異世界結婚相談所!! ファンタジーにおける婚活アドバイザーは、婚活問題児たちを成婚退会させられるのか?(異世界にも結婚出来ない30代40代はいっぱいいるよ!!) 作:きしめん協会プレミアム会員(嘘)
「こちらに入会したいのですが…」
深海系のマーメイド『アビスメイド*1』のボタンさんは、実年齢こそ120歳でしたが、ヒューマン換算年齢にすれば31歳。
容姿も美しく、お相手への要求もそれ程高くなく謙虚でした。
美人はストレスなく生きているから真っ直ぐに育ちやすいので性格は良くても、無自覚な自信というか、選べる側特有のごく自然な要求の高さというものを持ちやすいので、私としては違和感がありました。
これは厄ネタかもしれませんね。
「ボタンさん、背負っている事情があればお話してくれませんか?」
何の事情もなければ、速攻で御成婚となりそうです。
面食いなところがあるコボタさんあたりは、すぐにでも申し込みしそうですね。
ボタンさんには選ばれないでしょうが。
「私…村の生贄だったんです」
明らかな厄ネタでしたが、僅かに興味が勝ちました。
話を聞いていると、かなりの辺境からこのハイスペーリアにやって来た様です。
アビスメイド達が地上で暮らす村から。
そしてその資金はその村が出してくれたという。
生贄が死なず、挙げ句にお金まで貰える事に違和感しか無かったのですが、聞いた内容は私の想像を超えていました。
「私のいた村では、呼び寄せた男性から全ての幸運を吸い取って、代わりに全ての不幸を押し付けます」
それだと、不幸続きによる違和感と不快感で逃げられてしまいませんか?
「ええ、ですので生贄が必要なのです」
既に男性は生贄の様な気もしますが。
貴方こそが生贄というからには、違うのでしょうね。
「はい。男性が不幸死するまでの間、繋ぎ止める為に、私は毎回好きでもない男性の恋人になる役を強制されていました。村の為に毎回愛していない男性に抱かれないといけない生贄です」
ある意味被害者かもしれませんが、これはどうなのでしょう。
バツ1バツ2とか再婚者は不人気になりやすいですから。
結婚詐欺や美人局の経験者も人気は出にくいですし。
「死んだ男性達は、私のために私達の不幸を背負って貰う事は了承を得た上での話でした」
今まで大した成功経験もない非モテ男性が舞い上がってしまった訳ですね。
そしてそんな非モテ男性に毎回抱かれる役目を持つ貴方は生贄であると。
「そういうことになります。
でも、私ももう120歳。
これ以上人生を台無しにされたくありませんと言うと、村では散々『
ですが村はこれまでの謝礼を渡して、この相談所の事を教えて私を放流したのです」
…気になることがあります。
「なんでしょうか?」
蠱惑的に聞いてくるボタンさんに、私は正直に言いました。
貴方の村は、当相談所から
「それはありません。信じてください」
真剣さが伝わるので、嘘では無いのでしょう。
「運値が高まり、村の井戸が割れて深淵へ繋がる通路が出来たのです。これで、運を吸い取る事をしなくてもあの村は存続出来るのです」
事情はいまいち分かりませんが、それはその村特有の問題が解決したという事なのでしょう。
村で娼婦役を押し付けられた貴方を引き取る者はおらず、手切れ金を渡され、村との関係は切れて、貴方は結婚相手を探しているといつ結論で良いですね?
「はい」
村との関係が切れていなかった場合や、お相手が出来た後から村と再接触して、当相談所から紹介した男性が
ところでボタンさんの村ですが、他人に幸運を捧げさせて、不幸を押し付けるなんてやり方に馴染んでしまったら、目的を達成した後も簡単にはやめられないと思うんですよ。
「そうですね。もしかしたら他の身寄りがない若い娘が新たな生贄に選ばれるかも知れませんね。恐らく私の妹になるでしょうが」
なるほど…。
妹さんを連れて出なかったのではなく、連れて行けなかったのですね。
村は今は要らないとはいえ、必要になった時の為の生贄候補を手放すまではしなかったということですか。
逃げ出した生贄の代わりはその身内というのは、理に適っています。
貴方に渡された資金には、妹さんの料金も含まれているのでしょう。
もしかすると元々若い生贄に乗り換える予定があって、貴方が生贄をやめたいと言う様に仕向けたのかもしれませんね。
そして姉が逃げた責任を妹に押し付ける。
私が村の意思決定者ならそうしますし、心当たりはありませんか?
「そう言われれば、最近この歳まで生贄にされたら嫁の貰い手も見つからなくなると同情して下さる方が多かったようにも思います。あれはもしかして…」
さあ、そればかりは分かりませんね。
でも、村に戻るつもりも無いのでしょう?
「────はい」
なら、良いではありませんか。
確認していないことは無いのも同じ。
妹さんは幸せに生きている“かも”しれません。
貴方が確認せずにそう信じている間“だけ”は貴方の中での
姉が逃げて妹に責任を押し付けたと、恨みの矛先を曲げる為に村が一丸となって妹さんに教育していけば、妹さんの中での
私なら妹さんに聞こえる様に、聞かせるつもりのない井戸端会議のていで近くでお話しますね。
可哀想な妹さん。姉に全てを押し付けられてしまって…みたいに。
…あら、どうされました?
登録はまだ済んでいませんが、立ち上がって何処へ行かれるのですか?
「妹のところへ」
随分と覇気のあるお顔になりましたね。
それでも、手遅れだと思いますよ。
姉に捨てられたと教育された妹さんに拒絶されるはずです。
そうでないにしても、妹さんに貴方を拒絶させる方法は幾らでもあります。
妹さんがいなくなったら、他の方やボタンさん自身へ矛先が向かう様に言い含めるとか…。
「それでも私は行きます。
本日はありがとうございました」
残念ですね。
会員登録ならずでした。
「あそこまで徹底的にやっていれば露悪趣味としか言えないわね」
ああ、ベルも聞いていましたか。
「聞こえる様にしておいて何をいうのかしら。ブチプロポーズさせるわよ」
ブチプロポーズとはいったい………いえ、聞くつもりはないので説明は結構です。
「で、どうするのかしら」
さあ、どうでしょう。
ボタンさんの村がそうとは限りませんが、アビスメイドは邪神信仰の噂を聞く種族ですよね。
クォンカーツ正教の東方支部長には、色々とお願いしておこうと思います。
「メグミ・アライアにか。
あの水精に借りを作るとどうなっても知らないからな」
誰に借りを作っても問題になるのなら、貸しにも出来る相手にお話するべきかと。
例の邪神信仰でしたら、実際の邪神の正体はメグミと敵対する水精の集合体でしょうし、政敵の落ち度は興味なさそうにしながら全力で集めるのが彼女ですよ。
「センセーショナルに取り上げて、クルゥトル派一掃の機会としたいあの女の本性が透けて見える」
ベルはルビィとは犬猿の仲ですが、メグミとは喧嘩もしたくないというのが伝わってきます。
正面から敵対してくる相手の方が好ましいのでしょう。
メグミには、自分は嫌っていないのに相手に一方的に邪険にされてしまいました〜、と吹聴するところがありますから。
数ヶ月後、メグミから『旦那様の為に私が“全て”解決しました』というお手紙が届きました。
凄く綺麗な字ですが、揮発性の惚れ薬が光製インクに染み込まされていた事だけは問題でしたね。
まあ私には効かないのですが。
その後、ボタンさんも来ましたよ。
以前より明るくなった気もします。
後悔や同情も吹っ切れたのでしょう。
どちらかというとボタンさんタイプの方は自己肯定感が低い時期の方が、御成婚しやすいのですがまあ良いでしょう。
数十人不幸死させた分だけ、未来のお相手と幸せになって下さいね。
底スペ下級種族が理不尽に死ぬのはこの世界の日常。
それらを幾ら不幸にしても、家畜や野菜を食い殺す事に罪悪感はありますか? という世界観。
とはいえ、低ステータスの男性から見ると、そういった事に加担する女性の印象はすこぶる悪い。