あまり必要のなさそうな視点移動と
第三者視点でお話が進行します。
あと改行も多いわ。
「では、両者準備は良いね? 試合……───開始ィィーーーー!!」
ジャッジの掛け声により、祭の試合は開始された。
掛け声と同時に、周りにいる観客は当然のように盛り上がり始める。
さぁ、今回はどんな試合が展開されるか、どんなワクワクが待っているのか。
しかも選手の片方は奇策で勝ち上がったトレーナーで、更には片方も最強のジムリーダーの肝入り。
全員が全員期待しない訳がない好カードだったのは否めなかっただろう。
何故か一方のやる気が非常になかったが、周囲にはそんな事など関係無い。
「では、僕のステージの開幕だ……マニューラ、"まもる"!」
「ニャ、ニャ……」
相変わらず自分のマニューラに何かの異変は起こっているようだが
指示通りには動けているので、ユウジは気にせず試合に集中する事にする。
『おおぉっとォッ!? なんとここでユウジ選手、初手でまもるを選択してきましたッ!!』
『ふむ、マニューラといえば攻撃と素早さが特徴のアタッカーです。
草単体故に弱点が多いドレディアには攻撃の選択がベストの様に感じますが……』
(あぁ、確か『まもみが耐久』だかってやつか、あれ)
ある意味、種族特性の常識をぶち破って指示を出すユウジだが、タツヤには覚えがひとつあった。
マニューラのとくせい『プレッシャー』を用いて、ゲームで言うPPを削って弱体化させるという
『まもみが耐久型マニューラ』という存在である。
「ゲームの方じゃPPって表されてたけどこっちじゃどうなんかねぇ、それ」
『~~~~;; ;; ;;』
未だに怯えているダグ達を後ろに控え、タツヤは顎に手を当てて思案する。
ともあれ、実際のところどう足掻こうがこんな大舞台で勝てると思っていない彼は
ドレディアさんに対し、素直な指示を出してみた。
「ドレディアさん、気にしないでやっちゃっていいよ~」
「─────。」
「…………ん?」
いつもなら気楽に返事をしてくれるドレディアさんだが、今回はこちらに軽く振り向いただけで返事が来なかった。
そこの部分に違和感を感じて、ドレディアさんを見るタツヤだったが……
「ん~~~。なんも変わった様子は無いなぁ……なんの違和感だろう?」
「ホァ~;; ホ、ホァ;;」
「……まぁ、いいや。大怪我さえしなきゃそれでいいわ別に。
終わったらとりあえず屋台回って何かしら食い歩きてぇし……金はまぁ、大丈夫か」
既に負けが確定していると勝手に錯覚しているタツヤは、その場を全く無視して自分のおこづかいの勘定を始めた。
『ユウジ選手のまもる指示に対してタツヤ選手は──…………?
あれ、なにか懐をゴソゴソしてますね……おっと、出てきたのは…………あれ? 財布?』
『…………何をしているんだ、タツヤ君……一応ここ、かなり厳粛な試合の会場なのだが…………』
試合そっちのけで自分がしたい行動をするタツヤにアナウンサーとサカキは頭を悩ませる。
サカキに至っては「あちゃー」とでも言いたげに、額に手を当ててうなだれている。
しかしそこで、試合が少しだけ動いた。
『おぉぉ!? なにやらよくわからない動きをしているタツヤ選手を置いて彼のパートナードレディアが動きましたァッ…………って、あれぇぇぇ…………』
「…………!? なんだ……?! 一体何をやらせる気だ……!?」
アナウンサーが目ざとく試合の変化を見つけるが、それの内容がまた問題だったために言葉が詰まってしまった。
対戦相手のユウジも、対戦では全く見たことがないその動きに疑問を持たざるを得ない。
ドレディアさんは、タツヤを除く会場全員が注視する中で───
ただ ゆっくりと 悠然に 歩をマニューラに進めるだけだった。
ここはポケモンバトルにおいても格式高い『ポケモンリーグ』である。
そんな中で期待されるのは技の応酬にトレーナーの読み、意思による連携、熱い掛け合いである。
なのに、彼女が動くは変化も乏しく歩いて近寄るだけ。
技らしい技もせず、ただ歩いてマニューラに近づいていくだけだった。
そしてその対象であるマニューラは───何故か可哀想になってくるぐらいに涙目になっていた。
"まもる"で絶対の防御を展開しているのに、体がガクガクと震えている。
◇sideマニューラ◇
(こ、こ、こわい、恐い、怖い、コワイ、こワい…………!!)
なんで、どうして、どうなって、なんなの……!?
僕は、ユウジさんにまた場を任されて出てきただけなのに
なんだかこわい、こわくてたまらないドレディアがこっちに歩いてくる……!!
僕がここにいるってことは試合なんだよね?
なのになんであの子はまるで僕を殺さんとばかりにこっちに歩いてくるの?
僕は殺されるの? どうして?
指示通りに"まもる"をしたんだよ? どうして? どうして!?
頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されて前も後ろもわからない。
ただひとつだけわかるのは、目の前にある濃厚な"死"。殺される ころされる コロサレル
(ま、まもってる、ぼくまもってる、だから大丈夫? あれ? ぼくまもれてる? まもれてるよね? あれ?)
◇side out◇
会場内はザワザワしっぱなしである。
それはそうだ、これは試合とは言えないものだ。
ジャッジが試合開始を宣告して既に1分半、その間に行われた行動はマニューラの"まもる"のみ。
そしてドレディアが普通に、ゆらりと歩いてマニューラに向かうだけである。
「何を狙っているのかわからないが……"まもる"は絶対の防御だ、何をしようとしているんだい?」
「んー、まぁ……4万あればなんとかなるか? 祭屋台のモンって基本たけーしなぁ」
トレーナー同士も全く会話がかみ合っていない。
加えてタツヤの発言は呟きに近く、マイクすらその音を拾えていない。
『しょ、初手から悪い意味での驚きの連続ですが……おっと、ついにドレディアがマニューラの前へと……ォォ?』
そんな状況の中、普通に歩いていたドレディアは、その歩行速度に従いマニューラの前へと辿り着く。
正面に立たれたマニューラから彼女を見れば、顔全体に影が差し込み、表情が全く伺えない。
圧倒的な威圧と圧倒的な暴力の予感を用いて迫る彼女に、今にも逃げ出したい想いだった。
目の前に佇む暴力の権化は、少しマニューラの前に立ち止まった後、会場全員が改めて注視する中で───行動に移った。
マニューラに対して、まるで気遣うかの様に二の腕辺りを、ポンポンと軽く叩いた。
その行動だけを見るなら、ドレディアを知る者が見るなら、見た目通りの可憐さも相まって
この会場にはそぐわない、相手を気遣う優しさ溢れる行動だった。
だが、目の前のマニューラはその行動の意味を知った。
声も無い、ただ左右の二の腕をポンポンと叩かれただけだった。
しかし、影からキラリと出た左目から感じる恐怖は本物だったのだ。
あなたはね 何も悪くないのですよ?
ただね あなたが あそこにいるゴミムシのポケモンであることが 不幸だったのです
あれが わたしの ごシュジンサマを侮辱なさったことが 不幸だったのです
あなたは なにも気にしなくていいですからね?
次に逢える時は お互いに笑顔である事を 信じましょう?
マニューラは、彼女の瞳から、その意思が伝わったのだ。
目は口ほどにモノを言う──タツヤと彼のパートナー間で行われる、いつもの事だ。
そして怯え続けるマニューラに、何も知らぬものが見る限り綺麗な笑顔をマニューラに残し
だから 今はね
ごシュジンサマのために シ ネ ───
もはや言葉に表すことすら難しい、自我が崩壊しそうな怒りの意思を叩きつけられ
マニューラは更に体を震わせる事となる、辛うじて"まもる"が発動しているのは流石のバトルベテランポケモンといったところか。
そしてドレディアは、観客全員が見守る中で───
ゆっくりと拳を、そして上半身を後ろに振りかぶり、力を溜める。
『な、なんだァーーー?! なにやら顔見知りの様にマニューラに触れたと思ったら、ドレディア今度は物理的な攻撃をする構えでマニューラと対峙しているぞ!?』
『…………これは、緊急搬送の準備もした方が良いか?』
『は、い、今なんと?』
「ドレディアが物理攻撃だと……? フッ、なんという無駄な育成方針か……。
まぁいい、"まもる"が発動している時点で攻撃は何も効かないんだ、せいぜい無駄にあがいてくれ!」
「だからさっきからなんなんだっつーのお前ら!
ムウマージだけは怯えてねぇみたいだけど何がそんなに……ぉ?」
その謎の行動で、会場のざわめきは最高潮となる。
ドレディアといえば、"はなびらのまい"を代表とした特殊攻撃の強さである。
そんな存在のドレディアが、マニューラに対して、パンチをする構えを取っている。
しかも、その対象であるマニューラは絶賛"まもる"中であり、誰の目から見てもそれは奇異に映る。
それはそうだ、これだけ"まもる"に対して認知する時間がありながら
あのドレディアはその行動をとっているのだ、しかもこれは公式な「大会」である。
タツヤの旅のツレを除くほぼ全員が、この行動に関して理解が追いつかない。
しかしドレディアは
そんなことも気にせず
ただひたすらに、拳を撃つ際に発生させることが出来る力を
腕力を 遠心力を 放つ為の 最適の体勢を 力を貯めながら整えた。
「一体"まもる"に対してなにやってんだあの子は……。
まあ、怪我さえなきゃぁ別に構わんけどなぁ」
自分のトレーナーですら、理解が追いつかないその行動だったが
ついにその全員の疑念は、ここに晴れる事になる。
では 行きますね
しっかりと "まもる"んですよ?
シんでも、シらないですからネ───
マニューラは、最期に見たその瞳から、ドレディアのメッセージを受け取った。
本当に、きっちりと、守らなければ、ポケモンの、僕であろうと、シヌ。
それが完全な錯覚だったとしてもそう思わざるを得ない迫力に
今すぐ逃げ出したかったマニューラは、確かに彼女の意思通りに"まもる"を堅め───
ギ ゥ ン ッ
会場全体に、よくわからない音が響いた。
それは、一撃のために、全力で、準備を整えたドレディアの拳から発せられた
音速を突き破る 音 。
もしもスロー映像が会場に投影されたなら、全員が見ただろう。
本来であるなら、ぶつかったあとに出る衝撃波と思わしきものが
何故かマニューラの"まもる"防御に当たる前から発生したのを。
そしてその拳の威力そのままに、マニューラに突撃した音速の拳は
"まもる"に当たった瞬間に 盛大な 『本物』の 衝撃波が会場を襲った。
ッダァァァァァンッッッ!!
タツヤ、ユウジ、アナウンサー、サカキ、そして観客全員が全く予測出来なかった波動と音は、全員に等しく混乱を与えたのだった。
『…………な、何、が──?』
『……今度は、一体何をやらかしたんだ、ドレディアよ』
「な、なん、だ……? 一体、何がどうなった……!?」
「…………ハハッ、ありえねー。ドレディアさん」
ドレディアはそんな混乱の中で、全力で拳を振り切ったが故の見慣れないポーズで体勢を固めている。
一応、タツヤだけはいつもの彼女に振り回されている分、理解が早かった。
かといってそれを説明するわけでもないため、会場全体は未だざわつきに満ちているが──
──お、おいッ! あそこッ!!
観客の一人が、とある点に気付いて指を差す。
全員がそこに着目すると、バトルフィールドの壁から土煙が上がっていた。
その様子に試合のジャッジもそこへと駆け付ける。
煙が晴れて、漸く見えたその様子に、ある意味予想通りであり、そしてとことんまで常識外な図を見て卒倒仕掛ける。
マニューラが、"まもる"状態のマニューラが、壊れた壁に埋まる様にめり込んでいたのだ。
そして、絶対防御は伊達ではないらしく、めり込んだマニューラに傷らしいものは何一つとして無かった。
そのマニューラは───白目で、さらに涙目で、口から泡を吹いて、完全に──気絶していた。
図を確認したジャッジは、来度起こったこの現象に理解が追いつかず
ルールブックを頭の中で確認している最中、彼の前を横切る者が居た。
その体から想像できない威力でパンチを解き放った、あのドレディアである。
そして、壁にギッチリと埋まったマニューラの足を掴み、こともなげにぐいっと引っ張り出す。
凄まじい膂力故に、マニューラの意識があるならかなりの悲鳴が上がったであろうが───どうやら完全に失神してしまっているらしく、ピクリとも動かなかった。
そのままジャッジを無視して、ざわざわする会場の中でマニューラをズルズル引き摺って行く。
傍目から見ても何が目的かわからないその行動だったが、ユウジを前にして彼女は止まる。
困惑一色のユウジは、自分のマニューラと顔にまだ影が差しているドレディアを見比べて
い、一体何を、と口を開く前に、ドレディアは気絶したマニューラを彼の足元に無造作に置いて場を離れた。
「な、な……お、おいマニューラ! 起きろ! お前無傷だろうが!!
おい起きろ! ダメージ無いのになんで気絶してんだよお前はッッ!!」
気付けにガクガクとマニューラの肩を掴んで頭を揺さぶるユウジだったが
ついに、その会場の中でマニューラが意識を取り戻す事はなかった。
そして試合の裁定が下る───
「ユウジ選手のマニューラ、戦意喪失ッッ!!
よってこの試合、タツヤ選手のドレディアの勝利ッッ!!!」
ジャッジのその声に、しばし遅れて会場の大歓声とアナウンサーの大興奮した声が響き渡る。
タツヤ、公式戦初勝利。一回戦突破。
というわけで、ノーダメージK.Oという訳の分からない現象が発生しました。
ポケモンってなんだっけ?
趣味で書いているためクオリティはお察しください。