モノを仕入れ終えた俺と三匹は、また静かに廊下に出た。
摘み食いを終えたドレディアさんがまた光りだした為、チョップでBキャンセルする事も忘れない。
こんなところでポケモン図鑑鳴らされたら堪ったもんじゃねえ。
慎重に歩を進め、ロケット団との遭遇を回避し続けていると、途中で奴らがザワザワし始めた事に気付く。
どうやら階段の見張りが居ない事に気付かれてしまったらしい。
しかしここで予想していた内容がひとつ的中している事も判明。思わずほくそえむ。
やはり人質にサカキを混ぜる事も前提として計画されていたらしく
人質が無事かどうかを確認しに行けないようだ。
これでアカネさんやらマチスさんやらが捕らえられて、俺らの前に突き出される事もなくなったと思う。
とりあえずは、目標地点をどこにするかを決めあぐねた為
幹部のヤツが居そうな、最初のパーティー会場まで戻る事にした。
そしてなんとか敵の目に映る事を避け続け
パーティー会場よりほんのちょっと離れた部屋に辿り付く。
「全員、大丈夫か?」
「ディ。」
「───。」
「ッグ。」
まあ怪我もまだしてないし、消耗も非常に少なくここまで来ている。準備の方は万端のようだ。
「今からパーティー会場まで行く。もうここまで手が回っているから隠れる意味が殆ど無い。
集団戦になると思うから、気を引き締めて行くんだぞ」
『ッッ───!!!』
よし、気合は入ったな。タイミングを見て部屋を───
「こんな近場に居るわけねーじゃんよー」
「一応だ一応。次に口封じされんのは俺らかもしんねえんだぞ」
「そりゃそーだけどよぉ……」 ガチャッ
ッッ!? しまっ───
「ほら、いねえだろ。さぁ次──」
「……ッドレディアさん!!」
「ッァァアアーッ!!」
ズドムッ!!
「あぎょぁっ?!」
ドレディアさんのがんめんパンチが、部屋に入ってきた黒いヤツを襲う。
ポケモンを出す事すら怠った無警戒なやつは凄まじい威力で殴られ
入り口の向かいの壁までぶっ飛んで、派手な音を出した。
「て、てめぇらッッ……!! こっちだぁーッ!! こっちに居───」
「ッッ───!」
ディグダが素早く鉄山靠を放ち、大声で喋りかけたヤツを吹き飛ばした。
本来この技はカウンターで入らなければ最大の威力を発揮しないのだが
人間一人を気絶させるには十分だったらしい。
───あっちだぁーッ!! 行くぞーっ!!
────くっそがぁ、舐めやがってぇぇぇ!
─────こっちだこっちーッ!! 全員来いーッ!!
くっそ、さすがにこれだけ派手な音を出してスルーは虫が良すぎたか……!
こうなったら一気に行くしかないな。
「───……行くぞ、もう隠れて行動する必要は無いッ!!」
「ッディァァァアアアーーーッッ!!」
「ッッ!! ッッ!!」
「ッググッグ!!」
全員結構フラストレーションが溜まっていたらしい。
気合が入りすぎているイメージがあるが……まぁ悪い事ではないか。
◇
そして元々近場に居たのもあり、すぐにパーティー会場に到着。
でかい扉を開け放つと、待機所にでもなっていたのか7,8人のロケット団が俺らを待ち構えていた。
「こぉのクソガキが……ずーいぶんと派手に立ち回ってくれたなぁ……? オイ」
「飛んで火に行く夏の虫~だっけか? わざわざこんなに人が居る所にご苦労だなぁ」
「ま、そういうわけでネズミ捕りに掛かった鼠ちゃんよぉ」
「───ロケット団舐めて、タダで終われると思うなよ」
口々に汚らしい発言を飛ばしてくるゴキブリ共。
うっわぁィ♪ 見事にテンプレな悪役っぷりだぁ。
……よし。
状況としては、やはりかなり理想的な場所だ。
「全員、集合」
「ディ」
「──。」
「グッ」
ひとまずは全体的な攻めの概要を伝えておこう。
「いいか皆……このパーティーホールは昨日訓練した山と思え。使える武器は全て使うんだ」
『……?』
全員が首を傾げる。まあ、確かに普段は気付けない武器ばかりだろうからな。
「そこいら中にあるだろ? テーブルに椅子に、これから出てくるポケモン達。
加えて言うならあそこで突っ立ってるクソ共だって投げりゃ人間手裏剣になる」
『ッ!!!』
気付いてくれたようだ。
「今回はとにかく敵が多い戦いになる……。昨日教えた事、しっかりやるんだぞっ」
「ッディッ!!」
「ッッ───!!」
「ッグッグ!!」
題して、オペレーション・スパイクアウトッッ! 出展は前世のゲーセンからである。
「無駄なお話し合いは終わったかぁ? そんじゃまぁ……俺らもやっちゃいますかねぇ♪」
「おら全員出てこいやぁ!! 行って来いッ!!」
ペカァァァン
ペカァァァァン
ペカペカァァァァン
ぅーおう。こいつはまた豪勢な面子で……
オーソドックスなコラッタからニャースにポチエナ、ヘルガー……グラエナももちろん居る。
進化系のラッタやら、先程見たドンカラス、果てはゴルバットにレパルダスに……マニューラまでいやがる。
見事に悪役統一って感じだなぁ、おい。
「きっちり体にトラウマ染み込ませてやらぁ……全員、押し潰せぇぇぇーーッッ!!」
その言葉を皮切りに、本当に一斉に飛び込んできやがった。……頼むぞ、みんなっ!!
そして一匹のコラッタが先行してドレディアさんに───
向かってきたところで、ドレディアさんは勢い良く手を振り下ろすッッ!!
「ッッディ───ァァァア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッッッ!!!」
ズッガァァァッッ!!
凄まじい勢いと形容出来るような振り下ろしのパンチに
相手のコラッタはとんでもない勢いで地面に叩き付けられた。
あまりの威力に衝撃波が発生し、敵全員が若干怯んでいる。
「──ッ! 今だディグダッッ!! ボーリングシュートで蹴り飛ばせェェェッッ!!」
「ッッッ!!!」
俺の声を聞き届け、ディグダは素早く一番手近に居たラッタに近づき
その勢いを体に乗せたまま、綺麗な蹴りをラッタにぶち込んだッッ!!
ズッダァァァァン!!
そしてディグダはその勢いを生かし切り、
完全に伸びているラッタを、クズ共の集団へと全力で蹴り飛ばす。
「んなっ?!」
「ちょ、おまっ───」
『うぎゃぁぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!!』
蹴り飛ばされた方向に居た運の悪い団員は
手前に居たポケモン達やラッタに巻き込まれ、ラッタごと壁に激突した。
こういう集団戦を想定しての訓練を全員に施しており
集団を手っ取り早く怯ませる方法を、一日費やしてディグダに教え込んだ。
敵を蹴り飛ばせる武器と発想させれば、まとめて敵にダメージを与えられる集団殲滅技である。
ディグダが横槍を入れられないように、ヒンバスも持ち前の素早さを生かし
ディグダに向かう敵に対して体当たりを仕掛け、旨く牽制してくれている。
ドレディアさんもドレディアさんで、とってもダーティ。
最初に気絶させたコラッタを持ち上げ、ディグダの足元へ落とす。
その意図に気付いたディグダは、再び集団に狙ってコラッタをシュート。
「ァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーッッ!!
ドッ、レッ、───ディァアアアアアーーーーーーーッッ!!!!!」
再度阿鼻叫喚が生まれている中、ドレディアさんは近くにあった椅子を持ち上げ
そこらへんのニューラやヤミカラスに投擲して即撃墜、さらに混乱を引き出す。
最後にはテーブルもジャイアントスイング風味に振り回し、そのまま敵の真ん中に突っ込んで行った。
『ギャギョグェアギェァーーー?!』
薙ぎ払った後、後ろで待機している団員に対してテーブルをぶん投げ
素早くこちらのほうに戻ってきてくれた。
「……よし、いいぞ。このペースで行けばしばらくの間戦いの流れは決まらない……!」
良い感じでここまでは来ている。なんせ最初は4対20位だったからな。(もちろん人を含める)
良い具合に昨日の訓練が作用しているらしい。
今では倒れ伏したり、被害にあったりで瀕死一歩手前なのも含め
4対8程度にまで数が競ってきているが─────
「ここかぁ、ってうおォォッ!? なんだこりゃぁ?!」
「おい、増援呼んで来てくれッッ!! こいつら思った以上にやりやがるっっ!!」
新しくフロアに入ってきたクズ共が、目の前の光景に叫びながら戦線に混ざりだす。
ッチ、ついに増援が現れ始めたか……。
「マジかよっ……こいつら3匹でこんだけぶち倒しやがったってのかッ……」
「隊長呼んで来い隊長!! 事情説明してこっち来てもらえッ」
……隊長、だとっ!?
くっそ、
その隊長とやらが来る前になんとか削れるだけ削───
「ドンカラスッ、あのガキ狙えッ!! 先に潰しちまえっ!!」
「ギャォォォーッ!!」
『ッ!?』
「……ッ!!」
よりにもよってドンカラスをこっちにやんのかよっ?! 10歳児なんてコラッタで十分だろッ!
俺の3匹は全員集団の波を抑えきるのに精一杯……───
「ッッ────!!」
バキィッ
「ウニャァーーーッッ!?」
バシッ
「ギャォォオオッッ!?」
……って、うそっ?! ディグダがマニューラを蹴り上げてドンカラスにぶち当てただと?!
お前そんな高等技術どっから引っ張ってきたんだディグダ!
「ッなんだとぉ?! なんとか体勢立て直せドンカラスッ!!」
動きが阻害されて空中バランスを保てなくなるドンカラス。
こんなぶっつけ本番で、かなりの高等技術をディグダは見せ付けてくれた。
──……このチャンス、見逃すわけには行かねェッ!!
「ディグダぁーーーーッ! そのままマニューラを他のヤツにぶち込めぇーーーっ!!
コイツはッ……───ドンカラスは俺が殺るッ!!」
「ッ!? ……ッッ!!」
俺の指示に従い、浮力制御を失ったドンカラスを無視し
ディグダは空中に投げ出されたマニューラを追っかけ、また敵が固まってる所へ蹴り飛ばした。
俺は俺で完全にバランスを崩し、慣性の法則に従いふらふらと近づいたドンカラスに飛び掛る。
「ぬぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!」
「ギ、ギャォォァァッッ!!」
『嘘ォッ!?』
飛び蹴りなんて地味に高等技術な事なんぞ狙わない。
羽ばたき状態から地面に降ろすため、そのまま体ごとドンカラスに突撃してがっしりと掴み切る。
「ぬッ、ぐッッ!!」
「ギャォァオォオッッ!!」
クソがッ!! 大人しくしてくれっ!!
「お、おいお前ら!
あのドンカラスを援護しやがれェッ!! 早くっ!! 早くし───」
「ッグーーーーー!!」
ズガァッ!!
「ウギャァァンッ!?」
追撃を仕掛けられないように、援護しようとするグラエナを狙い
またうまくたいあたりをぶちかまし、動きを阻害してくれるヒンバス。
くっそ、こいつらところどころで本気でありがたいなオイっ!!
そしてこっちもようやく、漸くだッ……!
「ッハァ……てこずらせやがって……!」
「ッギャッ……!!」
しばらく揉み合った後、コイツが羽を広げた所に膝で乗りかかり、動きを完全に縫い付ける事に成功した。
「ガキだと思って舐めてっからだ……
───現代生まれのナックルダスター、受けやがれやぁーーーーッッッ!!」
俺は力の限り、サックを握りこんだ拳をドンカラスの胸に振り下ろした。
ガッ!!
「グギャァァアァッッ?!」
心は痛むが……躊躇なんて絶対にしない。少しでも迷ってたら確実にやられるッ!!
ここでしとめきらないと、俺が殺されるんだッ!!
鳥類なんて、体重を軽くするために大体の鳥が骨等が脆かったり
もしくは、全体的に作りが脆弱だったりするもんなはずだ。
俺は内臓を守る肋骨すら脆いと勝手に錯覚し、思い込むままひたすら拳を胸に振り下ろし続けるッ!!
ガスッ!! ゴスッ!!
ガスッ! グシャッ!!
ゴシャァッ!! グシャッ!!
「ゲッ、グ、ゲァ……」
次第に殴る音が変わっていき、反応が鈍くなるドンカラス。
そして……───
「……────」
「ハァ、ハァ、ハァーッ……」
「お、おい───嘘だろ……?」
「あ、あのガキ───生身でドンカラス倒しやがっただと……」
ドンカラスの抵抗が全く無くなり、ようやっと……俺はゆっくりと立ち上がる。
一歩間違えば、確実にやられてた状況だった……でも、やはりそこは信頼出来る相棒達だ。
10歳の、弱っちい体でも……───
───命賭けならポケモン一匹倒す程度、訳は無いッ!!
「───おら……来いや……」
『うッ……!?』
「俺らの事を殺すつもりで来てんだろ……? だったらよぉ……」
既に俺の体力は、底を尽きかけている。
全力でやらなければ一匹程度も倒せないのが本当の事実。
だが……だからこそ。
全力でやるのなら、いくらでも潰していける。
「───テメェラが殺されても、一切文句言うんじゃねェぞッッ!!」
「ッッディァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッーーーーー!!」
「ーーーーーーッッ!! ーーーーーーッッ!!」
「ッグググググググググーーーーーーーッッ!!」
───これでもまだナメて掛かるってんなら、てめぇら生きて帰れると思うんじゃねェぞッッ!!
行くぞ──……相棒ッッ!!