俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第36話 学生行進曲 ――comodoなテスト前――

「そーいや、二人はいつまでその呼び方な訳?」

 

「あ?」

 

「え?」

 

 

 

 5月も下旬、来週には期末テスト。

 

 若干どころか嫌気が差すほど暑さが目立ち、目の前の女子の誕生日だということに説得力を与えてくれる5月21日の昼休み。

 

 さっきから入れ替わり立ち替わり誕生日プレゼントを貰うのに飽きたのか、百合は唐突にそう聞いてきた。

 

 

 

「なんだよ急に」

 

「だって中学からの付き合いなんでしょ?いつまで苗字にくん、さんで呼んでんの」

 

「確かにー」

 

 

 

 『自分があげたクッキーを食べている百合』を目に焼き付けようとしている湊がテキトーに同調する。

 

 そいつから視線を外して斜め向かいを見れば、キョトンとしたいつものハの字眉。目が合う。

 

 

 

「別に……?」

 

「特に理由ねえよな」

 

「うん」

 

 

 

 やっぱり同じ思いだった俺たちは、それだけ言ってお互いの昼食に戻る。

 が、百合がそれを許さない。

 

 

 

「えー何それ!つまんない!もっと他に理由ないの?」

 

「ない」

 

「ないかな?」

 

「えぇー、いーじゃん教えてよあたしへの誕プレだと思って!」

 

「さっきやったろファンタ」

 

「オマケくらい良いでしょ」

 

「って言われてもなぁ」

 

 

 

 楠木さんがわかめご飯おにぎりを一旦置き、天井を仰ぐ。

 

 

 

「中学の頃からって言っても、ほとんど話したことなかったから……で、高校で仲良くなったけど、そのまんまってかんじ?」

 

「俺も。別に変えようとか思わなかったし」

 

「あたしはすぐ百合って呼んでくれたのに?」

 

「そりゃお前が『呼んでよ』っつったからだろ」

 

「徹は?」

 

「気分」

 

「おれはミナトって気に入ってるから良いよ〜」

 

 

 

 お前ナルトのミナト好きだもんな。

 

 

 

「アンタそもそもが両方下の名前見たいな感じじゃない。

 

じゃー、二人はお互い名前で呼ぼって気分にならないってこと?」

 

「まあ」

 

「そういうことかな?」

 

 

 

 百合は納得したんだかないんだか、少し頷いて楠木さんから貰ったカフェラテを飲んだ。

 

 しかしやっぱり諦めきれないらしく、俺がミニエビフライを食べ終わる前にまた顔を上げた。

 

 

 

「じゃ、いつ呼び出すの?」

 

「なんで人の呼び方がスケジュール制なんだよ」

 

「そ、そんなに気になる?百合ちゃん」

 

「気になるよー。呼び捨てとかちゃん付けとかあだ名とかでもなくさん付けだよ?なんか……距離じゃん?」

 

「そうかなぁ……」

 

 

 

 相変わらずキレイに焼けてる卵焼きをのんびり味わって、楠木さんがふとこっちを見た。

 

 

 

「透くん?」

 

 

 

 一瞬どっと心臓が跳ねた。

 こんなんでビビったと思われるのも癪なので、努めて冷静に何でもなさそうに仕返し。

 

 

 

「なんだ明里ちゃん」

 

「えー、ちゃん付け?アンタのその顔で?」

 

「やかましいわ」

 

 

 

 百合が大げさに声を上げたのでにらみ返す。

 

 別になんかその方がいいかと思っただけだ。

 それに『明里ちゃん』て顔だろう、楠木さんは。

 

 

 

「えっなんか変な感じするからやめてよ赤坂くん」

 

 

 

 お前まで乗るんじゃない。早速元に戻ったお前に言われたくない。

 なんて黙ってると3人分の期待の視線が突き刺さる。

 

 

 

「あーもう、明里!これでいい?」

 

「うーん、満足?」

 

「そりゃ嬉しいな!」

 

 

 

 クソッ、なんでこんなことでこっちが恥ずかしがらなきゃいけねえんだ。

 

 百合はもう飽きたのか、猫のように伸びてあくびしている。ふざけんな。

 

 

 

「じゃー楠木さんはどうなんだよ、俺のこと呼び捨てで呼ばねーの?」

 

「赤坂?」

 

「そっちじゃねぇよ楠木」

 

「おお、なんか新鮮」

 

「と、透………………くん」

 

「やっぱり付けるんだ」

 

「だって何か変な感じするんだもん」

 

「ほらー!」

 

 

 

 ほら見ろ、と百合の方を見るといない。菓子と飲み物のタワーがあるだけだ。

 

 

 

「百合ならさっき呼ばれてったよ」

 

「は?発端のくせに?」

 

 

 

 なんつー気分屋だ。

 

 

 

「そこが可愛いんじゃん」

 

 

 

 購買のジャムパンを食べ終わり、湊は机に突っ伏してストローを咥える。

 

 

 

「ま、二人が今の呼び方が一番しっくり来てるってゆうのは分かったからさ」

 

「俺らは最初っからそう言ってたっての」

 

「湊くんが私たちのこと『透くん』と『明里ちゃん』て呼ぶのと一緒だよ」

 

「確かに?おれが『透』『明里』って呼んだらキャラに合わないしねー」

 

「そうそう」

 

 

 

 ふと、疑問が湧いたので咥えたストローで紙パックをゆらゆらさせて遊んでいる湊に聞いてみる。

 

 

 

「じゃあなんで『百合』呼びなんだよ」

 

「…………」

 

「『ちゃん付けもありだな』じゃねぇよ」

 

 

 

 ストローを離し、うずうず楽しそうな顔をした湊の後頭部に、ゴッと微妙に痛そうな音が刺さった。

 

 

 

「あんた元々『テメェ』か『お前』だったでしょーが」

 

「えー覚えてんのー?」

 

 

 

 何をもらったのか、そんな硬そうな箱の角がぶつかったら結構痛いと思うのだが、湊は嬉しそうな顔で振り返った。

 

 百合は呆れた顔で、もう一撃食そうとするフリをする。

 

 

 

「夜の公園で鬱ってる子がいるから心配して声かけてあげたら『テメェ』よ?覚えてんに決まってんじゃん」

 

「それでも覚えてるんだぁ」

 

 

 

 『でへへ』という擬音が一番似合いそうな笑顔を返し、湊は楽しそうにレモンティーを吸った。

 それを呆れた顔で見て、百合はすっとこっちに視線を戻す。

 

 

 

「で、いつ呼び出すか決めた?」

 

「えぇまだ諦めてないの百合ちゃん」

 

 

 

 お前らどんな会い方したんだよ、という疑問は百合の執念に抑え込められた。

 最後に食べようとしていたウィンナーをポトッと弁当箱に落とし、楠木さんがさすがに困った声をあげる。

 

 

 

「だってあるあるじゃん?仲が深まって呼び方変わる的な奴」

 

「うーん、あるあるなのかもしれないけど」

 

「なおさら決めてたら変だろ」

 

「えーいいじゃん、気になって全然勉強集中出来なくなっちゃう」

 

「お前の集中力の問題だろそれ」

 

「はぁ?あたしより成績上になってから言ってくれます〜???」

 

「うーわ」

 

「あっは、ほーら、勉強教えてあげるからさ。明日までにいつ呼び出すか決めといてよね!」

 

「はぁ~?」

 

「えぇ~?」

 

「おぉ~」

 

「じゃ、これ決定事項だから!」

 

 

 

 人差し指をぴんと立て、百合はにっといたずらっぽく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2年になって初めての定期テストということで、先生たちの口うるささといったらなかった。

 

 口を開けば範囲、ポイント、解き方、受験、偏差値。

 

 現社担当で「ユミちゃん」の愛称で親しまれる長森先生ですら俺たちの頭痛を作り出す装置と化し、2-5の6時間目はぐったりした雰囲気で過ぎていった。

 

 

 Ⅱクラスの授業は去年までと全然違う。

 

 授業内容はもちろんだけど、先生の意識が違う。

 この50分の中に、1年数か月後の受験のことが常に念頭にある。

 「ああここよく出るから」じゃない。

 それを言われるたびに、俺たちは縮み上がるか目を伏せて聞いてないふりをした。

 

 だって考えたくもないだろそんなの。

 

 1年の間は永遠にこの生活が続くように思ってたのに、2年になったとたん急に高校生活の終焉が見えてくる。

 

 それを1時間ごとに突き付けられる。とても正気ではいられない。

 

 

 かといって授業をボイコットする勇気や無謀さなんかはなく、俺は素直に座って説明を聞き、要点をノートにまとめていた。

 

 いやだいやだといっても受験が来年なのは逃げられない現実なわけで、それから逃げた結果が中3のあの結果なわけで。

 

 親の負担とか俺の進路とか諸々を考えれば、今度こそ「やってられるか!」と放り出せるものじゃなかった。

 

 

 クラス全員がそんなうっすらした諦めとやる気に包まれて、6時間目は驚異の遅さで進んでいった。

 

 

 

「そーいや透くんってさ、なんで文系なの?」

 

「得意だったから」

 

 

 

 雰囲気に呑まれたのか、湊までそんなことを聞いてきた。

 

 恒例の放課後勉強がOKになり、伸びてきた日が透ける中教科書を見返していると湊が椅子を引いて顔を覗かせた。

 

 

 

「じゃ、進路は?」

 

「……決まってない」

 

「ははー。ま、だよねー」

 

 

 

 痛いところを突かれた。

 

 俺は『どっか国公立の大学に行く』だけ決まっていて他はずっと宙ぶらりんだ。

 特に将来やりたいこともないし。

 

 

 

「お前も?」

 

「いやおれは決めてあるよ」

 

 

 

 『だよね』とか言ってたしこいつもそーいうの共有したいのかな、と思って返すと、思いがけず梯子を外された。

 というよりこいつが将来のこととか考えてるのが意外過ぎて声が出た。

 

 

 

「ええマジぃ!?」

 

「マジ」

 

「どこ」

 

「どっか経済学部に指定校」

 

「うわ」

 

 

 

 出たよ指定校推薦。

 

 私立高の特権とも言える指定校推薦。

 東雲付属ともなればより取り見取り。いい成績さえ取っておけば有名私立とか余裕も余裕。

 

 かつ、それってあんまでけぇ声で言うもんじゃないだろう。

 

 窓際の女子グループがちらっとこっちを見たのが分かった。

 

 

 

「経済行って何すんだよ」

 

「んー、母さんみたいに会計士取りたいんだよね」

 

「マジ?すげぇじゃん」

 

 

 

 嘘だろ、思ったより将来設計がしっかりしてた。

 

 つーか、こいつの母さん会計士ってことは、だからあのマンションに……と下世話な方に意識が飛んで行ったので、話をそらす。

 

 

 

「百合は?」

 

「……それが問題なんだよねえ」

 

 

 

 湊は持っていた地学基礎の教科書を弄ぶ。

 百合たち理系は地学基礎はやらない。生物か物理基礎のどっちか選択だ。

 

 それもあってか知らずか、湊は教科書をちょっとにらむ。

 

 

 

「百合は看護学部なんだって。お母さんみたいに看護師になりたいみたい」

 

「真逆じゃねぇか」

 

「でしょ~?一緒の大学行きたかったんだけど、百合が候補にしてる大学経済学部ないんだよね。

 

百合、私立には行かないらしいから」

 

「なるほど?」

 

 

 

 それを聞いて、百合が急に近くなったように感じた。

 あんな完璧で進路も固めてるような奴でも、そこはどうにもならないんだ。

 

 なんて、ちょっと卑屈な考えで嫌になった。

 

 湊は百合と別々の大学に行くと言うだけで憂鬱なのか、深くため息を付く。

 

 

 

「あーあ。……ねー透くん経済学部興味ない?」

 

「悪くないけど俺も私立は無理」

 

「あー……そっか」

 

 

 

 湊はあからさまにしゅんとする。教科書を興味なさげにパラパラし、誰に言うでもなく零した。

 

 

 

「結局大学はバラバラかぁ」

 

「同じ方が珍しいだろ。仕方ないって。それに、お前ならフツーに大学でも友達できんだろ」

 

「まぁ確かにおれは透くんと違って顔怖くないけどさ」

 

「おい」

 

「なーんか無常じゃん?文化祭一緒にバンドしよーみたいなことしててもバラバラとか」

 

「別に、そんなもんじゃねーの?仕方ねぇって」

 

「透くんなんでそんな割り切りいいのさ」

 

「……俺は小さい時から転校ばっかりだったから」

 

「あぁ」

 

 

 

 そう言うと、湊は納得したのか黙った。俺も黙る。

 

 湊の言いたいことは分かる。さっきも思ったけど、急に終わりが見えてきて嫌なんだろう。

 それに自分自身の頑張りで多少どうにかなる受験と違って、交友関係はどうなるか分からない。

 相手の事情はこっちじゃどうにもならないし。

 

 だからそんなもん、仕方ないで受け入れるしかない。

 

 と、転校元の友達から一回も手紙なんて貰わなかったのを思い出しながら思った。

 

 

 

「じゃー、明里ちゃんは?」

 

「え?」

 

「明里ちゃんとも離れるでしょ?どうせ進路違うじゃん。つーか明里ちゃんの進路知ってる?」

 

「別に、お前だろうが楠木さんだろうが関係ないだろ……。

 

あ、そーいや確かに聞いたことねぇな、あの子の進路。考えてんのかな」

 

 

 

 急に楠木さんのことが出てきて、思わず7組の方を見やった。

 

 とはいえ、俺の考えは同じだ。

 確かに楠木さんとはどうせ進路別だろうし、仕方ない。

 

 それに……気恥ずかしいけど、俺たちはそこそこ仲良い。

 連絡途絶えるとかなさそうだ。

 

 蓮也たちとかともこの前フツーに話したし、高校生になっても仲良ければ、勝手に連絡取り合うんじゃねぇのか。

 何より子供んときと違ってスマホあるのがデカい。

 

 どんな離れようが俺たちはこの文明の利器を使って好きに繋がれるのに、湊は何をそんなビビってるんだろう。

 と、俺は入学初日の気分なんか忘れてそう思った。

 

 

 

「……透くんって嫌でめんどいことあんま考えない主義?」

 

「多分」

 

「じゃーおれもそーしよ」

 

 

 

 そんなこと考えてても成績なんて上がんないと気付いたのか、湊はズルズル戻っていった。

 

 そうそう、指定校狙ってんならお前はそんなことで悩んでる暇じゃないぞ。

 

 俺も目の前の教科書へ視線を戻す。

 その寸前、一応楠木さんの進路くらい聞いておくか、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「進路?あー……あんまり決まってない、かな……」

 

 

 

 神月駅で湊、百合と別れ、月山線ホームまで来て聞いてみた。

 

 空中に視線をさまよわせ、いつもの八の字眉で苦笑したその顔を見て、なぜか安心したような気がする。

 

 だが、楠木さんはそのままぽつぽつと言葉を続ける。

 

 

 

「だけど、私、管理栄養士の資格取りたいかなって思ってて。それが取れる大学がいいかなってかんじ」

 

「あ~、めっちゃぽい」

 

「ふふ、そう?」

 

 

 

 楠木さんは照れたように笑みを深める。

 

 管理栄養士か。学校とか病院とかに務めんのかな。

 やっぱ皆結構将来考えてるんだ。俺だけ何にも決まってねぇ。

 

 

 

「でも、それだけだよ。何より今の偏差値が微妙だから、何にも言えないってかんじ」

 

「そこは俺も同じ。模試の結果によるよな」

 

「でも中間の方が大事になっちゃうよねー」

 

「わかるー」

 

 

 

 置いて行かれた感を軽い会話で流す。

 

 1年のときも数回模試はあったけど、俺らは二人揃って55プラスマイナス3くらい。

 平均よりちょい上という、まさに東雲付属Ⅲクラスの偏差値ってカンジの結果。

 

 何とも言えない、自慢にもならない数値をしていた。

 

 

 

「どうしたの、急に?進路悩んでる?」

 

「悩んでるは悩んでるけどさ」

 

 

 

 そう聞いてきた楠木さんに、さっきの湊の話を伝える。

 

 全部聞き終わると、楠木さんは微妙な、例えるなら子供がわがまま言ったときの親みたいな顔で笑った。

 

 

 

「あっはは……うん、まぁ、気持ちは分かるけどさ」

 

「あいつ何かビミョーに子供っぽいんだよな」

 

「それ赤坂くんがいうんだ」

 

「あんだと」

 

「冗談だよ。……あ、だから百合ちゃんあんなこと言い出したのかな?」

 

「あ?」

 

 

 

 なんでここで百合?俺の顔を見て、楠木さんはふふ、と女の子特有の秘密っぽい笑い方をした。

 

 

 

「時間限られてるのに気がついたから、手っ取り早く仲良くしてほしかったんじゃない?」

 

「あー……?」

 

 

 

 確かに、何か納得したような気がした。

 

 要はなんつーか、「青春感」というか、そういうのを演出したかったのかもしれない。「友情感」的な。

 

 だとしたら、いやまぁ気持ちは分かるけど、なんつーかずいぶん子供っぽいと思った。

 百合ってそんなタイプなのか?

 

 と、いまいち解せない俺の顔を見て、隣の彼女はくすくす笑った。

 

 

 

「ね、百合ちゃん、可愛いところあるでしょ?」

 

「っは、かもな」

 

 

 

 それがマジなら、可愛げもある気がする。湊みたいに「カワイイ〜!」とはならないけど。

 

 と、そろそろ電車が来るアナウンスが響いた。ガタガタという音が遠くから聞こえてくる。

 

 

 

「……ね、いつから呼び捨てで呼ぶ?」

 

「お前まで乗っかるなよバカ」

 

 

 

 音に紛れてそう切り出してきた楠木さんは全く本気じゃなさそうで、からかうように俺を見上げていた。

 

 

 

「だって明日までに教えてーって言われたじゃない」

 

「つってもなぁ、別にこれで仲悪いわけじゃねーし」

 

「んー、確かに何ていうか、慣れちゃったもんね」

 

「そうそう……」

 

 

 

 ……それに、なんかこの方が特別な感じがした。

 俺らの関係がいい感じに表された、ピッタリな呼び方だと思う。

 まあ、恥ずいから言わないけど。

 

 

 電車の緩やかなブレーキ音を聞きながらちょっと考える。

 

 このまましばらくは「赤坂くん」と「楠木さん」でいられるような案。

 テストに受験に、考えなきゃいけないことはたくさんあるのに、何やってんだ俺。

 

 

 

「決めた」

 

「えー、何?」

 

 

 

 ブレーキ音が静まり、電車のドアが俺たちの前で止まりかけた頃、俺は言った。

 

 

 

「ここぞって時だけにしようぜ」

 

「……ここぞ?」

 

「そりゃもうなんか……ここだ!っつーか、燃える時よ」

 

「えぇ、なにそれ〜。例えば?」

 

「……教科書借りたいときとか」

 

「燃えないなぁ。うーん、……クレーンゲームであと100円貸してほしい時とか?」

 

「うーわ嫌すぎ!ぜってぇ貸さねぇからな」

 

「えー。赤坂、だめ?」

 

「だめに決まってんだろ楠木」

 

 

 

 ドアが開き、一緒に足を踏み入れる。

 

 今日ぐらいは、こんな下らないことで頭を悩ませても許されるだろう。

 

 

 





comodo 気楽にって意味らしいです。

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