うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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31話 逆襲2

 

……完全にしてやられたッ。

私はレンカ師匠からその情報を聞いていた上で、彼を……タツヤ君を過小評価しすぎていたッ……!

 

今、彼が私の団員を倒した事によって───彼らは全て人質の意味を成さなくなる可能性が非常に高い。

 

一般的に思われる事としては、数の暴力で見張りを無理やり黙らせる事であるだろうが……

そんな事をすればたちどころに騒ぎとなり、再び私の団員が集結して完全に拘束する事が目に見えている。

 

しかし一切の騒ぎ無く、この状況を作り出したのであれば話は別だ。

 

 

この作戦を始める前に、団員には言い含めていた事がある。

私も表の姿としてジムリーダーであるが故に、この集まりには参加しなければならない事情を抱えていた。

故に事が起こった時、私の扱いで不自然が浮かび上がった場合全てがバレてしまい

完全に追い込まれる可能性も小さいながらあったのだ。

 

だからこそ「一人の人質として扱え」と、全員に伝えている。

 

そして、人質として成り立った場合、絶対に確認に来るなとも伝えた。

私の裏事情があるために、見張りも一人しか配置しなかったのだ。

しかもこの見張りには私の顔を知らない者を(あて)がわせていた。

 

そして彼は見事なまでに騒ぎを起こさず、私の団員を無力化させてしまった。

一連の動きを見ていればわかる。あれは───彼のあの動きは『戦い』だった。

自分を囮とする形での、『戦い』だったのだ。

 

そして囮の役目が十分果たされた後、主戦力であるシジマ殿が飛び出したのだろう。

会話を聞いていてわかった。あれは全て予定されていたものだったのだ。

 

 

タツヤ君ッ……! 一体、一体どこから予想を始めていたッ……!?

まさか、まさかとは思うが、私の───

 

 

 

 

 

 

「───ッッッ?!」

 

 

 

 

タツヤ君が、一瞬こちらを見てきた。

 

そのタツヤ君の表情は、全てを物語っていた。

 

【楽しいか? サカキさんよ。】と。

 

彼は……私の正体に気付いている……!

間違いない。私がロケット団のボスなのに完全に気付いている……!

 

私は、彼を完全に舐めていた……。彼は……「野戦の天才」などではない。

 

 

彼は───

 

 

 

野戦の───『構築家』だ。全てを自分の思う方向に進める、策図屋だ。

 

 

 

 

とりあえず第一段階完了。ついでに手に入れた武器も説得しよう(・・・・・)

俺は一旦シジマさんに後ろに下がるように手で指示し、マルマインに話しかけ始める。

 

 

「さて、マルマイン───」

「ッオォォン!?」

「お前の選択肢は、既に無いに等しい。

 1つ目。役目を果たすために主人もろとも(・・・・・・)だいばくはつ、か……

 2つ目。主人の身柄の安全の為に、俺の言う事を聞くか、だ。

 お前もポケモンとはいえ……この状況が完全に自分の不利なのはわかるな?」

「ッ……」

「ついでに言おう。俺も出来ればそんな事はしたくないが……

 俺らに牙を剥いたコイツを、別に生かしておく理由もなくてな?

 ───今すぐに、殺したっていいんだ」

「ちょっ?! タツヤんっそれだけはあかんッッ!!」

「イエス!! リトルボーイッ、キリングだけはバッドネ!!」

「──っせぇな、ちょっと黙ってろ」

『ッッ……!!』

 

後ろでぺちゃくちゃとうるさい連中をマルマインごと黙らせる。

交渉って言葉も知らねえ平和ボケ共は黙っててくれ。

 

「さて……マルマイン、俺は本気だ。お前は主人がどうなってもいいのか?

 俺の言う事を『一度だけ』聞くなら、こいつの命の安全は保障しよう。

 俺は嘘を付くし、人も騙す。けどな───」

 

交渉において平然と嘘をつける事は、自分に流れを引き寄せる際の必須スキルだ。

しかし日頃からそういう事ばかりしていれば、信用が失われていくのも然り。

 

だが、譲れない境界線というものは───あるものなのだ。

 

「───約束だけは、守ってやるからよ。俺にその力、貸してもらうぞ」

「…………。」

 

マルマインは悲痛な面持ちをしながら、選択の余地が殆ど無いのを改めて悟る。

黒いヤツの近くに一旦転がって行き、自分のボールを加えて俺の所に転がってくる。

 

「───よし、交渉成立だ。

 一度だけだ───それで、必ずコイツは生かしてやる」

 

キュゥゥゥゥゥン。

 

元々殺す気なんてゼロだけどな。

俺だって出来るなら人殺しなんぞ絶対にやりたくない。確実に夢に出てくる。

 

そう、要はハッタリというやつである。

 

やる気もないのにやるやる、という……まあやるやる詐欺のようなものだろう。

しかし時と場合を間違えなければ、自分が優位に立った上で

便利に交渉事を進める事が出来る、目には見えない武器だ。

 

 

そして俺はこれを使い、「だいばくはつ」の権限を1回獲得したわけである。

 

 

「タ、タツヤん……! 殺しだけは、殺しだけはあかんでっ!?

 いくら正当防衛でも、タツヤんまで犯罪者になってまうっ!!」

「そうネッ! キルだけはストップネ! 他にいくらでも方法はあるヨ!」

「大丈夫ですよ、別に殺すつもりなんて欠片もないですから」

『……ハッ?』

「───ハッタリ、ってやつですよ。

 マチスさんも俺との野戦訓練で持論は聴いたでしょ?」

「……ォーゥ、完全にやられてしまったネー。本気にしか見えなかったーヨ」

「それがハッタリの本懐ですから」

 

でもこの会話は一応マルマインにもボールの中で聴こえているはず。

なので後押しだけはしておこう。

 

「───ま、必要になったらいつでも殺す覚悟はありますが、ね?」

『───────────。』

 

演出効果を出すために、自分の中でとても綺麗な笑みを浮かべて、そうのたまう。

こんなのが見た目10歳で、しかも無邪気に笑いながら言うのだ───不気味でしか、ないだろう。

 

 

「───わかったネ。リトルボーイ、これからどうするノ? ミー達はどう動けばいいネ?」

「あぁ、一切動かないでください。俺が全部始末してきますんで」

『ハァァァっ?!』

 

全員が全員素っ頓狂な声を上げる。

んだよ、うっせえな……その方が確実なんだっての。

 

「き、君一人でかっ!? そんなこと出来る訳が無いじゃないかっ!!」

 

そういって今まで聞いた事が無い声が場に混ざる。

おぉ、生タケシだ。ニビジムリーダーの生タケシだ。

 

「今、一人で覆したじゃないですか」

「そ、それはシジマさんがやってくれた事だろう?!」

「───残念だがタケシの坊主、今回の内容は全部───本当に全部、そのタツヤって坊主の策略だ」

「なっ……──」

「俺は全員が人質に取られる前に『こうなるかもしれない』って説明を受けた上で

 理想的に終わる形として後ろから襲う事を提案されただけだ」

『…………。』

 

全員、サカキも含めての沈黙が部屋を占める。……まあ無理もねえわな。

情報なしで認識すりゃ、俺はただの小僧だ。その点については文句もない。

 

「で、でもミーも戦えるね!!

 アーミーアーツはマイカントリーでもトレーニングしてたネ!!」

「わしもこの通り、ポケモンと相対程度は出来るつもりだが……それでも一人のほうが良いのか」

「ええ、はっきり言って全員の戦力を考えても───付いてこられても、邪魔なだけです」

「ッ─────!」

 

その言葉にシジマさんが悔しそうに目を伏せる。

こういう時はオブラートなんていらない。不快に思われてもストレートに伝えるべきだ。

 

「ミ、ミーは違うヨー?! ユーのバーリトゥドゥちゃんとスタディしたネ!!」

「勉強している分だけまだまだ未熟って証明です。

 足を引っ張られたらおそらく即座に死ぬので。俺もマチスさんも、ね……」

 

そう、こうやって普通に会話こそしているが……今の時点では完全に不利な事には変わりは無い。

右に進むか左に進むかを間違っただけで、人生が瞬時に終わる可能性すらあるのだ。

その状況で足手まといを護り切れる程、俺は天狗ではない。

 

「それに……この部屋に居る分には安全は確保されますからね。

 まずバレる事もない……そうですよね? サカキさん」

「ッ……何故、私に問うのかな?」

「さて、なんででしょうね~♪」

 

ジムリーダー達も研究者達も、何故ここでサカキを指名したのかは疑問に思っている。

まさか最強のジムリーダーが闇の組織のボスなんて思わないだろうからな……。

俺は前世が故に知っているが。

 

そしてここで船内にサカキが居るという情報が生きてくる。

まさか今回船を制圧しているロケット団の殆どが、

サカキをボスと認識していないなんてことはないだろう。

つまり今のこの状況はおそらく作り出された(・・・・・・)ものだ。

 

普通に考えて、そんな状況を作るならまず安全や身分の揺れが発生しない状況で作る。

そんな状態を考えて、ボスであるサカキがいるこの部屋に

ロケット団が無駄に確認しに来るなんて事、俺には考えられん。

加えてサカキ自身がこの部屋からロケット団に向けて、何かメッセージを発信する事もとても難しいはず。

 

───故に、この人質の部屋は、あの時黒いヤツの無力化に成功した瞬間から

ロケット団からの安全が保障されたようなものなのだ。この状況は、『動かない』。

 

ロケット団達はこの人質達に関して、

『反乱に動く事は無い、だってボスも居るし』と誤認を発生させている可能性だって高いのだ。

どこの世界でも頼りになる上司が作戦に混ざってりゃ、信頼感もひとしおだってーねぇ。ククククク。

 

そして俺も人質を気にしなくていいなら自由に動ける。

10の足手まといの中での1の救いを求める程、俺はバカじゃない。

あの前世の戦闘経験は伊達ではないのだ。結局頼れるのは俺一人だけ。当然の状況、というやつである。

 

 

 

「んじゃ、みんな出てこ~い」

 

 

 

俺はボールを腹から3つ取り出す。

 

パッパッパシュゥゥゥン。

 

「ッディァァー!!!」

「ッ─────!!」

「グググググ!!」

『ええええええええええええええええええ!?!?!?!?』

 

元気良く出てきた俺のポケモン達に、部屋に居る気絶した黒いのを除く全員が驚いている。

 

「な、なな、なんっ……なん、でっ!?」

「ど、どうしてっ……!? あの時、タツヤ君もボールを持っていかれたはずじゃっ……!?」

「な、なんで君は今までポケモンを出さなかったんだっ!?」

 

と、アカネさんとミカンさんの順で俺に突っ込みを入れてきて

最後に生タケシが俺に疑問をぶつけてきた。

 

「よく考えればわかる事でしょう?

 俺が渡したボールは中身が空のボールってだけの話です。

 ドレディアさんしばいて「ディ#」気付けに行った時に、全員ボールにしまって腹に仕込んでたんですよ」

 

これも当然の事だ。

なんでボールが回収されるのがわかりきってるのに、わざわざ本物を渡さねばならないのか?

 

「ポケモンを出さなかった理由は、ですね。

 正面切って戦うよっか、気付かれずに後ろから奇襲して

 いきなり張り倒した方が効率もいいし疲れないからです」

 

これも俺の中では当然のこと。

正々堂々なんざクソ喰らえだ。言い直すならうん○食べろである。

 

「そ、そういえば確かに帰って来た時っ……! タツヤんのポケモン、全員出てなかったっ……!」

「…………。」

「───あ、ハハ、ハハハ。ああ、わかった、認めよう……。

 君と比べたらこの部屋に居る全員は、確かに足手まといだ───間違いない」

「んむ、今更ではありますが理解してもらえたようで何よりです」

 

事実に気付くアカネさんに、それを聴いた上で何もいえないミカンさん。

そして下準備の段階で遥かに上を行っていた俺に対して

ようやっと、足手まといの事実を認めてくれた生の人。

 

「まあ下手したら死ぬかもしれませんけど

 その場合は一人でも巻き添えにしてロケット団共減らしておきますんで

 もしもそうなったらお願いしますね」

「ナッ!? 何言うネ、リトルボーイ!! そんな事スピーチするなんてファールネ!?」

「ただ考えられる可能性を言っただけです。だからこんなにスムーズに足元すくわれるんですよ?」

「オゥ……確かにリアルアンサーね……」

 

 

周りに居る人たちも

「確かに……」とか「そうね……」とか認める発言をしている。

俺は仕方の無い事と思っているが、認識するのは良い事だろう。

 

「そういうわけで、被害を蒙ったとしても所詮ガキ1匹です。

 俺も死にたくないので努力こそしますが、そうなったら後はお願いします」

「……わかった。でもタツヤん、本当に……本当に、死なんといてな……?

 うち、みんなにあの音楽聴かせたい……君がおらんと、あの音楽も聴かせられへん……」

「タツヤ君……本当に、気をつけてね……」

「まあなんとかなるでしょう、武器も持ってきてるし」

 

そういって、俺は2日前に準備していたモノをポケットから取り出した。

その物体は───わっかが4つくっついて、それに持ち手が付いている形状。

 

「え、それ、なに?」

「……これで、叩くの?」

「あはは、まあ見ただけじゃわからないっすよね。

 これはね───こうやって使うんですよ」

 

俺はその4つのわっかに指を通す。

そして持ち手を持たずに、全体から包み込むように握る(・・)

 

全員が全員ハテナを…… あ、シジマさん気付いたや 浮かべているので試しに使って見る。

壁は壊れるだろうし床の方がいいよな。

 

「こうやって握って───こうするんですよッッ!!!」

 

俺はそれを握ったまま拳で床を叩いた。

結果、俺の手はわっかに守られつつ、なおかつ床に、子供が叩くにしてはなかなかの衝撃を残す。

その衝撃に全員が全員驚いた。気付いたシジマさんですら、だ。

 

 

そう、俺が2日前に金物屋に頼んだものは「メリケンサック」である。

今回の顛末を想定し、俺自身もちょっとは戦えるようにしたかったのだ。

 

「ちなみに靴の先っぽにも鉄板と鉄の塊を仕込んでます」

「……準備万端すぎネー」

「タツヤん、凄いの音楽だけやなかったんやね……」

「私より年下なのに……」

「わしがそれを貸して欲しいぐらいじゃが……ともあれ、タツヤの坊主よ」

「はい」

 

改めて、シジマさんに話しかけられた。顔を見る限り決心したかのような感じだ。

 

「わしが出来る仕事は、全力でやった。

 大人全員が役立たずなんて本気で恥ずかしいが……───頼んだぞっ!!」

「ええ、任せてください。死なない程度には頑張りますんで」

「本当に、無事で帰ってきてぇなっ……!」

「お願い、タツヤ君っ……!」

「本当に申し訳ない……──後は頼んだよ!」

 

心配なのはわかるし、してもらえるだけでもうれしいもんだ。

けど、大丈夫だと思います。だって俺には───

 

 

 

「ドレディァー!!」

「ッッッ!!!」

「グッグッグッ!!」

 

 

 

こんなにも素晴らしい、相棒達がいますから。

 

 


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