うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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『88話』 ロケット団繁盛記 命の結末

 

【─────あいつは……まだ、なんとか息があるようだ。

 ……未だ、予断を許さない状況であるようだがな】

 

 

ミュウツーが発したその言葉を聴き、自分達の主がまだ生きている事を知り

ダグONE以外の面子からは安堵の声が一旦聞こえる。

ドレディアに至ってはへなへなと座り込んでしまった。

 

 

【全員、安心するのはまだ早いぞ。

 どうやら奇跡か何かで、ミュウが何とか「繋いでくれた」ようだが……】

「……ミュウが、か? そういえば先に向かったはずなのに居ないようだが……」

【ミュウはおそらく我等用のポケモンセンターに担ぎこまれているのだろう。

 ……そうだな? そこのダグトリオの片割れよ】

 

ミュウツーが尋ねると、その内容を知っているダグONEは静かにうなずく。

彼はその経緯を全て、この病院で見ていたのだ。

 

【……まぁ、私よりも説明に適した者がこちらに来たようだな。

 私よりちゃんとした説明が出来るアレに聞いてみるが良い】

 

そういってミュウツーが顔を動かした先から、小走りでこちらに来ている人が見えた。

最初にタツヤの惨状を発見し、応急処置をしたあの職員である。

その姿をダグONEが確認し、最上級の敬礼を持って職員を出迎える。

サカキが団体を代表して、職員との対話を開始した。

 

「お騒がせして申し訳ありません。

 先程、こちらから私達の関係者が瀕死で運び込まれたとご連絡を受けまして……」

「あ、やっぱり貴方達があの子の関係者だったんですね。

 一旦こちらへお越し頂けますでしょうか、彼の容態をご説明させて下さい」

「わかりました。今……少しだけ状況を聞いたのですが、血液のほうはもう……?」

「聞いた、とは……誰に……? ええ……そうです、ね。

 念のために1人だけ同じ血液型の人に残って頂いてもよろしいですか?」

「わかりました。では君にお願いしたい。

 他の者は一旦地下施設の方へ戻ってくれ、仔細は帰り次第私から伝える」

『了解しました』

 

 

そして、サカキは会社から連れて来た社員の大部分と別れ

一同は職員に連れられ、とある部屋へと入っていった。

 

 

「えーと、ではまず手術開始からの説明でよろしいでしょうか?」

「わかりました。お願いします」

 

全員が位置に付き、職員の説明に耳を傾ける。

 

「とりあえず手術の結果に関しては、成功で大丈夫だと思います。

 ただ、あくまでも延命が成功したといった形でしかないのですが……」

「……どういう、事でしょうか」

 

一部分を強調する職員に疑問を投げかけるサカキ。

 

「順を追って説明しますね。まず私が弾頭様へ電話連絡を終えた後なんですが……

 突然こちらのディグダの横に、ピンク色のポケモンが現れたんです」

「それは私達と関係のあるミュウという子ですね。それで?」

「はい、その子は現れるなり突然手術室へ飛んでいってしまいまして。

 中に入ってしまったと思ったら、手術室が光り輝きまして……」

「ひ、光り輝く……?」

 

何故、ミュウが突撃して部屋が発光するのか。全員がその理由を予想出来ない。

 

「ここからは私達の予測でしかないのですが……

 その子は、おそらく【いやしのねがい】を発動させたのではないかと思われます」

「……? いや、ちょっと待ってください。確かその技や【ねがいごと】等は

 人間に使っても影響が出る事は無い、とポケモン学士達が既に証明をしていたはずでは?」

「ええ……なので予測なんです。私達もみんなその事は知っているはずですから。

 でも光り輝いた後の状況は、そのピンクの子が気絶していて……

 あの子の傷が全て治癒していたんです……やけども、打撲も、手術跡も……全部」

「……何が、起きたんだろうか……?」

 

証明された事すら覆す出来事。

おそらくは今すぐ死にそうな友のための限界突破とサカキは判断する。

 

【ふむ、まあ納得出来ない事も無いな】

「ッ?! え、貴方……喋っ─────」

【今はそんな事はどうでも良い。しかし妙だな……。

 私が覚えている限り、ミュウは『いやしのねがい』なんぞというのは使えなかったはずだが】

「では、それはいやしのねがいではないと?」

【いや、そこの人間が言う通り……おそらくはそれで間違いあるまい。

 アイツの周りはいつも何かしら不思議な事が付き纏うと聞いているからな】

「む……、それは聞いた事が無いな。どう言う事だ?」

【今回、ミュウがアイツと合流したのはタマムシデパートなのだが……

 一体どういう原理を使ったのかは全く分からないが

 そこのドレディアが言うには、清算レジで釣竿を使ってミュウを釣り上げたらしいぞ】

「すまない、もう一度言ってもらえるか? 意味が全く分からない」

【同じ事は二度も言わん。ともあれアイツの周りは何かしら異常だと言う事だ。

 ミュウもアイツのために、自分の中に眠る可能性からそれを引き当てて

 あの場面で技として使う事が出来た、といったところだろうな】

「ポケモンとはそんな事が可能なのか……!」

【違う、あくまで特例だ。私自身『やれ』と言われてもそんな事は出来んからな】

 

職員が呆然としている中、サカキとミュウツーの対話は進んでいった。

現状納得出来る理屈が存在しないため、何を言っても筋が通っているように聴こえる。

 

 

「え、えーと……それで、なんですが。

 そういう経緯があって、傷の手当てとかは完了しているんです。

 ……しているんですが、それでも────延命でしかないんです」

「…………お願いします」

 

言い淀む職員に、サカキは続きを促す。

此処から先が一番重要な内容なのだろう。

 

 

「まず……あの子が運び込まれた時点で、あの子の体からは大量の血液が失われていました。

 急いで輸血と傷の縫合をしたところまではよかったのですが……

 けど、その間にも心臓が2回ほど停止しています」

「…………。」

「そして体から血液が失われた上で、さらに心臓も一時とはいえ動いていなかった。

 医学的に考える限り、あの子の状況であれば脳に深刻な影響が出ているはずです」

「……確か、血液が酸素を体中に運んでいる、でしたか?」

 

うろ覚えでしかないが、そのような記述をどこかで見たことがあるサカキは

職員にその部分を尋ねてみる。そしてどうやらそれは間違ってはいないらしい。

 

「はい、脳は少しの間でも酸素が行き渡っていないとダメージを負います。

 そしてそのダメージはとても回復しにくいモノなのです」

「具体的には……?」

「おそらく、良くて体全体に障害……ですね。悪くて植物人間、最悪はそこから衰弱死───」

 

 

【─────嘘だッ!!】

 

 

突然ドレディアが腰掛けていた椅子から立ち上がり職員に詰め寄って服を掴みながら、叫ぶ。

 

 

【嘘だとッ……嘘だと言ってくださいッ……!! そんな……そんな事ってッ……!】

「……何を言っているのかはわからないけれど、貴方が伝えたい内容は予想が付くわ。

 ごめんなさい、今言った事は全部事実なのよ……。

 現に今も、あの子は目覚める素振りを一向に見せていないの……」

【そんな……そんな……】

 

受け入れ難いその事実に、ドレディアは職員の服から崩れ落ちて行く。

 

命が助かっただけでも儲けモノという状況だった。

それを頭に入れていても、やはり全員納得出来ない。

 

あまりに重い事実に、普段から冷静であるミュウツーですら顔に影が入り

一同と一緒に、気持ちが沈んでいる様子が伺える。

 

「…………職員さん、必要な手続きを、お願いします」

「───わかりました。」

「君達は、ドレディアを頼む……」

「…………ホァ。」

「…………。(コク」

「…………。(コクリ」

【こちらは任せておけ。お前は手続きとやらに行ってこい】

「あぁ、少し席を外すよ」

 

そうして、部屋からサカキ達が出て行きミュウツーとタツヤのポケモンだけが残される。

 

【……お前等は、これからどうするのだ?】

【どうする、と言われても……どうすれば良いのか……】

【…………。】

 

ミュウツーにこれからの指針を問われ、タツヤの手持ち達は言葉に詰まる。

 

暫く長く続いた沈黙の後、ミュウツーは呟く様に思念を飛ばした。

 

【───世の中、こんなものだ】

【……ッ!! 何もッッ、何もあの人の事を知らない癖にッ!!】

【なら貴様は一体何を知っているッ!! 一体何を知っていたッ!?

 この世の何を知っていたのだッッ!! ───答えろッ、ドレディアッッ!!】

【─────!】

 

ミュウツーに掴みかかり、逆に説教を受けてしまうドレディア。

タツヤに出会うまで、研究所という小さい世界にしか居なかった彼女には

未だ、この世界の理不尽全てを知り尽くすには至らない。

 

【もう一度言う……こんなものなのだ。                         (あの女が良い例だ。)

 良い奴と言われている奴ほど苦渋を飲み、抹殺され消えて行く。

 この世で生き残るのは狡賢(ずるがしこ)い、仲間すら陥れる事が出来る奴だ。

 今回も、その一例にしか過ぎないのだ……生きているだけ、まだマシなのだ。

 それを認めねば、二度と立ち上がれんぞ……】

【…………。】

【ドレディアちゃん……。】

【【姐御……。】】

 

静かな静寂が部屋を支配する。

その静寂は、無残な世の中を表しているようにすら思える。

 

 

 

【どうして……どう、して……こんな事に……

 主様…………、主様ぁぁァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!】

 

 

 

声を張り上げ叫ぶ、主への呼びかけは。

 

 

 

まだ、彼には届かない。

 

 

 





これ以後、前に連載していた時と同じく
にじファン時代に保存しておいたページから文章を引っ張り出していきます。

故に当時存在していたカラカラとガラガラが
どこかしらに混ざったまま掲載されるかもしれませんが
念入りにチェックしながら改稿していきますので
メッセージか何かで、ご一報願います。


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