まぁ、そんなわけで……一連の挿絵は御楽しみ頂けたでしょうか。
あれをどうしてもはずしたくないが故に、主人公殺しというENDまで引っ張り上げた訳です。
ただの個人のワガママですが、あれは付け合せたかったんだ。
なんとも言えない昨日の大騒ぎ。
蓋を開けてみれば病状悪化ではなくむしろ回復の兆し。
加えて有り得ないような症状の回復、そして回復した後のタツヤの行動……。
ある意味では、全てがタツヤらしいといえばタツヤらしかった訳だが……。
そうして、今日もタマムシで彼らの一日は始まる。
◇
AM11:00頃。
ドレディアはいつものように清掃のボランティア活動を終え、病院のタツヤの個室へ足を運んでいた。
その足取りは昨日とは打って変わって、軽やかである。
共に行動するドレディアの舎弟達も、この変化には気付いており
彼等も一緒に心配していたタツヤの容態に、何か良い事があったのだろうと気付いていた。
2ヶ月も続いた彼女達の悪夢が、晴れるかもしれないと期待も寄せているのだ。
彼女はいつも通りにタツヤの部屋へと向かう。
本来であればこの足取りもそこまで軽いものではなかったが
回復の兆しが見える、と医者に言われてしまえば
医学なんぞ何も知らない彼女からすれば、ひたすらに希望が湧いてくる言葉だ。
昨日あの件で一緒だった看護士と顔をあわせ、挨拶をして部屋に向かった。
「先生もああ言っていたしね、きっと、回復してくれるわよ。
いつかはわからないけど……笑顔で迎えられるように、構えてあげておきましょうね」
「ディァッ」
「それじゃ……私はこっちだから」
「ドレディ~」
互いに手を振り、お別れをする。
その会話でもあった通りに、どうしても期待してしまう自分が居る。
顔をにやけながら、頭の中ではどうやって迎えてあげようかなと思い───
そのせいで目の前に気を使えていなかったのか
トスン
軽くではあるが、誰かにぶつかってしまったようだ。
「っととと……すみません」
「ァィ」
この病院に来ている彼女としても、いつもどんよりしながら歩いていたため
他からすれば
互いに軽く挨拶をして、深く突っ込まないのがいつもの事だった。
良く見てみれば、廊下に差し込む外の日差しも明るいものであり
そんな事も、昨日までは一切気にせず……いや、気付けなかった。
全てが変わっているような、と錯覚するぐらいに良い日である。
今日から、きっと何かが変わって行くに違いない……何故だかそう思ってしまった。
そしてドレディアは彼の病室へ到着し、いつも通り扉を静かに開ける。
「ディーァ~」
どうせ聞こえては居ないのだが、部屋に入って挨拶をする。
これもまた、いつも通りのことであり……部屋に入っても声が返ってこないのも毎日の事だ。
毎日の定例を終え、頭の中ではいつ自分の主が目覚めても良いように
色々とパターンを構築しながら、出迎えの準備をしていた。
そしてこれまたいつも通りに、彼女の定位置である椅子に着席し
主の顔を見てみると、とても白い顔をしていた。
ていうか、これ枕じゃん。
「──? ───? ????」
まさかの事態にドレディアは思考がストップする。
なんでしょうかこれはどういうことでしょう。
主様の顔が白くてでも枕で、主様のぬくもりであれ、これはベッドです。
でぃすいずあぺん? ノゥ、あいあむあぼーず。
彼女はとりあえず思うがままに行動───枕を持ち上げ、掛け布団をめくって。
何を思ったか、ベッドを持ち上げてみたりしたのだが……彼の姿は何処にも無い。
ついには横にあった引き出しまで開けてみる。
「 」
えっと、これはどう言う事なのでしょうね?
そう思わざるを得ない状況になってしまった。
私の主様は何処に行ったのか、という発想にはまだ至らず───
「ッ!? ディッ?! ディァー?! アッー!」
───至ったようである。
事態をようやく把握し、ドレディアは慌て始めた。
なんだ、どうしてだ。既に起きている? でも職員さんは何も変哲が無かった。
では緊急手術とか? これはむしろ職員さんが教えてくれるはずだ。
色々な事が頭の中で出ては落ちて行き、最早何がどうなのかもわからない。
その中でとりあえず彼女が出した結論は。
「…………ディァッ!」
私だけではどうにもならないっ!
奇しくも昨日と同じ結論であったのだった。
そんなわけでドレディアはタツヤの病室を飛び出し
ナースコールを押したところで、緊急事態とは言いがたいため
そのまま自分の足で受付へと向かっていったのだった。
◇
AM11:15頃。
ドレディアは院内に設置されているエレベーターを使い、1Fまで降りて受付の方へと走る───
「こらっ! 待ちなさい! 病院内で走っては行けませんッ!」
「ディッ!?」
「ここは体が一部不全な人達が集まる場所なんですからねっ!
そっちが大急ぎで慌ててて、ぶつかりそうになっても
よける事が出来ない人たちが沢山居るの。だから走っちゃ駄目……ね?」
「ディ、ディァ~……」
言われて気付き、反省するドレディア。
初期の頃の人見知りから思えば、おおよそ考え付かない態度の軟化である。
一緒に成長して行った証なのであろう。
軽いお説教を受け、早歩き程度の速度で急いで受付へ向かったドレディア。
そして辿り付いた所で紙とペンを頂戴し、用件を書き足して行く。
基本的にこの世界、ポケモンがそこそこ自由に闊歩しているため
何かしらの第一発見者にポケモンが上げられる事もあり
なおかつ病院だと緊急事態の内容が多いため、すぐさま意思を伝えられるように
ポケモンが書く用やら雑務用の紙が受付に置かれているのである。
「あらドレディアちゃん、こんにちわ♪ どしたの?
珍しいわね、彼の病室に居ないなんて」
「ディッ……! ディァ……」
既に2ヶ月の間で常連客になっているドレディアはその美しい見た目からも相まって
病院の職員、果ては長期入院患者にまで、見た目的な意味で
あくまで見た目的な意味で目映りが良く、皆に姿を覚えられていた。
彼のように意思が伝わらないのをもどかしく感じつつ
ドレディアはなるべく急いで、受付への用件を書き足して行く。
「ディァー!」
「ん、なになに……」
{私の主様が何故か病室に居ません。
どちらに向かわれたかご存知ありませんか}
「……あれ? 貴方のご主人様って……ずっと意識不明で寝たきりのあの子よね?」
「ドレディアー!」
「その子が、居ない?」
「(コクコクコクコク)」
「え……ってことは……起きたッ!?」
「ディーァ!」
この病院、セキュリティが頑強なわけではないが
患者に職員に医者にと合わせ、何かと人の目には付く施設である。
彼がこの病院に担ぎ込まれた経緯は、白と紫が目に映えるえらっそーなポケモンから
一部始終を伝えられているため、誘拐の可能性もあるにはあるが……
人目の多さから考えればそれは考え難い事である。
ならば彼が起き出して、勝手に出歩いていると判断出来る。
「え、ちょ、こういう場合どうすればいいんだっけ……?!」
「ん、どうしたのー?」
「いや、なんかほら、ずっと意識の無い子いるでしょ?」
「あ、あの子ねー」
「なんか病室に居ないらしいのよ」
「はぁっ!?」
そうして受付の内部にも情報が
2ヶ月も眠り続けているのであれば、筋肉の衰えやらなにやらも著しいはずであり
簡単に出歩けるような状態とは思いにくい訳であり
下手すればどこかで倒れて気絶している可能性まであるのだ。
「と、とにかく探しましょう! 一度病室にも戻った方がいいわよね!?」
「そうね、彼を見かけた人がいるかどうかも確認しなきゃならないわ」
「ディッ!」
「じゃあ、私行ってくるわね。ごめんなさい、ちょっとこっちお願い」
そうして受付から一人、職員を借り受ける事となったドレディア。
急いでまたエレベーターホールへと向かい、呼び出したエレベーターの中に入る。
この2ヶ月で手馴れたボタン操作を今日も繰り返し、上へと昇って行くのだった。
◇
ドレディアと職員は、一旦タツヤの部屋へ向かうが……部屋は相変わらずの無人。
「本当に居ないわね……となると、何処に行ったのかしら……?」
「ディァ~……」
手がかりが何一つ無い状況なため、ドレディア達は次の行動に移りづらい。
一体何処に行ってしまったのか。
「あ、そうだ! 病院内に居る可能性が高いなら……
受付で呼び出してみましょうか?」
「ッ! ディ! ディァッ!」
ドレディアは思わず【それだっ!】と指を差してしまう。
ここまで手がかりが無いとなると、最早お手上げなのだ。
「えっと……呼び出しは私一人でも出来るけど
ドレディアちゃんはどうする? ここに残る?」
「ディ~……、ドレディァ!」
声をあげ、病室を出る形で動いていく。
職員もその行動でドレディアの意思を確認し、後ろに続く。
「これで呼び出しても来ないのなら……
誘拐とかも疑って掛かった方が良いかも知れないわね」
「ッ…………」
「ま、まぁきっとそんなこともないから大丈夫よ~♪ すぐにご主人様も現れるわよ♪」
「……ディ~……」
そう励ましてくれる職員ではあるが、ドレディアには不安しか残らない。
今までの自分の主の行動を考えるに
・縛られて放置
・縛られて放置
・縛られて吊るされて半日放置
こんなのばっかりである。
むしろこれで、すぐに出てきてくれるなんて信用が置ける方がどうなのだろう?
しかしそんな信頼度であっても、ドレディアはしっかりと受付に向かう。
やはり、自分の主の事はとても大事らしい。
そうでなければ2ヶ月も通い詰めはしないだろうし、落ち込みもしないだろう。
【……主様を見つけて、早く見つけて、私の……私の……!!】
2人の間には確かな信頼が───
【……ご飯をッッッ!!】
なかった。
◇
AM11:30 1F受付
受付でアナウンスを流してもらうべく、職員とドレディアは2人で受付まで戻って来ていた。
「あ、どうだった? やっぱり居なかった?」
「ええ、この子の言った通りだったわ……一体どこに行ったのかしら」
「ディァー……」
自分達が行った行動を受付に居る職員に伝え、やはりそこで思考はどん詰まりになる。
「こっちにも来た様子はないみたいだけど、どうしたのー?」
「えぇ、もう居場所も不明瞭だしアナウンスしちゃおうって話になって。」
「あぁなるほどねー……それじゃどうする? 私が言おうか? それとも貴方が言う?」
「じゃあ私が言っておこうかしら、ドレディアちゃん彼の所属とかってなんだったかしら?」
「ディーァ」
受付の横からまた紙とペンを取り、カリカリと書いて行く。
その紙を受け取り、病院にアナウンスが響く。
『お知らせ致します。
有限会社弾頭所属のタツヤ様。有限会社弾頭所属のタツヤ様。
いらっしゃいましたら、1F受付までお越しください。』
アナウンスを終え、一息付く職員。
ドレディアが不安そうな顔で見つめてくる
「多分これで来てくれると思うけど……
逆に、これで来なかったら何かしらに巻き込まれてる可能性も……」
「ッ!」
「ああ、大丈夫大丈夫、あくまで可能性だからね?」
「~~~~ッ」
飯の事を思ってなのか、居ても立ってもいられないという様子のドレディアだった。
・
・
・
「……来ないわね」
「…………;;」
「これ、本当に捜索とかお願いした方が良いかしら……?」
「アナウンスでも来ないとなるとちょっとね」
「ディ、ディァ~……」
館内放送を流したにも拘らず、受付に一向に現れる様子が無い。
つまりは、館内に居ない可能性が圧倒的に高まったという事である。
「ちょっと私、皆に不審人物は居なかったか聴いてきてみるわ」
「わかった。じゃあ私はドレディアちゃん連れて彼の会社と警察に行ってみるわ」
「ディァ~;;」
こうして、ついに病院から外へ捜索網を広げる事と相成った。
にじふぁん掲載時と若干文章を変えてます。