俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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改行幅を変えてみました。
読みやすくなっていると幸いです。


第48話 日常インタールード  ──Next Up!──

 二学期中間テストきっかり1週間前の放課後。2年5組には十数人の生徒が残って勉強中。

 俺もその一人で、テキトーに声かけた男子連中とワークに向かっていた。

 

 

 ふと小さな歓声が鳴る。

 その後うっすら聞こえてきた『W.ings』の旋律に顔を上げると、隣の徹がシャーペンを置いてスマホをぼーっと見ていた。

 

 なんとなくその様子を眺めていると、徹はどんどんずるずる体勢を崩し、完全にうつぶせになる。

 潰されたコミュ英の教科書のイラストが睨むようにクシャっと歪んだ。

 

 

 

「おい」

 

「…………」

 

「何やってんだよ」

 

「…………」

 

「サボんなよ」

 

「そうだぞ湊、不勉強だぞ」

 

「……はぁ…………」

 

 

 

 次々に飛ぶ声を背中を丸めて跳ね返し、徹はぼーっと呟いた。

 

 

 

「……戻りてぇ〜…………」

 

 

 

 ──んなもん、皆そうだわ。

 

 徹の放り投げたシャーペンがノートに当たって、力なく転がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学受験。

 

 皆が必死に見ないようにしていたその4文字は、文化祭が終わって一気に存在感を増していた。

 

 

 帰ってきた夏休み明けの模試の結果。

 

 受験に向けて『今から始めないとダメだよ~なんなら遅いよ~』と学年主任が喋る謎の講習会。

 

 三者面談日程決めのプリント。

 

 そして何より目下迫る二学期中間テスト。

 

 

 徐々に下がってくる気温と一緒に、俺たちの日常は徐々に冷えていった。

 

 

 あーなんつーかマジ、楽しき日々の終わりってカンジ。

 

 だってもう先生の雰囲気が言ってる。『もう夏休みも文化祭も終わって十分遊んだでしょ?』って目で言ってる。

 

 これからは"高校生活"ってより、"受験勉強 ~高校生らしいイベントを添えて~"って生活になる。クッソ笑えねえ。マジやってらんねー。

 

 

 そりゃあ1週間前に戻りたくもなる。

 中間の自主勉用にって渡されたプリントの『(〇〇大)201X』って文字を見たら、余計に。

 

 

 

「……」

 

 

 

 徹の持つ液晶を覗き込むと、楽しそうにステージに立つ4人の学生。

 

 演奏と歌声。客席の皆の歓声と手拍子。全部小さいスピーカーから聞こえてくるけど、あの時全身で浴びたそれとは比べ物にならない。

 

 

 その音に誘われて、俺もスマホを取り出した。真後ろの井ノ上が「あー、赤坂まで」なんて漏らすが知ったこっちゃない。

 

 教科書を押しつぶしてアルバムを開けば、1スクロールじゃ見切れないくらい文化祭の写真が画面いっぱいに広がる。

 

 

 クラス打ち上げの写真。発表終わった後色んなヤツらと撮った写真。友達や親たちが撮ってくれた演奏中の写真と動画。クラスや部活の出し物で遊んだ写真。

 

 全部遠い昔のように思える。

 

 

 サボりが二人になって、止めてた皆も気持ちが揺らいでるのか視線が突き刺さる。

 あと一押しと見たのか、徹がのんびり口を開く。

 

 

 

「そーだ透くんアレの動画ない?科学部のさ、びゃーってモコモコ出てくるやつ。もっかい見たいんだけど」

 

「あー、あの泡みたいなの……無いわ」

 

「……オレ持ってんよ」

 

「あマジ?見してよ」

 

 

 

 はい、若狭も陥落。リュックからスマホが登場。

 

 丸形フラスコからみょーんと泡が飛び出してくる実験の動画を流し、一緒に見ていたちびっ子たちの楽しそうな歓声を鳴らす。

 

 

 

「コレコレ!これおもろかったなぁ」

 

「じゃあこっちは?ほら、手に火ィ着けんの」

 

「はぁ?何言ってんの……あ、うわ、ホントだっ!?っははは!すっげぇ!燃えてる!」

 

「ええマジ」

 

「なにそれ見たい」

 

 

 

 そしてついに全員脱落。皆シャーペンを放り出し、画面の中の若狭が指先を燃やす動画に釘付けになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は休憩と言う名のサボりモード。

 各々カメラロールにLINEにインスタに、スマホの中を漁って思い出話。

 

 この一週間色んなやつと散々話したのに、似たような話題を繰り返した。

 

 

 俺ら以外の発表者の話。

 

 張り切っちゃって膝やった3年の先生の話。

 

 遊びに来てた先生の子供の話。

 

 各出し物の売り上げの話。

 

 

 それから、9組のお化け屋敷の末路。

 

 片付けが面倒で、終わり際に飾りを片端から来場者にプレゼントしてたら学年主任に「面倒くさがるな!!」ってクソ怒られた話。

 別にいいじゃんねそんくらい。

 

 

 なんてやってりゃ、あっという間に話題は枯渇。

 皆は目の前の教科書を見ない為に中学時代の話にまで手を付けた。

 

 

 なんかエグい張り切った委員長が皆着いてきてくれなくてブチギレただとか、合唱コンクールで伴奏と指揮者のペアやってたカップルが本番寸前で別れてゴタツいただとか。

 

 所変われば事情も色々。

 部活以外は比較的平和な中学時代を過ごした俺にとっては信じらんねえ話ばっかりだ。

 

 

 

「……いやマジで大変だったんだって。学校で急にかくれんぼ始まんだよ?」

 

「かくれんぼって」

 

「だからほら、伴奏の女子の方が泣いて逃げ出しちゃってさ、嫌すぎて。そいつと一緒に演奏すんの」

 

「やば」

 

「でほらあるでしょ、女子達が謎に団結して相手を責めるやつ。ガチ怖かったねアレ」

 

「うーわ最悪」

 

「女子そーいうとこあるよね」

 

「まぁでも中学生のオツキアイとかそんなもんだよねぇ」

 

 

 

 井ノ上の恐怖の話に、そう徹はケロッと返す。

 続く「おれも別れんのメンドかったなぁ」の言葉に、話題の中心は徹へ。

 

 

 ──徹の元カノは、暇さえあれば永遠にLINE送ってきて、既読無視すると余計連投してくるヤツ。

 

 ノリでOK出して、惰性で付き合って約3ヶ月。

 百合に「同じ高校行こう」って誘われたからフッたら、徒党組んだ友達たちに休み時間ずっと付きまとわれた……って話。

 

 俺はもう何回か聞いてるし、オチも知ってる。

 

 対処として、

 

 

 

『おれさ、運命の人見つけたんだよ。天使みたいに素敵な子。マジその子好きになっちゃった。

 

ホントごめんね。キミ、おれにはもったいないくらい良い人だったよ。

 

てわけで、ほーんと悪いんだけど、別れてくんない?』

 

 

 

……的な事を繰り返して別れた、ってカンジ。

 

 

 嘘にはちょっとの事実を、とかナントカ言うけど、俺は嘘でも事実でもこんなキショいセリフ言える徹の方が怖い。

 

 実際、話聞いた皆も微妙に引いた顔をしていた。

 

 

 ちなみに、"中3の時に付き合った彼女"ってのは百合には内緒。

 アイツには"不登校なる前に付き合っててずるずる別れられなかった彼女"って話してるらしい。

 

 微々たる差だし、そんなん百合気にしないだろってカンジだけど、『一途感出したいの!』だとか。

 

 ま、恋する男も頑張りますねってカンジ。

 

 

 

「俺のダチも嘘でもそんくらい言えればなぁ……」

 

「あ、あれでしょ。文化祭来なかったアユムくん!」

 

「なにそれ」

 

「中学生のオツキアイの延長がピンチって話」

 

 

 

 話のバトンは俺へ。

 

 スマホをいじって中学の友達たちと撮った写真を見る。俺を中心に蓮也、遼太郎、信久が笑う。歩夢はいない。

 

 理由は最悪。美香と喧嘩したから。

 

 

 

「俺の中学の友達、前から彼女と遊び約束してた日に模試入れたんだって。

ほら、自費で受けるやつ。どうしても受けなくちゃだったらしくて。

 

連絡もギリだったから相手クソ怒ってさ」

 

「あー……」

 

「いやでも模試はしゃーなくない?」

 

「それな」

 

「いや、おれもそう思ったけどさー。その後がヤバかったんよね、透くん」

 

「……言い合いで『大学受けない人に文句言われたくない』っつっちゃったって話」

 

 

 

 徹の前振りに頷き続けると、皆の顔が「うわぁ」と歪んだ。この話聞いた時の俺と楠木さんと同じ顔だ。

 

 

 美香のことだし、どーせギャンギャンうるさく騒いだんだろう。

 んで歩夢もムカついて色々言い返したってとこまでは納得できる。

 『大学受けない人』はさすがに言っちゃダメだろとは思うけど、心象としてはギリ理解できる。

 

 問題は歩夢は謝ってないってこと。

 

 

 

「んで、気まずい彼女と会いたくないから文化祭に来なかったって話」

 

「あーね」

 

「いやゆーて……いや、……うんダセェな」

 

「それはソイツが悪いわ」

 

 

 

 別に俺は歩夢が美香と上手く行こうが別れようがどーでもいい。どっちにしてもおもろいし。

 上手く謝れなーいってへにゃへにゃしてんのも笑える。

 

 じゃあ何が言いたいって、"気まずい"とか言うクソ情けない理由で、行く行く言ってた予定に来なかったそのダサさがマジねーわって話。

 

 俺ぁ悲しいぞ歩夢。友達が知らねぇうちに恋愛沙汰でクソダサい男になってて。

 

 

 

「まぁ受験ですれ違っちゃうのあるあるだよねぇ」

 

「……人生掛かってるもんなぁ」

 

「……ああ」

 

「うん……」

 

「……」

 

 

 

 井ノ上が呟いた『受験』という言葉に、皆テンションが下がっていく。

 やべ、この話すんじゃなかった。微妙に(ぬく)かった空気がグーンと重くなる。

 

 

 俺も含め、全員の視線は徐々に机の上に戻っていく。

 スマホを各々ポケットやリュックの中に仕舞い、放っていたシャーペンを持つ。

 

 

 

「今何時」

 

「四時半」

 

「あと30分か」

 

「……やるかぁ」

 

「そうだな」

 

 

 

 あの気だるさと楽しい雑談の時間はどこへやら、数分もしないうちにシャーペンを走らせる音しか聞こえなくなった。

 

 数Bのワークを解き終わる頃、俺は修学旅行の話をしたいから皆に声を掛けたのを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは……。まぁ、しょうがないよね……」

 

 

 

 暗くなった廊下と冷えた空気の中、楠木さんはハの字眉でしょんぼり笑った。

 手持ち無沙汰に手の古典単語帳を閉じたり開いたりしながら続ける。

 

 

 

「こっちもそんな感じだったよ。ちょこちょこ色んなお話するんだけど、結局受験の話になっちゃうの」

 

「だよなぁ」

 

「やってらんないよねぇ」

 

 

 

 徹のたるそうな声で、3人のため息が揃う。

 

 

 文化祭終わりたての頃は、『次は修学旅行だぜ!』なんてウキウキだったのに。

 

 もう今となってはその先の三者面談と模試と期末テストの方が気になって仕方ない。話す度不安感が高まってく気がする。

 

 

 それでもそんな話を友達たちと繰り返すのは、募る不安感と同じくらい『まぁなんとかなるだろ』という安心感を受け取れるからだった。

 

 あの教育実習の先生が言ってたのって、多分こういうことなんだろう。揃ってため息を付けるような仲間がいるって良いことだ。

 

 

 ちょっと前向きになったため息の余韻が消えると、お互い表情は軽くなっていた。

 

 

 

「あ……そうだ。ね、二人とも二者面だ」

 

「楠木さーん!」

 

 

 

 楠木さんがパッと思い出したように声を上げた瞬間、7組から大きな声が掛かった。

 

 帰りがけの男子5人組だ。何人か見知った顔もあって、数人は俺や徹にも軽く手を振った。

 

 

 

「楠木さんも帰り?」

 

「あ、うん」

 

「そっか」

 

「じゃーまたね」

 

「また明日ー」

 

「うん、また明日」

 

 

 

 楠木さんが手を振ると、まるでアイドルからファンサを貰ったように声を上げ、そいつらは階段を降りて行った。

 

 

 

「な、な?手ぇ振ってくれんじゃん?」

 

「カワイイわ」

 

「アリだよなぁ」

 

 

 

「……なんだありゃ」

 

「うーん、文化祭の日からあんな感じなんだよね。なんでなんだろ?」

 

「………………さぁ?」

 

「ナンデダローネー」

 

 

 

 そりゃあお前、そーいうことだろ。 

 

 本当に何でか分かってなさそうな楠木さんの顔に、心の中でそう突っ込む。

 

 「ちょっと困っちゃうなぁ」じゃなくて。

 だってほら、あの日のお前ってちょっとは、ほら。いつもと全然違ったっつーか。ほら。あれだったじゃん。

 

 なんか言おうとしたけど、ハノ字眉の笑顔にステージの上で向けられた表情が重なって何も出てこない。

 

 

 

「皆!お待たせ!」

 

 

 

 徹の噴き出した笑い声と、職員室から帰ってきた百合の声が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーって知ってっと思ってたもん。今明里ちゃんけっこーモテてんだよ?」

 

「あっそう」

 

 

 

 向かいの自転車置き場にいる楠木さんと百合を眺めながら、徹はニタニタ笑った。最近楠木さんと帰ってなかったから知らねえよ。

 

 徹はロードバイクのハンドルにもたれ、ふらふら揺れながら続ける。

 

 

 

「やー、文化祭の明里ちゃん可愛かったもんねえ。あーいう大変身!した女子って気になっちゃうもんなぁ」

 

「そうだな」

 

「ヤダなぁもうだーいじょうぶだって、多分マジで付き合おうとしてるヤツいないから」

 

「ああはいはい」

 

 

 

 別に楠木さんが誰に好かれてようが可愛い思われてろうがどーでもいいだろうが。

 

 いやまぁ、前の那賀川みたいなヤツと付き合おうとしたらさすがに止めるけど。

 あとオアソビで付き合うようなヤツ。

 テキトーに彼女欲しいからって付き合うヤツ。

 

 つーかそもそも楠木さんそんなヤツ好きになるわけねぇし。だよな楠木さん。

 

 

 そんな思いを込めて、自転車を持って合流した楠木さんの後ろ姿を見つめる。

 

 

 寒くなって着始めたブレザーの赤に黒いポニーテールが揺れている。

 誰かを見つけたのか頭が上を向き、手を振る。

 

 その方を向くと、部活中の那賀川が足を止め、体育館から手を振っていた。

 そのライトに照らされて、楠木さんの楽し気な笑みが浮かぶ。

 

 どことなく心に広がるモヤモヤを振り払うように、俺も那賀川に手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、皆で帰んの超久々!」

 

「ね!」

 

「言うほどじゃね?一週間くらいじゃん」

 

「ま、発表まではずっと練習で一緒だったもんねー」

 

 

 

 四人風を切って坂を駆け下り、町中をしばらく走った頃。

 

 赤信号で止まると、百合はそう言って嬉しそうに振り返った。

 元気な奴だ。全員の顔を見つつ、ニヨニヨ笑っている。

 

 

 

「もう、何?皆疲れてんの?」

 

「そりゃー疲れるよ百合ぃ」

 

「文化祭終わったと思ったらすぐテストだもんね」

 

「はぁ。もう、そんなん考えてもどーにもなんないでしょ?もっと楽しーこと考えんの」

 

「例えば?」

 

「修学旅行に決まってんでしょ!海!水族館!ブルーシール!」

 

 

 

 百合が上げたものに釣られるように、信号が青に変わる。

 ペダルを踏み込み進んでいくと、じわじわ沖縄への期待感が高まった。

 

 うん、いいじゃん沖縄。海。冷えた風じゃなくて温かい風を浴びんの。クソ良くない?

 

 

 

「予約とかルート決めんの大変だったんだからね?楽しまないとマジ許さないから!」

 

「ふふふ、はーい!」

 

 

 元気よく返事した楠木さんに続き、男二人も返事。それに満足したように、百合は完璧な笑みを返した。

 

 

 

「あたしに任しときなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神月駅の改札で徹と百合とは別れ、俺たちは月山線のホームへ。退勤と被って混む時間帯で、お互い声を拾うため自然と距離を詰める。

 

 

 

「ね、あのね」

 

「ん」

 

「さっき言い損ねたんだけど……」

 

 

 

 列に並ぶと、楠木さんは一瞬迷うように黙り、口を開いた。

 

 

 

「赤坂くんさ、二者面談した?」

 

「まだ。明日」

 

「私、今日で……、それで、先生と話したんだけどね。

 

文転しようかなって」

 

「……!」

 

 

 

 文転。理系に進んでた人が文系に転向すること。

 

 制度としては知ってるけど、実際する人は聞いたことなかった。

 ……て、俺は元から文系クラスだから当然か。

 

 

 

「なんで?」

 

「んー……。ほら、栄養士の資格取ろうかなって話したでしょ」

 

「うん」

 

「将来考えたら食品系かなぁって、なんとなく思ってたんだけど。

 

でも先生と相談して色々考えたら、私ってもうちょっと広く生活、文化?ってかんじ?の方が興味あるなって」

 

「あー……なるほどね」

 

 

 すげぇ、知らないうちに楠木さんめっちゃ進路のこと考えてる……。

 

 ひとまずそれに感心しつつ、続く「それなら文系の方が楠木さんのやりたいことに近いんじゃない、って先生が」という言葉を聞く。

 

 その表情を見れば、楠木さんの決意は十分に伝わった。

 

 

 

「ならいーんじゃね?楠木さんなら文系もいけんだろ」

 

「かな。先生も単位は大丈夫だって。

 

……あ、でもね、社会系は勉強結構大変だって」

 

「えぇマジ?」

 

「ほら、AとBで内容違うから」

 

「あーうわ、そうじゃん」

 

「……赤坂くん、教えてくれる?」

 

「全然教える」

 

「やった!」

 

「その代わりお前数学な」

 

「うん!全然教えちゃう!」

 

 

 

 さっき何を言いたかったのかと思えば、そんなこと聞きたかったのか。別にいちいち聞かなくても教えんのに。

 

 

 それでも俺の返事に満足したのか、楠木さんはやる気に満ちた顔ではにかむ。

 ちょっと照れくさいのか、意味なく線路を覗き込んだりしてこっちまで笑ってしまった。

 

 

 しばし沈黙を楽しんでいると、楠木さんは何か思い出したように「あ」と声を上げた。

 

 

 

「何?」

 

「あ、ほら……。文転したらさ、百合ちゃんとは別になっちゃうけど、赤坂くんとか徹くんとは同じクラスになれるかも!」

 

「……あぁ」

 

 

 そりゃ文系クラスになるんだし、当然でしょ。

 

 何当たり前のこと言ってんだ、と返そうとしたとき、楠木さんは俺の方を見た。

 

 ──目が合う。

 

 

 

「来年、同じクラスだといいね」

 

 

 

 同じクラス。

 

 1年の時と同じ。去年・今年と大して気にしていなかった、"楠木さんと同じクラス"という選択肢が、なぜか今魅力的に思えた。

 

 

 

「……だな」

 

 

 

 

 

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