俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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第4話です。


第4話 転がる恋愛観  ──恋はプチトマトのように──

 窓を開け放った教室で、爽やかな風とのんびりした日光が騒がしい生徒達の間を通り抜けていく。

 

 光を浴びて優雅にはためく斜光カーテンを背景にすれば、話している内容は大抵碌でもないのになんともオモムキある眺めに思える。

 

 入学当初はうざったかった騒がしさは、いつの間にか心地よくなってきていた。

 

 

 今日の弁当は鶏の照り焼き。

 山盛りご飯に照り焼きをどーんと乗せて、申し訳程度のレタスとブロッコリー、プチトマト。それから卵焼き。

 母さんに『冷凍の鶏肉消費しといて』と頼まれて胸肉丸々一枚使ってやった。

 

 

 

「ちょっとしょっぺぇ……」

 

「あらら」

 

「マヨ入れてくりゃ良かった」

 

「あー、確かに。合うよねぇ」

 

「でもあれ絞って持ってくると中べっちゃべちゃになるんだよな。……チューブごと持ってくるか」

 

「あっはは、いいね、かけ放題!」

 

 

 

 そうやって目の前で微笑む楠木さんの弁当は、焼き鮭におひたし、卵焼き、きんぴら。見事な和食弁当だ。

 

 

 ほんと、よく作れるなぁと毎回感心する。

 だいたい作り置きだよ、と謙遜するけど俺はそこまで出来ない。やると便利だとは分かってるけど。

 

 

 

「休み明けなのによくそこまで頑張って作れんね」

 

「ううん、休み明けだから気合い入ってるの。勘を取り戻すっていうか……」

 

「ねぇねぇねぇねぇ楠木さん!」

 

 

 

 そう話していると、ふと、スカートを短く折った女子たちにわさっと囲まれた。

 主に楠木さんが。

 

 ぞっと顔を青くする横で、照り焼きと共に飯をかき込んでた俺はガン無視される。

 

 

 

「楠木さんって赤坂くんとさ!付き合ってるの!?」

 

「ない」

 

「ないよ」

 

 

 

 来ると思った。

 綺麗に揃った言葉が聞こえてないのか、女子たちはさらに距離を詰める。

 

 

 

「えー!?だっていつも一緒にお弁当食べてるじゃん!」

 

「いや」

 

「一緒に帰ってるよね?」

 

「だって」

 

「あとゴールデンウイークんとき駅で見かけたし!」

 

「それは」

 

「ねぇデート?どこ行ってたのー?」

 

「ちょーイイ感じだったよね!」

 

「あの」

 

「二人でいっつも何話してんの?」

 

「おな中なんでしょー」

 

「……あの」

 

 

 

 女子だけのきゃぴきゃぴした会話の中で、男の低めの声は良く目立った。

 

 

 

「ほんとそういうんじゃないし、楠木さん困ってるから」

 

 

 

 ようやく『見た目が不良なだけの矢ノ川中生』という考えが浸透してきたお陰か、女子たちは、

 

 

 

「えー、うっそだー」

 

「赤坂くんは好きなんじゃないのー」

 

「ないって。マジマジ」

 

「ホントかなー」

 

「ねー」

 

「なーいーよ」

 

 

 

と俺とも和やかに話しつつ、なんだかんだで引いていった。

 

 

 

「じゃあねー楠木さん」

 

「また聞かせてねー」

 

「相談聞くよー」

 

「……やべー、赤坂こわぁー」

 

「目力やばかったねー」

 

 

 

 ……あんまり浸透してなかったらしい。そんなにアレか?俺の顔。

 

 

 

「……あの……ごめんね?」

 

「いや全然いいから。ほんと。マジマジ」

 

 

 

 眉間を揉んで固まった表情をどうにか緩めて笑いかける。

 

 

 

「ちゃんと否定しなきゃダメだぜ楠木さん」

 

「うん……ごめん……」

 

 

 

 そう、しょぼんといつもの八の字がちょっと隠れるくらいには時が過ぎて、ゴールデンウイークも終わりすっかり5月になっていた。

 

 

 さっきの女子たちが言ってたゴールデンウイーク、駅で……ってのはどっちの事だろう。

 

 ばったり会ったのが一回、遼太郎達と『偶然』一緒に出かけたのが一回。まあ二人だけだったのは前者だからそっちの方かな。

 ……と、楠木さんとゴールデンウイークのことを思い出しながら話した。

 

 

 

「まあ、確かにゴールデンウイークはいいカンジだったよなー。……美香と歩夢が」

 

「うんうん。結構進んだと思うんだよねー」

 

 

 

 なんて、何となく得意げに頷きあいながら、後者──こどもの日の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端はだいたい2週間前。帰りの電車に乗っていると、俺と楠木さんのスマホがほぼ同時に震えた。

 

 俺の方は蓮也から。

 

 

 

『こどもの日ってどうよ』

 

『まあ暇』

 

『歩夢におもしれーことしようぜ』

 

『なにすん?』

 

『恋のキューピッド』

 

 

 

 楠木さんは茜って子から。

 

 

 

『あかり!こどもの日遊ばない?』

 

『うん、いいね』

 

『あとちょっと相談』

 

『何?』

 

『みーちゃんと太田の話』

 

 

 

 二人で顔を見合わせながら話を聞いていくと、大方こういうことになった。

 

 

 蓮也と遼太郎は歩夢に、茜は美香から恋愛相談を受けた。

 その内容は、歩夢は美香が、そして美香は歩夢が気になるとか何とか。

 

 蓮也達と茜は同じ東神月だったから、翌日早速話し合い。

 偶然出会ったように見せかけ、遊園地で二人っきりというベタベタのシチュエーションを作り、距離を縮めようということになった。

 

 それを別々にこっちに伝えてきたから訳が分からなくなってた訳だ。

 

 で、奇しくもこどもの日に俺と楠木さんは中学の友達同士と『偶然』遊ぶことになったって訳。

(ちなみに信久は部活が忙しいとかで来なかった。)

 

 

 久しぶりに会った俺の友達──蓮也と遼太郎は、不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

「だってまさか透と楠木さんが仲良くなってるとは思わないじゃん」

 

「まあ言ってなかったし?」

 

「お前ずーっと音沙汰ないからさぁ、やっぱりボッチんなっちゃって言いにくいのかと思ってさぁ」

 

「こっちも連絡しずらかったんだぜ~?さっさと泣きついてくればいいのにさぁ」

 

「別にボッチじゃねぇし、それにお前ら高校でよろしくやってるし」

 

「悪いかよー。こっちにも青春てもんがあるんだよ」

 

「それにサッカー部で忙しいしさ」

 

 

 

 一応矢ノ川中サッカー部エース蓮也、俺と同じく大してうまくない遼太郎は前々から言ってた通り、東神月のサッカー部に入ったらしい。

 

 とはいえ、遼太郎の表情からは『もう辞めたい』がにじみ出ていた。

 

 

 

「それにしても、楠木さんと一緒とはねぇ」

 

「他に友達出来たぁ?」

 

「できてねぇ」

 

 

 

 小学校以来の友達二人に背中をバシバシ叩かれながら、遊園地の明るい道を歩いた。

 大声で笑われても一緒に笑い返せるくらいには、もうそれは気にしなくなっていた。

 

 楠木さんも同じようなことを聞かれているのか、麗と茜に囲まれて歩きづらそうにしてたっけ。

 

 その結果、美香と歩夢を二人きりにするのは成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあの歩夢がなぁ……思い出すだけで笑える。今後10年はネタに出来るな」

 

「ふふ、さっきの子たちの気持ちもちょっとわかっちゃうよね」

 

 

 

 両片思いとかいうドラマか映画でしかなさそうな二人があっちでそわそわこっちでいちゃいちゃ。

 

 色々理由をつけて二人っきりにし、全員で尾行。

 静かな美香と無駄に慌てる歩夢の対比で笑い、手が触れあえば歓声が上がり、観覧車に向かったときは全員ガッツポーズをした。

 

 ほとんどアトラクションに乗らなかったのに、高い入園料を支払っても良かったと思えるくらいには面白かった。

 

 

 告白まではこぎつけなかったものの、どうやら今度二人で美香の好きなバンドのライブに行くらしい。

 遊園地のモニュメントを背に夕日の中で約束したとか。

 

 ウケる。

 

 言葉が古いけどそう言いたくなる謎の面白さと趣がある。ベタにはベタなりの面白さがあるってカンジ。

 

 

 

「まあ勘違いされんのはごめんだけどな」

 

「詮索される方は勘弁だねー」

 

 

 

 ちらっとさっきの女子たちを見ると俺たちの事なんてすっかり忘れて別の話をしている。そんなもんだ。

 

 

 

「そういえばさ、赤坂くん的には『恋愛』って青春には入んないの?」

 

「え」

 

 

 

 唐突な質問にプチトマトを取り落とす。

 おいおい、それ聞いちゃう?さっき勘違いされたばっかりの関係で?

 

 

 

「んー、まぁ……モテたいっちゃモテたいけど」

 

 

 

 プチトマトを転がしながら言葉を選ぶ。

 

 なるべく下品、下劣さを避ける感じに。こちとらさっきの『おな中』にも反応したくなるお年頃なのだ。

 

 

 

『明里に変なこと吹き込んだらただじゃ置かないからね!』

 

『そうだそうだー』

 

 

 

 そう言ってきた麗と茜の顔が浮かぶ。

 言われんでも分かっとるわ。

 

 男子高校生の色んな欲望を思いやりで濾過して、なるべく綺麗な言葉で出力する。

 

 

 

「でもほら……付き合うとかそーゆーのは、まだいいかな」

 

「えぇー?」

 

 

 

 首を傾げ、続きを聞かせるようにこちらを見てくる楠木さん。

 この野郎、誰のために抽象的に言ったと思ってるんだ。

 

 

「いや、ほら……そりゃあモテると嬉しいぜ?

でもなんか、付き合いたくないというか、付き合いたいって思う子がいないというか……」

 

 

 

 チラッと視線をやれば、ご飯を食べながらうんうん相槌をし、食い入るように促してくる。

 意外にも恋愛に興味がおありのようだ、楠木さんは。

 

 ため息を飲み込んで、箸を置く。

 

 

 

「あー、なんつーの?そういう彼女ーとか、デートーとか、憧れはあるんだけどさ、んな妄想通りにゃ行かないじゃん?

面倒くせぇし、適当に付き合っても相手にも悪いし?だから、モテれば御の字って感じ…かな」

 

「ふーむ……なるほどぉ……」

 

 

 

 こんな中身もない話を箸を置いて考え込む楠木さん。

 それを呆れつつ眺めながら、行儀が悪いけどプチトマトをブスッと突き刺して口に放り込んだ。

 

 

 ドロドロした甘酸っぱいのと野菜特有の青臭さが鼻を抜ける。

 

 初恋みたいだな、なんて柄にもないことを思う。

 恋愛の痛手は酸っぱいだけじゃ終わらない。

 

 

 

『ごめん、そういうんじゃないから、あたし』

 

 

 

 もう普段どんな声だったかも思い出せないのに、この言葉とその時の声だけはありありと思い出せる。

 

 碌な思い出じゃない。ガキの恋愛なんてするもんじゃない。

 だから俺は、付き合いたくはない。

 

 

 

「いや、そんな考え込むことじゃないから」

 

 

 

 昔のことを頭から消して顔を上げると、楠木さんはまだ眉を寄せ悩んでいた。

 

 

 

「だって、気になるから……」

 

「人の恋愛観なんて参考にするもんじゃねぇーの。そういう楠木さんはどうなのさ?」

 

「えぇっ、私?ないない、そんな……」

 

 

 

 ぶんぶん目の前で必死に手を振って拒否られる。

 

 

 

「えー、つまんないの」

 

 

 

 まあ、あんな俺の恋愛観を考えこんでるあたりマジでそういうのに疎いんだろうな、と詮索しないことにする。問い詰めても気まずいし。

 

 

 

「……?」

 

 

 

 と、沈黙が気になって顔を上げると目が合った。

 ぼーっとしていたらしい楠木さんは、またハの字を見せて笑った。

 

 

 

「あー……、そっか、つまんないか……。あはは」

 

「それよか、今日の生物基礎のアレなんだけど……」

 

 

 

 また下を向いた楠木さんに、さっさと別の話題を提供する。

 

 楠木さんとのランチタイムは、楽しい話じゃないと意味がない。

 

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