俺らの青春戦略   作:さんかくふらすこ

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7話目です。


第7話 開放感  ──栄養バーとドリンクは仲直りの味──

 50分ぶりにチャイムが鳴った。

 

 

 

「はい終わり。終わりだ、終わりだって!後ろから集めろー」

 

「終わったぁあああ」

 

「お、終わった……」

 

「や、ヤバいヤバい!どーしよー」

 

「やっと遊べる!」

 

「ねぇ今日どこ行く!?」

 

 

 

 弾けたように、絶望と解放が入り交じったため息と歓声が教室中に溢れる。俺は背もたれにガクッと倒れ込んで、大きくため息をついた。

 

 

 

「ヤベぇ……」

 

 

 

 1学期中間テスト最後の教科・数学Ⅰが終わり、歓声の中俺は呟いていた。

 ヤバい。出来てる自信が無い。過去一手応えが無い。笑える。

 

 

 

「笑えねぇよ…」

 

「赤坂くん、どうだった?」

 

「マージでヤバい」

 

 

 

 前に座る男子、相田が話しかけてくる。

 入学当初はあんなにビビってたのに変わったなぁと嬉しく感じる。

 印象と引き換えに今回のテストの点数下がったんじゃないかと思うほどだ。

 

 

 

「まあ確かに難しかったよねー。最悪赤点回避出来れば良いか!」

 

「そうそう」

 

 

 

 口ではそういうのに、によによが隠し切れていない。きっとかなり上手く書けたんだろう。

 そういうもんだ。テストなんて。

 

 

 

「はぁーあ……」

 

 

 

 世界史、現代社会は出来た自信がある。数ⅠA、化学基礎は自信なし。他はまぁまぁ。

 周りの出来次第によるけど、一体順位がどう出るか……。

 

 後ろを振り向くと楠木さんと目が合う。八の字眉毛。俺も似たような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤坂くーん…」

 

「やべぇなあれ、最後とか分かった?」

 

「ぜんっぜん。あれ、どう解くんだろう……」

 

 

 

 帰りのHR前、皆思い思いのグループを作って数Ⅰの出来について話している。

 俺は問題用紙を広げて、楠木さんと答えを確認し合っていた。

 

 

 

「え?待って、これ(オ)?ああぁ、(ウ)にしちゃった……」

 

「いや分かんねぇよ?俺も自信ねぇけど……多分(オ)じゃねぇかなぁ……」

 

「あー、書き直して(オ)にしたんだっけ、どっちだっけ……」

 

「あー、やめやめ!返ってきてから!今考えても無駄!」

 

「ううぅ、それもそっか……」

 

 

 

 二人でふぃー、と息を吐く。ちょうど良い。

 

 

 

「ねぇ楠木さん」

 

「ん、なに?」

 

「テストも終わったしさ、帰る前ちょっと寄ってこーぜ」

 

「え……」

 

 

 

 ちょっと長い沈黙に思わず視線をやる。ちらっとだけ。目が合わないように。

 やる人がやればカワイイ上目遣いでも俺がやればただのガン飛ばしだ。

 

 

 もしかして駄目とか言われるんじゃと心臓をバクバクさせていたけど、楠木さんはいいよ、となんでもない風に言った。

 

 

 

「でも帰る前って、学校で?何するの?」

 

「んー、ちょっと。あ、先生来た」

 

 

 

 問題用紙を突っ返して、自分の席に戻る。

 先生のありがたい言葉を聞く。テストのやり直しをするように、自分の弱点を見返して、うんたらかんたら。

 

 話半分に俺はリュックを抱え、後ろからの視線を気にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何するの?」

 

「まあ着いてこいって」

 

 

 

 人でごった返す廊下を歩いて第2棟に渡る。1階にはこの前行った購買。そこを通り過ぎて、外に出る。

 第2棟の裏に回るように歩けば、外階段の陰に自販機が三つも並んでいる。

 

 

 

「こんなとこあったんだ…!」

 

「結構面白いもん売ってんだぜ?ほら、カロリーメイトとか」

 

「うわっ、ホントだ。ソイジョイもある…初めて見た」

 

 

 

 味もよりどりみどり。

 飲み物面も充実していて、カフェオレ、サイダーとかのオーソドックスな物から、ゼリー飲料やトマトジュースなんてイロモノもある。

 

 俺は既にポケットに突っ込んでスタンバっといた財布を取り出した。

 

 

 

「楠木さんどれ食いてぇ?奢ったげる」

 

「えぇっ!?」

 

 

 

 大袈裟なくらい声を出してびっくりしている。想定通りだけど。

 

 

 

「いや、そんな、悪いよ…」

 

「タダじゃねぇよ?その代わり楠木さん俺の買って?それでいいっしょ?」

 

「あー、……それなら…」

 

「決まり。ほら、さっさと選んで」

 

 

 

 帰宅に騒ぐ声、久しぶりの部活に勤しむ声が聞こえてくる。

 人気のないここからだと、反響して別の世界の事みたいだ。

 

 俺は缶コーラとカロリーメイト、楠木さんはカフェオレとソイジョイを抱えて今度は外階段から第2棟を上っていく。

 

 

 

「ここ、あんまり人来ないんだね」

 

「部活棟が正反対だからなー。この前の散歩中に見つけた。はは、静かで良いっしょ?」

 

「うん……いいね」

 

「なんだよ、そんなきついわけ?」

 

「……うん……」

 

 

 

 4階分登り切る頃には楠木さんはすっかり息を切らしていた。

 息が整うのを待って、手招きをする。

 

 

 

「ほら見ろよ、それなりの景色」

 

「わ……」

 

 

 

 階段の上から一緒に見下ろすと、果てまで広がる町並みに山々、広い空。

 下には第二グラウンドが見え、今野球部がちまちま練習しているのが見えた。

 

 さらに、ぶわーっと爽やかな風が吹いてくる。激しいのに落ち着く風だ。

 

 

 

「ま、夕日だったらもっと良い眺めなんだろうけどさー」

「すごーい……」

 

 

 

 塀に寄りかかって、買って貰った缶コーラを開ける。カシュッという軽い音と共に流し込めば、気分が一気に良くなる。

 

 

 

「外周5回、行くぞ!」

 

 

 

 下から号令が聞こえてくる。指示を出す部長もわらわら行く部員たちも全部見下ろせる。

 

 

 

「はは……あいつらの神様になった気分だな」

 

「なんでそんな発想しちゃうのこの景色で」

 

「いいじゃん」

 

 

 

 楠木さんもくすくす笑いながらカフェオレにストローを刺す。コーヒーの良い匂いが漂ってきて、こっちも飲みたくなってくる。

 

 でも今日は炭酸じゃなきゃ行けない。もう一口ぐいっとあおって、口を開く。

 

 

 

「ねぇ、楠木さん」

 

「……なに?」

 

「最近どうかした?」

 

「……」

 

「何か変でしょ、最近っつーか、ここ一ヶ月?」

 

「……うん」

 

「何で?」

 

 

 

 しばらく部活の声援と吹奏楽の音だけが二人の間を抜ける。コーラに口をつけようとしたとき、楠木さんがようやく口を開いた。

 

 

 

「……ゴールデンウィークの時」

 

「うん」

 

「赤坂くん、河上くんと立花くんと一緒にいると、すごい楽しそうだったから」

 

 

 

 河上は遼太郎、立花は蓮也の事だ。缶の中のコーラをくるっと回して、先を促す。

 

 

 

「それで?」

 

「……私といるときと全然違って、本当に楽しそうで……。

 

赤坂くん、楽しくないのは嫌って言ってたでしょ。だから、私といるときは、つまんないって思われてたらどうしようかなって……。

 

それで、えっと……不安で……色々考えてた」

 

「ふーん?」

 

「ごめん、めんどくさいよね。カラオケの時そんなこと無いって言われたのに……」

 

「うん、めんどい」

 

 

 

 ああやっぱり、俺と一緒だ。友達の自信が無いんだ。仲良い中学の子たちと離れて二人きりで、不安になってた。

 

 

 

「マジでめんどい」

 

 

 

 コーラを一口。喉を焼くような炭酸で覚悟を決める。

 

 

 

「俺は全然そんなこと思ってないのに、楠木さん気にしすぎ。ホントめんどい」

 

「……」

 

「つまんなかったら一緒にこんなことしねぇって言ったじゃん。

 

遼太郎と蓮也といると楽しそうって、そりゃそうでしょ。あいつら小学校からの付き合いなんだから。

何倍も楠木さんより一緒だったんだから当然だろ」

 

「……うん」

 

「あのさ、もっと自信持ってくんない?遠慮しないでさ。

 

俺はつまんないこと嫌いだぜ?そんな俺が二ヶ月ずっと、昼休みも移動すんのも一緒で、放課後色々誘ったりしてるわけ。

 

……分かるっしょ?」

 

「……うん」

 

「あと、ごめん」

 

「えっ?」

 

 

 

 俯いていた楠木さんが、意外だったのか、顔を上げる。いよいよ恥ずかしくなって、俺は背を向けた。

 

 

 

「言わんくても分かるだろ?ってこーいう話すんの避けてた。

 

……俺も不安だったんだよ。楠木さんは俺と友達で良いのかなーとか、都合良く一緒にいるだけなんじゃーって。

 

……あー、クソ。嫌いなんだよ、このテの話。めんどくてさ。相手のこと疑ってるみたいで」

 

「………。うん、確かに、そうだね」

 

 

 

 楠木さんの顔は見えない。それでも俺の方をじっと見ているのは分かった。

 

 

 

「まーその、えっと」

 

 

 

 意を決して振り返る。夕日というより西日な、強い強い日の光が、楠木さんの目で光る。

 

 ──目を合わせる。

 

 

 

「でも俺、楠木さんといて面白い。ダチで良かったと思ってる。

……から、えっと、……。…だから!…これからもよろしく。楠木さん」

 

 

 

 声がうわずった。最後に詰まった。楠木さんの目が揺れている。しっかり俺を見据えて。

 

 

 そうだ。これでいい。

 遼太郎たちと違うのは当たり前だ。楠木さんは楠木さんで、最近出来たばっかりの高校の友達。

 

 これからもっともっと仲良くなれる人だ。イライラしたって、すれ違ったっていいじゃないか。

 

 これこそ青春ってやつなんだから。

 

 

 俺と見つめ合った楠木さんは一度噛みしめるように深呼吸をした。そしてゆっくりうなずいた。

 

 

 

「ありがとう。私もそう思う」

 

 

 

 真っ黒い髪が日に透けて明るく輝く。その時の笑顔は今まで一番と思えるほど晴れやかで、明るかった。

 

 

 

「こちらこそ、これからもよろしくね、赤坂くん!」

 

 

 

 今度は俺が差し出された手を取る。西日が眩しくて顔を逸らした。

 

 ……あぁ、クソ。この笑顔が見れたなら、こんな小っ恥ずかしい事を言っても良かったと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、じゃあこの話終わり!菓子食おうぜ」

 

「…ふふ、照れ隠し?」

 

「はぁ?言うね、早速遠慮無くしてくんじゃん」

 

「図星?」

 

「うるせぇ」

 

「えへへ、そうなんだ」

 

 

 

 ずいっと距離を縮めてにやにや笑う楠木さん。さっきまでの沈痛な面持ちと、晴れやかな笑顔とは大違いだ。俺は押されて角隅に逃げ腰だ。

 

 

 

「遠慮すんなってそーいう意味じゃねーんだけどなー?」

 

「だって、嬉しかったから。……こうやってからかうのも楽しいね」

 

 

 

 しおらしくしたと思えば、片眉を上げて、今まで見たこと無い得意げな表情をする。

 

 

 

「なんだよ急に調子に乗りやがって」

 

「こーいう方が面白いでしょ!」

 

「ふーん?そっちがその気ならこうしてやる」

 

「え?痛ぁっ」

 

 

 

 やべっ。デコピンが上手く当たりすぎて結構な音がした。

 

 

 

「ちょっと、酷い!」

 

「はっ、やれるもんならやり返して見ろよ!」

 

 

 

 カロリーメイトを食べつつ、狭い踊り場をぐるぐる。楠木さんから逃げ回る。

 怒った顔はすぐに消えて、口元には笑みが浮かんでいた。

 

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