うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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※前回のフラグは一体何か?
 
ヒント・彼が真剣になったのは作中で一度だけしかありません


27話 船長ェ

船長さんの話を快諾した後、俺はすぐに街中に移動した。

必要になるであろうものの準備のためである。

 

とりあえずの費用という事で、20,000円を借り受けた。

準備にどれほど時間が掛かるかはわからないが、お金のほうはおそらく問題ないだろうと思う。

 

あちらは「とりあえずとはいえ20,000円程度で良いのか」と恐縮していたが

俺の考えが間違っていなければ俺はそもそも歌う事すら無いだろう。

間違っていたら間違っていたで、普通に歌って帰ってきたらいいだけである。

 

さすがに船上パーティーなんてセレブなイメージしかない所に集まる人達だし

俺がそこで歌ったところで何も尾を引くことは無いはずだ。

一番怖いのは一般民衆に謎の褒めちぎりをされてこっぱずかしくなる事だけだからな。

 

 

 

 

そして俺は、クチバの街中から金物屋と靴屋を探し出し

それぞれ『この世界では発想自体が存在しない』モノを注文しておいた。

靴はともあれ、金物に関しては刃物ですらない。

作る人も、使い方がさっぱりわからないだろうからまず問題にはならない。

 

作成には1日は掛かるとの事らしいので、船に上がる前に取りに行く事となった。

 

 

他にも何か使えそうなものはないか、と街中を探していたところ丁度良い物があった。

 

100円ライターである。

 

多分、俺が行く船にもあの設備があるだろう。うまく利用すれば『ヒンバスが凄まじい戦力に成る』。

 

 

 

そんなこんなで弾き語りが終わった後、街中をうろつき

今現在はポケモンセンター、落ち着いて戻って来たところである。

まあ、また途中で歩くのが面倒になったので帰り道はディグダの頭の上に乗ってたが。

 

「……ん?」

 

ポケセンの待合室にはもっさんが居た。バトル帰りだろうか?

……無駄に巻き込むこともないな。もし俺の行く船に乗るというなら話も別だが。

 

「こんにちわ、もっさん」

「……あら? タツヤ君」

「ッキュ~」

 

サンドがこちらに気付いて鳴いて、俺の手持ちの子達も2人に挨拶を返す。

一応声を掛けてあさっての予定を聞いておこう。

 

「今日は東にいなかったみたいだけど、何かやってたの?」

「ええ、お金稼ぎしてました。昨日350円しかなかったので」

「……私に600円も渡してたのは見得だったの?」

「いえ、っと……そういえばおひねり計算すらしてなかったな」

「おひねり?大道芸でもやってたのね」

「ええ、弾き語りです。んしょっと……」

 

 

ドチャッ。

 

 

リュックにしてはやけにヘビー級な音が地面に響く。……そういえば小銭、トキワより凄まじかったな。

音にもっさんが多少(ほう)けている間に俺はリュックから銭袋を取り出した。

待合室の長椅子を使って、全部出した後に札を引き抜いて小銭を並べて行き……

その内容に引き続き呆けているもっさんを尻目に、計算してみたら

 

 

俺は頭を抱えてしまった。これ10歳が稼ぐ金じゃねえだろ。

 

 

「81,450円……」

「あ、はは、はははは……そりゃ600円なんてちっちゃいわね」

 

んもー。この世界ってなんなんだ本当。子供に旅させるわ子供にこんなに金渡すわ。

下手したらこの世界の子供って、下の世話まで経験してんじゃねえのこれ?

 

もっとこう、さぁ。この500円玉も10円とかで十分なのよ。

なんで今回1円とか10円が殆ど見当たらずに100円とか500円に化けてんの?

 

「ま……いいか。明日辺り銀行にでも行って小銭換金してこよう」

 

今はそれどころではないからな、もっさんと話さないと。

 

「もっさんちょっといいかな。あさってって、どっかに行く予定とかあったりする?」

「ん? いや、特には無いわよ?」

「ふむ、特には無し、と……」

 

これで船の中で会う確率は無くなったか。当事者でないならそれに越した事は無い。

 

「……あ!? はは~ん。な~に? お姉さんをデートに誘いたいのー?

 でーも、まだ3歳は早いわよー♪ もうちょっとおおき─────」

 

横でなにやらくねくねしだしたもっさんを放置し

サンドに手でバイバイとやった後、俺達は部屋に戻る。

ドレディアさんがなんかもっさんを可哀想な目で見てたのは気のせいだろうか。

 

 

そして俺らはポケモンセンターの自分の部屋に戻った。

 

あ、ちなみにミュウにはありがとうございました的な賃金を既に渡してお別れしている。

船長に渡された20,000円の余りから、好きそうなお菓子を袋一杯買って手渡しておいた。

【また来るねー★ミ】と言って、可愛らしい妖精はしゅぽんと消えた。

次はいつ逢えるかなー。実際あさっての事考えたら居てもらうのも手だが

さすがに野生でなおかつ幻な子を、人間のドロドロに巻き込むわけにゃ行かん。

 

 

では、会議と行くか。

 

「とりあえず、今日はみんなお疲れ様」

「ディーァ~」

「ッ─────。」

「ッグ」

「本来ならこれからおいしいものでも食べに行きたいところなんだけど……

 他に意見を詰めなきゃならない事が出来た。お祝いはまた今度にしてくれ」

 

ドレディアさんはその言葉にちょっとだけガックリしたが

詰めなきゃならないというところを聞き逃さなかったのだろう、すぐに聞く体勢に入る。

 

「今日はみんな知っての通り、あのおじいちゃんから依頼されて

 2日後に船で俺らの音楽を演奏する事になった、ここまでは良いな?」

『(コクコク)』

「でも俺が危険予想をする限り、音楽を演奏する事すら出来なくなると思ってる」

『!?!?!?』

 

一体どういうことだ、と全員が全員俺に注目する。

 

 

そう、俺はあの船長さんと話している間に見てしまったのだ。あいつらを───

 

「───あのおじいさんと話していた後ろのほうで

 ロケット団がコソコソとやっていたのを見た」

「……ディッ!?」

「ッ─────!?」

 

ヒンバスは直接係わり合いが無いため、この件の重要度がわからないようだが

俺がロケット団とやりあった際に当事者だったドレディアさんと

傍観者だったディグダはどういうことかという顔を向けてくる。

 

「この街は港町なんだ。だからこそあの船長さんもいるわけだけど……

 俺はその船長さんが乗る船にひとつ心当たりがある。

 もちろん違っているかもしれないけど……多分そうだ。

 あの人が乗っている、管理している船は───」

 

そう、ここはクチバシティ。

クチバシティといえば、イナヅマアメリケンのイメージが強いのだが

そもそも彼に会うためには、ある場所へ行ってひでんマシンを貰わなければ成らない。

 

 

「その船は───サントアンヌ号だ」

 

 

ここで元のポケモンをわかっている人ならノってくれるのだろうが

残念ながら今話を聴いている3匹はそのゲーム世界の住人だった。サントアンヌ号なんぞ知るわけもない。

 

「サントアンヌ号ってのは、とっても大きくて豪華な船なんだ。

 んでもって、そんなところで開かれるパーティーが

 俺らが普段やっているような小さい小さいパーティーな訳が無い。

 

 ───十中八九、ロケット団が何かをやらかそうと動いてる」

 

『………………。』

 

 

 

俺の話を真剣に聞いてくれる3匹。

普通であれば「そんなことがあるわけない」と俺の意見を一蹴されて、なおかつ変人扱いされる論だ。

それでも真剣に聞いてくれる。……本当に、俺には過ぎた相棒達だ。

 

 

「ただ、これらはあくまでも俺の予想の最悪の部類でしかない。

 本当にロケット団が動いたら、演奏どころじゃなくなるけど

 何も無ければそれが一番平和でいい。音楽の準備はしておこう」

「ディ」

「ッb」

「グ~」

 

あさってにそのパーティーがあるわけだが、下準備自体は既に全て今日で終わらせてしまった。

一日の余裕があるわけだし……それなら事前準備をした方が良いだろう、な。

 

「あさってに俺の最悪が当たって戦いが始まったら、完全にルール無用の戦いになる。

 明日は一日野戦訓練に時間を回して、隙無く挑めるようにしておこう」

『ディーグーッ───!!!』

 

 

 

 

 

 

そして時間は2日後。船のパーティーの日である。

俺は先日注文しておいた道具と、バトル用に買い集めた道具をリュックに詰め

待ち合わせに指定した場所で船長さんと合流、船の波止場まで案内してもらう。

 

 

 

「ようこそ、タツヤ君。これがわしの船、サントアンヌ号だ」

『…………。』

 

……えーと、なんだ、これ?

ゲームの室内とか部屋の数とか考えた上で、大きさは予想してはいたんだが……

目の前に存在するブツは、それを遥かに上回っていた。

 

 

全長500mはあるぞ、この船。バカでけぇー。

あっちの世界のじいちゃんの船が30隻は乗りそうだ。俺の面子が全員ポカーンとしてる。

 

「ははは、驚いてもらえて何よりだよ」

「こんなもん作る金、一体世界のどこにあるんですか」

「いや、それをわしに言われても……」

 

いや、凄まじい。本当に凄まじい。

誰だよこんなの作ったの。お前らホエルオーに乗って旅でもしろや。

無機物に乗って優雅にしてんじゃねえ。もしくは水面を走れ。

 

「ま、とりあえず中に入ろうか。

 既に参加者達も大体の人たちが乗り込んでいるはずだろう」

「あ、はい……わかりました。じゃ、行くよ皆ー」

 

船の入り口で船長さんに挨拶を交わす船乗りさん。

──…………。まあ、確証があるわけでもない。ひとまずは、普通に入ろうか。

 

 

「ところで船長さん」

「な、なに……か、な?」

 

船長さん顔色がやべえwww大丈夫ですかwwwwww

そういやこの人船駄目だったよねwww歩いてるだけなのに酔ってらっしゃるwww

 

「えーと、今日のパーティーってどんなパーティーなんですか?」

「あ、ああ……そういえばまだ伝えて、うっぷ……伝えて無かったね。

 今日の集まり、は、ポケモンリーグ主催で……ポケモンの権威の人や……

 カントーとジョウトのジムリーダーが……うふぅ、集まるパーティーだよ」

 

船長さん、悪い事言わないからあんたもう帰れよ。

なんで自分の体に鞭打ってこんな仕事してんの。金か? 世の中金か?

 

しかし……これであそこに他地方のジムリーダー・アカネちゃんが居たのも合点が行く。

パーティーの数日前にクチバ入りして暇つぶしをしてたんだろうな。

まあ、どうせあっちは俺のことなんぞ覚えてもおるまい。

俺はのんびりと準備を───

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?君は……タツヤ君?」

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

ハナダシティで貰ったサントアンヌ号の乗船チケットを使い、僕はその船の廊下を歩いていた。

この船自体に用があるわけじゃないんだけど、見聞を広めるにはいいかなって思って。

 

すると船長らしき威厳の……いや、別に威厳はなかったや。

ただの船酔いしているおじいさんの後ろに居た子に見覚えがあったために、声を掛けてみた。

 

「……あれ? 君は……タツヤ君?」

「あ、どうも。レッドさん」

 

久しぶりに逢ったんだけど、彼も僕のことを覚えていてくれたようだ。

 

今僕が話しかけているこの子はタツヤ君。僕と同じマサラタウンの出身だ。

 

どちらかというと僕が良く世話になっていたのは彼のお兄さん、シンさんだ。

手持ちのポケモン、わずか1匹のみでリーグを制覇した、偉大な人だ。

その人に世話になっていた時に、よく後ろから僕達を見ていた子がこのタツヤ君だ。

 

「久しぶりだね、ところで……連れのおじいさんの顔色が悪いみたいだけど……?」

「うん。船長さん……さすがにその状態は辛いでしょう。

 他の誰かに他の事聞いておきますんで、この辺でいいですよ」

 

この人ホントに船長さんなのっ?!

 

「あ、ああ……すまん、本当に……わしは自分の部屋で休んでいるよ……」

 

そういって、船長さんは去っていった。

今あったばかりだけど大丈夫かなぁ。あの歩調千鳥足どころじゃないよ。

 

「大丈夫かなぁ、船長さん……。ともあれレッドさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「うん、僕のほうも旅は順調だよ。ポケモン達もかなり強くなったからね」

 

彼は今10歳位のはずだけど、昔から感じていた通り発言にはやはり子供らしさがどこか欠けている。

良く言えば紳士的で、悪く言えば形式張っている。

 

態度だけで考えたらシンさんのほうが弟にしか感じられなかったのも良く覚えている。

 

ついでに言うと彼らの母親は生物の限界を超越していた。

 

「僕はハナダシティでチケットを貰ったからここに居るんだけど……タツヤ君はどうしてここに?」

「あー、俺は街中で弾き語りしてたらここの船長さんの目に留まったらしくて……パーティーで演奏を、と」

 

なるほど……昔から彼は、音楽観については一流を遥かに超えていた。

技術自体は初回に聞いた時こそまだまだ拙い感じもあったが、次の時にはそれすら無い。

カントーで音楽をやらせたら、間違いなく一流から突出する何かを持っていた。

 

この世界でポケモンに一切関わらなくても、生活していけそうな才能を持っている人は稀有だ。

弾く音楽も素晴らしいのだが、僕が一番印象に残っているのは

音楽に関して僕を含むみんなが喜ぶと、いつも微妙な笑みを浮かべる彼の姿だ。

手放しで喜んでいるのを見た事が無い……天才ってのは皆そんなものなのかな?

 

「へぇ~、そっかぁ。それじゃあ今日のパーティーはきっととても良い物になるんだろうね!」

「(まあ弾く音楽、全部パクリなんすけどね……)ボソッ……」

「……え? 今何か言ったかい?」

「あ、いいえーなにも」

 

良く聞こえなかったけど……まあ、いいや。

旅に出てから久しく聴けていない彼の才能に、また触れられるのだから。

 

それにせっかく再会したついでだ。

僕も僕の流儀で彼との再会を分かち合いたい……だから───

 

「───それじゃあ……久しぶりに、ポケモンバトルでもやるかい?

 僕も旅している間に沢山成長はしたからね……まだまだ負けないよ?」

「ええー、やるんすかー。だるいんすけどー」

 

ガクッ……思わずずっこけてしまう。彼は昔からこういうところがあるから困る。

何故か皆が凌ぎを削りあってるポケモンバトルから一歩身を退いているのだ。

まぁ、戦う時には戦ってるんだけど。

 

「いや、だるいって……目と目を合わせたら戦うのがトレーナーだよ?」

「トレーナーだがジャージだか知らないっすけど

 そんな常識、そらのはしらに行って天に返してきてください」

 

とまあ、こんな感じなのである。彼には常識という言葉が殆ど通用しない。

どうしてなのかはわからないが、彼の中では常識が常識となっていないらしいのだ。

 

しかし僕も一度火が着いたら止めたくは無い。

しっかりと勝負をして、せめて同じ町の年上出身者として威厳を見せたいんだ!

 

「まぁまぁ、久しぶりにあったんだし、さ? そんなこと言わずにやろ───」

「あれ、グリーンさんじゃないっすか。グリーンさんもここに来てたんですね」

「えっ? グリーンも───……って、あれ?」

 

タツヤ君に釣られて、僕は後ろに振り返ってみるが……

そこには別にグリーンどころか誰もいなかった。

 

「タツヤ君、グリーンなんてどこにも───」

 

 

 

 

 

 \ | /

─こつぜん─

 / | \

 

 

 

タツヤ君までいなかった。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

ふぅ~、あっぶねーあぶねー。

レッドさんもこの世界の例に漏れずバトルジャンキーなの忘れてた。

あんな手合いを毎度毎度相手にしていてはこちらの神経が擦り切れる。

連れ歩いていた皆を素早くボールに仕舞い、とっととトンズラしておいた。

 

 

さーて、そこらの船員さんに俺の部屋でも聞いておくか。

どうせカモフラージュなんだろうけど、リアリティを出すためにその位は頭に叩き込んでるだろ、多分。

めんどくせー事になんなきゃ一番良いんだけどねー。

 


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