うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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34話 終劇戦

 

 

奇跡のドンカラス撃破から、敵が完全に尻すぼんでくれたようで

こちらに対して攻めあぐね始めているのがよくわかる。

 

冗談抜きでの話だが、人の……しかも子供の身でドンカラス撃破なんぞ夢ですら有り得ない事である。

数々の幸運、加えてこちらにとって都合の良い予想外があの結果を産んだだけなのだが……

敵からしたら何も関係ない。純粋に、怖さが際立ってしまったのだ。

もちろんこれに関してもハッタリに近い。偶然が偶然を生み出し、それを否定していないだけの話。

 

「ドレェェェ、ディィィイ、アァァアアアアッッッ!!」

 

ズッガァァァンッッ!!

 

『うげぉぁぁああッッ!!』

 

俺はもうまともに戦える相手がズバットかコラッタ、ニャース等の低種族値位しか居ないが

ドレディアさんが絶賛テーブル無双中である。また一人団員が乙った。

彼女にとってのテーブルとは、呂布の方天画戟(ほうてんがげき)と同じようなものなのだろうか。

 

 

「ッッ!! ッッ────!!」

 

ドグォッ!!

 

『ギュギャァァアアッッ!!』

 

こちらのディグダもかなり好調だ。ドレディアさん程目立っているわけではないものの

敵を投擲武器として蹴り飛ばし、意気込み直した敵の出鼻を完全にくじき続けている。

 

 

 

「おうっ!! こっちだこっちだっ」

「うっわ……こんだけ来てんのになんでまだ倒せてねえんだよっ?!」

「しかたねぇだろっ!! あの緑のとキモいのがやばいんだよっ!!」

「キモい……? って、うわなんだあれ?! ディグダ!? ディグダなのかよ?! あれで!?」

「#####」

 

ガッシ。   ブゥヮンッ!!

 

「えっ」

「えっ」

 

ドギャァッ!!

 

「「ぎょぱぁーっ!!」」

『隊員CとFーーーーーーーーー!!!!』

 

 

ついにディグダも周りの家具を武器に戦いだした。

しかもあの重そうなテーブルを片手で投げ飛ばしている。

投げた地点が敵を巻き込まずピンポイントで狙ったっぽいのは、指摘して修正させるべきなんだろうか。

 

だが……いくらこちらが優勢で保っていても、傷が浅いヤツは少し時間を置いたらすぐに立ち直ってくる。

……さっきのヤバい連中から抜かされた、俺の大切なエースのためにも

用意しておいた切り札一発、サクっとやっちまいますかいっ!!

 

 

俺は背中のリュックからあるものを取り出す。

 

 

厨房で回収した、スーパーボールと酒の瓶である。

使い方はそれぞれ別々ではあるが、同時に使っても効果はあるはずだ。

 

さて、今日も楽しいハッタリタイムと行きますかねぇ!!

 

「次から次とてめぇらうぜーんだよッッ!!」

「あぁん!? だったらとっとと倒れやがれクソ餓鬼がァッ!!」

「怒った! もうとっとと終わらせてやるッ。

 いけぇっーーー!! 俺の切り札、フリーザァー!!!」

『フ、フリーザーだとぉーーー!?』

 

そしてボールを投擲する。

 

 

 

 

 

 

 

何も反応が無い。

 

 

 

 

 

 

 

『…………は?』

「今だ!! 全員手ごろなのを畳み掛けろぉー!!」

「ドーレーッ、ディーーーーァッッ!」

「ッ!!」

「ッグーーーッ!!」

 

 

ズッガォォォォンッ!!

ドッグォォオオオォォンッ!!

 

『ひぎょぇぁーーーー!!』

 

元から作戦と伝えていたためこちらの手持ちの全員は

今のハッタリで敵が止まった瞬間を狙い、一網打尽にするために

そこらにあった椅子やらテーブルやらを全部かき集め、一方的にアウトレンジから投げつけ始める。

ヒンバスは少しでも近づいてきそうな敵に対してすてみタックルで応酬している。

若干反動で苦しそうだが……、頑張ってくれ、ヒンバス……!

 

 

 

「やれやれ……お前らはこんな小さな子供ですら倒せないのか」

「あっ、たっ、隊長ッ!!」

 

ッ! くっそ、ついに隊長格とやらが来ちまったか……!

 

「申し訳ありません、予想外に強すぎて……俺らじゃここから動かさないのが……」

「別に言い訳など要らん!! あの御方の為に働いているという自覚があるのかッ!!」

「す、すいませんっ!」

「ふん……」

 

チッ、隊長だかってのが来たと同時に、おそらく占拠してた殆どの団員がこっちに来ちまったか……

こちらは若干疲れ始めてきてるのに、4vs50ぐらいまで行っちまったぞ……!

それでもそのうちの15人程度は役にも立たねえ団員なのが有難いか……?

 

「まあ、すぐに終わらせてポケモンリーグと交渉に入ろう。───やれ……カビゴン」

 

んなぁっ?! あんだけ豪勢なメンバーに加えてカビゴンだとぉー!?

きつすぎにも程があんだろーがオイッ!!

 

ペカァァァンッ

 

「カービカービゴンゴンッ!!」

 

うっわ……しかもなんかめっちゃ強そうだし……!

かくとう技っぽいのを持ってる二人でも、これの相手はきつすぎるっぽいぞ……!

 

高速で思考を巡らす。今考えるのを止めたら確実に押し切られる。

 

何か無いか……!?

 

マルマインは今使っても良いが、絶対にカビゴンは生き残る……

それを倒しきれるか……? 駄目だまだ材料は足りない……一旦逃げるか?

でもこれ以上逃げ場はなさそうだ……それにここから離れたら「アレ」が使えなくなる……!

 

どうにか、どうにか何かないのか……

 

「ディ……!」

「──……ドレディア、さん」

 

俺の不安そうな顔が読まれてしまったのか、ドレディアさんから励ましの言葉が入る。

 

「───ああ、ありがとう。大丈夫だ……きっと何とかして見せるから。

 ドレディアさん───……、ドレディアさん、だと?」

「ディァ?」

 

【一体どうしたんだ】と俺に問いかけてくるが、俺の頭の整理のが先だ。

 

 

どうして俺は彼女に思考が引っかかった? なんだ、何が引っかかったんだ。

 

性格か? クレイジーだ。……違う、これじゃない。

かくとうタイプのドレインパンチとうまのりパンチか?

カビゴンには確かに効果は抜群だが……あの耐久力じゃ崩しきれない。

ならなんだ……?! 後の技はマッハパンチれんだとがんめんパンチと

 

 

 

「ッッッ!!」

 

 

 

これだッ、もうこれしかないっ!! 完全に賭けだがやらないよりマシだっ!!

 

ようやく思考を巡らし終わり、相手方を見てみるとあちらも準備が整ったのか

カビゴン含め全員が一気に雪崩れ込んで来そうなところで俺は指示を出した。

 

頼む……成功してくれ……!

 

 

 

 

「ドレディアさんッッ!!

 

 

 カビゴンにいばるんだッッ!!」

 

 

「……!? ディッ!!」

 

俺の聞き慣れない指示が飛び、迷いながらもカビゴンの真正面に立ち

ドレディアさんは───……

 

 

……カビゴンと見つめ合い始めた? あれ? なんだこれ。

 

「…………。(ド」

「…………。(カ」

 

…………。

 

「…………。(へっ」

「ッッ!!#####」

 

うっわwwwちょwwwドレディアさんwwwソレはやばいwww

もはや『いばる』の領域ではなく『生理的な挑発』に近いwwwww

あの子見詰め合ってたと思ったら両肩竦めて【駄目だコイツwww】とか言いやがったwww

 

あれはやべーわ、俺でも激昂するわ。

 

「ゴッ、ゴ、ゴゴゴゴン……###」

 

効果はバッチリ認知出来る。ドレディアさんもヤツの次の行動に備えて警戒している。

 

 

 

  カビゴンは

 

  こんらん している !!

 

 

 

    ?

         ?

  ?

       ?

 

俺は思わず成功してくれ、と祈らざるを得ない。ここで冷静になられたら……俺らは、瞬時に終わる。

 

 

 

  わけも わからず

 

  じ()んを こうげきした!!

 

 

 

……ん? なんか今、一文字おかしい気がしたぞ?

なんだろう。そんなことよりカビゴン───

 

 

「ゴォァァアアアアアァァァアアアアアッッッ!!!」

「うお、ちょっカビゴンどう、うわぁああああああーーーーッッ!!!」

「ゴォォアアァアアァアアアアッッ!!!」

『ギグゲグギャァアアアァァアアアアーーーーーーーーーーッッ!!!』

 

 

……うわぁ。武丸化した。目まで半開きだし。

今だったらバス停とか握り締めそうだ、このカビゴン。

自分の周りのポケモンと人間に手当たり次第手を出して八つ当たりしてる……

これ成功……なのかな? いや、多分成功だよな……カビゴン1匹しかいなくなれば

俺らも容易に逃げて、皆を解放してこいつら押さえつけんのも可能だろうし。

 

 

「グゴァァアアアアアァァァァァッッ!!」

「ええいっ、何をやってるんだカビゴンッッ!! 落ち着けェッ!!

 おちつ────グペァッ!! コラァー!! コラッタを投げつけるなぁっ!!」

 

 

これ、チャンスだよな、もしかしなくても。

そうとわかれば今のうちにこちらの手勢の強化だ!!

 

俺はさっきから持っていた酒の瓶を適当なテーブルに叩きつけ、中身を散らばらせる。

 

「ッ!? 何をしている、ガキッ!!」

 

そして近場にある手ごろなテーブルクロスを、買ってきた100円ライターで火をつけた。

もちろんそんな一瞬で、そこまで火が燃え広がるわけも無い。

故に、火が着いた状態で酒瓶を割った地点へ放り投げた。

 

すると火はアルコールに反応して火力が強まり、テーブルクロスの火がどんどん強くなる。

油より酒の方が火は強くなりやすいのだ。

 

「くそっ!! あいつはどうでもいいっ!! 今はカビゴンをなんとか────うぬぁっ?!

 コラァー!! ヤミカラスを投げてくるなぁっ!!」

「グゴァアァアアァアアァァッッ!!」

 

そして灰色の煙まで出してくるテーブルクロス。

敵も然る事ながら、ドレディアさん達まで俺が何をやろうとしているのかわからないらしく

全員が全員、俺の方へと顔を向けてきているのがわかる。

 

 

なーに、すぐ始まるさ……!

 

 

「ええいっ!! もういいっ!! お前はボールに戻って───ん?」

 

そうして、それ(・・)は発動した。

 

 

───……ザァァァァァァァアアァァァ……

 

 

室内に雨が降り注ぐ。

外ならまだわかるが室内でこれは異常事態だ。

 

 

 

「雨……だと? いや、違う……これは……

 

 

 ッッ!! スプリンクラーかッ!?」

 

 

その通りさっ……そしてこっちは───

 

 

 

 

 

 

雨の状態なら素早さが上がるエースがいるんだよッッッ!!!

 

 

「行って来い、ヒンバスッッ!!

 カビゴンを避けながら周りにきっちりトドメ刺してこいッッ!!」

「ッ!!!!

 グッググググググーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

今まで見たこともないような凄まじいスピードで

ヒンバスは周りでうめいていたポケモンと人に体当たりをしていった。

まさにそのスピードは神風。危ない一撃を全て避け。

必要なところにだけ突撃を実行していく、まさに意思のある暴走特急だ。

体当たりをした敵をそのまま壁に見立て三角蹴りのようにそこから弾け飛び

次の敵に体当たりを繰り返している。素早すぎてもはや視認すら難しい状況になってきた。

 

「ゴォォォォォオオオオオオオオオァァァァァ!!!!」

 

あっちはあっちでまだ混乱してるしwwwwww

しかもなりふりを構っていないのか、そこら辺の柱やら壁に

勢い良くぶち当たっており、何気にダメージが蓄積されている。

 

周りが役に立たない今、畳み掛けられるんじゃないか……?!

 

「……全員、突撃ィィーーーッッ!!!」

「ッ!!  ドレッディァアアアァァーーーーッッ!!!」

「ッッ!!  ──ーーーッッ!!」

 

ヒンバスが周りを潰している中、俺は2人を突貫させた。今なら……今ならなんとか出来るッッ……!!

 

そしてカビゴンの恐ろしく気の入った一撃をすれすれで交わしつつ

ドレディアさんはがんめんパンチを積極的に放ち

ディグダもディグダで、じんないりゅうの技で蹴り当てを喰らわせている。

 

 

だが、やはりカビゴンはさすがのカビゴンだ……!

そう簡単に倒れないタフさがあ───……っな!?

 

「ドレディアァーーーッッ!! 後ろからだァーーーー!!」

「……ディァッ?!」

「ニャァァァァアアアッッ!!」

 

先程ディグダが叩き伏せたはずのマニューラがドレディアさんの背後から現れ、きりさいてくるッ……!

 

「ッッディ……!」

 

その攻撃をなんとか受け止めきり

寸でのところで致命傷を避けたドレディアさんが若干退く……───って!!

 

「だ、駄目だっ……!! ドレディアーーッ!!

 駄目だぁーーーー!! そっちだけは駄目だぁーーーー!!」

 

そっちの方向は……カビゴンの攻撃が────!

 

「ゴァァァァァアアアアアアアアアァァーーーーッッ!!!」

「ア─────」

 

まるでスローモーのように景色が遅くなって─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ッグゥー-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に入った、と思われたカビゴンの一撃は

 

 

本当の、刹那の差で。

 

自分の体ごと、ドレディアさんへ回避を促したヒンバスのファインプレーにより。

 

ドレディアさんはヒンバス共々、攻撃を交わし切った。

 

「……! ぅ、お、ぉ……」

 

冷や汗が体中からドッと吹き出る。あれが当たっていたら、下手したら即死だ。

例え中身が強靭なポケモンでも、あれだけはやばい。

 

 

 

 

───ここしか、ないっ!! 最後の切り札……ここで使って全部終わりにするッッ!!

 

「全員下がれぇーーーーー!! もう十分だッッ!! 下がれぇーーーー!!」

 

『ッッ!!』

 

俺の指示を聞いた瞬間に、全員が素早さを生かし一瞬で俺の前左右に辿り付く。

 

 

「全員、この部屋から出るんだッッ!!」

『ッ!?』

「いいから出ろッ!!

 

 

 

 マルマイン─────約束の時だッ!!

 

 

 

 カビゴンにだいばくはつだぁーーーー!!」

 

 

ペカァァァァァン

 

「ガグガァーーーーーグゴォォォォォンッッッ!!」

 

 

 

───カッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズッドォォオオオオォォォォオオオオオ

              ォォォオオオオォォォォォォン!!!

 

 

 

「うあぁああぁぁあああーーーー!?」

「ッディーーァーーーーッッ!!!」

「!?!!?!???!」

「ッググーーーーーーッ!!」

 

体勢を整えた上で、なお逃げ切れず、大爆発に巻き込まれ吹っ飛ばされる俺達。

 

「っづァグッ……!!」

「ディァアーーーァアーーーッッ!?」

 

俺が壁に吹き飛ばされた所にドレディアさんがストレートに飛んできて、って……

 

「えっちょっ……!」

 

 

ズんドムっ。

 

 

「うごぇぁっ……!!」

「ッッ─────!!!」

 

ドレディアさんの体が俺に叩きつけられる。やばい16㌔さん痛いやめて。

そして意識が飛びそうになるのを堪えて前を見ると、飛んでくるのはまさかのディグダ。

 

「ちょ、おまっ……!」

 

ズッどムッ。

 

「おげぇぁっ……」

「ッグッグーーーー!?」

 

ああ、神よ、貴方は俺を殺したいのかっ。

もはや意識が千切れる寸前のところで、空飛ぶ魚さんが俺目掛けて……!

 

べちこーん。

 

「ふげぶっ」

 

最後だけは若干マシだった。魚が顔面に跳ねたと思えばまだ……なんとか……

 

 

 

 

 

「ディッ!! ディーァッ!」

「……ッ、う……ど、ドレディ、ア、さんか……」

 

どうやらマジで意識がすっ飛びかけていたらしい。

ドレディアさんを筆頭に、俺の手持ち全員が上から見下ろしているのが視界に映った。

 

「ディーァ、ドレーディァ」

「お、終わった、のか……?」

「ディー……」

 

既に満身創痍もいいところである。俺がダメージ負ったの、最後の一瞬だけだけどな……

 

だいばくはつを起こしたマルマインの居る方向へ歩み寄っていく俺ら。

そこには───

 

 

黒こげになったマルマインと

 

 

完全に瀕死になっているカビゴンと、その他もろもろが倒れ伏していた。

 

 

 

「っ、ぁぁ……ハハハ」

「……ディ~♪」

「♪♪」

「グ~♪」

 

 

俺は思わず、みんなと笑いあってしまう。

ふ、ハハハ、本当に、なんかズレたら全部がパーだった、けどさ……

 

 

───やっぱ、やりゃぁ出来んじゃねぇか、俺達。

 

 

 

 

「─────勝ったぞぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッッ!!!!」

 

「ディーーーーーーーァアアアァーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 


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