現在、俺は地下施設の部屋のひとつで三人と会談をしている。
一人は、もちろん俺。
もう一人は、ミュウツー。
そして最後は、ゲームフリー○の一人。
「カスミもいいよね!」
「何を言っているんだアンタは。
ポケモンが沢山いる世界なんだからポケモンに愛を注いだって良いだろう。
昔なんてポケモンと結婚出来た時代があったんだぜ」
【貴様等が言わんとする事がわからんでもない。
しかしもとよりポケモンは可愛く造られた種族が多い、ここに注目せずして一体何処を注目するのだ】
「エリカもいいよね!」
「つまり俺の嫁はサーナイトかキルリアという事なんだ。
少女から大人の女性に変貌する様はとてもクるものがあるんだぞ?
しかも種族がほうようポケモンとか、むしろ心を握りつぶせと」
【何故貴様等はそんな方向性でしかモノを考えられないのだ。
良いか? 元来萌えというものは可愛らしさから来ているものであり
いかに大人の女性と括られる人間といえど、そこに可愛さを混ぜればだな】
「ナツメもいいよね!」
「ちっがぁぁーーーうッッ!! 良いかッッ?!
ポケモンと人間だからこそ燃えるとかそういう発想じゃないッ!!
魂を投げ捨ててでも信頼に値する相棒だからこそ激情が生まれるんだッッ!!
そこに人間だのポケモンだのというくくりは塵レベルですら存在しないッッ!!」
【貴様こそ何故納得せぬのだッ!!
あまえんぼうのエルフーン五匹に同時に抱き付かれる事を想像してみろッッ!!
いじっぱりのクルマユにそっと傍に寄られる事を想像してみろッッ!!
全てのモノは可愛さから成り立っているとどうして理解出来ないのだッッ!?】
「へへへ……OKだ、戦争だな」
「ああ、もうここまで来たらやるしかねえ……」 ←ゲーフ○社員
【愚か者共め……ひとつの視点でしか見れないその愚考、後悔するが良い……!】
その日……地下施設にある一つの部屋とその真上に当たるゲームコーナーフロアの一角が崩壊した。
原因は、意外な事にゲームフリー○社員の戦闘力の過大っぷりだった。
まさか俺どころかミュウツーが完全K.Oされるとは。
ミュウツーのサイコブレイクを余裕で耐え切って、あいつの顔面を握りつぶして持ち上げた時は
正直ハガレ○のグリードを思い出す図だった事をここに記しておく。
ちなみに俺はワンパンK.Oでした。
さて……下らない事を話し合っていたら施設崩壊という洒落になってない赤字が発生してしまったが
ロケット団改め、弾頭の運営はかなり順調である。
もちろんの事、未だに中小企業ランクにすら行っていないが
解散・会社設立の境目に至る前に、自分で資料に目を通した関係上これは奇跡に等しい。
以前の彼等はそれほどだった。一歩間違えれば団員全員が暴走か奈落だったのだ。
人材派遣の方は二ヶ月近く経った今
本当に地味としか言えないが、順調に働くための枠を獲得出来ており
その利便さを知った他の会社からも働き手を急造出来ないかと持ち掛けられたりして
以前の憂き目に遭っていたサカキは、今とても充実していると思う。
そして、ここら辺が順調になり始めたら
サカキはきっとトキワジムリーダーに完全に復帰すると思う。
以前までのサカキはロケット団の団員を捨てきれず
あちらに支障が出る位に足を引っ張られまくっていたのだ。
この件の参考資料、解散前のあの一シーン。
開発部門に関しては、やはりまだまだ金を消費し続けるだけ……という感じである。
一応俺も、現代知識のパクリとしてでしかないのだが
『主婦が発案した億の売り上げを達成した便利品!』とか
そっち方面で提案をしていたのだが、なんと研究員達がそれらの提案を魔改造し始めた。
実際のところ、その魔改造が成功したら本気で想像出来ない売れ行きの商品になりそうなため
こちらもロケットスタートを踏み留まるに至ってしまうのだ。
実際一億とかそんな売上が出るは思えんが……
それでもサカキ抜きであっても会社が回せるレベルに至るには
どうしてもここで大幅な黒字を生み出せる何かを発表させたいのだ。
ゲームフリー○に依頼したスロット改革案に関しても、先週から実装されている。
あの人達仕事が速すぎる。大部分を作り終えた後に俺が毎日あちらにお邪魔し
細かく意見を述べて行き、四日後には全て完成。合計7、8日。
稼動に関しては……実はまだ客付きには繋がっていない。
やはり価値観が違いすぎるのか、伸び悩みという感じである。
だが、どちらにしろ前の状態では頭打ちであり
現状その頭打ちでさらに横ばいであるわけだ、今更失うものなど何も無かった。
ひとまとめに現状を説明すると大体こんな感じである、成功では有るだろう。
ガキが相談役に近いところに割り振られている時点で何か世間としておかしいのに
速攻で組織解体が起こっていないだけ、連携は素晴らしいものがあった。
まずガキに職業相談してる時点でも突っ込みどころが満載だったりするのだが
そこで出した意見に関してもしっかり飲み込んでくれたあの人達は正直人として尊敬出来る。
俺は同じ立場でガキに言われた所で信用出来なさそうだし……。
◇
「健康診断、ですか」
「あぁ、こちらでも管理している者達が大部分働ける雇用は獲得出来たからね。
ここら辺で、前回の状態では出来なかったモノを入れて
自分達も相手方も一安心させて上げたいなといったところだよ」
「良い案ではありますね……そういう細かい配慮は大切だと思います」
これに関しては結構同意しておく。
人間の体の構造とは良くわからないもので、死に至るような病でもしばらく体内に潜伏するのだ。
そういうのが『もしものもしも』であった時に、事前に気付く事が出来るこの福利厚生の価値は
俺が前世で面倒くさげに受けていたのと全く印象が異なり、潜在的な得は計り知れない。
「でもまぁ、俺は必要ないか。
僅かでしかないけど、いらない金なら金削りたいところだし
俺の事は気にしないで、社員の皆さんの健康診断しちゃってください」
「いやいやいやいや、何を言っているんだねタツヤ君。
これは大事な事だぞ? 例え子供だからといって……」
「いいんですって、どうせ頑健に決まってますしやるだけ無駄です。
子供のこの体で生活習慣病やら肝臓やらから始まる潜伏的な病気があるとも思えませんし
そんな事やってる暇があるならミュウツーと萌え絵でも作りますよ」
「た、確かにそうかもしれないが……それこそ『もしかしたらが』───」
「ある可能性があったんなら俺だって素直に受けてますって。
そういう人間ってのはサカキさんもわかってるでしょ」
「いや……まぁ、そうだと思うが……」
そんなこんなで色々な理由を盾にして、面倒な社内行事を回避した。
価値があるっつっても俺が受けたところで無価値だからなー。
◇
そして現在ドレディアさんと街中をぶらついている。
そろそろどうだろうと思って、昨日は元暴走族と分けて行動させていたのだが
ドレディアさんの代わりに彼等の
ボランティアで参加している近所のおばちゃん方だった。
やはり年長者には年長者なりのコツがあるらしい。
そんなわけで、昨日はモグラーズがやっていた訓練に参加させ
今日は一日一杯休日扱いとして、俺と街をぶらついているといった感じである。
「最近ずっとあいつらと一緒だったけど、どうだったよ」
「ディァー。ディーァ」
【裏表が無くてはっきりしてるヤツラばっかだったから付き合いやすかった】
そいつぁ結構。
まああんな奴らの中に軍師系列の人間居たら、さすがに警察の方々も手に負えないだろうしな。
気難しいドレディアさんですら『付き合いやすい』と例えられるのは、有る意味当然の帰結である。
「人見知り、少しは直ったかい?」
ドレディアさんはバッとこちらに顔を向けてくる。
その顔は非常に驚いており、【そこまで考えての抜擢だったのか?】といった感じである。
ごめん。実はそこまで考えてませんでした。
まあ訂正するのも格好悪いのでスルーである。
「ま、世の中色んなヤツがいるからな。ドレディアさんの周りに居た研究員もだし……
それこそトキワのお兄さんみたいな人だって居る。のんびり付き合い方を覚えてきゃいいんじゃない?」
「……ディァッ!」
うむ、良い返事だ。
最初の戦いで俺の指示なんぞどーでもいいと思っていたあの子と
同一人物(人物?)とはとても思えない成長っぷりである。
そーいやそれ関連で思い出したけど……俺、普通のトレーナー戦での成績って著しく悪いんだよなぁ。
勝てたのなんてクチバの東での数戦だけだし
ヒンバス状態のミロカロスにスリープぶっ飛ばしてもらったのはノーカンだ。
31歳の頭で考えるからに、2:6や4:35を打ち破っているのは僥倖なはずだが
この世界でのメインの戦いで勝てないとかどんだけ貧弱なんだろうか、俺は。
「ドレディアさん、今日行きたい所とかは? デパートとか見て回りたいとかは無い?」
「~~……ディーァ(フルフル)」
「んじゃぁさ、今日はちょいと俺と特訓しない?」
「ディ?」
そしてドレディアさんに内容を懇々と説明して行く。
一番付き合いが長いからこそ、俺の出す苦点に関しても理解は示してもらえた。
「まあ正直逃げればいいだけってのはあるんだけどさー。
前にもシオンの警察でそこら辺の行動も問題に上がったからね……」
「ァー……」
あの件は本当にやりすぎた。一階ロビーが全壊とか。
でもすぐに直ってたよな……もしかしてさっきぶっ壊した弾頭の部屋も
明日辺りになったら一瞬で直ったりしているんだろうか。
「ま、そういうわけでだ。
特にやりたい事がないんならそっちでの修行でどうかな」
「ディァ!」
ドレディアさんも快諾で答えてくれる。
うむ、実際今は金の余裕も大体あるわけだし(金がなくなったら支給されるから
今のうちに問題点があれば何とかしてしまいたいところである。
「んじゃまぁ、あいつら一応回収しておこうか。
人数多い方が何かと模擬の形も想像しやすいだろうし」
「ァーィ」
というわけで。
俺等は街中から地面連合が修行していると言っていた森へ向かう事になったのだった。
『…………。
─────……、……。』
バサッ、バサバサッ。
◇
「んっと……この辺り、か?」
「ディーァ」
タマムシから郊外へ出て、森の中の道無き道を行く。
そろそろ特訓場所へ着くと思うのだが。
と思っていたところ、視界が急に開けた位置に出た。
どうやらここがタマムシ滞在での御用達修行場のようだ……が。
「───あれ? 誰も居ないぞ」
「ドレディァ~?」
地面やら周りの木にエグい抉れ跡も残っているため
俺の手持ちの子がやらかしたのは間違いないという感じの形跡はある。
だがしかし、場所はあれどもダグ共の姿は見当たらない。
一体何処に行ったのだろうか。
「ドレディアさんは昨日のうちになんか聞いてない?」
「(フルフル)」
「んん……なんだろーか。すれ違いかな?
何かしら用事でも出来て一旦街にでも戻ったのかね」
昼飯は二時間ほど前に皆で食べたばかりだし
俺の手持ちは弾頭の団員、またはミュウツーと仲がとても良いわけでもない。
加えて俺の手持ちと一番親しそうなミュウは今日もサカキと外回りである。
「んん、二人で訓練するのも良いけど……。
ひとまずは一旦街に戻ってあいつらを……───」
「行かせねぇよ」
「───ッ!?」
「ディァッ!?」
ズガガガガガガガガガガガッ!!
ガスッ
「! ……っグ」
森の何処からか声が聞こえたかと思った瞬間、俺が居た場所にポケモン達の攻撃が一斉に殺到した。
だが、一声あったおかげで全直撃こそ免れはしたが……不覚にも誰かの一発を貰ってしまう。
なんとかガードこそ出来たものの、やはり人間の体でポケモンの攻撃をガードするのは
耐久度的に非常に痛いものがある。右腕の手首から上がジンジンして痛みが止まない。
「……誰だ? 俺になんか用か?」
痛みによる憤怒を自覚しながら、姿を現したヤツを睨み付けて問い質す。
「……っへへ、そうだよ。テメェに用有りだ、このクソガキが」
「最もさっきの集中打で、完全に殺しきるつもりだったんだけど、ね?」
「まぁ……生き延びたなら生き延びたでいいやな。せいぜい苦しんでもらうだけだからよ……」
悪役全開なセリフと共に聞こえるのは、複数人からの返答。
セリフが終わると同時に姿が見えていなかった複数は、隠れていた森から姿を現す。
「……ドレディアさん、警戒しておいてくれ。
一体こいつらがなんなのか俺にもわからんが、危険な感じだ」
「……。」
【言われるまでもねぇよ】と頼りになる返答を貰う。
こういうシーンで説明する暇もなく意思が伝わるのは、本当にありがたい。
「……こいつらがなんなのかわからん、か。随分とご挨拶なもんだなぁオイ」
「……ふん、まあテメェにとっちゃ、その程度の価値でしか俺等を見てなかったって事なんだろうな」
「あんたのせいで、ロケット団に戻る事も出来ずに
放逐されてずっと苦しんでいたってのに、認知すらしてもらえてないなんてね……」
……ロケット団、だと!?
声を荒げつつ、どんどん茂みから出てくるやつら。
姿を良く見ればどこかしら、服が黒で統一されている。
ッ! ちっ、そういう事か……! こいつらは───
「気付けねえなら……教えてやらぁ。
俺は……俺等は───テメェのせいでロケット団から……! ───追放処分を受けた団員だよッ!!」
「…………。」
「ディ……!」
こいつらは……弾頭の再生プロジェクトを開始するに至った上で
初期に見限った、ロケット団を隠れ蓑にしているどうしようもない犯罪者達だった。
本当に考えをひねり出せば、まだまだなんとかなる案はあったかもしれないが
内側から蝕まれているあの状況、手段を選んでいられなかったのもあり
そいつらの事後処理等も一切決めていなかったが……それがこんなしっぺ返しで帰ってくるとは。
森から出てきた元団員の数、首を切った15人そのままである。
そして奴らの周囲には二匹以上、多くて四匹以上のポケモンを携えている。
「お前等……ここに居たダグ達はどうしたんだ」
「あーあいつらな。一応ボスからテメェって存在がどんなのかも追放される前に聞いてたしな……
実際相対しそうになっただけでも異常なのはよくわかったからよ」
「どうした、と聞いているんだッッ!!」
「まぁ、落ち着けや……。
悔しいけどな……俺等じゃ本気で奇襲しても気付かれそうだからよ。
テケトーに嘘を教えて街に一旦帰ってもらったんだよ」
……? 嘘を教えて街に帰すだと?
あいつらが知らないやつの言う事なんぞを聴くとは───
「俺等を放逐してからもロケット団に関わり続けたのが仇になったなぁ?
ロケット団自体が変わったっつっても、俺らも元団員だからよ。
前の制服着てりゃぁ団からの連絡だって信じてもらえたさ、へっへっへ」
…………これは、完全にしてやられたな。まさかそういう手段が残されていたとは。
さすがに徒党を組んでというのは若干想像してこそ居たが
状況をしっかり確認した上で、使えそうなもんに気付く奴らだったとは……。
周りを見るに、ニャルマーやらブニャットやら……
チョロネコにアブソル……ケンタロスも居やがるか。
ロケット団で使い手があまり居ないテッカニンまで確認出来る。
ほぼ全員かくとうタイプの攻撃が良く効くとはいえ……
周りに道具も無いし、道具としてぶち折った木を使うにしても『折る』という行程がどうしても必要だ……
範囲攻撃系列の技が存在しないドレディアさんでは、この状況はかなり厳しい。
…………。
「すまなかった、と一言詫びたら許してはもらえないかな?」
「ハッハッハァ! やってみたらどうだ? みんなは許してくれるかもしれねーなぁwww」
「ウフフ……」
「へへへ……」
…………ッチ、どうやら俺がこいつらを切ったのは絶対間違いじゃない、大正解だな。
俺と同じで……心の底まで外道のドチクショウだ。
謝った所で、その後にポケモン全部をけしかけるつもりなのが
今の会話のイントネーションでよくわかる。
完全に、不利でしかないな。
以前やりあった時に回想もしたが……俺等みたいなタイプは、予想外にとことん弱い。
今まさに何の準備も出来て居ない予想外の事態に直面しており
これを、この状況を今から改善出来るとは思えない。
「ドレディアさん───」
「 ! ……ディ」
そしてベストな選択を構想した結果。
ドレディアさんは俺を持ち上げる。
「ッ!? このガキ、なにかやらかすぞッ!! 全員油断すんなよッ!!」
『おうよっ!!』
「ディッ、アァーッ!!」
ぶぉんっ!
俺はドレディアさんに、『高く』投げられた。
「ハァ……?」
「んだぁ……?」
「……上?」
そして、
「なんだ、なにやらかすつもりだクソガキ……」
「上から降りてくる……?」
「飛び道具でもあるのか……?」
下の状況を無視し、俺は枝の上で再度ドレディアさんを横に出す。
地面にいるやつらはドレディアさんが出現したため、再び警戒をし
俺はドレディアさんに───
枝の上からまた違う枝に投げてもらう。少しバランスは崩すながらもしっかり着地し
再度ドレディアさんにボールのビームを当てて、ボールに仕舞い込む。
「……ッ! あのガキッ、上から逃げるつもりだッ!!
全員追いかけろッ!! ぜってぇ逃がすなぁーーー!!」
「逃げ……!?」
「クッ、そういう事かよッ!!」
くっそ……思ったより早くバレた……!
もう少し黙っててくれりゃそのまま姿
「頼むぞ、ドレディアさん……!」
パシュゥンッ
「ドレディァ!」
そうして、突然の奇襲からの逃亡が始まった。
年始ののんびりした時間も終わっちゃったなぁ……