺たち5組。
……右端の湊が気になって仕方ない。すごい形相してる。
何をしたらあんな憎悪と哀しみを感じさせる目をさせることができるのか。
「ははっ、でも、今は何ともなさそうで良かったよ」
「あはは……まあ、慣れっこだもん」
「んもー、心配したんだよぉ明里ー。ただでさえ狙われまくってたんだから」
「でも、百合ちゃん敵取ってくれたし!」
「とーぜん!あたし、8人落としたから」
「えっマジ!?朝風さんやる~」
「っしょ~?」
まあ、『何をしたら』っていうか、那賀川が百合と話してるだけなんだけど。
百合が後ろから楠木さんを抱きしめ、ゆらゆら揺れながら那賀川と談笑している。
はた目から見ても仲良さそうだ。
「ねぇ見て!百合ちゃんと那賀川くん!」
「さすが雰囲気違うね~、眼福ってやつ?」
7組の女子たちがこそこそ話してるように、実際あそこだけ学園ドラマってカンジ。
それが憎くてたまらんといった様子で、湊は那賀川を睨みつけていた。
それ百合に見られたらどうするつもりだよ。
百合に抱きしめられてる楠木さんはそれに完全に気が付いていて、俺に助けを求めるような呆れを共有したいような視線を向けてきていた。
これ、那賀川絶対気が付いてるだろ。なんて思ってたら目が合った。
「……」
そのままスポドリのCMに使えそうな、爽やか男子高校生を濃縮還元でお届け。
しかし、その瞳には楽しくて仕方がないって輝きが狂喜乱舞していた。
なんつーかお前ら似た者同士だよ。那賀川の方が2、3枚くらい上手だけど。
さて、仕切り直しだ。
坂本がボールを蹴り、敵陣へ踏み込んでいく。
小林たちとパスを回しながら進んでいく坂本を、深瀬とウィングたちが妨害する。
なんていうとすごい真面目に聞こえるが、引きで見てると団子サッカーLV.3ってカンジ。
周りで皆がわちゃわちゃしてるのを無視するとそう言える。何なら湊まで混ざってるし。
「お、湊がボール取ったぞ」
横の松本が暇そうに呟く。
百合のからかうような歓声に押されて、湊は結構上手に敵を避けながら登っていく。
恋愛パワーってのは侮れない。
「なんか暇になっちゃうよねぇ」
ゴールポストの上に掴まって伸びながら井ノ上が呟く。
「おい、そんなことしてたらシュートされ」
「ちょ」
「あ」
「は?」
途端、後頭部にドーンと衝撃が走った。
つんのめりつつどうにか上を見ると、ボールが宙を舞っている。
ボールはゴールの手前に落ち、そしてそのままコロコロ転がっていった。
ぶら下がり健康器具してた井ノ上が間に合うわけもなく、ボールはゴールの線を越えた。
さっきまでワイワイ言ってた男子連中も、試合なんか見てなさそうだった女子連中まで黙ってしーんとなる。
「あー…………。はい、オウンゴール!!」
「……えっ。……ちょ、待っ、!?」
那賀川がビーっとホイッスルを鳴らし、百合が肩を震わせながら9組に1点追加した。
「っ……ふふふ……あっはははは!!あーダメ、もうこっち見ないで透。あんたの顔見るだけで面白いから」
「そんな面白れぇかよ」
「だ、だって……っはははは!」
「……ふっ」
「ほら!!自分でも笑ってんじゃん!!」
時刻は過ぎ、昼休み。
もう5分くらい百合はこの感じだ。
百合の好物、お母さんの作った玉子サンドはラップをはがされたままほっとかれている。
なんであんなバカみてぇなオウンゴールになったかというと、原因は湊だった。
いい感じにボールを運んでたものの、深瀬の仲間にボールを止められ、適当にパス。
……のはずが誰かの足に当たってボールは9組の陸上部へ。
そのスプリントで鍛えられた健脚は下がったIQと一緒になって超ロングシュートをしよう!という考えをそいつにもたらした。
まさかシュートするなんて思ってなかった湊はボールを取り返そうとし、バカシュートと湊のつま先が合わさり、ボールは微妙にベクトルがズレて飛んでいった。
その後は気を抜いてた俺の後頭部がよく知っている。
「ぴ、ピタゴラスイッチかよ……っふ、ははは!」
「いやマジでバカ完璧に入ったよね!ね!」
ちなみに俺の頭はなんともなく、平謝りしてきた9組の陸上部くんに、逆に申し訳なくなるほどだった。
「ははー。あれが無かったら勝ってたのにねぇ」
「引き分けにしたんだからいいだろ。チャラ、チャラ」
本当にポジションもクソも無くなってきた後半2分。
坂本が上手くパスしてくれたのもあって1点決められた。
あと『井ノ上決死のダイブ』とか『深瀬の女難再び』とか『5組スクランブル交差点事故』とか色々あったが、最終的に3-3で試合は終わった。
「でも、ケガとかなさそうで良かったよ。ビックリしたもん」
「そりゃお前と違って顔からじゃねぇからな」
「わ、私はほら、予定調和だし……」
なんてちょっと意地悪に返すと、肉巻きおにぎりを食べていた楠木さんがしょもっとうつむいた。
さっきまでお守りのように持ってたティッシュはしまったらしく、鼻血は完全に止まったみたいだった。
「……ま、すげぇケガしなくて良かったな。もう大丈夫なんだろ」
「うん」
「つーか、頭ボール組は午後どうすんの?」
ようやくサンドイッチに手を付けた百合がそう聞いてくる。
ずいぶん不名誉なアダ名がついた相方と顔を見合わせた。
「俺はもう試合出ねぇな。バスケも卓球も人足りてたし。片岡とかとバスケ見に行く」
「私ももう出ないから、皆の応援かな。あ、那賀川くんの8組の試合は見たいかも」
「それあたしも見たい!じゃ、こっちの試合終わったら二人で体育館行くね。徹は?」
「特に無いけどー?」
湊はあからさまにムスッとした顔で焼きそばパンにかじりつく。
オウンゴールの一端を担ったばかりか、そのせいで那賀川と百合が仲良くなったのがよっぽど気に入らなかったらしい。
その上皆で那賀川の活躍を観に行く流れだ。
「じゃー行こ!つーか健人くん全然あんたが言ってた感じじゃないじゃん。嫌味っぽいとか散々言ってたくせに」
「……百合と明里ちゃんの前だから猫かぶってるだけだし、ぜってー」
対して間違っちゃいないのが面白いが、湊の表情なんかお構いなしに百合は「えー!そんなことなかったって!だってさぁ……」と那賀川がどーのこーの話し出す。
なんつーか、すごい既視感。
購買の袋をクシャクシャにしつつ、湊は焼きそばパンをもさもさと完食した。
東雲付属のバスケットボールはかなり強い。
男子も女子も全国大会常連、どんなに悪くても県大会出場は逃さない位強い。
選手になった人もかなりいて、玄関のエントランスにはサインがペタペタ飾られている。
吾川県の高校でバスケやりたいなら、東雲付属か花盛商業か道永高か。
中学バスケ部は推薦でここらを目指すのが通説だった。
……まあ矢ノ川中バスケ部は弱すぎて東雲付属の推薦なんか取れなかったし、学費の問題も有って皆道永高か花盛商業に行ったんだが。
そのせいで俺は入学先に誰も友達がいなかったんだが、というのは知ってのことだから置いておいて。
ともかく、どんなに興味なしな奴でも「高校バスケなら東雲付属」って言うような所だって話。
で、俺はそんなすげぇ部活の試合、一回も見たこと無かったんだけど。
「……うわ」
「すげぇ!すげぇ!なぁ見たかよ、あのシュート!」
「あれが……真のイケメンの力か……」
「……すげぇ」
那賀川って、めちゃくちゃスゲーじゃん。
見事にレイアップシュートを決め、クラスメイトに囲まれているアイツを見ながら、ただただそう思った。
一緒にやってる4人中2人もバスケ部だからってのもあるんだろうけど、まずアイツの視野が広い。
全体を見て、どう攻めるか守るか瞬時に考えて適切に動いてる。
パスもシュートも的確。かつ、機動力も高い。
身体能力の良さ、技術、思考が全部マッチしてて正攻法なチームなのになかなか隙をつけない。
……んだろうな、と素人目に考えた。
一番わかり易いのは点数。
まだ1クォーター目なのに3-16。バスケ部員を投入してるのは10組も同じなのに死にかけだ。
「あれ、アイツもう下がってった」
「どんだけ温存してーんだよ8組!」
「まぁ……あんなのいたらそりゃそうだよな」
「那賀川ーっ!」
スゲープレーを見てなんかハイになった俺たちは戻ってきた那賀川に走り寄った。
「うわ、なんだお前らか」
「お前スッゲーじゃん!あんなんできたの?あの何だ、3ポイントシュート!」
「先に言えよ、あんなんできるなら!」
「いや、結構言ってたと思うけどな」
「おいおいおいおいー、やるなぁもう」
女子連中がまだあんま居ないのもあって、那賀川はむさ苦しく男たちに囲まれる。
それでも、いやだからこそ自慢げな笑みを湛えた那賀川と目が合う。
見たか!と言わんばかりギラギラした笑み。十分すぎるほど見たっての。
「なぁもうお前出ねぇの?」
「いや、第4クォーターでまた出るよ。
……あれ、楠木さんたちは?」
那賀川はふと俺らの周りに視線を彷徨わせる。
「いやまだあいつらバレーやってるけど」
「えっ。……はは、そうだったのかー…」
何なら湊もついて行って百合や谷中のバレーを応援中だ。
何故かちょっとテンション下がった那賀川に、後ろから声がかかる。
誰だっけ、那賀川の友達の、桜井真輔?
「健人ぉ!お前はしゃぎすぎ!全力出しすぎ!!ここでケガでもしたらどーすんだよ!」
「いやーごめんごめん!なんか楽しくなっちゃって!」
「んも~、ちゃんと休めよー!」
「…………お、お前、はしゃいでたのか……?」
「そんな驚くことかよ」
那賀川が照れたように髪をかき混ぜる。
疑問に思ってる内に、2クォーターが始まった。
フィールドに残った桜井も上手かったけど、10組がメンバーを変えたからか押され気味だった。
暇を持て余した片岡が実況のマネごとをはじめ、那賀川はそれに乗って解説役を始める。
「おーっとここでホイッスル!10組の2番が何をしたってんですかねぇ、解説の那賀川さん」
「うーん、普通にトラベリングですねえ。やっぱり普段からプレーしてないと気をつけるのは難しいですから」
「トラベルってなんだっけそれ」
「ボール持って3歩以上歩くことだよバカ」
那賀川にしては口の悪い解説が飛び、周囲がドッと湧く。
片岡、そのルール初歩の初歩だぞ。
と、気の抜けた実況とともに俺達は点数の一進一退を楽しんだ。
第3クォーターが終わって、点数差は45-51。
第3クォーター目で8組メンバーからバスケ部が減り、10組は逆に増えたのがデカかったみたいだ。
「ハギにリュウトが最後かー、キッツー」
那賀川がぐーっと伸びをして立ち上がる。
そのハギとリュウトらしき2人は煽るようにピースサインを山程投げてくる。
さっき点取ったのはほとんどコイツ等だった。
となるとバスケ部同士のいい勝負が見れそうだ。
「楠木さん……、たち、来なかったな」
「へ?ああ、バレー長引いてんじゃね?いーじゃん湊いねーんだし」
「ま、それはありがたいかな。……じゃ、オレの活躍ちゃーんと見とけよ」
「はいはい」
なんか名残り惜しげに体育館の入口を気にしながら、那賀川はフィールドに戻っていった。
ほぼバスケ部で固められた試合の始まりに体育館が沸く。
気がつけば2階までびっしり観客がいた。
両端のコートも試合の手が止まり、見張りの先生さえ文句も言わず見入っていた。
ボールが目まぐるしく移り変わり点数表が次々更新されていく。
「健人くーん!」という黄色い悲鳴が増えてきた頃には、点数55-60。リードしてるけど、全く気が抜けない。
「え待って、もう結構進んでる?」
と、弾んだ声が俺の肩を叩いた。
振り向くと、百合、楠木さん、不機嫌そうな湊がようやくお出ましだった。
「ギリ、あと6分」
「マジ!?うわ最悪!もう、徹がジュース買いたいとか言うからじゃん!」
「はーいごめんなさーい」
「ねえねえ那賀川くん、どう?」
「え?めっちゃスゲー」
「えー、もっと早く見たかったなぁ。那賀川くーん!頑張ってー!」
周りの女子たちに混ざり、楠木さんが声をあげる。
10組のスローインを警戒していた那賀川が、ふとこちらを見た。
少し驚いたような顔をして、くすっと優しく微笑む。
手を振るおまけ付き。その口元や顎の角度まで計算されたような笑みに、周囲の女子たちがきゃあきゃあ歓声を上げた。
「……やっぱなーんかあーいうとこムカつくんだよな〜」
「っはは、すげー分かる」
俺がこぼした言葉に、湊は実感のこもった低音で答えた。
「ねぇちょっと徹!何!見えないんだけど」
「あんなん見ても良いことないよ」
百合の目元を隠すとか言う気色悪いことをしていた湊は頭に一撃もらい、蹲った。
そこら辺全部お構いなく、楠木さんは平然とした顔で手を振り返していた。
試合再開。
ファンサをもらって盛り上がった女子たちの歓声が体育館に響く。
ボルテージは最高潮、選手たちは次々にボールを回し、奪い、投げる。気を抜いたら大事なプレーを見逃しそうで、俺はすっかり魅入ってしまった。
残り30秒。10組がゴールを決め、61-69。
勝敗はほぼ確だけど8組も10組も最後までやる気満々だ。
スローインをしっかり受け取ったリュウトがハギにパス。
それをカットして桜井が向かいのメンバーにパス。
それをまた10組がパスカット。
激しいボールの奪い合いに時計がゆっくり進んでいく。
残り10秒。
桜井のフェイントがうまくハマり、ボールは那賀川へ。
ハギの顔が「マズい」とこわばることさえ許さず、那賀川はそのまま全力でボールをゴールへ放った。
相手コートからのロングシュート。
数学の問題に使えそうなほど華麗なカーブを描き、オレンジのボールはリングを通り抜けた。
61-72。
皆に潰されかかった那賀川が、一瞬だけこっちに微笑んだのが見えた。
「……」
「ご機嫌斜めだなー、湊くん?」
「透くんだってそうじゃん」
「別に俺は不機嫌なんじゃねーし」
ただやっぱ、あればっかは勝てねーと思っただけだ。
自転車を押しながら、楽しげに帰っていく7組女子たちを眺めながら思う。
俺らの知らない子たちも混ざって、さっきの試合があそこがすごかったここが良かった、と話をしている。
特に百合は大興奮といった感じで、湊は余計唇を尖らせた。
「透くんはいいの?明里ちゃんあんな楽しそうに話しちゃってさ」
「別に楠木さんが誰で盛り上がろうがどうでもいいだろ」
「それ、4か月前なら絶対言ってないじゃん」
「だから今だから言えんだよ」
『すごかったねぇ』と談笑する楠木さんの横顔を見る。
変に熱に浮かされてるでもなく、盲目になってるわけでもなく、友達のすごいプレーを見て本当に面白かった、ってだけの顔。
友達が褒められて嬉しそうな顔。
その緩んだ顔を見てると、俺までうずうず嬉しくなるようなそんな気がする。
成長したなぁ……とか、気持ち悪いことを思ってみる。
「……はーぁ。透くんも那賀川くんもわかりやす」
「何がだよ」
「別にぃ。ね、百合たち置いて遊びいこーよ。いいゲーセン知ってるからさ」
「そこは出禁じゃねーだろうな」
「多分平気」
「多分じゃ困るんだよ」
二人に手を振って別れ、湊と日の傾いた青空の下自転車を走らせる。
幼い横顔を西日に照らされながら、湊はいつもと違って静かにのんびり漕いでいる。
「そんなむすっとしてんなよ」
「那賀川くんに言ってよ。アイツのせいで気分悪いんだから」
「なんでお前そんな那賀川嫌いなワケ?そこまでじゃねーだろ」
「アイショーってやつだよ。仕方ないの」
橋を渡り、長い信号で止まる。
さりげなくセットされた髪、俺のより一回りは高そうなリュック、センスのいいベルト、ロードバイク。
全部着こなしたそいつは、頬杖をついて遠い目をする。
「……なんでも持ってるくせに」
その子供っぽい呟きに、内心やれやれと首を振った。
言い合いの強さ・相手に強く出れるか、は
那賀川
↑ ↓
赤坂 ← 湊
の3すくみな感じです。