うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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86話 ロケット団殲滅記 『彼ら』の失策

 

私の、私のせいです。

私の力が、不甲斐無いばかりに

私の主様が、私の相棒が

あの不気味な緑の鎌を手に持つ虫に、切り裂かれた。

 

それに気付いて、慌てて手を伸ばしたところで

この傷付いてしまった体では、そこに間に合うわけもなく

実にあっさりと、私の相棒は奴に切り裂かれてしまったのです。

 

ようやく逢えた『相棒』なのに

ようやく逢えた『親友』なのに

また、私の前から居なくなってしまうのでしょうか。

 

どれだけ求めても、彼が切り裂かれた事実は変わらなく

どれだけ手を伸ばしても、誰も彼を守る事が出来ず

その中悠々と、緑の鎌虫は主を置き去りに通り過ぎ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ガシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の主様は

 

 

 

 

 

 

 

 

動いた。

 

 

 

 

~推奨BGM 『DO OR DIE』~

 

 

 

 

 

「───ッグギャァ!?」

 

サックを嵌めていない手で、通り過ぎようとするストライクの首を掴む。

 

痛い。

 

「やって、くれんじゃねぇか……」

 

そして、胸元が裂けているせいで、力を振り絞れば振り絞るほど、そこから血が漏れていく。

 

いたい。

 

「グ、ギャ、ガギャァ───グゲァッッッ!!」

 

ッドン!

 

逃げようとするストライクを無理やり振りかぶって地面に叩き付け、俺はそいつの背中を上にして踏みつける。

 

イタイ。

 

「やるからには やり返される覚悟ぐらいは あるんだろ」

 

 

ストライクの背中から生える羽を掴み

 

 

背中の間接部から無理矢理引っこ抜く。

 

 

「ギャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!」

 

その瞬間ストライクの絶叫が辺りに木霊(こだま)した。

俺はいらなくなった羽を、その辺に投げ捨てる。

 

痛い。いたい。イタイ。

 

「だからさ───あと少しぐらい   付き合えよ」

 

痛さの余り、もう一対の羽を力の限り羽ばたかせているが

俺はそれも掴み取り、先ほどと同じように引っこ抜いた。

先程より一層強い響きの悲鳴が俺の耳を打つ。

 

痛いいたいイタイ痛いいたいイタイ

 

「お前の覚悟、こんなもんじゃ、ないだろ」

 

痛みで地面を這いずり回るストライクの腕を取り

虫の間接らしく取れやすそうな部分を力の支点として、その鎌を捥ぎ取る。

 

「──━──━━───━──━━━───」

 

もはや声らしい声にもなっていないが、ストライクは相変わらず叫ぶ。

 

イタイって   なんだろう

 

捥ぎ取った鎌を一旦地面に刺し、もう一対の手も捥ぎ取っておく。

 

 

「─    ─  ─     ─    」

 

ストライクの声が聞こえにくくなってきた。

それとも俺の耳が遠くなってきたんだろうか。

 

まぁ、いい。

 

これだけ、やられてしまったんだ。

 

ご苦労だったな、ストライク。

 

 

 

 

 

武器をくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

俺は、刺した鎌を地面から引き抜き

最早自分の体がどうなっているのかすらわからなかったが、ロケット団員と再び対峙する。

 

 

「俺は、お前等に、これだけやられた」

 

 

全身の感覚がよくわからなくなってくる。視界すら良く分からない状態になってきた。

 

「だから、俺も、お前等にさ」

 

この体を動かす感覚は、本能でしかない。

どうして、ここまで痛みがあるはずの体を、俺は動かせるのか。

 

「同じ事をやっても、良いと思うんだ」

 

そんな事は俺も知らない。

動くからいいんだ。いいんだ。いいんだ。いたいんだ。痛いんだ。イタインダ。

 

 

「だからさ、やらせて───くれるよなぁぁぁぁぁァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 

俺の視界は、良く分からない事になってしまった。

 

二つの足で立っているヒトガタと、四つ足で立っているケモノにしか見えない。

 

表情も見えない、体の色も見えない。

 

だったらもう、気にすることなく          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   やってもいいんだよな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の主様が、再びロケット団と対峙した。

 

その全身は全てにおいて傷だらけであり、なおかつその胸にはとても濃い赤がナナメ線状に走っている。

どう考えても致命傷だ、どう考えても死にかけだ。

 

 

それでも、私の主様は

 

再び、立ち上がった。

 

 

ならば、私も寝てなんて居られない。

ミロカロスさん、私は大丈夫です。

 

 

 

彼がまだ立つ限り、私が先に倒れるなんて事は、あってはならない。

 

 

 

「使えよ、ドレディアさん」

 

 

そんな声が聞こえ、もう私の方に顔を向ける事も無く、ぽいっと無造作に投げてくる主様。

 

私はそれを掴み取る。

投げ渡されたそれは、あの虫の鎌。

その刃状の部分には、血がべっとりとついている。

 

 

この鎌が、この手が、このポケモンが、このポケモンに指示を飛ばした奴が

 

 

私の主様を、傷つけた。

 

 

 

瞬間、私は激しい怒りに襲われる。

 

全身から痛みが退いて行く感じがする。

 

いや、感覚がなくなっていってると言った方が正しいだろうか。

 

体の全身から、何かが漏れ出ているような錯覚が起きる。

 

 

 

許さない。

許せない。

許すわけには行かない。

許す事なんてあるわけが無い。

 

さぁ、彼らには地獄を見てもらいましょう。

私達がやられた分は、獄炎に焼かれてもらいましょう。

 

 

ダグトリオさん、ムウマージさん。

 

準備は、良いですよね?

 

 

もう、主様と言葉を交わす必要もありません。

 

彼らの体を

ポケモンを

プライドを

生きる価値を

存在意義を

輝かしい未来を

 

 

 

 

 

 

 

 

全て、壊します。

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、逃げ、逃げろ!! 駄目だッ!! もう無理だっ!! こいつらは、異常すぎる!!」

「お前等! 撤退だ撤退!! このガキ頭イカれすぎだっ!!

 おい、お前等の中でえんまく使える奴は───」

 

ザシュァッ

 

「っぎゃぁああぁぁあーーー!? あ、足っ!?痛い、痛ぇーーーーーーーー!!」

 

手近に居たヒトガタの足を斬り付ける。

 

「お、おい大丈夫か!! ケンタロスに乗って早く逃げろ!」

「ひ、ひぃっ……! こんなっ、ここまでイカれてるなん───」

 

ザクッ。

 

「ヴモ゛ォォォオ゛オ゛オ゛ァァァァア゛ア゛ア゛ッッ!?!?」

「ケ、ケンタロ──! くそ、戻れケンタロスッ!!」

 

すぐ傍に寄って来ていたケモノの足を、縦に切り裂く。

すると、そのケモノは赤くなって消えてしまった。

その傍には、またヒトガタが居る。

 

「う、く、来るなッ!! 来る───」

「テッカニンッ!! あのガキにシザークロスだッ!!」

「ミィィィン」

 

上からなにやら、変なものが来た。

攻撃をされそうになったが、鎌を振って相殺した後

捕まえてあいつみたいに羽を引っこ抜いた。

 

「───    ──  ─ 」

 

妙な声が聞こえた後に、気絶したのか静かになった。

上に居るヒトガタもうるさい。

全力で上に居るヒトガタに鎌を投げる。

 

「あ    ぁ     痛    」

 

腕に鎌が刺さったヒトガタが、何かを叫びながら落ちてきた。

生きてはいるが、すぐには動けないだろう。

普通に歩いて近寄った後、その腕から鎌を引っこ抜いてまた手近にケモノを発見する。

 

「           」

 

今度は攻撃を交わされてしまった。

するととても大きいヒトガタが横から現れて

少し大きいケモノを蹴り飛ばした。

 

この大きいヒトガタは、きっと俺の味方だと思う。

 

少し距離が開いているが、ここから立ち去ろうとしているヒトガタとケモノがいる。

その二人が最も近いと思われるので、俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の主様が再び動き出してからは、完全にこちら側の流れになっていった。

黒いやつらは、主様のあまりにもあまりな状態に恐ろしさの限界線に触れたらしく

全員が漏れなく、ポケモンに逃げる指示を出している。

 

今まで私達に散々やってくれたのに、逃げるとはどういうことだろうか。

私も体が自由に動くとはとても言えない状態だが

やつらを同じ状態にするぐらいは、みんな許してくれると思う。

 

だから手当たり次第に殴り、鎌で切り裂いた。

呻いて地面に転がるポケモンもやつらも居るが

ひとまず戦力外になっているなら問題ない、そのまま捨て置く。

 

私の主様をあんな風にしたやつは、主様自身で倒しきってしまった。

それなら私は、力の限り敵を倒し、後悔させるだけだ。

 

ダグトリオさんは元々三つ子という位だ。

放っておいても勝手に連携してあいつらを倒してくれる。

 

ムウマージさんはやはり凄まじい実力者であるらしく

どうにかして攻撃力を極限まで抑えていると思われる攻撃を繰り出していた。

その火力は、主様が前に私に伝えていたものとは程遠い威力で

ひのこ、あわ、つるのムチとかそういう威力でしかなかった。

けれど、それでもその攻撃で怯ませて足を止めてくれているので

私も心置きなくやつらに対して攻撃を加えられる。

 

ミロカロスさんに手を出そうとする黒いやつが見えたので

自分自身が瞬時に助けに回れないと判断し、私は鎌を黒いやつにぶん投げる。

その鎌は吸い込まれるように黒いやつの肩口に刺さり、黒いやつは悲鳴を上げて転がりだす。

 

転がっている最中に鎌が抜けていたので、拾い上げ

まだ逃げあぐねているポケモンに対して、私は切りかかって行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

───そして、撤退戦の末の激闘は幕を閉じた。

タツヤがストライクに重い一撃を入れられながらも、そのストライクに対して逆にリベンジしてしまい

恐ろしさから戦線と気概を維持出来なくなったロケット団は、散り散りに逃げ出す事となった。

 

そして、この外道率いるパーティーがそのまま逃げる事を許すはずもなく

瀕死であったはずのドレディアまでもが攻勢に乗り出し

全員が手当たり次第に攻撃を加えて行き、逃げられない状態になるまでという手加減で

その場の戦場を凄まじい勢いで制圧していった。

 

【……こんなものか、さすがに数人と数匹には逃げ切られたか】

【まぁ、こんなもので十分だろう。我等の主も怪我をしているのだ】

【うむ……立っているので精一杯なのだろう、あの位置から全く動いて居ない】

【△▲☆★ー】

【……姐御、貴方もフラフラではないか。大丈夫か? 一人で立っていられるか?】

【ええ、私は大丈夫です……まだまだ、こんなものでは倒れませんよ】

 

本当に、満身創痍という言葉が似合う状態のドレディアだが

それでもしっかりと地面に足を下ろし、立ち上がっている。

 

【さぁ、ここは片付いたんですもの。私達の主様に報告に行きましょう?】

【うむ、然り。早く街へ連れて帰り、怪我を見て頂こう】

【△▲☆★ー!】

 

その会話にムウマージが元気に返事をして、タツヤが立っている所へふよふよと飛んで行った。

一足先にタツヤの下へ辿り付いたムウマージが、身振り手振りでタツヤに自分の大活躍を報告している。

 

戦場の外に居たミロカロスも、ゆっくりとタツヤに近寄っていく。

 

【ふぅ……でもさすがに疲れてしまいました】

【いやいや、姐御にとってはこの程度、朝飯前であろう?】

【何を失礼な事を抜かしているんですか……あぁ、でもお腹減ったなぁ。

 街に帰ったら、主様にはたっぷりご飯を食べさせてもら───】

 

 

 

 

 

 

「ホァッ!! ホアァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 ホアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

【【【【【─────ッ!?!?】】】】】

 

 

全員でゆっくりとタツヤに向かって歩いている最中、突然ミロカロスが絶叫を上げる。

 

その声は今まで一度も聴いた事が無い悲鳴であり

全員は慌ててミロカロスの居る周辺、タツヤの元へと走って向かう。

 

【ど、どうしたんですか!? ミロカロスさんッ!!】

【あ、み、皆さんッ皆さんッ!! ご、ごしゅ、ご主人様がッッ!!】

【どうしたのだ大女将! 一度落ち着け!! 只事ではないのはわかった、何があった!!】

 

【△▲☆★~……?】

 

【ッ!? ムウマージ殿、一体我等が主殿はどうされたのだ……?!】

【今のミロカロスさんの悲鳴は……!?】

 

【△▲☆★ー……△▲☆★……】

 

【なッ……?!】

 

ムウマージの言葉を聴き、四人はタツヤの様子を伺う。

 

ムウマージは、彼らにこう伝えた。

 

 

 

タツヤ君が、自分に全然反応してくれない と。

 

 

 

鎌を握り締め、雄々しくその場に立ち

 

力強い瞳を携え、目を開けている。

 

その風体はボロボロでこそあるものの

 

目の前に敵が居れば即座に動き出して、屠りそうな姿勢である。

 

 

しかし、そんなことより何より。

 

 

 

 

 

彼は、動いていなかった。

 

 

 

 

 

目を開けているのに、目の前に居るムウマージにも

……ダグトリオにも───ドレディアにも気付かないのだ。

 

 

 

【ッ!! これは─── ダグONE!! すぐに主を連れて街へ戻れッッ!!】

【言われるまでも無いッ!】

 

会話が終わる暇すら勿体無いという体の動きをさせつつ

ダグONEと呼ばれる元ディグダは迅速な速さで自分の主を体に固定し

即座にこの場所へ来た道を引き返す。

 

 

【あ、あ、あ……】

【ご主人様が……ご主人様が……!】

【△▲☆★……?】

【……ムウマージ殿、我等はここに辿り着いた時点で方向性を間違っていたようなのだよ……】

【クソッ……そうだ……! 何故私達はあの状況で戦ってしまったのだ……!】

【何故……我等が主の傷の度合いを確かめる事すらしなかったのだ……!】

 

何が起こっているのかわからないムウマージに対し

ダグTWOとⅢは、自分が起こした行動を交互に悔やんでいく。

 

 

考えてみれば当然の話である。

彼は状況を巻き返す前に、既に致命傷を負っていた。

そしてそれを負った上で、逆襲に混ざって動いていたのだ。

 

治療もしていない致命傷を負ったまま動けば

傷も開いていくし、血も流れ出す。血小板が傷を塞ぐ事すら許さずに。

 

その状態で動き回れば、失血死すら目に見えてくる。

 

彼のあまりにも雄々しいその姿に、手持ち全員は忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の体は、ただの11歳児である事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タツヤの命の灯火(ともしび)

 

 

 

 

今、まさに尽きようとしていた───

 

 





タイトルにある『彼ら』とは、ロケット団であり、タツヤの手持ちです。

推奨BGMはメダロット4におけるラスボス曲であり
曲名の意味が英語の意味で「やるしかない」というものであったため
状況としてもしっかりと該当すると思い、この記載に至ります。

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