俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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ずっと彼らが目標にしていた文化祭編を書くのに、なぜか作者の方が緊張しています。





第46話 W.ings(前編) ──Free Your Mind──

 高校の文化祭って、やっぱサイッコーに夢がある。

 

 

 今まで年齢と校則に縛られていた人間が少し(学校によってはかなり)解放されて、やることなすことハイレベルで提供。

 よく分かんねー合唱コンクールもナシ。

 動く金も人も中学とは段違い。

 

 学生たちの若さと自由の象徴。だからこそ、ドラマとかのフィクションでもすっげーイベントとして描かれるしクソ憧れる。

 

 

 その分理想と違った時のがっかり感もやべー。

 

 

 特に東神月高のは最悪だった。

 

 去年蓮也と遼太郎に「頼むから見てくれ」なんて言われたから行ってやったら、お誕生日会みたいな飾り付けをされた教室が出迎えてくれた。

 

 教室の中身も遊びとかじゃなくて展示で、付近の店の歴史まとめとかいうクソつまんなそうな模造紙が貼ってあるだけ。

 展示見てるやつなんか一人としていない。

 

 受け持ちのクラスの奴らはスマホすらいじれずトランプやってた。

 

 

 まぁ出店は大盛況だったし、チュロス食えたし、蓮也の彼女の顔も拝めたしサッカーの親善試合だって勝つとこ見れた。

 

 俺的にはそこそこ楽しめたってカンジだったけど、「やっぱあんなん幻想だ」「所詮公立だよチクショー」と二人に散々愚痴られた思い出。

 

 

 そう思い返しながら、俺は暮れた日に照らされた周囲を見渡す。

 

 

 ──明後日二人が来たら、俺は嫉妬で殺されるんじゃないか。

 

 

 そう思うほど理想的な『文化祭』が、準備万端で校内に鎮座していた。

 

 

 

 

 

 

 

 今日は1日潰して文化祭の準備だった。

 

 無駄に高いクラスTシャツ(とは言え、俺のクラスは神田さんが頑張って3000円以下に抑えた)を身にまとい、全生徒が学校中を駆けずり回った。

 

 

 机を片付け、仕切りを運び出し、教室を飾り、看板を出し、テントを立てる。

 

 部活の発表がある奴らは別に教室を持ってその準備だし、飲食やる奴らは買い出しにテスト調理に忙しそうだった。

 試食にありつけてるのは羨ましかったけど。

 

 

 俺の5組はミニボウリングや輪投げ、的当てとライトな遊技場の設営。

 

 やっぱあーいうのってセンスがモノを言うよなーってカンジ。

 

 俺ら男子が丸一日掛けボウリング場をどうにかこうにか仕上げ終わった頃には、女子たち(プラス)絵の上手い数人の男のお陰でその他は全部完成していた。

 

 

 じゃあ最初からお前ら指示出せよってのと、役に立たなすぎて申し訳ないってのが半々。

 罪滅ぼしに明日は盛り上げるぞ!と誓いあい、準備が終わり次第皆部活やら帰り道やらに去っていった。

 

 

 

「……なんかさー、改めてやべーね、うちの学校。バカ豪華じゃん?」

 

「それなー。やっぱ私立ってカンジ」

 

 

 

 隣の徹が同じ感想を呟く。

 

 時刻は17:10。

 大半の教室は完成し、廊下の人通りは少ない。

 

 そして7組の前という2年生フロアど真ん中に立てば、飾り付けられた教室たちを一望することが出来た。

 

 

 色とりどりの立て看板にポスター、紙で作った花、クリスマスによく見るキラキラモサモサのアレ。

 学生が考えつく限りの飾りに合わせ、窓から見える中の様子も普段とは違う。

 

 

 

「9組マジヤバくね?フツーにコエーんだけど」

 

「確か1、2組と合同になってたろ。Ⅰクラスの頭脳に、3クラス分の予算と労力をかけて……ってカンジ?」

 

「やっぱ金かぁ」

 

 

 

 そう話しながら眺めるのは、カーテンと目張りで異様に暗い9組。

 

 その廊下側の窓には、一面ベッタリと血糊の手形が付いている。

 中で不自然に積み上がった机や椅子、仕切りは迷路になっていて、多分明日誰かが着て脅かすんだろうお化け3人が入り口にぶら下がっていた。

 

 

 

「……いやめっちゃ怖くね」

 

「やべーよね」

 

 

 

 さっき片岡、深瀬と話したけど、当日はホラー映画好きな奴らが集まって選び抜いたBGMまで流すらしい。

 気合の入り様がダンチだ。

 

 その分俺らの比じゃないくらい準備が大変だったらしく、疲れとアドレナリンで異様な目つきをしていた。

 ガイコツ柄のクラTも相まって、あいつらがそのままお化けやっても行けそうだった。

 

 

 

「んで8組がアレだろ?」

 

「雰囲気真逆でめっちゃおもろいよねー」

 

 

 

 そしてその9組の向かい、8組はとにかくシンプルで清潔。

 

 窓にはおしゃれなメニュー表と写真が貼ってあるだけ。

 もう鍵閉まっててよく見えないけど、テーブル全部に真っ白なクロスがかけられ、花まで置いてあった。

 

 文化祭としては上出来な喫茶店だ。

 

 

 

「マジ『天国と地獄』ってカンジ」

 

「なんかすっげーマトモな分さ、余計目立つよね」

 

「それ。……あ、でももしかしたらそーじゃねえかも」

 

「えぇ、なんで」

 

「いやさっきさ、昼頃トイレ行ったら那賀川とすれ違ったんだよ」

 

「……んで?」

 

 

 

 ──実は徹、この前の騒ぎからまだ那賀川に謝ってない。まぁ向こうもなんだけど。

 

 

 その気まずさとムカつきも含めて顔をしかめた徹に「まぁ聞けって」と耳打ち。

 

 

 

「……あいつコスプレっぽいの持ってた」

 

「……っえぇ?!」

 

 

 

 衝撃、驚愕、気づき、ニヤケ、と1秒も経たず移り変わる徹に釣られて吹き出す。

 

 

 気分転換の散歩ついでに人気の少ない第2棟のトイレまで歩いていけば、なんと飛び出してきたのは那賀川。

 

 「だっあ"、ぁ、ぅわ、赤坂っ?」なんて珍しく情けない声を出し会釈もそこそこ、後ろ手に何かを隠し走り去っていった。

 

 持ってたのは黒と白っぽい色の何か。多分服。

 

 

 

「えっ、え、マジ!?それワンチャンメ」

 

「いやねーとは思うよ?思うけどさ?でも少なくとも、何かを着るのは間違いねーってハナシ!!」

 

「っ、んフフ、ヤバ……」

 

 

 

 候補の中でも一番の大穴を想像し、徹はズルズル笑いの波に沈んでいった。

 

 

 さすがにソレは無いとして、何着んのかクソ気になる。追っかけて吐かせりゃよかった。

 

 どーせムカつくことに何着ても似合うんだろうが、あの那賀川健人がクラスメイトに頼まれてコスプレさせられているという事実が面白い。

 

 何かのアニメか、それともカフェに合わせた格好か。

 俺はアイツの女子人気を鑑み、心の中で執事にベットした。

 

 

 

「二人とも、何笑ってるの……?」

 

「「(べっつ)にぃ〜?」」

 

 

 

 

 7組の出口から顔を覗かせた楠木さんは、不思議そうに首を傾げた。

 知らないほうが絶対明日面白いから教えてやんない。

 

 

 

「ね、百合ちゃんまだ掛かるから先行っててだって」

 

「えぇ〜?」

 

 

 

 カバンを持って出てきた楠木さんに、徹は思い切り不満の声を漏らした。その勢いでクラスに顔を突っ込む。

 

 

 

「ねぇ百合ぃ、マジでー?」

 

「マジ!あとちょっとで終わるから先行って!てか終わらすから!」

 

 

 

 手どころか自慢の髪にまでチョークの粉を付け、百合は黒板の前で振り返った。

 

 

 百合と楠木さんの7組は確か10組と組んでカジノ。

 

 手作りメダルを賭けてルーレットやらポーカーやらやるって楠木さんが言ってた。んで、結果に応じてお菓子とかを交換。

 

 

 黒板にはそれぞれのルールが書いてあって、百合たち生徒はさっきからずっとその黒板周辺を飾り付けていた。

 

 んで俺らはさっきからずっと二人を待ってたってカンジ。

 

 

 まだ黒板の前には百合以外に10人ほど残っていて、黒板の隙間を埋めるように絵を描いていた。

 特に百合は山になったメダルをゴリゴリ描いてるせいで黄色の粉まみれだ。

 

 

 

「あと20分だぞ」

 

「分かってる!!」

 

 

 

 声を掛けたのに、遂に振り返りもしなくなった。こりゃもう無理だな。

 

 仕方なく、俺ら3人は講堂へ──文化祭自由枠のリハーサルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自由枠発表日は2日目なのに、リハーサルは今日。

 

 リハってフツー前日にやるもんじゃねぇの?って思ったけど、同じく2日目に発表する演劇部がどうしても前日は譲れないらしい。

 

 

 講堂は運営委員の生徒と先生、発表者でかなり混んでいた。

 

 漫才やコントとかのお笑い系が3組。

 俺らと同じバンド系が5組。

 歌唱が2組。

 ダンス発表が3組。

 ……の、計13組。

 

 持ち時間は1組5分。登壇から撤収まで含めて5分だ。

 特に楽器持っていったり繋げたりするバンド系はここらへんスムーズにやんないといけない。

 

 しかも俺たちはバンド系で一番最初。すぐ順番が回ってくる。

 

 

 音響とかの機材はなんと学校貸出。

 やっぱ私立ってスッゲーの。先生は簡易的って言ってたけど、ミキサーにアンプ、スピーカーの3つを完備だ。

 

 何をどこにどう繋ぐか、いつ流すかとか、事前に委員会の人たちと話し合っておく必要がある。

 

 

 つまり何が言いたいかと言うと、順番すぐだしリハめっちゃ大事なんだからさっさと百合が来ないと困るって話。 

 

 

 ネタの読み合わせをしてるらしい漫才組、設定や立ち位置の相談をしている同じバンド組に挟まれ、俺と楠木さんはサビを合わせていた。

 

 

 

「「『Let's fly 遥か彼方へ 一人じゃ行けない所へ』」」

 

 

 

 小声だけど2人分の歌声はちゃんとハモる。

 徹がイイね!と親指を立てた。俺もそう思う。

 

 2週間前なんて無茶な時期に言われたにしちゃ上出来だ。

 

 

 

「っしいーじゃん、バカ完璧!どうにか間に合ったね!」

 

「だね」

 

「ったく、ほんっと無茶振りしやがる」

 

 

 

 あの後はクソ大変だった。

 

 そもそもハモりの音覚えられないし、やっと覚えれば楠木さんに釣られるし、釣られないよう頑張ればギターが疎かになるし。

 

 延々とハモリの音程を聞き、暇さえあれば楠木さんと合わせて。

 2週間進んでは戻るを繰り返し、ようやく人に聞かせられるレベルに持ってこれた。

 

 

 

「ごめんッ、遅れた!」

 

 

 

 その無茶振りをしてきた奴はリハーサル始まって20分後に息を切らしてやってきた。どうにか黒板の飾り付けは終わったらしい。

 

 丁度始まった漫才3組目、先生をめちゃくちゃイジる掛け合いをBGMに、百合はゼエゼエ言いながらキーボードを広げた。

 

 

 

「もしかして次?」

 

「うん、そう」

 

「うーわマジ?マジギリセーフ!マジゴメン!皆は準備OK?」

 

「うん」

 

「当然」

 

「っしOK!じゃあ大丈夫だわ」

 

 

 

 鍵盤に指を1回滑らせそう言い切った百合の背には、1人の視線が突き刺さっている。

 

 俺らの二組後ろ、例のミキトくんチームだ。

 

 ギター2にベース1、ドラム1キーボード1の構成。

 俺らと違ってしっかりメンバーを集めている割には、誰もミキトの恋情を応援してるやつはいないようだった。

 

 

 

「おめぇいつまで見てんだよキッショいな」

 

「諦めろって〜。マジuglyだよそれ」

 

「…………」

 

「いやないわー。ミキトくんないわーそれは」

 

 

 

 笑い混じりの小声が聞こえてくる。

 

 俺に聞こえるってことはもちろん百合もそうなので、コイツはふと振り向いてミキトの方を見た。

 

 

 

「……ふふ」

 

 

 

 その笑顔っつったらマジほんっと、ヤな女。

 

 純真そのもの、振り向いたら偶然目が合っちゃったね!なんて可愛らしい笑み。

 とても半年前1週間で振った男に向けるものとは思えない。

 

 

 格の違いが突き刺さったミキトはがっくりと頭を落とす。それを見てのたうち回る周囲の男たち。

 

 まぁなんか、ゴシューショーサマってカンジ。引きずる男はモテないぜ。

 

 

 

「じゃあ次、チーム『クリアリリー』の皆さん!お願いします!」

 

 

 

 委員会から声が掛かり、俺たちは立ち上がる。

 

 

 

「っし!行くよ皆!」

 

 

 

 高らかに宣言した百合に付き、ステージに上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた文化祭1日目。

 

 10月にしては熱いけど、開けた窓からは涼しい風が吹き込んでくる。

 空でも眺めればのんびりした良い気持ちになれそうな気候の中、俺はクラスを走り回っていた。

 

 

「はい?あぁ、景品の交換!あっちでーすあっち。ほら井ノ上!」

 

「へ?おおお、はい、はい。どうぞー」

 

「透くん透くんヤバい、バカ最悪。なんか的当て上手く回んなくなった」

 

「はぁ?うーわマジか、アレ作ったの誰だっけ……」

 

「シホちゃんじゃなかった?」

 

「シホ……あぁ若林さんか、美術部の。じゃあお前呼んでこい。一旦停止にしとく」

 

「OK、他のに振り分ける感じね」

 

「頼んだ。すんませーん!一旦的当て停止でーす!!」

 

「赤坂くーん、お二人様ごあんなーい」

 

「あーはい了解!じゃー神田さんこっちお願い」

 

「はいはーい」

 

 

 あークソッ!初日の午前がこんな忙しいとか聞いてねえぞ!!

 

 

 空いてると思って入れたシフトが完ッ全に失敗した。

 

 文化祭って訳で当然一般公開。ご近所の老人からおチビちゃんまで大集合だ。

 そして俺らの2-5は中でも小さい子連れの家族が押しかけて賑わっていた。

 

 つまりマジ人手不足ってカンジ。

 嬉しい悲鳴と言うには皆の顔の『嫌』って字がデカすぎ。

 

 

 お客のお母さんにそれとなく聞いてみると、どうやらこのフロアで小さい子も遊べそうなのはここくらいだとか。

 

 まぁ確かに小学生低学年あたりはポーカーとか無理だろうし、工作はほとんどお母さんがやるだろうし、例のホラー迷路は絶対無理。さっきからエグい絶叫聞こえてくるし。

 

 

 というわけで、1日目の午前はあっという間に過ぎていった。

 

 やれ的当てが動かないだの景品の予備が見当たらないだの、ハプニング満載だったがどうにか乗り切った。

 

 

 なーにがムカつくって、シフト交代の時間になったら空いてきたこと。

 昼時だし、大方メシ方面のクラスに人が行ったんだろうけど、ムカつくもんはムカつく。

 

 『あれー思ったよりガラガラだね』なんてやってきた午後組に引継ぎして、午前組はデカいため息をついた。あーマジでクソ疲れた。

 

 

 

「あれ、もう終わり?」

 

「あ˝?……あ、ごめん、楠木さんか……」

 

「……大変だったんだね」

 

 

 

 のんきな声に顔を上げると、楠木さんが田中と谷中と一緒にやってきていた。

 

 右手にパンフレット、左手にチュロスを持ち、すっかり午前を楽しんだようだった。

 

 

 

「ねーマジ大変だったんだよ明里ちゃん!人は多いしおチビちゃんたちは多いし人は多いしさ!」

 

「あはは……大盛況だったんだね。皆お疲れ様。あれ神田ちゃん、どうしちゃったの……」

 

 

 じゃれつく徹をいなし、くたっとしている神田さんと話し始める楠木さん。

 その隙に田中と谷中が俺らの方にやってきた。

 

 

 

「あれあれあれ?赤坂くーん?それどうしちゃったのさー」

 

「あ、やっぱ分かる?」

 

「そりゃあねえ!」

 

「ええ。赤坂くんて言えば、あの髪型だったもの」

 

 

 

 顔も相まってね、なんて言いたげなクールな視線の田中に苦笑する。

 それを見た谷中は「まー似合ってっからいーじゃんねー」と大型犬のような気のいい笑顔で言ってくれた。

 

 

 

「明日楠木ちゃんと百合と発表でしょ~?頑張ってね」

 

「ちょっとー、おれ忘れないでよ!」

 

「そーそー、湊くんも」

 

「ま、見に行ってあげるわ」

 

「おう。マジめっっちゃいい感じだから期待してくれていーぜ」

 

「あ、僕も見に行くからね!」

 

「わたしもー」

 

 

 

 井ノ上、神田さんと続けてそう言ってくれて、俺たち発表者は顔を合わせた。

 

 照れと嬉しさが混じった二人の目と目が合う。あー俺も同じ顔してんだろーなって思うと、何か余計ハズいような嬉しいような。

 

 

 

「……ね、徹くん!私輪投げやりたいな。一緒にやろ」

 

「あー、いいね!おれさっきから案内してばっかだったからさー」

 

「田中ちゃんも谷中ちゃんも!神田ちゃんも!ほら!」

 

 

 

 わー、楠木さん逃げやがった。徹まで。

 

 声を掛けられた田中、神田さんはやれやれと笑いながら二人について行った。井ノ上も暇なのか、なんとなくついて行く。

 

 

 自分の照れ隠しも含めて恥ずかしがり屋二人をニヤニヤ眺めていると、谷中が何となく横に来た。

 

 

 

「あっはは、楠木ちゃんはかわいーねー」

 

「あーいうとこウケるよな」

 

「あれーそれ赤坂くんが言っちゃう?揃って照れ屋だねぇ」

 

「俺はちげーしー」

 

「またまたぁ~」

 

 

 

 楠木さんの友達の谷中。クールで冷静な田中と反対で、へらーっとしたのんびりな笑顔が特徴。

 俺ともまぁ仲良いけど、こんな風に完全サシで話すのは結構珍しい。

 

 

 あ、楠木さん輪投げ全部外した。下手すぎじゃん面白。徹、笑いすぎだろ。

 

 それを見て谷中は薄く笑い、ぐっと伸びをしながら口を開いた。

 

 

 

「……まさか百合が楠木ちゃんと仲良くなると思わなかったなあ」

 

「……え、そんな意外?アイツ友達多いじゃん」

 

「んー、なんてーの?今までの友達とは系統違うなーって。

 

あぁほら、楠木ちゃんてあんまキャピってる感じじゃないじゃん?」

 

「っははは!まぁそう」

 

「でしょ~?小、中ってつるんでた子たちと全然違うからさー。なんか意外だなぁって」

 

「あー……。谷中は百合と友達ー、なんだっけ?」

 

「そ」

 

「だよな、だよね」

 

「ま、最高に仲良いって訳じゃないんだけど、保育園から何かずっと一緒なんだー。腐れ縁かなー」

 

 

 

 急に始まった、その場にいない百合の話に相槌を打つ。谷中と百合ってそんな昔からの付き合いだったんだ。

 

 確かに百合の他の友達と楠木さんって全然雰囲気違う。きゃあきゃあいうタイプの友達ばっかで、言われてみれば不思議。

 

 

「2年なったばっかの頃、急に紹介してーって言われてね。

で、仲良くなって、赤坂くんとも……でしょ?あの子にしては珍しいなーって。

 

だってほら、そんな紹介なんかしなくても勝手に仲良くなる子じゃん?」

 

「ガチ」

 

「でしょー。だからずっとそこらへん気になってるって話。

 

ま、二人とも仲良くやってるからいーんだけどねー」

 

 

 

 話したい事が吐き出せてすっきりしたのか、谷中は大きくあくびをして楠木さんの方に歩いて行った。

 

 

 皆の賑やかな声とクラスに囲まれ、俺は窓から講堂を見下ろした。

 脳裏に浮かぶのは、昨日リハーサルを終えて晴れやかだった百合の笑顔。

 

 

 朝風百合。

 

 あの強引な出会いから随分仲良くなった。俺の友達で目標の女子。

 それなのに、知れば知るほど遠くなるような気がする。遠ざかるアイツのことを、もっと知りたいような──。

 

 

 

「ねぇちょっと皆!!」

 

「うわっ」

 

 

 

 なんて落ち着いた気持ちになっていた俺に、件のヤツがでっけぇ声でクラスに入ってきた。

 

 ちょっと思いにふけってた俺が本当にアホに思えるほど、キラッキラの目で。

 

 

 

「ちょっと集合っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 百合に連れられ廊下に出ると、2年8、9組のあたりは人でごった返していた。

 

 悲鳴響く9組は長蛇の列。ガイコツ柄Tシャツの女子がパネルを高く持ち上げ、どうにか整列させようと頑張っていた。

 

 そして、対する8組は……。

 

 

 

「待っっっってやばいやばいやばいやばい」

 

「きゃー!めっちゃ似合う!」

 

「こっち向いてー!」

 

「写真!写真いいすか!」

 

「お嬢様!お嬢様って言って!」

 

 

 

 歓声が鳴り響いていた。

 

 わんさかと人に囲まれている人物を見て、隣の徹が苦々しげに舌打ちする。だからメイドは無ぇつったろうが。

 反対の楠木さんはほえー、と感心した顔で眺めている。

 

 

 

「…………っくくく……」

 

 

 

 そして賭けが当たった俺は、じわじわと笑いが堪えられなくなっていった。

 目の前のソイツが作り笑いで手を振る度に、息が苦しくなる。

 

 

 

「ダメだぁっははははは!!!那賀川っ、なんだよそれ!!!」

 

 

 

 ついに噴き出した俺に、那賀川が振り返る。

 うげ、という顔をしたソイツの顔に、俺は余計に腹を抱えて笑った。

 

 

 

「……ブハッ」

 

「……そんな笑うことないだろ」

 

「……ッ……!」

 

「おい」

 

「だってさぁ……」

 

 

 

 数分後、一通りファンサをこなした那賀川はめちゃくちゃぐったりしていた。悪いけど俺はもうそれすら面白い。

 

 

 那賀川は俺の予想通り、執事姿だった。

 

 いつもは軽く上げてるだけの前髪をがっつり上げて、額を出した髪型に。

 ペラッペラの黒い燕尾服、クロスタイに白い手袋は、コスプレとは思えないほど当然のように那賀川健人に似合っていた。

 

 そう、たとえ中のシャツとズボンがいつも通りの制服で、足元が上履きでも。

 

 

「っふふ……な、なぁ、何で中途半端に制服なワケ?」

 

「……なかったんだよ」

 

「はぁ?何ぃ?」

 

「足りなかったんだよっ!丈が!というか全体的にサイズが合ってないんだよ!」

 

「……言われてみれば、色々足りてないね」

 

 

 

 しげしげと服装を眺めていた楠木さんが、燕尾服の裾を掴んでひらひらさせながら言う。

 

 確かに良く見てみれば袖からシャツがかなり出てる。背中もパツパツだし、裾のぴらぴらも多分長さが足りてない。

 

 

 

「じゃ、じゃあそのベストは?」

 

「……父さんのスーツ借りた…………」

 

「~~~~ッッッ!!!」

 

「……赤坂くん、笑いすぎだよ……」

 

 

 

 それは無茶ってもんだぜ楠木さん。

 

 だって"あの"那賀川健人が、こんな格好させられて、人に集られて疲れ切ってて、そのせいで若干ハイになってて、おまけに服のサイズ合ってないから焦りに焦ってんだぜ。

 

 笑わなくていつ笑うんだよ。

 

 それにお前その顔、人のこと言えないからな。

 

 

 慰められる訳でもなく笑われる那賀川は、恨みがましげに俺らを軽く睨んだ。

 

 

 

「分かるか二人とも。急に渡されるし、着てみたら全ッ然サイズ合わないし。

戻るときお前に鉢合わせするし、クラスの皆もやばいやばい言うし!」

 

「あーあーはいはい」

 

「大変だったねー」

 

「これクラス予算の3分の1もするんだぞ……!」

 

「「えッ」」

 

 

 

 一転、一気に血の気が引いた。楠木さんはバッと裾を離す。ちょっと遠くで気まずそうにしていた徹まで目を丸くする。

 

 だってクラス予算て確か4万くらいで、その3分の1っつったら……。

 

 

 

「めっちゃやべーじゃん……」

 

「とってもやばいじゃん……」

 

「すげーやばいだろ……?」

 

 

 

 そりゃー焦るわ。

 8組、執事・那賀川健人のツラに賭けすぎだろ。

 

 その証拠に、8組の女子たちがクラスから顔を覗かせる。そいつらと話してたらしい百合も、ついでに。

 

 

 

「ちょっと、健人くん!?話してないで宣伝行ってきてよ!!」

 

「そーだよ!!看板持ってるよね?」

 

「健人くーん、行ってらっしゃーい」

 

「あ、ああうん、行ってくるよ……」

 

「「行って参ります、お嬢様!!!!!」」

 

「イッテマイリマス、オジョーサマ……」

 

 

 

 やべー剣幕で叫ぶ女子たち。作り笑いで繰り返す那賀川。

 なんかさすがに可哀想になってきた。

 

 腹をくくったらしい那賀川は、端に置いていた看板を手に取る。そこいらを歩いて客集めらしい。

 

 

 

「ま、頑張れよ。後で行くわ」

 

「ふふ、サービスしてね」

 

「はーい善処しまーす。…………あー、いや?」

 

 

 

 手を振って背を向けたはずの那賀川が、ふと振り返った。

 

 前髪をすっと払って、目元を緩める。口元が弧を描く。

 

 

 

「お待ちしております。お嬢様?」

 

 

 

 胸に手を置いてうやうやしくお辞儀。コイツじゃなきゃ許されないだろう仕草に、一瞬廊下が静まり返る。そして耳をつんざく黄色い悲鳴。

 

 足りてない裾を翻し、自慢げな笑顔で那賀川は去っていった。

 

 

 前言撤回。やっっっっぱムカつく。全然可哀想じゃない。結局楽しんでんじゃねぇか。

 

 

 

「楽しそうだね、那賀川くん」

 

「アイツほんっとあーいうとこだよな!」

 

「あっはウケる、なに、嫉妬~?あーあ、健人くんマジバカカッコよかったなぁ~」

 

 

 

 戻ってきた百合に肩をバシバシ叩かれながらバカにされる。

 

 別に嫉妬じゃねーし。それはあっちにいる徹の方だし。今アイツやべー顔してるぞ。

 

 

 

「ふふ、赤坂くんも似たようなものだと思うけどなー」

 

「はぁ~?」

 

 

 

 俺の意思が通じたのか、徹の方へ行った百合。その背をなぜかにんまり見届けて、楠木さんはそう言った。

 ちょっと得意げに細められた目と目が合う。

 

 

 

「振り回されたり、無茶振りされたりすると楽しそうなくせに」

 

「……」

 

「ね?」

 

「……まぁ………」

 

 

 

 クソッ。コイツ、そう言われたら俺がなんも言えねぇの分かってるくせに。

 急に振られた『W.ings』のハモリも、大忙しの午前も、どっちもクソ楽しんでんのバレてんだろ。

 

 死ぬほどダサい返事しか出来なかった俺の顔を見て、楠木さんは余計自慢気に微笑んだ。クラスTシャツの袖を引っ張られる。

 

 

 

「ほら、行こ赤坂くん!明日忙しいんだから遊べるのは今のうちだよ!」

 

「……だから振り回すって?」

 

「そ、赤坂くんが楽しそうだから」

 

 

 

 楠木さんにしては遠回しな、『一緒に楽しもう』の言葉。

 

 返事をするのがシャクで、だけどその心が嬉しくて、俺は引っ張られるまま足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭の終わりは15時半。ちょっと片付けて下校は16時。

 

 日が短くなったとはいえ、久々に明るいうちに家に帰ってきた。

 楽器は全部学校に置きっぱで練習できないからだ。

 

 

 意外なことに、弟が気を効かせて夕飯を作っておいてくれた。名も無き炒め物を食べながら文化祭の自慢。

 

 

 9組のお化け屋敷迷路はアホほど気合入ってて結構怖かった。

 

 急な霧吹きとかハンディファンでひんやりさせてくるし、悲鳴や効果音、BGMのタイミングが気持ち悪いほど完璧。

 

 お化けも『わっ』と出てくるんじゃなくて気が付いたら後ろにいる。お陰でビビった徹にひっぱたかれた。

 

 その上、最後に冷えた手で足首を掴まれる。

 

 流石にビビった。

 アホみたいにデケェ声が出て、後ろ歩いてた楠木さんと百合から俺の叫びの方が怖かったとか言われた。

 

 掴んだ張本人の深瀬に死ぬほど馬鹿にされた。

 

 

 8組の喫茶店も良かったな。ワッフルってあんま食う機会無いし。

 

 ただ丁度那賀川がいないタイミングだった上に、執事効果で混んでてすぐ出なきゃだった。

 明日もぜってぇ行く。なぜなら那賀川にお茶を淹れさせることが出来るからだ。

 

 

 あと10組のカジノ。

 

 丁度シフトに入った楠木さんがディーラーをしてくれたけどまぁ下手。

 

 ハイアンドローだったけど、シャッフルがたどたどしいしすぐ顔に出る。

 対決してた片岡はしめたとばかりに賭けまくり、順調に勝っていた。

 

 が、何とそれが楠木さんの作戦。

 

 「今度は絶対高い数字だよ!」と焦った表情の楠木さんに、片岡は「じゃあローで」と全ベット。

 返したカードはキング。片岡は一転スカンピンになった。

 

 唖然とした俺たちに、楠木さんは「絶対油断してくれるって思ったんだ」なんて笑顔で言い放った。フツーに怖かった。

 

 

 食い物も悪くなかったな。

 

 どーせ甘いのばっかだと思ってたけど、運動部ばかりのⅣクラス系が豚丼だの焼き鳥だの出してて腹にたまるものも食べられる。

 

 でも俺のおすすめは1年生が出してたポップコーン。なぜならクソ安い割に山盛り貰えるから。

 味も塩、キャラメル、カレーの3種類でシェアしやすい。って弟に言っておいた。

 

 

 他にも深瀬のサッカー部親善試合見たり、科学部でスライム貰ったり、先生の出し物見たり、ビンゴ大会出たり。

 

 

 やっぱ高校の文化祭ってサイコー。

 

 本当にこんな世界があるんだ。こんなの体験していいんだ。しかもしかも、明日もある!その上いよいよ発表!

 

 なんて、バカみたいに上がったテンションで帰ってきた。

 

 弟に矢継ぎ早に話しても、飯食い終わっても風呂入っても、帰ってきた母さんに話し直しても、全く落ち着かない。

 

 

 だから俺は、そのノリに任せてシラフでは絶対できないことをした。

 

 

 

『おお?どうした、急に』

 

「……まぁ」

 

 

 

 父さんに、電話を掛けてみた。しかもビデオ付きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ~ん、随分豪華だなぁ……。最近の高校ってのはすげーんだな。

ま、私立なのもあるか!はっはっは感謝しろよお前!』

 

「うん。………んで、明日発表だから」

 

『おう、おう、聞いてる。母さんが撮って見せてくれるとさ』

 

「知ってる。言ってた」

 

 

 

 手持ち無沙汰に弦に指を走らせる。

 多分誰かのだろうギターは、『W.ings』の旋律を父さんの部屋に響かせた。

 

 

『おい、あんま前日に練習するもんじゃねぇぞ。どーせお前はキンチョーすんだからよ』

 

「しないし。それに練習じゃないし」

 

『はぁ~?バカ言え、だから掛けてきたんじゃねえのか。ほら、透はやれるぞ~強いぞ~』

 

「……うるさい」

 

 

 

 相ッ変わらずうぜー。しかも今日は顔つきだから10割増しで憎たらしい。

 

 イラつきを抑えるように首筋に手をやれば、ここ数年あった指をくすぐる感触はなかった。

 

 

『ん……おお、髪切ったのか』

 

「悪いかよ」

 

『いやぁ別にぃ?ははは、イメチェンか、イメチェンだろう!カッコつけてぇ年頃だなぁ!』

 

「……まー、そうなんじゃない?」

 

 

 

 間違ってない。俺は明日ギターを引っ提げ、それはもうめちゃくちゃに、死ぬほどカッコつけに行くのだ。

 

 どーせ父さんは送られてきたそれを見て笑うんだろう。バカにするんだろう。『下手くそ』とか『カッコつけ』とか言って。

 

 知ってる。いつも通りだ。

 

 

 

「……で、……。ね、……父さん?」

 

『あぁ?』

 

「……俺、頑張るよ」

 

『……』

 

「そんだけ。じゃあね」

 

 

 

 だけど、これだけは言いたかった。

 見に来ないけど、バカにするんだろうけど、俺は頑張るんだって。

 

 

 なんか変なこと言われる前に切る。ギターも置いて、部屋を出る。

 

 電気を消す寸前、戸棚の上の写真立てが目に入った。

 

 家族写真、俺と悟の写真、若い母さんと父さんのツーショット。

 それらに埋もれた奥の写真には、俺そっくりな人が友人たちに囲まれて映っている。

 

 

 部分的に明るく染めた髪。上げた前髪。長い後ろ髪。

 若者らしくイケイケでカッコつけて、自信満々な表情に、その髪型はピッタリ似合っていた。

 

 

 俺もこうなりたい、なんて思った小学生の頃。

 引っ越しだなんだと引っ張りまわされて、不安だったあの頃。

 

 でも俺は大きくなった。強くなった。自信を持った。だから、もうガキくさい真似事は必要ない。

 

 

 窓ガラスに映る髪の短い自分に笑いかけ、俺は電気を消した。

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