うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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17話 修練1

 

 

ディグダとヒンバスを連れ、ポケセンで割り当てられた自室に戻り

のんびりと話しながらすごしていると、頬に飯粒をつけたドレディアさんがご帰宅なされた。

 

「おっすおかえりドレディアさん。

 あの軍人さんとのデートは楽し───チョイサァッ!!」

 

帰宅と同時に速攻で顔面を狙ってきたドレディアさんの拳を、軽やかでもない動きで回避する俺。

 

「ディーッ!! ディアーッ! アーッ!!#」

「るっせーやかましぃわッ誰が殴らせるかぁ!

 知らん人に飯なんてもんでホイホイ付いていくなんぞ貴様どこの女児かっ! あ、女児でしたねっ!!」

「ァァァァァアアアアアアッ!!#」

 

ズットンバッタンドスン ボカッ ドタンバタン。

 

多大な攻防を繰り広げつつ回避に望みそして普通に殴られ、と

繰り返しているうちに我らがイケメンディグダが騒ぎを収めようと

 

スッ

 

「─────。」

 

【主に姐御、いい加減にしていただきた─────。】

 

「チョイャァ!! ディグダガードッ!!」

「ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛!!#」

 

サッ

 

ゴッす。

 

 

 

 

 

あ、手頃な位置にいたもんだからつい盾にしてしまった。

ドレディアさんの破壊掌が顔の中央に完全に入っている。

 

 

ちーん

 

「…………。」

「…………。」

 

あーあ。

 

「ディグダは犠牲になったのだ……。」

「ドレェ……。」

 

 

 

 

・前回までのあらすじ。

 

釣り人Lv100をGET

 

 

そんなわけで、今俺の部屋には釣り人のおっさんLv100が───

 

「グ。」

 

もとい、ヒンバスLv100が居る。

 

「ディァ?#」

 

【おめー私の許可も得ずに面子増やすたぁいい度胸だな】という感じに

睨みつけてくるドレディアさん。

 

「…………グ。」

「ッ!?」

 

おおう、ヒンバスさんそんなこと言うなよ。

【私が邪魔なのであればいつでも去りますので、言ってください】なんて……。

流石のドレディアさんも、そういう肯定には慣れてないのか慌てている。

 

「ディッ!! ディァッ(フルフル) ディァッ!! (ビシッ」

「おいふざけんなっ!! そこで俺に話題転換すんなやっ!!

 なーにが全てはコイツが悪いだァー!!」

 

くっそうコノヤロウもう怒ったぞ!! ドレディアさん対策の必殺を今こそっ!!

 

「でぇーぃ! 出会え出会え!! この財布という名の印籠が目に留まらぬかぁっ!!」

「……。(っへ」

「あれっ!?」

 

ドレディアさんは大げさに両手を中途まで上げ、俺をバカにする仕草をする。

なんということでしょう、効いていません。これには匠も苦笑い。

 

「い、いいんだなっ!! 貴様の飯に賭ける金はこれから1/10にするからなっ!!

 それでも良いんだなっ!! どうなっても知らんぞ!」

「ディ~ア~ッ♪」

 

な、なんだこの余裕はっ!?

何がなんだかわからないっ。一体、どうなってしまうのかー!!

 

そしてドレディアさんはおもむろに紙らしき何かを見せやがる。

 

「ディ~ァ~ディァ~♪」

「……? 電話番号、か? これは」

 

その紙にはなんかぐにゃぐにゃの平仮名で書かれた文字と番号が書かれていた。

 

これが電話番号と過程→どこで手に入れたか

       ↓

今までコノヤロウが居た所はおそらくマチスさんとの食事

      ↓

Heyプリティーフラワーガール!!

お腹減ったらミーのとこ来るがいいネー!!

      ↓

つまりお前に食事制限されてもマチスさんのところ行けば良いもんねー♪

 

ということであろうか。でもこれ……。

 

「確かに電話番号だけど俺宛てみたいだよ?

 【きょうははぐれてしまいましたが、よければこちらにれんらくをください】

 って書かれてるし。これドレディアさんに飯食わすぞーって連絡先ちゃうよ?」

「レっ」

「えっ」

 

何それ。この子こんな勘違いであんな態度取ってたの?

こんな時どういう顔をすればいいかわからないの。

 

「……。(俺」

「………。(草」

「…………。(魚」

 

サッ

あ、コノヤロウしまいやがった。

俺に見せないで自分で確保→欲しけりゃ飯の制限取り消せってか?

……よかろう、中身おっさんの俺を舐めんなよ。

ハーイ良い子のみんなー♪ 追撃殲滅戦の開始だよー♪

適正レベルは62からだよ♪ って、このネタ誰がわかるんだ。ジゼルェ

 

「ドレディアさん」

「ぴ~ぴぴ~♪(口笛」

「その紙さぁ。俺が欲しがってなきゃ意味ないってわかってる?」

「…………ア。」

「俺あの人、良い人なのはわかるけど濃いから逢いたくないし~」

「ァ……ア……!」

「てかぶっちゃけもうこの街出て次の街に行くのもいいよね♪

 この旅ってドレディアさんの修行の旅だし~♪」

「レッ、レレレッ、レレレレレっ」

 

必死に首を振っているドレディアさんである。

そりゃもうこの紙は、この街限定でしか意味を成さないわけで。

つまりはこれからずっと食事制限。

 

「と、言うわけで……この街に居る間はずっとポケモンセンターの食事だけで良いね?

 良いよね? 駄目とか言わないよね? ん? ん?w」

「アーッ!? アッー!! アッー!!」

 

ガチ泣きである。やっべ面白ぇwwww

と、弱みを握っていじめていたら思わぬ横槍が。

 

「ッグ!!」

「おおぅふ!?」

 

いきなりヒンバスに頭の上に乗っかられて、ヒレでべちって額を叩かれた。

そのヒレの感触はとてもしっとりしていて、お肌に優しいソフランCってちゃうわ。

まあ痛くは無いが驚いた。

 

「グー…………。」

「いや、うんまあ……そうなんすけどね?

 普段から殴られたりしてるもんだから意趣返し、と思いまして」

「グッ!!」

 

ベチコーン。

 

「あちゅんっ!? やめてっ!?

 それ痛くないけどなんかヌルッてしてて地味にいやだ!!」

 

俺が嫌がっているのを見てドレディアさんは面白がっているかと思いきや

自分の劣勢をいきなり巻き返してくれたヒンバスに対してものすごい尊敬の目を送っている。

両手を重ねて祈るようにキラキラとした目を俺の頭の上に向ける。

 

べちん。

べちょん。

べちゅん。

 

「ぅおぉぉぉおい!! やめろって言ってんでしょ!!」

「ッグ!!」

「だったら取り消せだとぉ?!

 お前俺の財布がいつもどれだけ悲鳴上げてっかわかってんのかこの新参めー!」

「アァァ……ァアア……!」

 

くそうっ! なんだこの予想だにしない劣勢は!!

ドレディアさんなんてもう尊敬を通り越して願掛けのレベルだ!!

 

「ちくしょう、こうなったら頭から取り外してやるっ!!」

「ッグググググ!!」

「ちょwwwwおまwwwwこんなところでLv100なの発揮しないでwwww

 なんだよその粘着力wwwww」

 

なんだよもう! ムダに高性能だこいつ!! おのれディゲ───……ヒンバスっ!!

 

「グッ!! グッ!!(ぺちんぺちん」

「っだぁーわかったわかった! 譲歩するからそれやめれぇー!!」

 

こんにゃくで尻をぺちんぺちんとして気持ちいいのとは訳がちゃうねんぞ!!

 

「ッグ……」

「わかったわかった……ちゃんと言った事は守るから……

 ったくもー、反省させるつもりが俺が反省させられてんじゃないか」

「ディアーッ!! レディ~ァー!!」

 

俺がヒンバスを頭から取った瞬間、ドレディアさんはヒンバスを奪い取り

あまりの嬉しさにヒンバスを両手で掲げながらクルクル回り始めた。

だがヒンバスもヒンバスで笑顔を浮かべて嬉しそうなため、俺も俺でちょっと突っ込めない。

 

これ、形だけなら絵になるのにこれに至った背景が勘違いによる飯の紛失とか、ね。

台無しだよコノヤロウ。

 

 

 

 

 

 

 

あ、ディグダ起きた?

大丈夫か?

 

【いえ、いいのです……どうせ我は……】ですか。

ごめん、なんか近くにあったから、つい。

 

 

ひとまずはヒンバスとドレディアさんの顔見せも終わった。

関係も険悪なものにならなかったようで一安心である。

 

 

「まあそれはともあれ、今後のこの街での活動についてだが」

「ディァ」

「─────。」

「グ」

 

初日だけで新しい出会いや新しい仲間。

イベントが目白押しすぎて今後がどんどん霞んでいくため

これからの方針をしっかりと打ち立て、方向性を見失わないようにしよう。

 

「まず、また金がなくなってきました。

 主にそこの草の子のせいです。ドゥーユーアンダスターンド?」

「ディ、ディ~ア~?」

 

【何の事でしょうか?】じゃねーよバカ。

 

「ヒンバス、この子毎度こういう感じ。

 俺の怒りは有頂天、もはや財布に余裕は一切にぃ。お分かり?」

「…………グ。」

 

さすがにここまでとは予想していなかったのか

先程まで完全にドレディアさんの味方だったのに対し

俺の方にも同意をよこしてくれるヒンバス。

 

ちなみに現在の残金は3000ちょっとだ。

ディグダへ買ってやった帽子がちょっとね、4000円程度したんよ。

彼普段から食に対してもそこまで執着してないから、金が掛かってない。

のでたまにはという事で、プレゼントしてやったのだ。

 

で、3000円もあるなら余裕あんじゃね? と思った貴方。

ちょっと表へ出ろ。お前らここがなんなのかわかってんのか。

 

ここはゲームじゃない。飲まず食わずで構わん主人公クンとは違うのだよ。

毎日生活費が掛かってんだこっちは。まあぶっちゃけ贅沢費っちゃ贅沢費だが。

それでもドレディアさんが日々を越すための金が1000円程度。

ずばりあと3日、何もしなければそれで俺の財布は早くも終了ですね。

 

「だがまあ、とりあえず猶予としてはあと2日程度はあると考えている。

 俺が弾き語りしても、トキワシティほど人が来ない可能性もあるんだ。

 だからまあ、あくまでも程度だけど2日程度は猶予がある」

「ディ~」

「─────。」

「グ~」

 

現状認識としてリアルな数字を教えておく。

 

「んでなんだが、明日からは戦闘訓練やトレーナ戦で訓練をして行こうかと思っている」

「ディ!?」

 

【やっとか!?】と喜びの声を上げるドレディアさん。

まあ元々貴方はシン兄ちゃんに勝つ事を目的として、俺を旅に引き連れたって感じだからね。

でも最近飯の事に目を捉えすぎて、その目的忘れてねえ?

 

「ただ、ひとつ注意をしておこう。

 ドレディアさん、俺と一緒になってからまともに戦ったのって

 あの森の中での乱戦だけだったよね?」

「ディァ」

 

野生ポケモンは野生ポケモンで、ドレディアさんが

全部威圧オーラで追っ払っちまうから戦った事が無い。だからこそあの1戦しかやっていないのだ。

 

「で、ドレディアさん。

 トレーナーと戦う時は俺がやってた行動とか指示した行動はやっちゃだめだよ?」

 

俺をぶん投げる、とか。

俺がやったみたいに土を口に入れる、とかその辺。

 

「ディ~?」

「何故、って? 俺があそこまで容赦なくやったのは

 あくまでもあいつらが、俺達に対して容赦無く攻撃しそうだったからだよ」

 

俺は一生懸命ドレディアさんが思っているであろう誤解を解いていく。

まともな試合であんなダーティーなことはしちゃいけません。

 

「だからトレーナーと戦う時はあくまでも、ドレディアさんはガチンコ勝負で戦ってくれ。

 ドレディアさんが持つ能力に関しては制限はつけないからね」

「ディァッ!!」

 

うむ、良い返事だ。

 

「次にディグダ。お前はトレーナー戦じゃなく

 訓練のほうに入ってもらう。さすがに睨みつけるだけだと無理」

「ッ……」

「とりあえずはまあ、必殺には程遠いんだろうけどわるあがきよりはマシな攻撃教えっから。

 まず攻撃手段がないと育つ事も出来ないからな」

「ッ!!」

 

了承した!と返事が返ってくる。

 

「で、最後にヒンバス」

「グ。」

「お前のレベルを考えるとこのパーティーだと無双状態になっちゃうんだよな」

「……グ?」

「あ、無双ってのは敵が居ない状態って事。

 ステータスから考えてもお前1匹でここら辺のトレーナーは

 全部倒せちゃいそうなんだよ」

「グ~」

 

さすがにヒンバスといえどLv100。

しかも何気にすてみタックル覚えてるから、ここら辺のレベルだと全部一確っぽい。

つーかでんきタイプのジムのクチバジムまであっさり行っちゃう。

 

「でもそれだとドレディアさんの経験が積まれないんだ。

 んだからヒンバスには、2人の訓練の相手を務めてもらおうと思う」

「グ。(コク」

 

過剰戦力であるのは間違いないわけなのだが

これをパーティーの訓練の模擬戦相手とすればどうか?

素早さは凄まじい位にあったし、さすがにLv15や9に

撃墜されるほど脆いわけもないのである。

 

それに模擬戦の相手が弱かったら、模擬戦の意味が無い。

 

 

俺はコイツを必要とすると言った。

Lv30から40位の子の戦闘訓練にはとても適切な相手と思う。

Lv100なのにその位のレベルの子の相手というのは

可哀想なのかもだが、俺はそうは思わん。

 

 

───元の持ち主に、役目すら無いと見限られたコイツに

俺は出来る限り、活躍の場を与えたい。それは偽善かもしれないし、自己満足かもしれない。

 

 

 

だから、どうした?

偽善結構、自己満足結構。

互いに納得し合えるのならば、それに越した事は無い。

 

 

だからこそ、ヒンバス。

──────これから、よろしく頼むよ。

 

 


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