俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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この度3周年を迎えました。
ここまで描き続けることが出来たのは、読んでくださる皆様のお陰です。
この場を借りてお礼申し上げます。

2年生の夏休みも明け、ストーリーとしても折り返し地点。
お話は更に続いていきますので、これからも読んでくださると嬉しいです。→3周年イラスト



また、上記とはあまり関係ありませんが、劇中歌の『W.ings』を作ってみました。(サビだけで未完成ですし、なんか作中の歌詞とイメージと合わないし、そもそも歌ってもいませんが……)
稚拙な音楽ですが、少しでも読んでくださる皆様のイメージが湧きやすくなれば幸いです。
W.ings…?

それでは45話、よろしくお願いいたします。






第45話 マイ・フェア・レディ?  ──エマブル・ガールズ!──

「『Let's fly 遥か彼方へ 一人じゃ行けないところへ』」

 

 

 

 増幅されて届く楠木さんの歌声を耳に、弦へ指を滑らせる。

 

 苦手なコードに切り替えの時めっちゃ身体動いてる、ってさっき百合に笑われたけど、もう癖になってるから直せない。

 それになんかノッてる感じがして良いじゃん。

 

 そうして弾き鳴らす音が横のアンプからキマった音で出てくると、なんかもうそんだけで満足しちゃいそうになる。

 

 特にソロとかサイコー。弾き終わった瞬間向かいの徹と目が合って、やれやれと笑われた。うるせえ。

 

 

 

「『さぁ行こう 青い未来へ』」

 

「…………っし、オッケー!!確認しよ!」

 

 

 

 余韻をしばらく残し、百合がそう叫ぶ。ギターとベースを下ろし、マイクを置き、俺たちは百合のスマホを囲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭まで、あと2週間を切った。

 

 あれ以来すっかり調子を取り戻した徹はガンガン練習し、あのくすぶりっぷりがウソのように腕を上げた。

 それを百合は『当然でしょ』とでも言うように受け入れ、4人合同の練習は滞りなく進んでいた。

 

 楽譜は完全に頭に入って、詰まることもほとんどない。後はステージ上で披露するだけ。

 

 というわけで、今日はスタジオを借りて通し練習だ。通しで録画、確認して各自練習、もう一度録画、を繰り返している。

 

 一番のサビまで見て、百合が口を開いた。

 

 

 

「んー、やっぱ動きが足りない……よね?楽器の音のバランスは十分じゃん?」

 

「うん、おれもそう思う。要はアレでしょ?透くんくらい動けって話でしょ?」

 

「別に動きたくて動いてる訳じゃねぇけどまぁそう言うことだろ」

 

「み、皆何で私を見るの……」

 

 

 

 じっ、と視線が楠木さんに集まって、楠木さんはへにゃっと困ったように笑った。何を思われてるのか分かってるくせに。

 

 

 

「あのー明里、もっとさ、こう、明るく!ぴょんぴょん動いてみない?」

 

「アイドルって感じにー?」

 

「そう!」

 

「あぅ……、……だよねー……」

 

 

 

 その頼りない返事に、俺はもう一度画面へ目を落とした。

 

 うわ俺改めて見ると動きやかましいな。

 良く言えばノリノリ。悪く言うとウザったい。ってより、他が動かなすぎて浮いてる。

 

 キーボードの百合は良い。置き型なんだからあんまチャカチャカ動くのは無理がある。

 

 徹もやれって言ったらすぐできそうな感じ。元々ノリは良い奴だし心配ない。

 

 

 で、話題の楠木さん。

 なんつーか、すっげぇ『らしい』動き。クラシック的というか、吹奏楽的というか。

 拍を取ったり拳を握ったりくらいで、少なくとも『W.ings』みたいなイケイケな曲とはズレがある。

 

 

 それをしばらくムッと眺めていた百合は、何を閃いたのか顔を輝かせた。

 

 

 

「そうだ。よし明里!服!!服交換しよ!」

 

「えぇ!?」

 

「気分よ気分、ミニスカ穿いて変身って感じ!!」

 

「えっウソ。え?ちょっ、百合ちゃん!?」

 

 

 

 百合の突飛な思いつきに、楠木さんは外へ引っ張られていった。扉が閉じる瞬間ひらめいたレモンイエローのワンピースと黒のミニスカ。

 

 一瞬で置いてけぼりにされた俺たちを更に突き放すように、防音用の重い扉は勢いよく閉まった。

 

 バーンという音で二人我に返る。

 

 

 

「…………エッ、じゃああれを明里ちゃんが?」

 

「……ってことだよな……?」

 

 

 

 数分後、トイレか何処かで着替えてきたのか随分雰囲気の違う二人が帰ってきた。

 

 上はそのままだったけど、服一枚変えただけでこんなに変わるのマジ女子ってすげーってカンジ。

 

 

 

「あー……あはは……、短ーい……」

 

「ね、どうどう?ヤバくない?明里めっちゃカワイくない?」

 

「ウン、スッゴイカワイイ……」

 

 

 

 徹はどことは言わないが、サイズが合わなくてパッツパツの百合を見てそう呟いた。

 そっちじゃなくて今は楠木さんだろうが。

 

 ……と思って眺めたけど、なんだか段々直視できなくなっていった。

 

 

 百合は楠木さんより10cm以上背が高い。

 だから楠木さんが穿くとミニってよりは"短めスカート"になっていた。

 制服のスカート3/5ってとこ?まぁこーいう服もあるよなってカンジ。よく見る。フツー。

 

 ……なんだけど。楠木さんの反応が……、なんかこう…………アレ。

 

 

 

「す……すごいね、こ、こんなに短いの初めてかも……なーんて……」

 

 

 

 そんなに恥ずかしがんないでくれる?なんか見てるこっちの方が恥ずいんだけど。

 

 スカートの端押さえないの。言うほど短くないだろ。

 百合はもっと短いのに堂々としてるぞ。お前もそうしろ。

 

 つーかそうして。なんかすっげぇ悪い事してるみたいじゃん俺が。

 

 

 

「なんでよ明里ぃ、カワイーじゃん!ね、文化祭もこんくらい短く折っちゃお?」

 

「んええぇこれで動くの!?ステージの上で?」

 

「そんなんスパッツかタイツ穿いときゃ大丈夫だってー!ね、二人もカワイーって思うっしょ?」

 

「うーん、可愛いー。百合もねー」

 

 

 

 徹が相変わらずそうさらりと言って、3人分の視線が今度は俺に突き刺さった。

 

 期待の視線。他二人はなんかニヤついてるけど、とにかく期待されてる。楠木さんに『可愛い』と言えと。

 

 

 

「……ァー……」

 

 

 

 ふざけんなよ、夏祭りの時だってメチャクソ緊張したのに。

 

 いやまあ、してねぇけど?別に緊張なんかしてませんでしたけど?別に恥ずくもねぇけど?

 

 

 

「…………可愛い、んじゃねぇのー?」

 

 

 

 あくまでフツーに。フツーに言った。フツーだろこの言い方。そうだよな。

 

 なのに徹と百合はニヤァと顔を見合わせていた。なんか文句あんのかよシバくぞ。お前らが言えって言ったんだろうが。

 

 楠木さんの方を伺おうと視線を二人からそらす。いつものハの字と目が合った。

 

 

 

「……そう?」

 

「えっ、あ、うん……?」

 

 

 

 何故か嬉しそうに聞き返してくる楠木さん。その後ろで『頷け!!』と睨む視線に従う。

 すると楠木さんは嬉しそうに息を吐き出し、スカートの端を押さえるのを辞めた。

 

 

 

「じゃあ、いっか」

 

「あっそう……」

 

 

 

 あの恥ずかしがり様はなんだったのか、すっかりいつも通りに戻った楠木さん。「でしょでしょ!」と喜ぶ百合のため、その場でくるりと1回転。

 その裾の広がりを思わず見てしまう男2人。俺は徹とは違うのですぐ目を離した。

 

 

 あーもう、何言わせんだよクソ。

 この前の夏祭りといいなんなんだよお前。男にあんまそーいうの聞くもんじゃねぇっつったろーが。

 

 それにお前ここ1年でめちゃくちゃ変わったから言いにくいんだよそーいうの。ホントからかいでも言いづらいんだって。

 

 

 無駄に上がった心音を水飲んで誤魔化していると、徹がボソッと一言。

 

 

 

「……透くんてたまにエグいクソ童貞ムーブかますよね」

 

「死んどけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日は学校だから練習は6時で終わり。女子2人がまた着替えに行ってるうちに、俺たちは機材を片付けた。

 

 

 百合の"楠木さんミニスカアイドル作戦"は、なんと成功した。

 

 『ひらっとさせるの意識すれば動き良くなるって!』とのアドバイス通りにしたのか、楠木さんはすっかりノリノリボーカルへと進化した。

 

 あっちへ手を振り、こっちでジャンプし、天高く拳を突き上げる。

 前子供の頃の夢がアイドルだったって言ってたけど、マジアイドルってカンジ。

 

 そして途中から俺たちは楠木さんを背に弾いていた。頼むから本番はマジでなんか一枚穿いてくれ。

 

 

 

「よし、これでいっか。……ねぇ、百合達遅くない?」

 

「それな。先出てようぜ」

 

 

 

 着替えるだけなのに何をそんなに手間取っているのか、帰ってこない二人の荷物を持ち、俺たちは部屋を出た。

 

 

 

「……えー?もう、だから何が言いたいの?」

 

 

 

 途端耳を打つ百合の声。もう半年の付き合いなので、まぁまぁイラついてることが声で分かった。

 

 声の方──廊下のトイレ側だ──を見ると、服が元に戻った百合と楠木さんと男子の集団。

 その先頭に立って話している男に何となく見覚えがあった。

 

 

 

「……百合の元カレじゃん」

 

 

 

 隣の徹がそう言って俺も思い出す。1週間足らずで別れたミキトってやつだ。

 

 

 

「その、だから、またアドバイスとかしよっかなぁって……」

 

「いらない、いらない。それにさぁ、あたし言ったよね?そーいう聞いてもないのにペラペラ話すところがナシって。人の話は聞かないくせに。

 

しかも『この後一緒に』?ないない。急すぎ。デートのお誘いならもっと上手くやってよー」

 

 

 

 優しい言い方、冷たい声色でボロクソに言われるミキト。

 後ろの男子連中は爆笑、百合に「だよねぇ!?」とか言ってる。

 どうやら未練タラタラなのはアイツだけ。味方も0だ。

 

 俺も遠巻きに百合を応援していた。

 

 

 

「それに、あたしもう他の彼氏いるんだよね」

 

 

 

 これを聞くまでは。

 

 もはや誰が何をしても面白い状態のあの男子グループを除き、俺たち(プラス)ミキトはあまりの衝撃にフリーズした。

 

 

 

「……ゆ、ゆり…………」

 

 

 

 徹が落としそうになったベースを既で掴み、死にかけの声でそう言った。ミキトも似たような顔をしてポカーンとしている。

 

 百合はそれをひと睨みし、楠木さんの背に手を添えた。

 

 

 

「じゃ、あたしもう行くから。お互い文化祭頑張ろーね」

 

「あわわわわ失礼します……?」

 

 

 

 高らかにヒールと男子グループの笑い声が廊下に響く中、ミキトはクワッと顔を上げた。

 

 

 

「うるせーッ!!ぜってぇ盛り上がらなくて失敗するかんなー!!」

 

「あっはは。かもー。だったらゴメンねー」

 

 

 

 全く相手にしていない返事に、ミキトはムキーっと悔しがる。

 その後ろの男子グループ含め笑顔で手を振り、百合は「さっさと帰ろ」と俺たちを抜かしていった。

 

 「ほらーだから言ったのに」「どうせオメーにゃ高嶺の花だったんだよ」「諦めろ」「音楽にショーカするんだよ」……と、後ろから半笑いの慰める声が聞こえてくる。

 それを背に楠木さんと一緒に百合の後を追いかけると、徹が取り繕った笑顔でその隣にいた。

 

 

 

「あ"ー、クソッ!ホンッットマジあり得ない。いつまでも彼氏ヅラの男ってホントないわ」

 

「だねー百合!でー、そのー、あの、他の彼氏いるってのは……」

 

 

 

 俺的・百合の彼氏ヅラ男No.1はまだショックから立ち上がれていない笑顔でおずおずそう聞く。

 その顔を見もせず、百合はやれやれと首を振った。

 

 

 

「ウーソ。いないっての」

 

「だよねぇ!?だよね百合ぃ!!」

 

 

 パァッと表情を明るくする徹。しかし、それは秒で元に戻った。

 

 

 

「だって一昨日別れたから」

 

 

 

 固まった徹を置いてスタスタと歩き去っていく百合。

 

 俺たちも、ショック(プラス)『そんなところも好き……』って顔をした徹の横を通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって可愛いじゃん」

 

「いやないわ」

 

 

 

 翌日の放課後。4人でドンキに向かってる途中、信号のせいで楠木さんと百合とは別れてしまった。

 「ちょっと!置いてくな!」と叫ぶ声を背に、徹は顔を緩ませて言った。

 

 

 昨日言ってた"他の彼氏"ってのは、この前百合が遊びに誘われてた男友達だったらしい。

 で、告られて、付き合って、何にも無さすぎて金曜の夜にお別れLINEでおしまい。

 

 

 

『だって一緒にお昼食べようも帰ろうも言ってこないんだよ?

 

付き合ったくせになーんにもしてこないとか、マジナシ!ホンットあり得ない』

 

 

 

 昼休み、サンドイッチのラップを握りつぶして百合は苦々しくそう言っていた。

 それは文化祭に向けて練習してるお前に気を使ったんじゃないか……?と思ったけど言わないでおいた。

 

 

 徹曰く、百合の彼氏は長続きしないらしい。

 これまで4、5人彼氏がいたけど、アレなしコレなしソレなしとダメ出しばかりで1週間と持たないとか。

 

 

 

「高嶺の花って感じが好き。マジで好き。マジ可愛い」

 

「あーはいはい」

 

「ワガママなところも好き。おれのこと振り回すところが好き。おれのこと分かってくれるとこも好き」

 

「だーッ、分かったって!!」

 

 

 

 このやり取りも今年で何回目か、俺はシッシッと手を振った。お前が百合にベタ惚れなのは4月から知ってんだよ。

 

 露骨に嫌な顔をしてるだろう俺を見て、徹は楽しそうにケラケラ笑った。ちょうど短い信号で止まって、ハンドルに頬杖を付く。

 

 

 

「いーじゃん別に。なんか改めて百合のこと好きだなーってなってさ。嬉しーんだよ」

 

「何がだよ」

 

「百合に見合うヤツになるぞって目標出来たから」

 

 

 

 熱気で揺らめく道を眺め、徹は言う。

 

 

 

「百合はおれのこと誘ってくれた。おれのこと何でも分かってくれる百合が。

 

百合はすごいんだ。おれじゃ敵わないもんばっかり。

 

勉強も運動も、何でもできるし、仲良い友達もいっぱいだし……、仲のいい家族もいる」

 

「……」

 

「皆が羨ましかったのもそうだけどさ、おれ、何より百合が『そう』なのがやだった。

 

なんかさ、置いていかれた気がして。おれのこと分かって、誘って、選んでくれた癖に置いてくのかよって。

 

……でも、もう辞めるんだ、そーいうの」

 

 

 徹は身体を起こし、ハンドルを握り直す。ニヤニヤ笑いじゃない、この熱に負けない爽やかな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「百合に追いつくんだ。自信は作ればいいんでしょ?

 

できること増やして、もっとすっげーおれになる。んで、誰より百合に相応しい男になる」

 

「……それが目標ねぇ…………」

 

「そ!」

 

 

 

 思わず出た笑い声が、青信号の横断歩道に広がっていった。

 ちょっと立ち直らせるだけのつもりが、まさか恋愛の後押しまですることになるなんて!

 

 いーね徹。クソおもろい。そーいうヤツの方がダチのやり甲斐あるってもんだ。

 

 

 

「ま、せいぜい頑張れよ」

 

「とーぜん!」

 

 

 

 力強く踏み込んだペダルは、俺たちをあっという間に横断歩道の向こう側へ連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくもうあんたら!!先行き過ぎ!」

 

「あ、来た」

 

「おせーぞ」

 

「二人が早いんだよー……」

 

 

 

 すっかり疲れ切った様子の楠木さんを後ろに、百合がツカツカと売り場の間をすり抜けてやってきた。

 

 

 

「ちょっとは待てってのこのバカ!」

 

「い"ッ」

 

「あだ」

 

 

 

 二人揃って頭に手刀が一発。

 徹は「ごめんってば〜」とか言ってヘラヘラしてるが、フツーに百合のコレマジで痛い。毎回やりすぎなんだよコイツ。

 

 

 

「先に行っちゃうのが悪いんだからね」

 

 

 

 痛がる俺に楠木さんは味方してくれない。汗拭きシートで首元を拭きながら恨みがましく見てくる。

 

 

 

「ゆーてそんな飛ばしてねーぞ」

 

「ずーっと信号赤だったんだもん、日陰もないし……」

 

 

 

 あー、納得。この気温の中それは死ねる。まぁ運が無かったってカンジ。

 

 

 

「はーぁ、まぁいいや。んで、どう?先着いてたんだからどうしたいか決まった?」

 

 

 

 徹をどついてある程度ムカつきが収まったのか、百合は腰に手を当て売り場へ目をやった。

 

 視線の先にはアクセ、メガネ、ヴィッグ、ペラッペラのコスプレ衣装などなど。Theドンキの2階ってカンジの品々が盛り沢山だ。

 

 

 

「いやー……?」

 

「全然……?」

 

「……」

 

 

 

 コレばっかりはさすがに俺らが悪いので、甘んじてもう一撃貰った。

 

 

 学校文化祭レベルとは言え、ステージの上に立つ。ってことはちったぁチャラついた格好しねぇと示しがつかない。

 

 てわけで、今日はドンキまで来てステージで映えそうな格好を考えることになった。

 

 というか百合が『マジ絶対盛り上がる格好にするんだから!』と妙に張り切ったからこうなった。

 この前言われたことが結構突っかかってるらしい。

 

 

 つっても男の格好ってそんな派手にできなくね?

 あんまトンチキな格好はしたくないし。制服以外は着たくないし。あんま高く付かせたくねーし。思いつかねーし。

 

 ってことでさっきまで徹とちょっと女子とは見たくないアレヤコレヤを眺めてふざけていた。それはまぁ、謝っておく。

 

 

 

「ね!ね!明里!コレ着よーよ!」

 

「んえぇ……?」

 

 

 

 そんな男二人を放って、百合はさっきから楠木さんにあーでもないこーでもないと服を当てて遊んでいる。

 

 今度のはビビッと来たらしく、当てた瞬間嬉しそうに声を上げた。

 

 

 

「えっやだ、絶対コレじゃん!これにしよ明里!」

 

「そ、そう……?」

 

 

 

 百合が持ってるのはピンクのカーディガン。楠木さんには袖も裾も長い気がする。

 

 

 

「これ着てー、スカート短くしてー、ネクタイはリボンにしてー、んで髪巻いてー……。え、マジ良くない?絶対良い!」

 

「そうかなぁ……?」

 

「そうだって!ちょっと昔のギャル的な?絶対似合うってぇ」

 

「そっかぁ……!」

 

 

 

 楠木さんが、ギャル……?

 

 いまいち想像つかなかったけど、本人は満更でも無さそうな顔をしてる。普段の真逆ってカンジになるのが楽しいんだろう。

 

 と、そこで俺もピンときた。普段の真逆。ってことは俺なら……?

 

 

 

「なぁ楠木さん!百合!これどうよ!」

 

 

 

 そう声を掛けると、百合が着る服を選んでいた二人が振り返る。

 目を見開いた、と思った瞬間、二人は同時に吹き出した。

 

 

 

「なぁ、どうよ?」

 

「……っ、……透ッ!このバカ……っ!」

 

「……」

 

 

 

 爆笑通り越して声が出なくなった二人はその場に身を寄せ合ってブルブル震えていた。

 思った通りになって楽しくなってきた。目元のソレをくいっと上げてみせると、二人は潰れたカエルみたいな声を出す。

 

 

 

「百合?明里ちゃん?どーしたの?」

 

 

 

 様子が気になったのか棚の反対側から徹が顔を覗かせる。

 

 二人が指差した先を見た途端ブハッと勢い良く吹き出し、そしてギリ迷惑にならなさそうな大きさの声で一言。

 

 

 

「インテリヤクザじゃん!」

 

 

 

 その一言に、俺も陥落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シルバーの(ほっそ)いフレームの伊達メガネ。上までぴったり留めたシャツ。

 たったそれだけなのに、4人揃って笑いが収まるのにしばらく掛かった。

 

 

 

「……やめて赤坂くんこっち見ないで」

 

「はぁ?何ぃ?聞こえませんけどぉ?」

 

「っく……」

 

 

 

 楠木さんはギリ帰ってこれてないけど。

 でも、このリアクションなら目立つこと間違いなしだ。ダサくないし、安く済むし、良いことばっかりってカンジ。

 

 

 

「でもアンタ、そーいう感じにするならソレどうにかしなさいよ」

 

 

 

 ウサミミパーカーを抱えて帰ってきた百合がそう言ってくる。

 

 指をさしているのはうなじの辺り。同じところに手をやると、伸びた髪が指をくすぐった。

 

 

 

「さすがに長いって。てか何でアンタ暑くないワケ?」

 

「おめーに言われたくねぇよ」

 

 

 

 セットが崩れるとかで滅多に結ばないヤツに言われたくない。でも確かに、ただでさえ普段長めなのに最近切ってないせいで結構うっとうしかった。

 

 

 

「この期に短くするか」

 

「あれ……でも赤坂くん、長めが好きって言ってなかった?」

 

「……あー」

 

 

 

 ウサミミパーカーの耳を弄びつつ、楠木さんが聞いてきた。ちょっと答えを濁す。

 

 

 確かに長めが好きだ。小学生くらいからそうだし、今の自分の顔にも合っているとも思う。

 

 そのきっかけを思い出す。

 ホント子供っぽくて笑えるきっかけ。恥ずくて皆には──特に父さんには──絶対言いたくないきっかけ。

 

 その時の俺の心境を、今の俺に照らし合わせれば、もうこの髪型じゃなくて良いような気がした。

 

 

 

「いや、切るよ。ちょうどいいし」

 

「良いの?」

 

「あぁ。もういいや」

 

「……そっか」

 

 

 

 理由は教えなくても、楠木さんには何かが伝わったらしい。向けられた笑みに、同じように答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう9月も後半だってのに、曇っても、薄暗くなっても、相変わらず外は暑い。つーか湿気がカス。

 冷房でカラカラの肌が急速にベタついていく感覚に、俺も百合も「うあ"ー」とうんざりした声が漏れた。

 

 徹は電池が買いたいの思い出した、楠木さんはトイレに行く、とかで、俺ら2人だけ先に店を出た。

 

 出口と外との狭間、一面に置かれたガチャを眺めながら二人を待つ。

 

 

 

「うわ(なっつ)コレ、お兄ちゃんがめっちゃ好きだったアニメのじゃん!」

 

「すげぇ日焼けしてねコレ」

 

「てことは売れてないってこと?あっは、ウケんね。あー、見て!ちっちゃいメモ帳!小学生の頃めちゃくちゃ持ってた!」

 

「あー確かに!女子ってこんなんランドセルにジャラジャラさせてたよな」

 

「えー、引こうかなー。黄色いの欲しい!……でも今これ持っても何も使い道思いつかないわ」

 

「単語帳にでもすればいいだろ」

 

「うーわ、夢なさすぎ」

 

 

 

 笑いつつ「それにあたしそんなん要らないし」と言われて、ちょっと刺さる。

 1回も単語帳ミニテストの再テストに行ったことないだけある。

 

 

 この前帰ってきた夏休み明けテストの結果は悪くなかった。つーかめっちゃ良かった。

 

 全体約280人中42位。去年の春休み明けテストに比べれば順位は落ちたがそれでも高い。

 国語はこの前のがミラクルすぎて20後半に落ち込んだけど、この前低かった英語も上がって数学はキープ。

 

 楠木さんと徹も俺と順位プラマイ15くらいの差で、いやー皆頑張ったな!なんて思っていた。

 

 国数英と合計、全て15位以内の百合の結果を見るまでは。

 

 

 なんだかんだガチャを引くことにしたらしい百合を見やる。

 結構近づけたと思っていたのに、やっぱり遠い。だからこそ目標になるってもんだけど。

 

 コイツはスゴイやつだ。何でも持ってるやつなんかいないと分かっていても、もしかしてコイツはそうなんじゃないかって思えてしまう。

 

 だからこそ、吹っ切れた後『百合に追いつく』と宣言した徹のことも素直にすげーと思った。

 

 

 

「そーいやさぁ」

 

「あ?」

 

 

 

 お目当ての黄色いメモ帳が入ったカプセルを開けることもなくカバンに突っ込み、百合は唐突に言った。

 

 

 

「この前はゴメンね」

 

「……は?」

 

「行かなかったでしょ、あたし。徹んとこ」 

 

 

 

 サイドで巻いている髪をくるくる弄びながら俺を一瞬見る。その視線に『なんだよ急に』って言葉は飲み込まれた。

 そういえばあの日以来、百合と二人だけになったの今が初めてだ。

 

 かと言って、タイミングを伺って言われたらしいそれに返す言葉は見つからなくて、「いや、別に」とボソッと返して終わる。

 

 いやだってまさか、悪いと思ってるなんて──。

 

 

 

「あたしが悪いと思ってるなんて思ってなかったって感じ?」

 

「えっ何で分かんの」

 

「顔!!思いっきり!出てるから!」

 

 

 

 ウサミミパーカー入りレジ袋で叩くフリをされる。同じく降参のフリをした俺に満足したのか、百合はため息一つ吐き出した。

 

 

 

「まぁその、ゴメンって話よ。良いでしょ。それだけ。悪い?」

 

「別に。ま、もう良いって」

 

 

 

 解決した今となっては気にするほどのことでもない。多少は申し訳なく思ってた様なら、なおさら。

 

 そう流した俺を置いて、百合は出口をくぐった。

 雨が近いのか、厚く雲が敷き詰められた空を眺めている。後を追って横につけると、百合はまた口を開いた。

 

 

 

「明里から聞いたよー。色々してくれたみたいじゃん」

 

「俺は何も。楠木さんが頑張っただけ」

 

「あっはは。……まぁ、明里はすごい子だもん。当然か」

 

「……おう……?」

 

 

 

 返事が思わず疑問形になる。それについては大方同意だけど、百合が言うほどとは思えなかった。

 

 だって百合、お前の方がすごいやつじゃ……。

 

 

 

「……あたしじゃ出来なかったわ」

 

 

 

 トドメにそう続けられて。憂いを帯びた遠い目の横顔を見て。色々茶化そうとしていた言葉が全部溶けていった。

 

 あれ。もしかしてコイツ、思ってたより普通の───。

 

 ──目が合った。

 

 

 

「百合ー!透くーん!」

 

「これ見てー!」

 

 

 

 急に掛かった声に二人飛び上がって振り返れば、徹と楠木さんが手に何かを持って振っていた。なんか青と赤の……、何?

 

 

 

「ほらアレ!この前私と徹くんで取ったやつ!」

 

 

 

 楠木さんに押し付けられるままそれを手にとって見れば、小さいエビのぬいぐるみだった。

 楠木さんのカバンに今付いてるのと同じだ。俺が赤で、百合が青。

 

 

 

「中のクレーンゲームにおんなじのあってさ、取ってきちゃった。

 

……………おれと明里ちゃんだけお揃いなのもアレじゃん?」

 

 

 

 最後の一言だけ俺に身体を寄せて呟く徹。通りで二人揃って遅いわけだ。つーかついでに菓子買ってきてんじゃねぇよ。

 

 

 

「で?二人は何話してたの?」

 

 

 

 遂に聞かれてしまった質問に、俺はバッと百合から距離を取った。百合も同じく。その間0.5秒。距離にして30cm。

 

 楠木さんと徹に違和感を感じさせない程度に沈黙を挟み、百合が大声を上げた。

 

 

 

「そーよ!透!アンタ、ハモリやりなさい」

 

「はっ、はぁッ!?」

 

「もっと盛り上がんでしょ!はい名案、はい決定!決まりだから!」

 

「はぁ?言い出したんならお前がやれよ!」

 

「はぁ?カラオケ得意ってんならいいでしょ?やりなさいよ!」

 

 

 

 照れ隠しか、いつものわがままか。苛烈な言い回しと一緒に提案されて、言い返しても聞きっこない。

 

 

 

「じゃ、これ決定ね!」

 

 

 

 ナイスアイデア!という楠木さんと徹の視線。ぴんと差された指と一緒に突き刺さる視線。

 

 不覚にも徹と同じ感想を抱いてしまった自分の心にも押され、俺はそれに頷くしかなかった。







3周年イラストの余談。

右の子から順に描いていき、明里が可愛く描けたのは当然として透がかなりカッコよく描けてしまい、「これはちょっとイカンのでは……!?」なんて思っていたら、最後の健人がさすが公式イケメンのツラ引っさげて描けてしまったという話。

絵も生き物ですね。
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