うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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シオンタウン交流 ?????

 

 

 

「…………。

 ……………………。」

 

周りの時間がゆっくりと流れていく。まるで俺だけがそこに取り残されたかのように。

そう、まさにこの俺がスロウリィ。

 

「…………。

 ……………………。」

 

まあ、俺がスロウリィに感じているからといって周りがプッチ神父化しているわけでもなく

ただ単に俺が暇なのであり、そのせいで色々と流れが違う気がしているだけだった。

人間なんぞ大体そんなもんである。

 

少し遠くで、キャモメと思わしき鳥が「ミャァ、ミャァ」と鳴いている気がする。

まああいつらベースがカモメでも鳴き声全然違うけどな……。

 

そんなわけで、俺は最近で考えると本当に珍しく

たった一人でシオンの街の南の方で釣りをしていた。

 

そして一切釣れねえ。

 

この世界で釣りをしたところで、釣れたものは食えるものではない。

アジやらホッケ、サンマどころかフナすら居ないこの世界。

釣れるものは最低でもコイキングさん、そんな世界でございます。

 

まぁ、俺は食った事無いが『鯉こく』って料理もあるらしいんだがね。

でもあの間抜け面を食おうという気にはならない。

不味そうだし、何より周りがポケモンの命を奪う事を必死で止めようとする。

 

世界全体が菜食主義者とか本当、達観している世界だよなぁ。

『銀の匙』の主人公はポケモン世界に来たら色々救われるんではなかろうか。

 

「…………。

 ……………………。」

 

俺の釣竿さんは一向に反応する気配無し。

おかげで全く持ってどうでもいい事ばかり連想していってしまう。

 

「…………。

 ………………失敗、したなぁ」

 

マサラから旅に出て、現在このシオンタウン。

私生活でも旅の最中でも、一人きりになったシーンが全く無い事に気づき

『たまには良いかなぁ』と思って、自由行動で一人になってみたらこれである。

 

 

ギギギギギギ……こんな事なら下らん見栄を張らず誰かと一緒に来ればよかった。

かといってダグトリオっつか、ダグONE連れて来たら殺したくなるだけだしな……。

あいつ何故か釣りがやたらうまいし。

 

 

「…………くそっ、もう (ポケセン)に帰って寝るかな」

 

さすがに一時間以上なんの反応も無く、波止場にひたすらあぐらを掻いていては

ケツが悲鳴を上げるのも無理もない話であり、現にケツが割れそうで───

 

「───……ん?」

 

一人寂しく思考の深淵へと(いざな)われていたところでちょっとした変化に気付く。

釣竿に反応があるわけではないのだが、釣り糸を垂らしている横になにやら影が。

 

ひたすら凪ぎている海を見つめていたら、そういう細かい差異にもすぐ気付く。

まあ……要はそれほどまでに暇だったっつーことなんだけども。

 

そして影はどんどんと濃くなっていき、水面から何かが出てきて……

 

 

チャポ。

 

 

その何かが顔を覗かせてこちらを───

 

「……って、なんだミロカロスか」

「ホァ」

 

水面からちょこんと顔を出したのは、俺の手持ちのミロカロスだった。

どうやらこいつは今日の自由行動で海に潜って何かをしていたらしい。

 

 

※ 自分の主人をおっかけてきただけです。

 

 

「ホァ~?」

「……ん? 俺はご覧の通り釣りだよ。まあボウズ真っ最中だけどもな」

「ホ、ホォ……ン?」

「ああ、そうか悪い悪い。ボウズってのは釣りしてる人達の中で

 全然魚が釣れないっつー事を指す単語なんだよ」

「ホ~ァ~」

 

そんな風に説明をして、ミロカロスと会話する。

ちなみに地方によってはボウズではなくオケラと言ったりするらしい。

 

「ま……一人で居るのもいいかと思ってな。

 こうやって釣りに来てみたんだが……いや、暇で暇で仕方ねぇわ」

「…………。」

 

思わず愚痴ってしまうが、まあどうか聞いてもらいたい。

釣るために来てるのに、目的が一切果たされないとかどんな苦行だよ。

そらぁ、愚痴のひとつも……。

 

「って、お?」

 

そんな事を考えていると、ようやく釣り糸に反応が……!?

やっと、やっと何か釣れるのかッ?!

 

ボロの釣竿なのでリールなんぞもないために、ぐいぐいと引っ張り

反応している何かをわくわくしながら引っ張り上げ───

 

 

「──……おい」

「…………ホァ♪」

 

 

釣れたのは今しがた話していた俺の手持ちのミロカロスだった。

釣り糸の先、というか針に食いつくのは嫌だったのか針のちょっと上を口に咥えていた。

 

多分俺が釣れない釣れないと愚痴っていたから、哀れに思って釣られてくれたんだろうが……

やばい、これは自分が情けなさ過ぎて泣けてくる。

 

が……まぁ、気遣い自体はなんかほっこりするしありがたい。

やっぱり一人より二人の方が嬉しさも楽しさも増すんだな。

 

「全く……釣られてしまいました、じゃないっての。

 ほれ、そんな所に居ないでこっちまで来なさいな」

「ホァ~♡」

 

ミロカロスは別に海の中に居たところで問題はないのかもしれないが

せっかくこうして一緒の場所に居るんだし、隣で話しながら……って、ん?

 

咥えていた釣り糸を離して、こちらに来ようとしているミロカロスだが……様子がおかしい。

海面と波止場の段差に張り付いて、こうなにやらウネウネと───って、まさか。

 

「…………ミロカロスよ」

「ホ、ホァッ!」

「まさか……──登れないのか?」

「ホ、ホォ~ン;;」

 

 

……まったく、なんなんだこの可愛い生き物は。

涙目でこっちを見てくるんじゃない。

 

 

 

 

波止場に上がる事が出来ないという謎の可愛さを出していたミロカロスを引き上げ

ミロカロスも隣に鎮座し、俺も再び釣りを続行する。

まあ、やり直したところで多分何も釣れないんだろうけども。

 

「…………。

 ……………………。」

「~~♪」

 

しかしまぁ、なんとも奇妙な話ではあるなぁ。

たまには一人でと思って波止場に来て、釣りをしてみたら全く楽しくなくて。

 

そして偶然会ったミロカロスと二人で居ると、釣れなくても少し楽しくて。

 

……そういや、ドレディアさんと逢った時にも言った事があったっけな。

 

─── 一人より、二人の方がやれる事が増える、とかなんかそんなん。

 

 

…………。

 

 

「───なぁ、ミロカロス」

「~~?」

 

ふと思った事があったので、ミロカロスに尋ねてみる事にした。

 

「お前は、俺と一緒に来て……後悔してないか?」

「…………?」

 

ミロカロスは、【突然どうしたのですか?】といった感じに俺を見てくる。

 

「お前のあの状況を一度見てるから、どれだけ進化したかったかってのはわかる」

「ホァー」

「だけど……同時に失ったモンも、計り知れないだろ」

「──……」

 

確かにこいつは、夢にまで見た……夢でしかなかったはずの進化を果たした。

しかしそれは通常の進化の結果とは全く違い……戦う能力を完全に失った。

 

その内容は、こいつが望んだモノなのかどうかはさすがに俺にもわからない。

しかしポケモンという生物は基本的に戦ってなんぼの世界であり、生態であるはず。

 

それを一切しないで過ごすのは、一体どんな苦行であろうかと今でも思うのだ。

 

「あの時は、さ。

 俺はお前に『戦えなくていいのか?』って尋ねたら……

 お前は【やはり戦えなくては駄目なのですね……】って言ったけど、さ」

「(コクコク)」

「俺は、俺自身はお前がそうなってもよかったさ。……どちらにしろ、約束してたしな。

 けど……それでも、さ……───

 

 お前は、『お前自身』は、これでよかったのか?」

 

「─────。」

 

俺がミロカロスの本音を尋ねる質問をすると

ミロカロスは俺から目線を逸らし、大海原に見える地平線に目を向ける。

 

釣られて俺もそちらに眼をやれば、色々な鳥が海の上を飛び交い

彼ら独自の生活があるのがよくわかる光景が映されていた。

 

その彼ら独自の生活をする権利すら、生態的に奪ってしまう事になった俺は……

 

 

 

どれだけの謝罪を、しなければならないのだろう───

 

 

 

そしてミロカロスに顔を向けてみると、静かに目を瞑っていた。

 

やはり、その進化の代償を色々考えているのだろうか。

 

少し居た堪れなくなり、俺は罪悪感から釣り糸へと視線を戻す。

相も変わらず釣り糸は静かであり、波のリズムで揺れる糸を眺め続け───

 

「───ん?」

「……──」

 

地面が何かを擦る音が聞こえたので、そちらに目を向けてみれば

ミロカロスが隣から俺の方まで近寄ってきて……

 

巻きつくというわけでもなく、その6mの体を使って俺の周りを取り囲み

ミロカロスの体の上半分に当たる部分を俺の背中に回し

頭の上にはミロカロスの首から頭部を使ってしな垂れかかる体勢になった。

 

……って。

 

「おいおい、それじゃ何言いたいのかわかんねぇよ。

 俺ぁお前らの言いたい事、基本的に目を見なくちゃわかんねーんだし」

「……ホ~ァ~♪」

 

顔の部分を俺の頭の上に持ってこられた都合上

その鳴き声ですら何を示しているのかわからなくなってしまう。

 

目は口ほどに物を言う、という言葉もある。

その「口」ほどのものが見えなければ、俺もこいつらとコミュニケーションを取れないのだ。

 

「ホァ~~、ホ~ァ~♪」

「いや、だからわかんねぇっての。顔こっちに見せなさい」

「~~~~♡」

 

言葉がわからんから目を合わせろと催促しても、鳴き声をあげるばかりで動こうとしない。

これは、俺が動かなくては駄目だろうか。

 

そんな風に考えていると、ミロカロスは俺の頭の上に自分の頭を置いた状態で───

 

 

 

───歌い始めたのだった。

 

 

 

「~~~♪ ~~、~~♪」

「ミロカロス……」

「~♪ ~~♪ ~~~~♪」

「…………そっか」

 

ミロカロスの顔は未だに俺の顔より上にあるので

明確に意思を感じ取る事は、残念ながら出来ていない。

 

しかしこいつが歌うその声は、悲壮感が漂っている歌声でもなく

今の話の流れからして、きっと別の形で『気にするな』と伝えたいのだろう。

 

 

 

確かに、ミロカロスに進化するに当たって失ったモノは多大にあった。

 

 

しかし、同時にこいつがそれで

 

 

得たモノってのもあったんだな───

 

 

 

「~~♪ ~~♪ ~♪

  ~~~♪ ~♪ ~~~♪」

 

 

頭の上で、ミロカロスの心地良い歌声が響いていく。

やはり直接目を見ないと、何を伝えたいのかははっきりわからないが……

 

 

 

それでも、こいつの歌声を聴けている俺は……結構、幸せだった。

 

 

 

 










後にも先にも、彼の釣竿で釣れたのはこの子だけです。

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